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 昭和57年版 犯罪白書 第1編/第3章/第3節/2 

2 女性犯罪者の処遇

(1) 検察及び裁判
 昭和56年において全国の検察庁で処理された交通関係業過及び道交違反を除く女性被疑者は,7万593人であり,これを罪名別・処理別に示すと,I-98表のとおりである。処理区分別に見ると,全体では,家庭裁判所送致が48.7%で最も多く,次いで,起訴猶予が26.5%となっているが,これを刑法犯及び特別法犯に分けて見てみると,刑法犯では,家庭裁判所送致が61.0%を占めるのに対し,特別法犯では,起訴が65.8%となっている。また,処理総数を罪名別に見ると,窃盗が最も多く,総数の6割強を占めている。窃盗に対する処分は,家庭裁判所送致が67.5%と最も多く,起訴されたのは,3.8%にすぎない。
 少年に対する処分である家庭裁判所送致を除外して成人女性被疑者に対する起訴猶予率を算出し,男性被疑者の起訴猶予率とも対比させて,前記I-98表にこれを示した。これによると,検察庁の女性被疑者に対する処理では,起訴猶予になる者が多く,女性刑法犯の平均起訴猶予率は75.7%で,男性刑法犯の平均起訴猶予率の30.1%の2倍以上となっている。女性刑法犯の起訴猶予率を男性のそれと対比しながら罪名別に見ると,女性の起訴猶予率の高い罪名は,窃盗(88.1%),横領(82.3%),自殺関与(55.6%),傷害(52.4%)などであるが,男性の起訴猶予率が女性のそれを上回るのは,公然わいせつ(わいせつ文書頒布等を含む。)のみである。一方,女性の特別法犯の起訴猶予率は25.9%で,刑法犯に比べて全体的に低く,最も高い売春防止法違反でも41.7%である。

I-98表 女性被疑者の罪名別検察庁処理人員(昭和56年)

 次に,昭和55年の通常第一審女性有罪人員を罪名別に見ると,有罪人員総数は4,227人で,そのうち,懲役が3,879人(構成比91.8%),禁錮208人(同4.9%),罰金140人(同3.3%)となっている。女性有罪人員の罪名別構成比を見ると,覚せい剤取締法違反が42.0%で最も多く,窃盗の18.9%がこれに次ぎ,この二つの罪名で6割強を占めている。また,刑法犯と特別法犯との割合は,これまで,刑法犯が5割強を示していたが,55年には,特別法犯が5割を超えるに至った。これに対し,男性有罪人員について見ると,刑法犯が6割強を占め,特別法犯は4割弱となっている。なかでも,覚せい剤取締法違反は16.3%で,女性における覚せい剤取締法違反の占める割合の大きいことが注目される。

I-99表 一般保護女子少年の非行名別終局人員(昭和55年)

 次に,昭和55年の一般保護女子少年の非行名別終局決定人員を見ると,I-99表のとおりである。終局決定人員総数3万8,158人のうち,最も多いものは窃盗(68.8%)であり,毒物及び劇物取締法違反(7.4%),傷害及び覚せい剤取締法違反(各1.2%)がこれに次いでいる。終局処分の決定は,非行名によって異なるが,総数で審判不開始及び不処分の比率が92.3%となり,保護処分となる比率は1割に満たない。なお,特別法犯は,刑法犯に比べて保護処分となる比率が高く,なかでも,覚せい剤取締法違反が52.0%と高くなっている。
(2) 矯  正
ア 女子受刑者とその処遇
 女子受刑者を収容する施設としては,栃木・和歌山・笠松・麓の四つの刑務所があり,そのほかに札幌刑務所に独立した女区がある。
 昭和56年の女子新受刑者は996人で,前年に比べ,153人,18.1%の増加である。
 女子新受刑者の罪名を見ると,I-100表のとおり,覚せい剤取締法違反が50.5%で首位を占め,以下,窃盗の22.3%,詐欺の7.9%,殺人の6.4%の順となっている。覚せい剤取締法違反で入所する女子新受刑者が,これまで首位の窃盗を上回り,罪名別で1位となったのは,昭和53年で,その割合は,53年には34.8%,以後,54年に42.0%,55年に45.4%,56年に50.5%と逐年急増してきた。10年前の47年を見ると,女子新受刑者総数では,47年は568人で,56年には428人(75.4%)増加して996人となっている。このうち,覚せい剤取締法違反で入所した者が,47年は11人,56年は503人で,女子新受刑者の増加は,覚せい剤取締法違反者の増加によるところが顕著である。

I-100表 女子新受刑者の罪名別人員(昭和47年,54年〜56年)

I-101表 新受刑者の知能指数段階別人員構成比(昭和47年,54年〜56年)

