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 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第五章/二/3 

3 対象者の指導援護 ―保護観察の実施状況―

(一) 接触指導

(1) 接触の頻度

 保護観察における指導監督・補導援護は,保護観察担当者の対象者に対する適当な接触の保持と,その接触を通して行なう行状観察とを軸線として,実施されている。その実施状況と対象者の生活行動の状況とは,担当者から保護観察所に毎月定期の成績報告書をもって報告されているが,法務省保護局が,全国の保護観察所から昭和三五年七月の成績報告書を取り寄せて保護観察実施状況一斉調査をしたところによると,同月末日現在の保護観察実施中の全対象者に対する各担当者の同月中一カ月間の接触の状況は,VI-26表(A表・B表)のとおりである。

VI-26表 保護観察中の接触状況(昭和35年7月中)

 まず接触の頻度をみると,A表のように,月に一回が二二・一%,二回が二八・六%,三回が一七・二%で,その合計が対象者総数の六七・九%になっているから,保護観察中の接触は,大多数の場合には月に一回ないし三回の頻度で行なわれていることがわかる。この大多数の場合は,対象者の状況からいえば,格別憂慮すべき問題もなく比較的不安のない状況で推移している場合であると思われる。しかし,このような場合であっても,少なくとも月に二回の接触は通常必要であると考えられているので,統計の数字にも月二回のものが月一回のものよりも多くあらわれているのは当然である。さて,対象者に問題がある場合には接触の頻度は高くならざるを得ない。月に四回または五回のものが合わせて一三・二%,月に六回以上あるいは一一回以上にもおよぶものが少なくないことは,指導上の問題の多い対象者が少なくないからであろうと思われる。
 接触の方法は,むろん,担当者の往訪または対象者の来訪による面接が主である。時宜に応じては電話による交談や手紙による通信も行なわれているが,たとえ短い時間であっても,親しく顔を合わせて身なりや体の様子まで眼で見ることが肝要であるので,ほとんどすべての場合は対面接触が行なわれている。その場合,往訪と来訪とは併用されている。決して往訪をいとうというのではなく,時々は対象者にこちらを訪ねて来させることが,本人の改善更生を助けるうえに必要な方法であるからである。
 担当者の往訪(または通信)と対象者の来訪の実況は,B表のようになっている。対象者の七月中一カ月間の来訪の状況をみると,一回だけ来訪した者二四,九六七人(総数の約三三%),二回来訪一二,一六二人(約一六%),三回以上来訪六,四三一人(約八・四%)で,対象者のうち,一カ月間一度も来訪しなかった者が二四,七四一人,総数の三二%をこえている。対象者のなかには,誘っても約束をしても,訪ねて来ない者が少なくないのである。この場合,担当者はむろん手をこまねいて待っているわけではない。担当者は,この来訪しない二四,七四一人の対象者のうち,一一,二〇八人に対しては一回,七,六四三人に対しては二回,二,五九三人に対しては三回というように往訪(または発信)をして,接触,指導をしている。ただ,そのうちの一,六九九人に対しては,その対象者の来訪を待っているうちに機会を逸したのであろう,ついに往訪をしなかったので,七月中には一回の接触もしなかったことになっているA表では「接触なし」が一,七二三人となっているが,それはこの一,六九九人に,来訪しなかった対象者二四,七四一人中担当者が往訪または通信をしたかどうか不明の者二〇人と,対象者の来訪の有無が不明で担当者の往訪のなかった者四人とを,加算した結果である。)。
 担当者の往訪は,不明八,〇六六人(一〇・五%)を除いて五六,五八六人(約七四%)に対して,一回または数回行なわれている。担当者が往訪または通信をしなかった対象者の数は一一,六九〇人(約一五%)であるが,それらの対象者との間には一,七二三人(約二・三%)を除くのほかは,対象者の来訪によって一回または数回の接触が行なわれている。担当者の往訪または通信もなく,対象者の来訪もないために一回の接触も行なわれなかったのは,結局,この一,七二三人で,全対象者の約二・三%である〔B〕表では,担当者からの連絡の有無も対象者の来訪の有無もともに不明となっている者は七,九五六人(約一〇・四%)となっているが,これが不明であるのは,成績報告書に接触の具体的事実の記載が洩れているからであって,平素の保護観察の状況からみると,事実上接触がなかったものとみるわけには行かない。

(2) 面接の難易―対象者の態度と生活

 対象者との接触,ことに面接が順調に行なわれている場合には,対象者の成績は漸次良好になるのが普通である。VI-27表は,前記の昭和三五年七月の保護観察実施状況一斉調査の際に,全国の一号観察の対象者四三,二四二人のなかから保護観察所管内別に無作為抽出をした一,九七〇人について,面接の有無と対象者の成績との関係をしらべた結果であるが,面接が行なわれている場合と行なわれていない場合との間には,対象者の成績にかなりのひらきがあることを示している。面接を適当にすることはこのように重要なことであるが,実際はなかなか順調に行かない。対象者が面接を避ける場合もあり,対象者には避ける意思はないけれども対象者の身辺の事情で会えない場合もある。

