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2 主要刑法犯の動向 刑法犯の主要なものについて,財産犯,凶悪犯,粗暴犯,性犯罪,過失犯及びその他の刑法犯に分けて,最近5年間の動向及び昭和56年における特徴を概観する。
(1) 財産犯 最近5年間における財産犯の認知件数及び検挙人員は,I-3表のとおりである。この間における窃盗,詐欺,横領の増加は著しく,昭和52年の認知件数を100とする指数で見ると,56年では,それぞれ117,114,186に上昇している。特に,窃盗の激増状況には,目を見張るものがあり,56年における窃盗の認知件数は,戦後最高の数値となっている。 最近5年間における窃盗の主要手口別認知件数は,I-4表のとおりである。あき巣ねらいは5年間一貫して減少しているのに対し,オートバイ盗及び車上ねらいは一貫して増加している。自転車盗及び万引きは,昭和54年にやや減少したが,全体としては増加傾向にあり,56年にはいずれも過去5年間の最高となった。そのほかの手口では,金庫破り及び自動販売機荒らしが一貫して増加している(56年において,金庫破りは3,354件,自動販売機荒らしは2万3,115件)。対前年差で見ると,オートバイ盗及び自転車盗の増加数が4万507件で窃盗全体の対前年増加数9万1,745件の44.2%を占め,車上ねらいの増加数が1万2,880件で同じく14.0%,万引きの増加数が8,027件で8.7%を占め,全部併せると66.9%となり,56年における窃盗の増加は,オートバイ盗,自転車盗,車上ねらい及び万引きの増加によるものと見ることができる。 I-3表 財産犯の認知件数及び検挙人員(昭和52年〜56年) I-4表 窃盗の主要手口別認知件数(昭和52年〜56年) 我が国の自動車保有台数は,戦後のモータリゼーションによって爆発的に増大し,乗用車(軽自動車を除く。)は,10年前の台数と比較しても,昭和47年の約950万台から56年の約2,250万台に増加し,オートバイ(原付を含む。)の保有台数も,同じ期間に約860万台から約1,320万台になった(運輸省統計資料による。)。住宅の郊外分散の結果,自転車が郊外居住者の必需品になったこと,レジャー・ブームによる自転車に対する需要の増加などの理由から,自転車保有台数は,同じ期間に約3,400万台から約5,200万台に増加した(日本自転車工業会の資料による。)。他方,販売業務の省力化に伴ってスーパーマーケットなどセルフサービス販売方式の店舗も増加した。このような事情は,オートバイ盗,自転車盗,車上ねらい及び万引きの機会を増加させるものであり,最近におけるこの種犯行の増加の一因であろう。窃盗検挙人員のうち,少年の占める比率は逐年上昇し,昭和56年には,総数で52.2%,増加の著しいオートバイ盗で97.1%,車上ねらいで53.4%,万引きで55.0%である事実,窃盗が業過を除く刑法犯認知件数の8割以上を占め,刑法犯の増加原因になっている事実から見ると,最近における刑法犯の増加傾向は,特に,少年の窃盗非行の増大に起因するところが大きいと思われる。 次に,最近5年間における詐欺の主要手口別認知件数を見ると,I-5表のとおりである。同表は認知件数の多い5種類の手口のみを示したものであるが,昭和56年には代金詐欺の減少を除き,寸借,無銭飲食,商品及び月賦の各詐欺は,いずれも前年より増加している。 横領事犯は,認知件数,検挙人員共に,この5年間一貫して増加しているが,昭和56年における増加率は,刑法犯全体の増加率(認知件数6.2%,検挙人員4.0%)に比べ,著しく高い(前年より認知件数で21.1%,検挙人員で22.5%増)。横領事犯の罪名別認知件数は,I-6表のとおりであるが,路上に放置されている自転車の乗り逃げを主とする占有離脱物横領の増加傾向が依然として続き,前年より25.3%増加し,全横領事犯の約85%を占めるに至ったことなどが特に注目される。なお,業務上横領も,55年に増加に転じ,56年もその傾向が続いている。 