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2 少年非行の特質 (1)窃盗及び横領の増加
増加しつつある昭和53年における少年非行のなかで,遊びなどの動機によると見られる万引き,乗物盗等の非行の割合が著しく増大している。 III-16表は,昭和41年以降における窃盗検挙少年の手口別構成比を見たものである。検挙総数は,46年に一時減少したが,最近3年は上昇を続け,53年には10万4,980人(46年に比べ43.8%増)に達した。手口別構成比の推移を見ると,万引き,自転車盗,オートバイ盗等単純な手口による犯行の割合が急増し,53年における上記3手口による窃盗犯の合計は,7万4,292人(窃盗全体の70.8%)に上っている。一方,乗物盗のなかでも比較的重大な自動車盗はやや減少し,また,あき巣ねらいや忍込みといった悪質な手口による犯行は急減している。 III-17表は,昭和41年以降における横領事犯検挙少年の罪名別構成比の推移を見たものである。近時急増した占有離脱物横領(大部分は,放置されている自転車の乗り逃げ事犯である。)が,53年において6,370人(横領事犯総数の99.4%)に達した。 III-16表 窃盗検挙少年の手口別構成比(昭和41年,46年,51年〜53年) III-17表 横領事犯検挙少年の罪名別構成比(昭和41年,46年,51年〜53年) 以上のように,動機も手口も単純な非行と見られる万引き,自転車盗,オートバイ盗及び占有離脱物横領による検挙人員の合計は,昭和53年において8万662人に上っており,これは,少年刑法犯検挙人員総数の44.0%,交通関係の業過を除く場合の59.0%という大きな比率を占めるものであり,量的にも内容的にも,最近における少年非行の主要な特質として指摘することができる。(2)シンナー等の濫用 III-18表 シンナー等濫用少年の学職別補導人員及び構成比(昭和45年,47年,49年〜53年) 最近の少年非行の主要なものの一つとして,シンナー等の濫用がある。III-18表は,昭和45年以降におけるシンナー等濫用少年の学職別補導人員及び構成比の推移を示したものである。45年に4万45人に上った補導人員は,47年の関係法の一部改正によっていったん急激に減少したが,50年から再び増勢に転じ,52年にはやや減少したものの,53年には45年に迫る3万9,615人に達している。53年の学職別状況を見ると,有職少年(38.9%)及び学生・生徒(37.5%)が多く,無職少年(23.6%)はやや少ない。III-19表は,昭和53年における犯罪少年の罪名別危険薬品等の濫用状況の構成比を示したものである。濫用ありの者は犯罪少年の6.7%であるが,罪名別に見ると,覚せい剤取締法違反の78.2%は当然として,強盗(21.9%),強姦(19.7%),恐喝・脅迫(12.6%)などに高い構成比が認められる。また,濫用中の者による犯罪は総数の2.0%であるが,強姦(10.6%),強盗(6.3%),恐喝・脅迫(3.5%)などに比較的多く見られ,薬物濫用が凶悪,粗暴な犯罪につながりやすい傾向を示している。 III-19表 犯罪少年の罪名別危険薬品等の濫用状況の構成比(昭和53年) (3)犯行における集団化傾向前節において,昭和53年における粗暴犯及び凶悪犯は,数的には,前年に比べて横ばいないし減少の傾向にあることを指摘したが,しかし,これらの犯行の内容を見ると,少年非行の特色の一つである集団化傾向は,依然として続いている。 III-20表 刑法犯共犯事件の検挙件数(昭和45年,47年,49年,51年〜53年) III-20表は,昭和45年以降における刑法犯共犯事件の検挙件数の推移を見たものである。53年における少年の共犯の比率は,前年よりやや減少しながらもなお35.6%と高率を示しており,成人の場合の共犯の比率が,45年に最高値を示しながら低下を続け,53年では8.9%となっているのと対照的である。また,少年共犯事件の罪名別内訳を見ると,恐喝の49.8%を最高に,強盗,傷害,暴行,強姦というような粗暴犯,凶悪犯に高い共犯比率が示されており,このような犯罪が少年の共犯事件として犯されることが多いことを示している。(4)学生・生徒への非行の浸透 ア 年少少年及び中間少年による非行 前節で指摘したとおり,昭和53年における年少少年及び中間少年の検挙人員及び人口比は,44年以降の最高値を示した。 