VI-27表 面接回数と対象者(1号観察)の成績との関係

 面接の難易は種々の条件によって支配される。たとえば,対象者の生活が安定していないために,訪ねても来ないし,訪ねて行っても不在で会えないこともある。したがって対象者が定職についている場合は一般に接触がよく保たれるけれども,不就業または失業の状態にある場合や,就職していても暫定就職である場合には接触に困難が多い。前記の無作為抽出による一号観察対象者一,九七〇人について就業状況別に接触状況の調査をした結果は,VI-28表のとおりで,面接が行なわれた割合は学生生徒が最もよく,以下,定職者,暫定就職者,不就業者,失業者の順になっている。

VI-28表 1号観察対象者の就業状況別接触状況(昭和34年7月)

 担当者との接触に対する対象者の態度はいろいろである。保護観察を受ける意思に基づいて接触につとめ,また,担当者に親しみと信頼を抱いて進んで接触をする者もあるが,反対に,接触に対して消極的な者も多い。消極的な者にもいろいろあって,性格的に内向性がつよいために消極的になっている者もあれば,心理的拘束を嫌って接触を回避する者もあり,保護観察に対する関心がうすいために接触を怠る者もある。
 適当な接触の保たれていない対象者の全部が接触を回避しているわけではない。保護観察のことが気にかかりながらも接触を怠っている者もある。そのなかには,生活が放縦にながれて,遊びや賭け事や友達づきあいに心を奪われ時間をとられ,そのために担当者が訪ねても本人が不在で接触できない者もあり,反対に,生活維持のために悪戦苦闘しているために担当者に会う時間のない者もある。

(3) 対象者の移動性

 対象者に対する接触の保持を困難ならしめる事由の一つとして,対象者の移動性を挙げねばならない。対象者には,一定の住居がある場合でも居住状態の安定しない浮動的な生活をしている者が少なくないし,また住居,居所を転々と移動する者が多い。その原因の一半は,意志不安定や思慮の乏しさ,忍耐力の弱さ,勤労嫌悪などの惰弱な性格と結びついた対象者の浮浪性にあるようであるが,与えられている生活条件の悪さや環境の住みにくさも,他の一半をなしているようである。対象者の日常生活の場は,家族その他の同居人と折り合いがわるいとか,近隣で肩身がせまいとか,悪友につきまとわれるとか,その他いろいろの条件のために住みにくくなっていることが多く,その住み心地のわるい環境から脱却または逃避するための移動もある。また,仕事がないために,求職の旅に出て転々遍歴する結果になることもあり,有利な仕事があるからといって就職のためににわかに転住することもある。事情はこのようにいろいろであるが,とにかく保護観察対象者には移動が多い。
 対象者は,住居を転じ,または長期の旅行をするときには,あらかじめ,保護観察を行なう者の許可を求めねばならない(執行猶予者の場合は届出をしなければならない)ことになっている。転住の場合には,その転住先が他の保護観察所の管内であると,その保護観察事件は移送されて,その後はその転住先で保護観察を受けることになる。この転住による保護観察事件の移送の状況(受理)はVI-29表のとおりで,一号観察や四号観察のように保護観察期間が一年をこえる対象者のグループにおいては,年々新たに保護観察に付された人員の約一四%にあたる人員が転住によって保護観察事件の移送をされている。しかも,この移送人員は,じつは,住居を移動した対象者の数の一部にすぎない。というのは,転住をしても,その転住先が今までの保護観察所の管内である場合には事件移送の問題は起こらないし,また,保護観察所がちがう場合でも,転住先に本人が少なくとも一たん確実に転住した場合でなければ事件の移送は行なわれないからである。一例をあげると,昭和三五年中に福島保護観察所が管外転住を許可した対象者について,転住先の保護観察所に本人の居住の有無を照会した件数は六七六件であるが,転住の事実を確認して事件の移送をしたのはその三五八件(約五三%)であるから,実際に管外に移動した人員は移送人員のほぼ一・八倍になっている。管内で住居の移動をした人員をこれに加えるならば,実際に住居の移動をした者の人員は移送人員の三倍前後になるだろうと推測される。

VI-29表 保護観察事件の移送人員と率等(昭和32〜34年)