I-5表 詐欺の主要手口別認知件数(昭和52年〜56年) I-6表 横領事犯の罪名別認知件数(昭和52年〜56年) (2) 凶悪犯最近5年間の凶悪犯の認知件数及び検挙人員は,I-7表のとおりである。認知件数の指数で見ると,凶悪犯の総数では,昭和53年に指数92まで減少したが,54年及び55年はそれぞれ94と増加傾向を示し,56年にもその傾向が続き,99となっている。凶悪犯のうち,殺人は55年まで一貫して減少を続けていたが,56年には前年よりやや増加し,指数86(1,754件)になった。強盗は53年までの減少傾向から54年に増加に転じ,56年には指数111(2,325件)にまで増加したが,強盗のうちでも悪質な強盗殺人,強盗傷人及び強盗強姦の認知件数の合計が54年から3年連続して増加し,56年には1,060件で強盗全体の45.6%を占めている。 I-7表 凶悪犯の認知件数及び検挙人員(昭和52年〜56年) なお,激増状況にある金融機関強盗,いわゆる通り魔犯罪及び保険金目的の殺人事件などについては,第1編第3章で詳述する。(3) 粗暴犯 最近5年間における粗暴犯の認知件数及び検挙人員は,I-8表のとおりである。認知件数で見ると,粗暴犯は昭和55年まで全体的に減少傾向にあったが,56年には暴行,恐喝が増勢に転じ,特に,恐喝が前年より1,218件(13.8%)も増加したため粗暴犯全体としては前年よりやや増加したことが注目される。 I-8表 粗暴犯の認知件数及び検挙人員(昭和52年〜56年) なお,傷害・同致死及び脅迫は5年間一貫して減少している。(4) 性犯罪 最近5年間における性犯罪の認知件数及び検挙人員は,I-9表のとおりである。認知件数で見ると,性犯罪は昭和55年まで全体的に減少傾向にあったが,56年には,強姦が前年よりやや増加したほか,公然わいせつが著しく増加(前年より14.1%増)したため,総数も若干増加した。公然わいせつ(わいせつ文書頒布等を含む。)が著しく増加したのは,いわゆるビニール本頒布事犯等が増加したためと思われる。 なお,昭和56年には高層のマンションやアパートのエレベーターの密室状態を利用した凶悪な強姦事件等が多発したが,その罪種別認知件数及び検挙件数は,I-10表のとおりであり,検挙率も約31%と,全体の検挙率と比較して低くなっている。 I-9表 性犯罪の認知件数及び検挙人員(昭和52年〜56年) I-10表 エレベーター利用犯罪の認知・検挙件数(昭和56年) (5) 過失犯最近5年間における過失犯の認知件数及び検挙人員は,I-11表のとおりである。交通関係業過は一貫して増加しているが,他方,交通関係業過以外の業過,過失致死傷及び失火は一貫して減少している。 (6) その他の刑法犯 その他の刑法犯として,放火,略取・誘拐,文書偽造・有価証券偽造及び賭博の各罪を取り上げ,最近5年間における認知件数及び検挙人員を見ると,I-12表のとおりである。 放火の認知件数は,より長期的に見ると,ピークを示した昭和30年の1,922件から,起伏を示しながら減少して44年に1,304件の最低に達した後,45年から増勢に転じ,起伏を示しつつ52年には2,155件と戦後最高を記録し,53年以後も2,000件台を維持していたが,56年には若干減少して1,994件になっている。放火の検挙率が高い(56年で91.6%)のにかかわらず,検挙人員が比較的少ない(同年で1,023人)のは,統計上の検挙人員には含まれない触法少年(14歳未満)が298人いるためである。 I-11表 過失犯の認知件数及び検挙人員(昭和52年〜56年) I-12表 放火等の認知件数及び検挙人員 略取・誘拐の認知件数は,昭和54年以降全体として減少傾向にあって,56年には指数80(122件)となっているが,悪質な身代金目的誘拐事件は,依然としてその跡を絶たず,I-13表のとおり,56年には6件発生し,誘拐被害者1人が殺害されている。文書偽造・有価証券偽造の認知件数は,この5年間おおむね増加傾向にあり,昭和56年には1万件を超え,増加率(前年より18.2%増)が顕著である。賭博は,55年には前年よりやや増加したが,5年間の動向を見ると,おおむね減少傾向にあり,56年では指数65になっている。 |