III-21表 刑法犯検挙人員罪名別・年齢層別構成比(昭和53年) III-21表は,昭和53年における交通関係の業過を除く刑法犯について,罪名別・年齢層別検挙人員の構成比を,20歳以上25歳未満のいわゆる若年成人と対比して示したものである。年少少年及び中間少年の罪名では,窃盗が8割前後を占めているが,傷害,暴行,恐喝等の粗暴犯及び財産犯のうちの横領も比較的多い。また,年齢層と罪名との関係を見ると,年長になるにつれて窃盗が減少し,凶悪犯,粗暴犯及び性犯罪が増加している。イ 学生・生徒による非行 III-22表 少年刑法犯検挙人員学職別構成比(昭和41年,46年,51年〜53年) 最近における高校・大学等への進学率の増加は,少年非行人口に占める学生・生徒の比率の増加をもたらし,また,進学競争の激化は,その脱落者の少年非行への傾斜という社会問題を提起している。III-22表は,交通関係の業過を除く少年刑法犯検挙人員の学職別構成比を,昭和41年以降の推移において見たものである。41年において47.7%であった学生・生徒の比率は遂年増加し,53年には73.7%となり,検挙人員総数の四分の三弱に達している。一方,有職少年の比率は,この間に,35.6%から16.2%へと低下している。 III-23表は,昭和41年以降における交通関係の業過を除く少年刑法犯について,学生・生徒別検挙人員及びその在学生に対する比率の推移を見たものである。減少を続けていた在学生総数は,中学生においては48年以降,高校生においては47年以降,それぞれ増加してきているが,53年においても41年の総数には及ばない。一方,検挙人員について41年と53年を比べると,中学生では1.2倍,高校生では1.8倍に増加している。したがって,学生・生徒の在学生に対する検挙人員の比率も次第に増加し,53年においては,41年以降の最高値を示すに至った。これは,最近における学生・生徒による非行の増加が,その在学生数の増加によるものではなく,検挙人員の増加によるものであることを示すものである。 III-23表 少年刑法犯学生・生徒別検挙人員及びその在学生に対する比率(昭和41年,46年,51年〜53年) III-24表は,昭和53年における交通関係の業過を除く少年刑法犯検挙人員について,罪名別・学職別構成比を見たものである。学生・生徒,有職及び無職少年のいずれの群においても,窃盗が最も高い比率を示しているが,学生・生徒において特に高く,80.6%に達している。なお,窃盗以外を見ると,有職少年では傷害及び暴行,無職少年では恐喝及び傷害が比較的高い比率を示している。III-24表 少年刑法犯罪名別・学職別検挙人員構成比(昭和53年) III-25表少年刑法犯学校程度別・罪種別検挙人員構成比(昭和53年) III-25表は,昭和53年における交通関係の業過を除く少年刑法犯検挙人員について,中学生,高校生及び大学生の別に,罪種の比率を見たものである。いずれの学校の程度においても,財産犯の割合が著しく高いが,上位の学校ほどその比率がやや低くなっている。また年長少年における粗暴犯の増加傾向については先に指摘した(III-21表参照)ところであるが,学生・生徒における粗暴犯の割合を見ると,大学生よりも中学生及び高校生の方が比率が高くなっている。ウ 学校内暴力 III-26表 学校内暴力事件の発生状況(昭和51年〜53年) 学生・生徒による粗暴犯の一形態として,学校内暴力事件が社会の関心を集めている。III-26表は,最近3年間における学校内暴力事件の発生状況の推移を示したものである。最近3年間,発生件数及び被害者数は減少傾向を示しているが,補導人員数は増加を続けており,昭和53年には6,763人に達している。暴力事件1件当たりの被害者数及び補導人員も遂年増加しており,学校内暴力事件は,発生件数は減少しているものの,その内容において,規模が拡大し,集団暴力的様相が強まっていることをうかがわせる。III-27表 中学・高校生による教師に対する暴力事件の補導状況(昭和51年〜53年) III-27表は,最近3年間における中学生・高校生による教師に対する暴力事件の補導状況を見たものである。昭和53年における発生件数,被害教師数及び補導人員は,いずれも前年をやや下回っている。学校程度別に比較すると,中学生の場合は,すべての面において高校生の約10倍程度である。