(4) 所在不明

 移動が多くても,その移動が誠実に手続をふんで確実に行なわれるならば,保護観察は転住先で続行されることになるから,移動のために接触の保持に支障をきたすことはないわけであるが,対象者のなかには,事前に願出または届出をしないで転住をしてしまう者や,願出または届出をした転住先に落ちつかない者が少なくない。このように無断で転住をした者や予定の転住先を変更した者は,保護観察担当者にも保護観察所にもその所在がわからなくなるから,もはや接触の保持ができなくなり,本人は保護観察を離脱したことになる。
 現在所在不明の人員は,VI-30表のとおり,現在対象者総人員の八%をこえる七,七四五人となっている。このなかには,前に述べたように最初から所在不明で全く保護観察を受けていない者と,いま述べた途中からの離脱者とが含まれている。対象者が所在不明になった場合には,保護観察所は,保護視察担当者のみならず検察庁その他の関係機関にも協力を求めて所在の発見につとめているけれども,所在の発見は容易でなく,所在不明者のなかには,発見されたときにはすでに再犯で施設に拘禁されているとか,所在不明のままで保護観察期間が満了するとか,不幸な結末になっている者が多い。

VI-30表 保護観察中所在不明者の人員と率等(昭和34年末現在)

(二) 職業生活の指導と援護

(1) 職業安定と再犯率

 保護観察では,物心両面から対象者の生活安定をはからねばならないが,そのために重要なことの一つは,職業に定着した生活をさせることである。この面から保護観察対象者の生活状況を見ると,仕事に打ちこんでまじめに働いている者あり,仕事がなくて職探しをしている者もあり,仕事があるのに仕事をなまけている者もあり,職場の人間関係の複雑さに負けて職場から脱落しようとしている者もあるなど,その状況は種々様々であるが,まじめに職業に定着した生活をするかどうかは,更生をとげるか再犯に転落するかの岐路となる重要な問題である。一例として,一号観察対象者(家庭裁判所で保護処分を受けた少年)で,成績良好で保護観察を続ける必要がないと認められて保護観察を解除された者と,再犯におちたために保護観察処分の取消をされた者とを比較すると,VI-31表のように良好解除群では,保護観察中に職業生活をした者が九三・六%であるが,再犯取消群では八五・五%と低率であり,また,保護観察中に離職,転職をした者は,VI-32表のように,解除群では三五・三%であるが,取消群では八一・二%という高率になっている。このように,職業生活への定着の程度は本人の更生の成否に対して重要な関係があるので,保護観察においては,対象者の適職ヘの定着,すなわち就職の促進と離職,転職の防止につとめることが必要である。

VI-31表 1号観察対象者の職業生活の有無(昭和33年終了事件)

VI-32表 1号観察対象者の転職率(昭和33年終了事件)

(2) 就職の指導援護

 保護観察を開始する時の対象者の職業生活の条件は,本人がプロベイションの対象者であるかパロールの対象者であるかによって大きな差異がある。プロベイションの対象者のなかには,犯罪時に職業があって,その職業についているままで保護観察を受けはじめる者が少なくない。たとえば,前に挙げた一号観察の解除・取消の両群についてみると,VI-31表のように,平均五三・五%の者は保護観察の当初にすでに職に就いている。だからプロベイションでは,少なくとも保護観察の当初には就職援助が必要でない者が少なくないが,パロールの対象者は,前に職業についていたにしても,矯正施設に収容中社会から隔離されたために,保護観察の当初から就職の問題があり,就職の援助指導が必要である。このような条件の差異があるが,,プロベイションでもパロールでも,保護観察の対象者には,職業に対する定着性が乏しくて離職転職が多いので,結局は,ほとんどすべての対象者に対して一度あるいは数度の就職指導,就職援助が行なわれているのが,実情である。
 保護観察における対象者の就職の指導援助は,まず本人の希望を聞き,事情を勘案して,助言指導や紹介をして本人に就職の努力をさせるのが通例であるが,さらに進んで,具体的な職場を斡旋して就職をさせる場合も少なくない。対象者のなかには,最初から助言指導や紹介よりも職場の斡旋を期待している者が多いが,依頼心がつよく自助の努力が足りなくなっては,就職もうまく行かないし就職後の定着も期待できないので,職場斡旋は,本人の状況からみて必要また適当と認める場合に行なうことになっている。しかし,対象者の生活の実情からその斡旋の必要な場合が多く,保護観察において就職の斡旋が多く行なわれていることは,VI-33表にあらわれているとおりである。同一人に対して数回の斡旋が行なわれる場合も少なくない。

VI-33表 就職斡旋(担当者による斡旋)の状況(昭和33年終了事件)

