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4 麻薬犯罪の科刑状況 ジアセチルモルヒネ(ヘロイン)またはこれを含有する麻薬を目的とする輸入,輸出,製造,譲渡,譲受,施用,所持等の行為は,麻薬犯罪中最も害悪が強く,かつ,悪質なものとして,麻薬取締法はこれらの行為を絶対的に禁止するとともに,麻薬犯罪に対する刑罰のうちで最も重い七年以下の懲役を規定し,また,これらの行為を常習として行なった者に対しては,一年以上一〇年以下の懲役に加重し,さらに営利の目的がこれに加わると,五〇万円以下の罰金をも併科することができるとしている。諸外国の立法例をみても,一般に麻薬犯罪に対してきびしい刑罰を規定しているものが少なくなく,なかに死刑をもって臨む立法例さえある。麻薬犯罪の基地といわれている香港では,最近の立法により重大な麻薬犯罪(製造,密輸,販売,分配)に対する刑の最高限を一〇年の懲役および五万香港ドルの罰金から,一五年の懲役および一〇万香港ドルの罰金へ引き上げたと伝えられている。香港には麻薬中毒者が約三〇万人いると推定されており,全人口三〇〇万人に対して,その一割を占めるという高率であるため,麻薬の根絶を期して刑罰の引き上げを行なったものであろう。
ところで,わが国の麻薬取締法違反の科刑状況をみると,I-44表のとおり,逐年科刑が重くなっていることがわかる。ことに,懲役を言い渡されたもののなかで刑の執行猶予が付せられるものの率は,昭和三三年には三三・〇%,昭和三四年には三〇・〇%,昭和三五年には二九・五%と漸減している。刑法犯につき懲役禁錮の執行猶予率は,四七・三%(昭和三五年)であることを考えあわせると,麻薬取締法違反のそれがいかに低いかわかるであろう。また,一年未満の懲役に処せられたものの率が,昭和三三年の四五・五%,昭和三四年の三九・八%,昭和三五年の三七・二%と逐年減少の傾向にあることも注目される。これとともに,最近では法定刑の上限に近い量刑がなされることがあり,昭和三五年四月三〇日にはいわゆる麻薬王と称せられた王漢勝(中国人)に対して懲役八年の刑が言い渡され,これまでの最高刑となった。 I-44表 麻薬取締法違反の第一審有罪人員の科刑別人員(昭和33〜35年) |