この種の行為の大部分は,社会的に未成熟な中学生によって行われていることがわかる。(5)女子少年の非行 ア 女子少年非行の特質 III-28表は,昭和53年における交通関係の業過を除く少年刑法犯検挙人員の罪名別・男女別構成比を示したものである。検挙人員総数に対する女子の割合(女子比)は19.8で,44年(女子比9.4)以降の最高値である(III-6表参照)。罪名のうち女子比の高いものは,殺人,窃盗,詐欺などであるが,殺人の内訳は,24人中14人が嬰児殺である。また,最近3年間の比較において,女子比の増加の著しい罪名は,脅迫及び放火である。 III-28表 少年刑法犯罪名別・男女別検挙人員及び女子比(昭和51年〜53年) イ 女子少年の性的非行III-29表 女子少年の性的非行の態様別補導人員(昭和52年,53年) 女子少年による性的非行の増加及びその低年齢化は,最近,大きな社会問題として注目を集めている。III-29表は,最近2年間における女子少年の性的非行の態様別補導人員を示したものである。昭和53年における補導人員の総数は7,880人で,前年に比べて206人の増加となっている。学職別では,中学生及びその他が増加し,高校生はやや減少している。警察庁保安部の調査によると,補導人員中14歳以下の者の占める比率は,52年11.2%,53年12.9%であり,53年は前年に比べて1.7%増加している。なお,同部の性的非行動機等の調査によると,性的非行を「自ら進んで」行った者が51.5%,「誘われて」行った者が44.7%である。その動機として,「興味(好奇心)から」81.3%,「遊ぶ金が欲しくて」8.9%,「特定の男が好きで」4.2%で,「生活苦から」はほとんどなく,その動機の遊興的・享楽的傾向がうかがわれる。(6)暴走族 暴走族は,常識的には,構成員の各自が,自動車やオートバイを運転して集団的かつ意図的に交通違反を犯し,又は犯す恐れのある集団又は組織としてとらえられるが,最近における暴走族は,単に集団的な交通違反にとどまらず,暴走族間における集団的対立抗争事件や一般市民にも危害を及ぼす粗暴犯事件によって,社会の注目を集めている。 III-30表は,最近3年間における暴走族の少年に対する補導状況を示したものである。最近3年間の比較において,昭和53年は,刑法犯,特別法犯,虞犯・不良行為のいずれの補導人員においても増加している。罪名別では,暴力行為等処罰法違反の増加が著しく,注目されるところである。 なお,警察庁保安部の資料によると,昭和53年末現在,警察がは握している暴走族は307グループ,2万2,442人であり,年齢が確認された1万4,899人のうち,少年は1万683人(71.7%)である。これを学職別に見ると,有職少年が50.1%で最も多く,次いで,高校生27.0%,無職少年7.3%の順になっている。 III-30表 暴走族少年に対する補導状況(昭和51年〜53年) こうした状況に対処するため,昭和53年12月から道路交通法の一部が改正され,二人以上の運転者による共同危険行為が禁止され,高速自動車国道等における自動二輪車の二人乗りが処罰されることとなったが,暴走族の今後の推移を見守る必要がある。(7)再犯少年 III-31表は,昭和40年以降における再犯少年(ここでは,本件以前に家庭裁判所の処分歴のある犯罪少年をいう。)の比率の推移を示したものである。刑法犯再犯少年の比率は42年の29.5%を最高にその後減少し,48年の22.7%以降ほぼ横ばいの傾向にあり,52年では23.0%である。一方,特別法犯再犯少年の比率は,40年以降48年まではほぼ横ばいの傾向にあったが,49年以降急増し,52年では40年以降最高の38.5%に達している。 III-31表 一般保護事件終局人員中前処分のある者の比率(昭和40年,45年,50年〜52年) III-32表 一般保護少年の非行名別・前処分の有無(昭和50年〜52年) III-32表は,最近3年間における再犯少年の非行名別構成比を見たものである。最近3年間の非行名の推移を見ると,殺人,傷害,詐欺,横領,放火,暴力行為等処罰法違反,毒物及び劇物取締法違反などにおける再犯少年の比率が増加傾向にある。また,52年における再犯少年の比率の高い非行名としては,強姦,毒物及び劇物取締法違反,強盗及び殺人(いずれも40%以上)を挙げることができる。 |