 このことは,一面で,保護観察における就職援助の実情をあらわすとともに,他面で,対象者の就職の困難さ,したがってまた就職援助の困難さを示すものである。対象者の就職の困難さは種々の事情からきていることで,一律にはいえないが,比較的に一般的なものとして,対象者に対する社会的評価の低さをまず挙げなければならない。対象者には,一つの職種について修練を積んだ有能な者も決して少なくないのであるが,そうでない未熟練者が多いために,社会からは十把ひとからげに,全部が一人前ではないかのように見られる傾向があり,そのために,提供される賃金その他の労働条件が低くて話が折り合わない場合がある。そしてこのことは,多くの場合,対象者の貧しさとからまりあって就職を困難にしている。貧しいために,低い賃金では生活できないのである。貧しさのために,せっかく仕事の口はあっても,履いてゆく地下足袋がないとか,着てゆく作業衣がないとか,出勤の電車賃がないとかで,就職できないという状態にある者も多い。ただ,足りないものがこのようなものである場合には,保護観察担当者の配慮で窮状を打開している場合が多いが,寝起きをする住居がないというように大きな困難がある場合には,あたら適職をみすみす取りにがさなければならない場合もある。
 境遇ではなくて,本人の能力の乏しさや人格上の弱点が就職困難の大きな原因になることが多いのは,いうまでもない。専門的な技術がないとか,経験がないとか,性格的に投げやりであるとか,仕事に飽きやすく持久力が乏しいとか,その他さまざまの個人的な弱点がある場合に就職が困難になるのは,やむを得ないことであるが,本人の更生を考える立場からいえば,そのような弱点があればあるほど,早く仕事に就かせて,仕事を通じて弱点を直して,一人前の人間にならせる必要が切実である。
 保護観察対象者に犯罪または非行の前歴があること自体も,就職の隘路を形成している。他に理由がなくても,犯罪の前歴があり,刑罰その他の処分を受けた者に対しては門を閉ざす職場が多い。もっとも,最近は更生保護に対する社会の理解がだんだん広く深くなって来ているので,前歴者であることを承知のうえで,更生をさせてやりたい気持ちで雇ってくれる職場もある。昭和三五年八月,内閣総理大臣官房審議室で法務省保護局の協力のもとに,全国の六五都市の町内会(自治会)の会長(無作為抽出二,五〇〇人)を調査対象として「更生保護事業に関する世論調査」を実施した結果(回答数二,二三五人),世間には,犯罪をおかした青少年の更生可能性を認める意見が多く(六五%),対策としては,懲罰的な刑を加えよと主張するものは少なくて(一三%),更生をするように指導せよというものがきわめて多い(七五%)ことがわかったが,犯罪前歴者を雇うかどうかの問題については,前歴者を雇った経験のない人々の間では,雇ってもよいと述べたものは二三%であり,前歴者を雇った経験のある人の間では,今後も頼まれれば雇うというもの三七・五%,場合によるというもの三七・五%,なるべく使いたくないというもの二五%であった。これによってみても,保護観察対象者のためにも,叩けば開かれる門があるにはある。しかし,その門は,いまのところまだはなはだ狭き門である。しかも,その門は全く中小企業だけに限られ,それも多くは家内工業や中小商店の場合であって,大企業の門はすべて堅く閉ざされているのが実情である。
 このような事情で対象者の就職援助は容易でないから,保護観察所では,個々具体的な対象者の求職をできるだけ円滑に取り運ぶことができるようにするために,平素から各保護司ならびに保護司の組織である保護司会と連絡提携して,対象者の就職受入先の開拓につとめ,民間篤志の雇用主の発見とその組織化を進めている。また他面では,公共職業安定所と連絡を緊密にして,更生保護と職業安定行政の協力の体制を打ち立てているので,多くの公共職業安定所では,犯罪前歴者の求職については,保護観察所または保護司からの連絡があった場合は特別の窓口で受け付けて指導をすることになっている。しかしこの準備をもってしても,職を求める対象者のために,真実適当と認める就職を順調に成立させることができるわけではない。

