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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第四章/六 

六 虞犯少年の非行

 少年のなかには,犯罪を犯すという程度までにはいたらないが,保護者の正当な監督に服さなかったり,正当な理由がなく家庭に寄りつかなかったり,犯罪性のある者や不道徳な人と交際したり,いかがわしい場所に出入りして,将来犯罪を犯す危険性のあるものがある。これを虞犯少年とよんでいる。
 一四歳未満の虞犯少年を発見したときは,児童相談所または福祉事務所に通告し,一四歳以上一八歳未満の虞犯少年で児童福祉法による措置にゆだねるのが適当であると認められる者も,同様に児童相談所または福祉事務所に通告されるが,一八歳以上の虞犯少年は,家庭裁判所に送致され,また,一四歳以上一八歳未満の虞犯少年で児童福祉法による措置が適当でないと認められた者も,家庭裁判所に送致され,保護事件として審判を受けることになっている。
 虞犯少年は,いわばぐれ始めた少年ということができよう。これらの少年がさらに犯罪に進む場合の少なくないことは,われわれの多く経験するところであり,犯罪防止の観点からすれば,このぐれ初めの時期に適切妥当な措置を講じてその是正をはかる必要がある。犯罪少年の対策の一つとして,早期発見,早期治療という言葉があるが,虞犯少年を早期に発見し,これに適当な改善矯正の手段を講ずれば,犯罪性の進行した犯罪少年よりもはるかに容易に治癒せしめることが可能である。この意味で虞犯少年の問題は犯罪少年対策と密接に関係があるといえよう。
 警察では,右に述べた虞犯少年のほかに,いわゆる不良行為のある少年をひろく含めて,これを「虞犯少年」とよび,その補導につとめている。したがって,警察ではこの言葉を少年法の虞犯少年の意味より広義に使用しているが,警察で取り扱ったこの虞犯少年の数は,I-78表のとおり,逐年増加の途をたどり,昭和三五年には,八四三,一六八人に達し,昭和二七年の三倍をこえるに至っている。また八歳以上二〇歳未満の人口一,〇〇〇人中の虞犯少年の数は,昭和三五年では約三五人で,昭和二七年の一二・四人から年ごとに増大して三倍近くまでになっている。

I-78表 虞犯少年の年齢層別人員と率等(昭和27〜35年)

 年齢層別では,同年齢人口一,〇〇〇人に対する虞犯少年の比率は,一四歳未満の少年群は一一・九人でさすがに低いが,一八歳,一九歳の年長少年群は七〇・六人できわめて高率である。しかも昭和二七年のこの比率を一〇〇とする指数も,年長少年群は昭和三五年に三一〇で最高の増加率である。
 次に虞犯少年総数中の学生生徒数の割合は,I-79表に示すように,毎年ほぼ五割弱である。昭和三五年の虞犯学生生徒数は三九二,三四七人で,一般学生生徒一,〇〇〇人中に虞犯少年が一七・五人いることになる。

I-79表 虞犯少年中の学生・生徒数と率等(昭和31〜35年)

 学校別のこの比率では,小学生および大学生は一,〇〇〇人中の七-八人にすぎないが,中学生では二七・七人,高校生では三九・八人に達し,高校の一クラスにほぼ二人の割で虞犯生徒がいることになる。しかも虞犯学生生徒の実数および人口対比率は,大学生を除いて,年ごとに増加していることを注目すべきである。
 虞犯少年の行為別人員と率は,I-80表のとおりで,怠学,喫煙,盛場徘徊などの数は他の行為を圧して多い。また凶器所持,乱暴,喧嘩,不良団加盟など悪質な行為者の数が近年増加していることは,軽視することができない。

I-80表 虞犯少年の行為別人員と率(昭和30〜35年)

 なお,犯罪統計書によると,昭和三五年中に警察の取り扱った六大都市における虞犯少年の数は三九二,四七六人(全国総数の約四七%),また東京都は二三一,二八六人(総数の約二七%)―横浜市一九,三六三人,名古屋市二五,九三三人,京都市六三,七四九人,大阪市二六,六三八人および神戸市二五,五〇七人―で,全国総数の半数近くが六大都市に,また全国総数の四分の一以上が東京都に集中している。虞犯少年の数の多いことが,必ずしもその地域の少年不良化が深刻であることを示すものではなく,警察その他の地域の防犯活動などの事情とも関係がある。
 次に一〇歳以上二〇歳未満の人口一,〇〇〇人に対する虞犯少年数の比率(人口統計資料で八歳以上二〇歳未満の各都市人口が入手できなかったため,この比率をI-78表等の比率と直接対照することはできない)を地域別にあげると,全国では四一・七人,六大都市以外の地域で二七・二人であるのに対して,六大都市合計では一〇七・九人になり―東京都は一二七・〇人,横浜市六七・五人,名古屋市七三・〇人,京都市二二六・一人,大阪市四〇・〇人および神戸市一一二・九人―大都市において虞犯少年の比率が高いことを一応指摘できる。
 補導の対象になった虞犯少年の警察の措置別人員は,犯罪統計書によれば,昭和三五年の総数八四三,一六八人のうち家庭裁判所へ送致五,二八五人(総数の約〇・六%),児童相談所へ送致六,五七七人(約〇・八%),福祉事務所に通告一九六人(約〇・〇%)および警察限りの措置八二二,一一〇人(約九八・六%)となっている。家庭裁判所および児童相談所への送致人員は,ここ数年来それぞれ六,〇〇〇人台ないし七,〇〇〇人台でほぼ一定し,最近はむしろ減少気味である。また福祉事務所への通告も例年二〇〇人前後にすぎない。これに対して警察限りの措置の実数は年々増加している。これは警察の補導対象が,前述したように,少年法にいう虞犯少年のみならず,非行の予防と早期発見という見地から,比較的単純な不良行為を行なうものをひろく,かつ積極的に補導していることによるものといえよう。
 これらの単純不良行為のものに対しては,警察で事案を調査の上,必要に応じて家庭連絡,学校連絡あるいは職場連絡を行なったり,保護者や少年を招致訓戒したり,またこれ等に注意助言を与えるなどの措置をとっているのである。これに対し,家庭裁判所および児童相談所に送致されるものは,単純不良行為者と思料される以上の要保護性をもち,少年法や児童福祉法によって,さらに高度の保護を加えられる必要があると認められたものである。
 次に,家庭裁判所が処理した虞犯少年の数は,司法統計年報によれば,昭和三一年八,六三一人,昭和三二年九,〇一三人,昭和三三年九,九五一人,昭和三四年八,五四四人,昭和三五年は七,七六九人で,最近やや減少している。司法統計年報によれば,昭和三五年に家庭裁判所が終局決定をした虞犯少年七,七六九人のうち,保護観察所の観察に付されたものが九九九人(総数の約一二・九%),教護院・養護施設送致が八〇人(約一・〇%),少年院送致が九一五人(約一一・八%)で,合計一,九九四人(約二四・四%)が保護処分の決定を受けている。このほかに,審判不開始の決定が二,五二九人(約三二・五%),不処分の決定が一,三二九人(約一七・一%)である。