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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/5 

5 その他

 ここでは,放火と性犯罪(強姦及び強制猥褒をいう。)について若干の考察をする。
 調査対象者のうち本刑時における罪名が放火の者は33人(総数の1.5%),性犯罪の者は24人(同1.1%)であるが,男女別に見ると,放火は33人中男子31人,女子2人であり,性犯罪はすべて男子である。本刑入所時の年齢を多数回受刑者全体(IV-43表参照)と比較して見ると,放火では40歳代が15.2%,50歳代が63.6%,60歳代が21.2%で,年齢層の高い者の比率がやや高いのに対して,性犯罪では30歳代が8.3%,40歳代が29.2%,50歳代が33.3%,60歳以上が29.2%で,30歳代及び40歳代の年齢層の低い者の比率が高くなっている。
(1) 罪  名
 IV-60表は,本刑時において放火又は性犯罪を犯した者について,初入刑時,2入刑時,前刑時にどのような犯罪を犯していたかを見たものである。
 まず,放火では,過去に財産犯を犯した者が,初入刑時,2入刑時でそれぞれ81.8%,93.9%を占め,これらの時点ではそのほとんどの者が財産犯を犯しているが,前刑時では45.5%に低下している。次に,本刑時と同様に放火を犯した者は,初入刑時で6.1%(2人),2入刑時には該当者がいないが,前刑時では42.4%(14人)と高い比率となっており,前刑時に引き続き本刑時においても放火を累行した者が相当数いることは注目される。

IV-60表 放火犯及び性犯罪の多数回受刑者の入所時・罪種別構成比

 性犯罪では,初入刑時,2入刑時,前刑時において,財産犯を犯した者が,それぞれ66.7%,66.7%,41.7%,凶悪犯又は粗暴犯を犯した者が,それぞれ16.7%,25.0%,20.9%,同じ性犯罪を犯した者が,それぞれ12.5%,4.2%,25.0%であり,性犯罪を犯す者の中には凶悪犯や粗暴犯に親和性をもつ者も2割前後はいるほか, 一部に性犯罪の常習者がいることを示している。
(2) 人格特性及び本刑入所前の生活状況
 放火で入所した33人の人格特性を見ると(IV-46表参照),知能が劣っている者(IQ69以下の比率が81.8%),教育程度の低い者(小学校程度の比率が45.5%),精神障害のある者(30.3%)の各比率は,いずれも多数回受刑者全体の場合と比較して極めて高い。本刑入所前の生活状況(IV-48表参照)では,単身生活者が93.9%と高率を占め,親,妻子,内妻・愛人等の身内の者と同居する者は全くおらず,未婚の者の比率も72.7%と高いことが注目される。また,家族との関係では,「一家離散の者」と「天涯孤独の者」の合計の比率は46.7%,「家族の困り者」と「家族から見放されている者」の合計の比率は50.0%に上っており,放火を犯す者には家庭的に不遇な者が多いことを示している。
 次に,性犯罪で入所した24人について多数回受刑者全体と比較して見ると,人格面では,放火と同様に知能が劣っている者(IQ69以下の比率が70.8%),精神障害のある者(25,O%)の比率が高い。本刑の入所前の生活状況では,単身の定住者の比率(41.7%)が高いのが特徴であり,未婚者の比率(45.8%)は比較的低いものの,既婚者の離別率(45.8%)が高いため,現在配偶者のある者の比率は8.3%にすぎない。家族との関係では,「一家離散の者」と「天涯孤独の者」の合計の比率は9.5%にすぎないが,「家族の困り者」と「家族から見放されている者」の合計の比率では85.7%にも上っている。
 このように,放火を犯した者と性犯罪を犯した者との間には,今回の調査対象者に関する限りでは,資質面では同種の性向が見受けられる反面,後者には,前者と比べて「一家離散の者」と「天涯孤独の者」は少ないものの,「家族の困り者」と「家族から見放されている者」が多いなど家族関係等にかなりの差異が認められる。