(3) 対象者の生活と就業の状態

 反面,職を求める対象者たちは,何はともあれ一日も早く就職しなければならないという窮迫の状態にある場合が多い。昭和三五年三月から五月までの間に,東京都の公共職業安定所の指導係の窓口に求職申込みをした犯罪前歴者二一六人(保護観察処分の少年九・八%,少年院仮退院者七・〇%,仮出獄者五三・七%,執行猶予で保護観察に付された者七・九%,満期釈放者二一・六%,したがって七八・四%は保護観察対象者であり,年齢は二〇才未満一四・八%,二〇才代三八・〇%,三〇才代三〇・一%,四〇才代一三・九%,五〇才以上三・二%)に関する東京都労働局職業安定部の調査によると,その大部分(六七・一%)は釈放後五日以内に求職に来たものであるが,(イ)いままでの生活維持をどうしていたかについては,自活していたもの三〇・一%,親類縁者にたよっていたもの二七・八%,更生保護機関にたよっていたもの三七・五%,その他四・六%であり,(ロ)就職が決定するまでの生活維持をどうするかについては,当分の間は自活できるもの八・八%,親類縁者にたよるもの二九・二%,更生保護機関にたよるもの八・八%,日雇で働くより外はないもの五〇・九%,その他一・四%,不明〇・九%であり,(ハ)就職がなかなか決まらない場合はどうするかについては,郷里に帰るというもの〇・九%,更生保護会で働くつもりのもの四・七%,自分で就職先をみつけるというもの二三・一%,保護司に相談するというもの六七・六%,友人をたよるつもり一・四%,その他二・三%であり,また,(ニ)現在住居に困っているもの三二・四%,生活費に困っているもの四七・七%である。
 このような状況であるから,保護観察対象者には不安と焦燥に駆りたてられている者が多く,そのために担当者や関係協力機関の援助指導が成功しにくいという結果が生まれ,一方では,本人の事情の急迫のために,安定性の乏しい職業や,職場環境のよくない職場,あるいは低賃金の職種職場などへの就職という現象がおこっている。昭和三五年七月末日現在の保護観察対象者人員(所在不明中の者を除く)七六,三四二人の職業従事の状況は,VI-34表のとおりで,七六・五%は有業の状態にあるが,その職業とするもののなかには,日雇(人夫雑役),露天商,行商,呼売,屑屋,バタヤなど明らかに不安定な職業が少なくなく,また,制造修理業のうちには不安定な手間賃仕事が多いなど,有業とはいってもそれによって生活の安定を得ているとはいえないものが多い。

VI-34表 保護観察対象者の職業別人員(昭和35年7月末現在)

(4) 離職・転職の防止

 就職援助の直接の目的は本人を職業生活に安定させるためであるが,保護観察対象者には,就職をしてもその職場に定着しないで,離職・転職をする者が多い。前記の東京都下の公共職業安定所に求職に来た犯罪前歴者について,(イ)いままでに職場(会社)を変えたことがあるかどうかを調べた結果によると,不明のもの一〇・二%を除いて全員がいままでに離職・転職をしたことのある者で,しかもその転職の回数は,二回三五・六%,三回二八・四%,四回一二・九%,五回以上一八・六%,回数不明四・五%という状況である。(ロ)離職・退職の理由は,明らかでないもの(四六・二%)は別として,「賃金が安いから」「最初に約束した賃金とちがうから」「昇給しないから」「給料が決まっていないから」など,賃金に関する不満あるいは不安によるものが最も多く,その他,「会社に将来性がないから」「会社の人員整理または解散のため」「職場が遠隔地に移動したから」など,職場自体の安定性に関する理由によるものもあり,また,「職場の環境が悪いから」「上司との間がうまくないから」「同僚との交際がうまく行かないから」など,職場環境または職場の人間関係によるものもあり,また,「ほかの仕事をしてみたかったから」「兄の所で働くため」「友人に他の職場を誘惑されたから」など,本人の浮動的な気持ちに主因があるように思われる場合もあり,また,犯罪をしたために退職したもの(四・一%),盲腸手術のためまたは自動車事故のために離職したものなど,種々様々である。次に,(ハ)職場または仕事に対する不満の有無については,不満がなかったもの四四・〇%,不満があった者五三・七%,不明二・三%であって,不満の内容は,賃金が安い(二五・〇%),昇給しない(五・二%),労働過重(一六・四%),職場の環境が悪い(一二・九%),事業主に理解がない(六・九%),上司が自分の意見を聞いてくれない(四・三%),仕事が自分に不適当(一一・二%)その他(一七・二%)であって,そこには,保護観察対象者の職場の状況と,その職場における対象者たちの不安定な生活と心理の一端があらわれている。
 離職・転職の原因理由はこのように種々であるし,また複雑でもあるが,強いて大別すれば,賃金が安くて生活の維持ができないとか,職場内外の事情が適当でないとか,そのほか要するに本人の責任と関係のない客観的事態が主な原因である場合と,本人の怠惰・不始末・不心得あるいは意志薄弱などが主な原因である場合とに,大別することができる。前者を「やむを得ない事情による」転職とし,後者を「本人の勝手から」または「馘首された」ための離職・転職として,一号観察対象者(少年の保護観察)の転職の事由を前記の良好解除群および再犯取消群について調査すると,その結果はVI-35表のとおりで,やむを得ない事情による転職は三〇・一%,本人の勝手からが五七・四%,馘首されたもの一一・六%である。

VI-35表 1号観察対象者の転職事由別人員と率(昭和33年終了事件)

 したがって,職業生活の安定度を高めるためには,対象者本人に対する指導や援助だけでは足りない。保護観察における職業生活の指導援助は,つねに,本人に対する助言,説諭その他の方法による指導援護と,本人の職業生活の条件となる環境的諸部面の改善調整と,この両面にわたって行なわれなければならない。

