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5 麻薬中毒者 麻薬中毒者は,現在どのくらいいるであろうか。麻薬中毒者の数は,麻薬犯罪の増加にほぼ平行して年々増加している。I-45表は,表厚生省薬務局麻薬課の調べによるものであるが,昭和三五年度の「麻薬犯罪白書」によれば,同年一二月末日現在の麻薬中毒者名簿登載者は八,二九四人で,昭和三四年一二月末日現在にくらべて二九五人増加しているという。このうち当局で実際に所在を確認して,視察対象としている者は六,二四二人で,残りの二,〇五二人はその所在が不明であるというから,麻薬中毒者の実態を把握することがいかに困難であるかがわかる。
I-45表 麻薬中毒者の人員(昭和27〜36年) 麻薬犯罪は,地域的には大都市に集中し,東京,神奈川,大阪,兵庫,福岡の各都府県に圧倒的に多いが,中毒者もまたこれらの地域に集中し,確認された者の六五%はこれらの地域に集まっている。麻薬中毒者を年齢別にみると,三〇歳から四〇歳までの働き盛りの年齢層が三二%で最も多く,その次が二五歳から三〇歳までの層であるから,これら中毒者の社会的に投げかける問題は軽視できない。二〇歳未満の少年層は〇・六%できわめて低率であるが,麻薬取締法違反の受理人員のうちで占める比率は,七・六%であり,しかも年々増加の傾向にある。 麻薬使用の動機ないし中毒の原因をみると,疾病による疼痛または不安を免れるためのものが三分の一以上であるが,好奇心によるものがこれにまさるとも劣らない数字である。そのほか誘惑に抗し切れない者,覚せい剤嗜癖から転化したものなどがいる。 麻薬中毒者は,薬品を入手するために犯罪を行なわなくとも,麻薬を使用する限りにおいて,その行為自体が犯罪である。しかし,その行為に対する処罰だけでは,問題の根本的対策とならないことは自ら明らかである。麻薬中毒で苦しむ者のために,現在わが国では,精神衛生法による措置入院,家族の同意入院,本人の希望による入院などの方法があって,昭和三五年中には九〇三人が病院に入院している。これは,同年中に検挙された中毒者数とほぼ同数である。しかしながら,そのうちの五〇%以上が二週間以内で退院し,嗜癖の抜本的治療には何の役にも立っていない。入院者の五一%は中毒者自身の希望によるものであり,三三%は家族または近親者の依頼によっており,精神衛生法による通報や麻薬取締官による強制入院は,あわせて一〇%にみたない。それにもかかわらず,禁断症状中に脱走するか禁断症状が治まると直ちに退院を要求するかして,中毒を根治しようと努力しないのが中毒者の特徴で,麻薬の再使用ないし再犯への頻度はきわめて高い(以上の統計は,麻薬犯罪白書による)。 したがって,麻薬中毒者については,一般病院での処遇は困難であり,保安処分の制度が真剣に検討さるべきであろう。その場合,禁断症状をとるだけでは無意味であって,嗜癖そのものを除くための長い期間におよぶ療護ないし矯正が必要であろう。 |