 新受刑者の知能指数について見ると,I-101表のとおりで,女子は男子に比べ,どの年次を見ても知能指数の低い者が多く,昭和56年では,知能指数80未満の者が62.6%となっている。
 女子受刑者は,その数が少ないこともあって,原則として,受刑者の居住地に近い施設に収容されており,施設ごとの分類収容は行われていないが,施設内における工場,居室の指定等に当たっては,収容分類級が考慮されている。なお,女子外国人受刑者(WF級)は,すべて栃木刑務所に収容されている。
 女子施設における処遇は,その特性を考慮して,情緒の安定性を養うこと,家庭生活に関する知識及び技術を習得させること,保護引受人との関係の維持に努めることなどを,重点事項として行われている。また,開放的な雰囲気で,収容に伴う心理的な圧迫感をできる限り少なくするよう,収容居室の調度品などについても,家庭的なものが用意されるなどの配慮がされている。
 女子受刑者に対する職業訓練も家事サービス,美容,縫製,洋裁等の多種目にわたって実施されている(II-46表参照)。更に,近年,女子受刑者については,覚せい剤事犯で入所する者の急激な増加に伴い,生活指導の一環として,薬害防止のための教育も活発に行われている。
 これらの生活指導,職業訓練とともに,女子受刑者の医療及び母子衛生に特別の配慮が払われている。特に,受刑者が妊産婦である場合には,特別の保護的措置がとられていて,出産は外部の病院で行われている。更に,受刑者が1歳未満の実子を伴う場合には,その乳児を刑務所内の保育室で1歳になるまで育てることも許されている。1歳を超えた乳児は,一般の乳児施設又は保護者のもとに預けられる。
イ 少年院女子収容者とその処遇
 女子のための少年院は,愛光女子学園,榛名女子学園,交野女子学院,貴船原少女苑,筑紫少女苑,沖縄女子学園,青葉女子学園,紫明女子学院及び丸亀少女の家の9施設であるが,そのほかに,関東医療少年院及び京都医療少年院にも,医療的措置の必要な女子を,男子と別の区画を設けて収容している。
 昭和56年の女子新収容者は536人で,前年に比べ,17人増加している。56年における女子新収容者の非行名別人員を見ると,I-102表のとおりで,虞犯が37.5%を占め,以下,覚せい剤取締法違反の24.3%,窃盗の17.9%,毒物及び劇物取締法違反の5.0%となっている。前年に比べ,覚せい剤取締法違反は52.9%,毒物及び劇物取締法違反は28.6%の増加となっており,薬物事犯の著しい増加が注目される。
 I-103表は,新収容者の教育程度別人員を見たものである。中学校卒業者の占める割合が女子,男子共に最も多いが,女子は第2位に中学在学中の28.2%(47年は15.5%)があり,女子の低年齢層が逐年増加していることが顕著である(III-50表参照)。
 I-104表は,非行時の所在別人員を見たものである。女子はどの年次を見ても,家出等による浮浪中が首位を占め,男子は保護者のもとが首位となっている。

I-102表 少年院女子新収容者の非行名別人員(昭和47年,54年〜56年)

 これらの女子収容少年に対する処遇は,その特性を考慮し,生活指導においては,規律ある生活習慣の形成,情緒の安定,個別的問題性などに着目して行われている。なかでも,薬物濫用防止教育,性・異性問題に関する教育,親子・家族問題の調整などに重点をおいている。このほか,女子の場合,中学在学中の者が多いことから,中学校の課程を履修させるため教科教育課程に編入し,在院中に全課程を修了した者には,中学校の卒業証書を取得させるよう配慮されている。

I-103表 少年院新収容者の教育程度別人員(昭和47年,54年〜56年)

I-104表 少年院新収容者の非行時の所在別人員(昭和47年,54年〜56年)

 職業補導は,女性として必要な家事に関する知識と技能の指導,勤労意欲を高め,職業人としての自覚と自信をつけるように,院外委嘱職業補導や社会奉仕活動なども活発に行われている。
(3) 保護観察
 全国の保護観察所が新たに受理した保護観察対象者のうち,女子の人員を昭和40年以降5年ごとに見たのがI-105表である。56年の受理総数は3,642人で,前年に比べ299人,8.9%の増加となっている。なかでも保護観察付執行猶予者及び保護観察処分少年の増加が著しく,それぞれ,前年より15.6%,12.5%増加している。
 昭和56年における受理総数中に占める女子の割合(女子比)は6.8%となっており,40年以降では最高の比率である。女子比を事件種別に見ると,少年院仮退院者が最も高く11.0となっており,最も低いのが仮出獄者の4.3で,事件種別によってかなり異なっている。

I-105表 女子保護観察対象者の新規受理人員の推移(昭和40年,45年,50年,55年,56年)

I-106表 罪名・非行名別女子保護観察新規受理人員(昭和47年,56年)

 次に,昭和47年及び56年の女子新規受理人員を罪名・非行名別に見ると,
 I-106表のとおりである。まず,56年について見ると,保護観察処分少年では,虞犯が463人(24.4%)と最も多く,次いで,窃盗の451人(23.8%),覚せい剤取締法違反の263人(13.9%),毒物及び劇物取締法違反の208人(11.0%)の順となっている。少年院仮退院者では,虞犯が224人(47.6%)で最も多く,窃盗の101人(21.4%),覚せい剤取締法違反の70人(14.9%)がこれに次いでいる。仮出獄者について見ると,覚せい剤取締法違反が291人(45.4%)で首位を占め,以下,窃盗180人(28.1%),詐欺56人(8.7%),殺人46人(7.2%)の順となっている。保護観察付執行猶予者では,覚せい剤取締法違反が345人(54.2%)で,仮出獄者と同様第1位を占めており,窃盗の154人(24.2%)がこれに次いでいる。
 罪名・非行名について10年前の昭和47年と比較すると,各事件種別すべてにおいて,覚せい剤取締法違反が著しく増加していることが分かる。すなわち,47年では同法違反による女子の新規受理人員の総数は29人にすぎなかったのに,56年では約33倍の969人となっている。
 女子の保護観察対象者に対する処遇では,特に,家族関係の調整,精神的・経済的自立の援助,性の問題や家庭管理能力の問題に関する助言などに重きを置いた指導・援助が行われている。なお,現在女子を保護対象とする更生保護会は,全国に9箇所ある。