(5) 定着率の向上

 保護観察における職業生活の指導援助の効果は,これを全面的に計数で表現することは困難であるが,最も重要と思われる職業生活に対する定着の程度は,対象者の稼働日数によって測定することができる。そこで法務省保護局では,昭和三五年七月の保護観察成績報告書による一斉調査の際に,全国の一号観察対象者のなかから保護観察所管内別に無作為抽出法により抽出した総数一,九七〇人を特別調査の対象とし,これを保護観察実施済みの期間により区分して,調査の月(昭和三五年七月)における稼働日数の調査をしたが,その結果の一部はVI-36表のとおりである(本表該当者総数は七六三人である)。すなわち,保護観察を開始して三カ月以内の間は,稼働日数がゼロの者と一五日以内の者とが総数の二一・二%を占め,稼働日数二五日以内の者が二五・九%,二六日以上の者が三一・〇%であって,全員の職業定着率は低いが,保護観察日数の積み重ねにしたがって,稼働率すなわち職業定着率がわずかずつながら高くなり,保護観察の実施期間が十カ月から一年までの者の群では,稼働日数二六日以上が三九・〇%となり,実施期間三年以上の者では四六・二%に向上しており,この定着率の向上のかげに,保護観察の悪戦苦闘の姿とその成果とをみることができる。

VI-36表 1号観察対象者の観察実施期間別稼動状況(昭和35年7月中)

(三) 環境の調整

(1) 環境の影響(環境の作用)

 対象者の生活環境の良否が本人の更生の成否に重大な関係があることは,公知の事実であるが,最近法務省保護局で行なわれた保護観察対象者の環境問題調査においては,そのことが計数的に明らかにされた。
 環境の影響の計数的な調査では,調査の対象が環境以外の点では負因のない等質の者であることが望ましいので,右の環境問題の調査では,調査の対象は,(イ)少年であって,窃盗事件をおこして保護処分で保護観察に付されたもので,(ロ)知能が普通級以上で,(ハ)性格にいちじるしい変調がなく,(ニ)新制中学卒業以上の学歴がある者に限定し,なお,環境についても形態上の相似が望ましいので,右のうち(ホ)両親のある者だけに限定された。これに該当する者は,昭和三三年中の(A)良好解除群―保護観察の成績が良好であるために,特に保護観察の解除をされた者―二,九一二人の中では三五七人であり,(B)再犯取消群―保護処分で保護観察に付されているうち,再犯をして家庭裁判所でその保護処分の取消をされた者―二,四五九人の中では三九二人であり,両群合計七四九人であったので,調査はこの七四九人を対象として行なわれた。
 この調査によると,良好解除群と再犯取消群との間には,環境の良否について顕著な差異がみられる。VI-37表はその実態の一班である。家庭の経済の状況不良のものは,保護観察の開始時において,解除群三五七人の中では三五・六%,取消群三九二人の中では五一・五%であって,比較すると,取消群は解除群より一・四五倍だけ劣悪な状況にあり,保護観察終了時には三・一八倍という大幅の差で劣位にある。家庭の雰囲気においても,保護者の本人に対する態度においても,取消群は解除群に対し,開始時・終了時ともに,はるかに状況不良である。

VI-37表 1号観察対象者の環境状況(昭和33年終了事件)

 これらの事実は,環境の良否が対象者を更生と転落とに分ける作用をすること,良い環境にめぐまれた場合は更生が比較的できやすく,環境がよくない場合は更生が困難で再犯に陥りやすいこと,したがって,対象者の更生を助けるためには環境の改善調整がきわめて重要であることをはっきり示している。

(2) 家庭環境の調整

 対象者の家庭環境には,本人の更生を妨げて本人を転落に追いこむような素因がいくつも重なりあっている場合が多い。前記の法務省保護局の環境問題調査でとりあげられた七四九人の一号観察対象者の家庭は,いわゆる欠損家庭ではなくて父も母もある家庭であるが,この七四九の家庭でさえ,そのほとんど全部が,その家庭のどこかに本人の転落の原因となるような要素のある家庭である。すなわち,その各家庭について,生計が困難ではないか,父または母の性状に問題はないか,父母は互いに融和しているか,家庭の雰囲気はなごやかであるか,余暇をたのしむ健全な娯楽が家庭にあるか,本人に対する保護者の態度に問題はないか,兄弟姉妹など近親の者との間は円滑に行っているか,本人が家庭内で過重負担そのほか困難な立場に立っていることはないか―この九つの項目について保護観察開始当初の状況をみると,VI-38表にあらわれているように,担当者の判断によると家庭総数七四九のうち,家計不如意で本人に対する影響の憂えられるものが四三・九%,父の性状に難点のあるものが七四・一%,母の性状に難点のあるものが同じく七四・一%,父母間の融和の欠けているものが五八・六%,家庭の雰囲気が冷たくまたはチグハグなものが五一・九%,兄弟姉妹など近親者の人間関係に問題があるものが三八・九%,家庭の娯楽に問題のあるものが五五・四%,保護者の態度に問題のあるものが四七・三%,家庭内での本人の立場に問題のあるものが六五・七%であり,平均的にいうと,どの家庭にも平均五つの負因が重なっていると認められていることになる。また各家庭を個別にみると,この九項目のどの点からも問題のない家庭は,良好解除群(約三五七)において五〇家庭(約一四・〇%),再犯取消群(三九二)において七家庭(約一・八%),両群通じてわずかに五七家庭(約七・六%)という状況である。なお,両群の不良率はVI-39表に示すとおりである。

