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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第三章/二/2 

2 麻薬犯罪の受理状況

 まず,検察庁に受理された麻薬関係法令違反(麻薬取締法,大麻取締法,あへん法,刑法第一四章に違反するものをいう。以下同じ)の推移を昭和二六年から昭和三五年までの一〇年間についてみると,I-11図のとおりである。これによると,波動的に増加しているといえるのであるが,昭和三五年には,昭和二五年の三,二三一人を凌駕して三,二六一人となり,戦後の最大のピークを示している。このように麻薬犯罪が増加した原因がどこにあるかは,種々の要因が考えられるが,最近における刹那的な享楽を追う傾向が増加の一つの原因となっていることは否めないところであろう。これとともに,麻薬組織の末端に暴力団が介在していることは,暴力団員のなかに麻薬使用者を醸成する結果となっているのである。また,麻薬の供給面からみると,最近香港における麻薬の取締が著しくきびしくなったことに伴い,日本がこれに代わる基地的な意味をもつようになり,東南アジヤからの密輸入が増加し,麻薬がわが国で豊富になったことも,その原因の一つとして挙げることができるであろう。いずれにもせよ,その原因については十分検討する必要がある。

I-11図 麻薬関係法令違反事件の受理人員(昭和26〜35年)

 なお,警察庁の調査によると,昭和三五年における麻薬取締法違反の被検挙者の職業別は,暴力団関係者が二九・八%,無職者が二三・五%,売春婦が八・一%であるといわれているが,この統計によっても暴力団関係の麻薬組織への介入状況を知ることができるであろら。
 I-40表は,昭和三五年における麻薬関係法令違反の受理区分を示したものであるが,総受理人員は三,二六一人で昭和三四年の二,五〇〇人に比して七六一人の増加をみせている。しかも,このうち麻薬取締法違反が最も多く,総受理人員の八五・三%を占めている。違反者の地域的分布をみると,麻薬取締法違反では,受理人員の八四・六%にあたる二,三四九人が横浜(八〇四人),大阪(五〇三人),東京(四九六人),神戸(三三一人)および福岡(二一五人)の五大都市において受理されている。このことは,麻薬取締法違反が主として大都市に集中して発生していることを物語るものといえよう。これに反して,あへん法違反は,その六八%にあたる三〇八人が仙台(一〇〇人),東京(八三人)徳島(六五人)および盛岡(六〇人)の四地域で受理されているが,これはその大半が不正栽培であるため,農山村地区に発生しているものである。

I-40表 麻薬関係法令違反の法令別受理人員等(昭和35年)

 麻薬犯罪の一つの特徴である国際性は,麻薬犯罪の被疑者として外国人を加えている。そこで麻薬取締法違反の国籍別受理人員をみると,I-41表のとおり,外国人の占める比率は逐年減少傾向をみせているものの,昭和三五年においては一二・〇%である。一般犯罪(道交違反を除く)において外国人の占める比率が六・二%である(昭和三五年)のに比較すれば,かなり高い比率であるといえよう。なえ,外国人といっても,同表で明らかなように,朝鮮人と中国人が圧倒的に多い。

I-41表 麻薬取締法違反の国籍別受理人員と率(昭和33〜35年)

 また,近年の少年犯罪の増加に対応して,麻薬取締法違反により受理される少年の数が漸増している。すなわち,検察統計年報によると,昭和三二年には五二人(成人および少年の受理合計の三・〇%,以下同じ),同三三年には七八人(三・三%),同三四年には一一四人(五・六%),同三五年には一九五人(七・六%)と少年の数が漸増しているのである。麻薬は元来高価なものであり,年少者はこれに手が出せないものと一般に考えられてきたが,最近は少年の間にも麻薬を使用するものが増加してきたことは誠に憂うべき傾向といわなければならない。昨今少年の間に睡眠薬遊びというものが流行していると伝えられているが,その動機とするところは麻薬中毒のそれと酷似していることを考えると,将来少年に麻薬が流行するおそれがないとはいいきれない。アメリカにおいては,今次大戦直後青少年の間に睡眠薬遊びが行なわれ,そのあとに流行したのが大麻中毒(麻薬中毒の一種)であると伝えられているが,アメリカの流行を追う傾向の強いわが国の現状からみると注意を要する問題といえよう。