前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第三章/三/1 

三 交通犯罪

1 交通犯罪の概況

 交通犯罪は,いまや国民の直面する最も大きな社会問題となっている。自動車の台数は年とともに飛躍的な増加をみているが,これに伴う道路の改善が行なわれていないため,自動車は街にあふれ,大都市の交通事情は半身不随の状態におちいっている。しかも,自動車による交通事故は,年とともに増加を示しており,また道交違反の件数は飛躍的に増加し,その処理に忙殺されている有様である。
 新聞はこぞって交通事故の惨禍を大々的に報道し,プレス・キャンペインを力強く行なっており,政府もまた交通事情打開のために,閣内に交通関係閣僚懇談会をもうけ,交通事故の温床となるもの等について一つ一つこれを解決していこうとする意欲を示しているが,激増する交通犯罪または混乱をきたしている交通事情は,容易に解決をみそうにもない。
 警察統計によって,昭和三〇年以降の交通事故をみると,I-46表に示すように,昭和三五年には交通事故の件数が二八六,五二八件,事故による死者が一二,〇五五人,傷者が二三六,九六九人であるから,一日平均死者に三二人弱,傷者は六四九人強を出したことになる。一日平均三二人の死者を出しているということは,驚くべき数字である。もし,これが殺人とか強盗殺人の数字であるとしたら,どうであろうか。恐らくは社会不安を招き収拾のつかない大混乱におちいるであろう。

I-46表 交通事故の発生件数と死傷者数等(昭和30〜35年)

 右のI-46表は,必ずしも自動車による交通事故に限られていない。これらの数字のうち自動車によるものがどの程度にあるかというと,警察統計によれば,事故件数の八二・〇%が自動車による事故であり,死者のうちの八六・四%が,また傷者のうちの七九・九%が,それぞれ自動車によるものである。したがって,交通事故といえば,ただちに自動車を連想するほど,自動車によるものが圧倒的に多いのである。昭和三五年の交通事故を昭和三〇年のそれと比較すると,事故件数が約三倍,死者が約一・九倍,傷者が約三倍,自動車の台数が約二・四倍となっている。自動車の台数の増加率を事故件数および傷者が上回っている点は,注意を要する。また,昭和三五年の交通事故を前年の昭和三四年のそれと比較すると,事故件数が四二%,死者の数が一九・六%,傷者の数が三五・六%それぞれ増加している。事故件数のうち自動車によるものの増加は,三九・五%であるが,自動車台数の増加は二四・四%であるから,その増加率を上回っている。
 自動車による交通事故には,道路交通法規に違反する行為を伴うことが多い。たとえば,スピード違反,無免許運転,酔っぱらい運転,信号無視,右左折禁止違反,ひき逃げ等。道路交通法規を厳格に守って運転すれば,交通事故の大半はこれを避け得るであろうといわれるくらいに,交通事故には道路交通法規違反が重なり合ったり,原因となったり,または結果となったりしている。そこで,一般に交通犯罪とは,道路交通法令違反,すなわち道路交通取締法令に違反するものと,過失による殺傷犯,すなわち,業務上過失致死傷とを含めている。前者は特別法犯または法定犯とよばれ,後者は刑法犯または自然犯とよばれ,その性格を異にするとされているが,交通事犯を中心として考える以上,両者は密接に関連しているから,ここでは,これを交通犯罪として一括して述べることとする。