VI-38表 1号観察対象者の家庭環境の状況(昭和33年終了事件)

VI-39表 1号観察対象者の家庭環境―解除群と取消群の比較(昭和33年終了事件)

(3) 交友関係

 交友は家庭とならんで対象者の浮沈を左右する大きな問題の一つである。前記の環境問題調査によると,VI-40表のように,保護観察開始当初においては対象者の八八・三%は交友不良の状況にある。

VI-40表 1号観察対象者の交友関係(昭和33年終了事件)

 これを改善するためには,担当者の対象者本人に対する直接的な助言指導のほか,本人を不良の交友関係から離れさせるような保護者の配慮を呼びおこし,あるいは交際相手に働きかけて交際を差し控えさせるなど種々の方法が講ぜられているが,問題の性質を考慮し,特別な手を打たないで,全般的な生活指導の面から本人の自覚をはかる場合も多い。具体的な本人の性情や交友関係の状況の如何によっては,かえって反抗的になって不良交友がはげしくなる場合もあり,有効な働きかけの端緒さえも見出せない場合もあり,交友関係の調整は,保護観察上最も困難な問題に属する。しかし適切な指導監督,補導援護の結果,不良交友との絶縁,良友との交際など顕著な好転を示す事例が少なくないことは,同表にあらわれているとおりで,ことに解除群においては,改善された者の率が七〇・四%という成績を収めている。保護観察終了時の交友の状況は,不良率が総人員において六二・五%であり,保護観察開始時にくらべ約二六%の減少を示している。

(4) 環境調整と指導監督

 対象者の環境の状態の改善がいくらかでもできると,それだけ本人の生活が安定するだけでなく,その結果として多少とも本人の行状もよくなる。すなわち,環境の調整は結果的に本人の改善をもたらすのである。しかし,環境調整はこのように結果として本人の改善を生ぜしめるだけでなく,環境調整の過程そのものが同時に本人に対する指導監督の過程である場合が多い。それは,たとえば家庭における兄弟姉妹との関係にも家庭の娯楽の問題にも交友関係の調整にもみられることであって,本人をめぐる環境の調整は多くの場合本人の人間関係の調整であるから,それは環境調整であると同時,本人の態度行動に対する規制でもある。保護観察における環境の調整は,決して本人の行状の問題から切りはなされた環境だけの調整の問題ではなくて,積極的にその調整を通じて本人の指導監督を行なう心組みで行なわれている。

(5) 環境調整の条件

 環境調整が成功するかどうかは,具体的な当面の問題の深さや事情,また調整にあたる保護観察担当者の態度と方法の如何によるだけでなく,そのほかの種々の条件に左右される。特に重要な条件は,対象者ならびにその保護者に,担当者に対する信頼と協力の心があることである。したがって,(イ) 接触の頻度 担当者と対象者との接触が円滑に行なわれないような状況のもとでは,環境の改善は困難である。対象者だけでなく保護者との接触の頻度も環境調整の成否に影響するところが多い。VI-41表は,保護者の本人に対する態度という一つの環境的要素の改善の成否と接触の頻度との関係を示すもので,ここには,担当者の対象者本人および保護者に対する接触が頻繁であればあるほど,保護者の態度の改善率は高くなる傾向があらわれている。
(ロ) 保護観察の期間 環境の改善には相当長い期間が必要な場合が多い。VI-42表でわかるように,保護者の本人に対する態度の問題にしても,本人の交友関係の問題にしても,保護観察の開始から一年未満の短い期間中に保護観察が終了したグループにおいては,改善率が比較的に低く,保護観察実施期間二年以上のグループにおいては改善率が高い。環境の調整によってその改善を実現するには,相当の日子が必要であり,相当長い期間にわたる調整の努力が必要であるといわねばならない。

VI-41表 接触の頻度と環境調整の効果(昭和33年終了事件)

VI-42表 保護観察期間と環境状況との関係(昭和33年終了事件)

(四) 金品給貸与

 補導援護の手段として,金品の給貸与が行なわれる場合も少なくない。法務省保護局が昭和三五年七月末に行なった一斉調査によると,同月中一カ月間の金品給貸与(「応急の救護」として国の予算によって行なわれたものを除く)の状況は,VI-43表のとおりである。給貸与を受けた対象人員は三,四五八人で,その時の保護観察対象人員六七,八六五人(所在不明を除く)の約五・一%にあたる。

