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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/4 

4 暴力団関係者

 ここでは,本刑時における暴力団関係多数回受刑者(以下,本項において「暴力団関係者」という。)166人について考察することとする。

IV-58表 暴力団関係多数回受刑者の入所時・組織内地位別人員

 IV-58表は,暴力団関係者について,暴力組織への加入状況及び組織内の地位を初入刑時,2入刑時,前刑時及び本刑時別に見たものである。暴力団関係者について初入刑時にまでさかのぼって見ると,既に,暴力団に加入していた者は,初入刑時では47人(28.3%),2入刑時では66人(39.8%)であるが,前刑時で153人(92.2%)となっている。その組織内の地位を見ると,幹部以上の者は,初入刑時では1人,2入刑時では3人にすぎなかったものが,前刑時では組長21人,幹部53人となり,本刑時では組長が29人,幹部が70人であって,この両者の合計では59.6%と半数を超えるに至っており,入所回数が多くなるにつれて組織内の地位が上昇してきている。
 本刑入所時の年齢を見ると,30歳代が6.0%(その他の多数回受刑者では1.7%),40歳代が45.8%(同24.4%),50歳代が42.8%(同48.8%),60歳以上が5.4%(同25.0%)であり,その他の多数回受刑者と比較すると50歳未満の比率が高く,暴力団関係者は,比較的年齢層の低い者が多いところにその特徴がある。入所度数別に見ると,10度から14度までの者が89.8%(149人),15度から17度までの者が10.2%(17人)であって,18度以上は該当者がなく, 一般の多数回受刑者と比較すると極端に入所度数の多い者は少ない。
(1) 罪  名
 暴力団関係者166人について初入刑時,2入刑時,前刑時,本刑時の主な罪名別構成比を見たのがIV-59表である。まず,本刑時における入所罪名では,覚せい剤事犯が43.4%と半数弱を占め,次いで窃盗が13.9%,暴力行為等処罰法違反が9.0%などとなっており,覚せい剤事犯が断然多く,これらの罪名の比率は前刑時もほぼ同様である。ところが,初入刑時の罪名別の構成比を見ると,窃盗が50.6%,傷害が15.1%,恐喝が12.0%,詐欺が5,4%などであり,2入刑時では,窃盗が39.2%,恐喝が17.5%,傷害が12.7%,詐欺が9.0%などであって,財産犯と粗暴犯が多い。なお,殺人は,初入刑時が0.6%(1人),2入刑時が1.2%(2人),前刑時が0.6%(1人),本刑時が3.6%(6人),強盗は,初入刑時が1.8%(3人),2入刑時が1.8%(3人),前刑時が該当なし,本刑時が2.4%(4人)であり,本刑時で殺人と強盗の比率が増加していることが注目される。

IV-59表 暴力団関係多数回受刑者の入所時・罪名別構成比

 次に,本刑時の暴力団関係者166人が犯した犯罪について罪種別での変化を見ると,初入刑時では財産犯が56.0%,粗暴犯が32.5%,凶悪犯が2.4%で,2入刑時では財産犯が48.2%,粗暴犯が36.2%,凶悪犯が3.0%であり,財産犯と粗暴犯が多数を占めるのに対し,前刑時になると,覚せい剤事犯が37.3%,粗暴犯が28.2%,財産犯が21.0%,凶悪犯が0.6%,本刑時では覚せい剤事犯が43.4%,粗暴犯が22.2%,財産犯が20.4%,凶悪犯が6.0%となっており,前刑時,本刑時では覚せい剤事犯及び粗暴犯が大半を占め,また,凶悪犯が増加するなど暴力団関係者に特有な罪種への移行が見られる。
 覚せい剤事犯は,暴力団関係者の関与の多い犯罪であるが,今回の調査対象者166人のうち本刑時に覚せい剤事犯で入所した者は72人(43.4%)であり,その犯行の態様を見ると,全体では密売が24.1%,自己使用が74.7%となっているが,密売に関与する者は,組長,幹部に多く (46人中15人が密売),暴力組織内の地位が高い者が覚せい剤の密売を資金源としていることをうかがわせる。
(2) 入所前の生活状況
 暴力団関係者の本刑入所前における居住形態,家族関係,生活程度について,それ以外の多数回受刑者(以下,本項において「その他の者」という。)と対比して見ると,居住形態では,まず,暴力団関係者は単身生活者が47.6%(その他の者では83.7%),住所不定の者が20.5%(同62.1%),同居の者が51.8%(同15.8%)となっており,暴力団関係者は単身生活者の比率,とりわけ住所不定者の比率が低く,同居の者の比率が極めて高い。暴力団関係者で妻子と同居している者の比率は21.1%(同4.4%),内妻・愛人と同居している者は16.9%(同5.5%)である。
 家族関係を見ると,「家族から頼りにされている者」と「家族とうまくいっている者」を合わせた比率は22.9%(同5.8%)で,暴力団関係者には家族と良好な関係にある者の比率が高い。しかし,「家族の困り者」と「家族から見放されている者」を合わせた比率では,55.4%(同61.3%)でその他の者との間に大きな差異はない。
 生活程度について見ると,生活程度「上」と「中」の者は,暴力団関係者では45.2%であるのに対して,その他の者では17.0%にすぎず,暴カ団関係者には経済的に恵まれている者が多い。
 以上,暴力団関係者の入所前の生活状況を見た場合,その他の者と比べて,居住形態,家族関係,生活程度いずれにおいても比較的恵まれており,暴力組織の中に身を置きながら,ある程度の生活を維持している者がかなり存在することを指摘することができよう。