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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第七章/三/1 

三 死刑

1 死刑の言渡と執行の人員

 昭和三二年から昭和三六年までの五年間に第一審裁判所で死刑を言い渡した人員,死刑の確定および執行の各人員は,I-136表のとおりである(昭和三六年の死刑言渡人員は未集計)。第一審における死刑言渡人員は,刑法犯の第一審有罪人員の〇・〇一%にすぎない。昭和三二年から昭和三五年の四年間につき第一審で死刑の言渡があったものを罪名別にみると,I-137表のとおり,死刑が法定刑として規定されている罪の総数では,その有罪人員の一・三%に死刑が言い渡されており,これを罪名別にみると,強盗強姦致死が五〇%で最も高く,これに次ぐのは強盗致死(強盗殺人を含む)の一四・二%である。尊属殺人は〇・六%,殺人は〇・二%で,いずれも低く,放火は死刑が言い渡されていない。また,死刑言渡の実数の最も多いのは,この四年間の合計では,強盗致死が八五人で最も多く,これに次ぐのが殺人の一二人,尊属殺人,強盗強姦致死および爆発物取締罰則違反の各一人である。すなわち,死刑が言い渡される罪名は,主として強盗致死と殺人であって,その他の罪名は,その数がきわめて少ない。

I-136表 死刑の言渡・確定および執行人員(昭和32〜36年)

I-137表 罪名別第一審死刑および無期懲役言渡人員(昭和32〜35年)

 昭和三二年から昭和三六年までの五年間につき死刑確定人員および死刑執行人員の罪名別をみても,同様のことがいえる(I-138表参照)。すなわち,死刑確定人員では,確定総数一一五人(五年間の合計)の八二・六%にあたる九五人が強盗致死,一五・七%にあたる一八人が殺人であって,その他は尊属殺と放火の各一人である。また,死刑執行人員では,執行総数(五年間の合計)一二一人の八五・一%にあたる一〇三人が強盗致死,一一・六%にあたる一四人が殺人であって,その他は尊属殺と強盗強姦致死の各二人にすぎない。したがって,強盗致死が圧倒的に多いといえるが,この強盗致死のほとんどは,強盗殺人であって,殺意の認められる事案である。

I-138表 罪名別死刑確定および執行人員(昭和32〜36年)

 改正刑法準備草案は,現行法上死刑のみを法定刑としている外患罪について死刑を選択刑に改めたほか,現行法が死刑を法定刑としている現住建造物放火,現住建造物侵害,水道毒物混入致死,船車覆没致死,往来危険による船車覆没致死について死刑を廃しているが,これらの死刑を廃した罪について,この五年間に,第一審で死刑の言渡を受けた者はなく,また,死刑の執行を受けたものはない。ただわずかに昭和三六年の死刑の確定者のなかに放火が一人あるだけである(この事案は,引揚寮に放火した結果,八人の焼死者を出したもの)。なお,昭和二二年以降の死刑確定者で,強盗致死,殺人,尊属殺および強盗強姦致死以外の罪のものは,右の放火が一人のほかは,船車覆没致死が一人(昭和三〇年)あるだけであり,また,この四罪名以外の罪によって死刑の執行を受けた者は,昭和二二年以降まだない。
 昭和三二年から昭和三六年までの五年間に死刑の執行を受けた者一二一人は,すべてその犯罪によって他人の生命を奪った者であるが,その奪った人命およびそれに関連して傷つけた傷害は,I-139表のとおりである。これによると死刑の執行を受けた人数一二一人に対して,奪われた他人の生命は一九八,傷害を与えられた人数は三七人である。死刑の執行を受けた者のうち一人の生命を奪ったものは,右一二一人の六二%にあたるが,これを平均すると,一人あたり一・六人強の他人の生命を奪い,〇・三人強の人身に傷害を与えたことになる。

I-139表 死刑被執行者の犯罪による被害状況別人員(昭和32〜36年)

 さきに掲げたI-137表によると,昭和三二年から昭和三五年までの四年間に第一審で死刑を言い渡した人員は,合計一〇〇人であるが,この間に死刑が確定した人員は,九四人であり,さらに,昭和二二年から昭和三五年までの一四年間をとってみても,第一審で死刑の言渡を受けた人員の合計は五九一人であるのに対し,死刑の確定人員は四三三人であり,両者の間にある程度の差がみられる。このことは,第一審で死刑の言渡を受けた者が上訴した結果,上訴審で死刑から軽い刑に変更されたことを意味する。そこで,昭和三二年から昭和三六年までの五年間に死刑を執行された一二一人について,死刑の判決がどの審級で確定したかをみると,I-140表のとおり,第一審で確定したのは,わずか一・七%の二人にすぎず,八五・一%の一〇三人が上告審である最高裁判所で確定している。一般刑事事件の第一審判決は,その八二・二%までが第一審で確定し,上告審まで上訴されるものは,わずか三・三%にすぎないが,死刑というきわめて重大な刑を確定するまでには,その大半が上告審までの審判を受けているのである。

I-140表 死刑被執行者の確定判決の審級別人員等(昭和32〜36年)

 なお,第一審における検察官の死刑の求刑とそれに対する判決結果とを比較すると,I-141表のとおり,昭和三三年から昭和三五年までの三年間に,検察官によって死刑の求刑がなされたのは,一七一人であるが,このうち三八%にあたる六五人に対して死刑の判決が下されている。また,同じ期間に控訴審が完結した事件のうち第一審が死刑の判決であったものが,控訴審でどのように変わったかをみると,I-142表のとおり,第一審の死刑判決八七人のうち二〇・七%にあたる一八人は,軽い刑に変更され,四・六%にあたる四人は無罪に変更されている。これに対して,第一審で無期懲役の判決のあった一八二人のうち一・六%にあたる三人が死刑し変更されている。さらに,同じ期間に上告審が完結した事件についてみると,I-143表のとおり,控訴審で死刑とされたもの六六人のうち,七・六%にあたる五人について,控訴判決が破棄されており,上告審で死刑が確定したものは,九〇・九%の六〇人である。

I-141表 第一審死刑求刑人員と判決結果別人員等(昭和33〜35年)

I-142表 第一審と控訴審の結果別人員と率(昭和33〜35年)

I-143表 控訴審と上告審の結果別人員と率(昭和33〜35年)

 以上にみるように,わが国における死刑は,ごく限られた罪種について,しかも,きわめて慎重に言い渡され,かつ,丁重な手続を経てはじめて確定されているといえるであろう。