VI-43表 補導援護上の金品支給状況(昭和35年7月中)

 対象者のなかには生活条件にめぐまれない者が多く,これに更生をとげさせるためには,助言指導・斡旋仲介・環境調整などの措置だけでは十分でないので,対象者の窮状をすくい,または対象者の心にはげみをつけるために,状況に応じて必要な物質的援助が行なわれているのである。その個々の場合の目的と態様は,この表にあらわれているところによって知ることができる。給与か貸与かの区別をみると,大多数の場合(約九一%)は給与であるが,貸与の形をとった場合もある。このことは,この物質的な援助が,給与の場合も貸与の場合も,対象者の自助の精神を尊重していることをあらわしている。
 同表に述べている金品給貸与は,通常の保護観察のなかで行なわれている補導上の措置であって,保護観察中の中間緊急措置として,国の予算によって行なわれる応急の救護とは別である。国の予算による応急の救護は,後述のように別に行なわれているが,その資金の使用目的,金額,支給手続などに法令上の制限があって,対象者の困窮の程度や事情,あるいは生活状態によっては実情に即応し難い場合もあるので,保護観察の実際では,対象者の状況に応じて,場合によっては応急の救護によらないで,また場合によっては応急の救護にあわせて,通常の補導援護の一つの手段として金品の給貸与が行なわれているわけである。したがって,これには国の予算措置がともなっていないから,この物質的援護の活動は,保護観察担当者である保護司の個人的な負担によるか,または,保護司の自主的な組織であるところの保護司会・保護司連盟・保護観察所の管内ごとまたは全国的な規模で結成されている更生保護活動助成団体などの負担によるかで,行なわれている。これらの個人あるいは団体がこの金品給貸与のために支出している金額は,前掲の一斉調査の集計表によると一カ月二二三万円をこえているから,一年間には約三千万円になっているものと推測される。

(五) 主任官による指導

 保護観察の適切有効な実施は,保護観察所の責任であるが,現在の機構上,保護観察の実質内容であるところの指導監督・補導援護は,そのほんど全部が保護司の担当となっている。昭和三五年一一月末日現在の保護観察事件の件数(仮出獄者で保護観察停止中のものと刑執行猶予者で仮解除中のものとを除く)は,法務省保護局の調査によると九五,〇五七件で,この件数の中には競合事件(同一人について二個以上の保護観察事件があるもの)一,九七九件が含まれているので,対象者の実人員は九三,〇七八人となっているが,このうち,保護観察所の保護観察官が直接担当している対象者は一,五三八人(一・七%弱),保護司が担当者となっている対象者が九一,五四〇人(約九八・三%)である。
 保護司が担当者となっている対象者の動静・行状の推移は,これに対する保護司の指導監督・補導援護の実施状況とともに,毎月定期に保護観察成績報告書をもって保護観察所の当該事件主任官(保護観察官)に報告され,応急処理の問題がおこったときには,その都度やはり担当保護司から主任官に臨時の報告があり,主任官はこれらの定期および臨時の報告によって個々の対象者の動向を把握し,機宜適切な措置を講ずるのが,現在の保護観察の仕組みである。このようにして保護観察実施の最終責任は,当然のことながら保護観察所に帰している。法務省保護局では,昭和三五年一一月一五日から翌月一四日まで一カ月間の保護観察におけるこの主任官の指導活動の実情を調査したが,結果をみると,この一カ月間の現況の大要はVI-44表のとおりである。保護観察に付されてすでに主任官の初度面接を受けて保護司の担当になっている対象者(すなわち保護観察の継続中の対象者)に対して,主任官が直接にまたは担当保護司を介して間接に,何らか指導上の措置をとったものは,一八,三九九人(一九・八%)で,うち本人面接三,八七三人(四・二%),本人の保護者に面接した対象者の数は二,二九五人(二・五%)にすぎない。これは保護観察官の手不足その他やむを得ない事情によることではあるが,このような現状では,保護観察の万全を期することは不可能にちかいといわなければなるまい。この面接の大部分も対象者の住居地でなくて保護観察所の庁内で行なわれているのであるが(対象者の場合六七・六%,保護者の場合六二・九%),これも,現状ではやむを得ないとはいいながら,やはりケースワークの技術上の観点からみるとあらためる必要があろう。担当保護司に対する助言指導は,延数二万二百八人で,その方法はVI-45表のとおりである。

VI-44表 主任官の接触・助言指導の状況(昭和35年11月15日〜12月14日)

VI-45表 担当保護司に対する主任官の助言指導の状況(昭和35年11月15日〜12月14日)