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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第二章/二/1 

1 財産犯罪

 I-15表に示すように,財産犯罪の検挙人員は,昭和三一年以降減少をみせており,とくに総検挙人員のなかで占める比率は減少している。すなわち,昭和二三年には財産犯罪は総検挙人員の六六・六%を占めていたが,昭和三五年には四一・一%と二五%に及ぶ減少をみせているのである。昭和二三年は,敗戦の影響で物資は不足し,悪性インフレの進行していた時期であって,国民の多くが窮乏状態にあったから,窃盗の多かったことは当然であり,また,詐欺,横領その他の財産犯も著しく増加していた。その後,財産犯罪が次第に減少したことについては,経済状態が良好になり,社会秩序が回復したことの影響が大きいと考えられる。経済状態が良好となったことを示す統計として,産業総合生産指数,労働者雇用指数,賃金,失業者数等をみると,I-16表に示すように,国民の経済状態は近年著しく良好となっており,昭和三五年には前年よりさらに良好となっていることがわかる。したがって,窮乏にもとづくための財産犯罪が減少していることは,この統計によって裏づけることができるであろう。

I-16表 産業総合生産指数・全産業常用雇用指数等(昭和30〜35年)

 しかし,窃盗の検挙人員は,昭和三四年以降やや上昇をみせており,また,窃盗の発生件数が最近ある程度増加を示していることは,注意を要するところである。こころみに,昭和二八年以降の窃盗の発生件数,検挙件数,検挙率を掲げると,I-17表のとおり,発生件数は昭和二八年以降ある程度減少をみせている年もあるが,おおむね高い水準を示しており,昭和三五年には前年よりわずかに増加している。これに反して,検挙率は,昭和二八年以降減少の傾向を示し,昭和三五年は前年よりやや増加して五〇%の線を維持したものの昭和二八年の六〇%にはほど遠いものがある。この検挙率の低下は,犯行の手口手段が巧妙となって検挙が困難になったためではないかと考えられるが,いずれにしても国民の経済状態が良好となりながら,窃盗の発生件数が増加したことの原因については,十分に検討する必要がある。

I-17表 窃盗犯の発生・検挙件数等(昭和28〜35年)

 なお窃盗を除く詐欺,横領その他の財産犯罪已,検挙人員だけでなく発生件数も減少しているので,犯罪傾向として良好な状態にあるといえよう。