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 昭和36年版 犯罪白書 第一編/第四章/二 

二 犯罪対策

 犯罪対策として,まず犯罪の増減と密接な関係のあるものの一つとして,犯罪の検挙力の強弱を挙げることができる。もし犯罪が犯された後,必ず迅速に検挙されるとすれば,犯罪が減少することは当然であろう。犯罪の検挙率の良否が犯罪増減と密接な関係があることは,一般に異論がないところといえよう。
 敗戦直後,わが国の警察力は極度に弱体化して犯罪の検挙率は低下したが,これが当時の犯罪増加の一つの原因となったことは否定できない。その後,警察力の回復により犯罪の検挙力は向上した。最近の犯罪の検挙率を刑法犯と窃盗および強盗についてみると,付録-6表のとおりである。これによると,全刑法犯の検挙率は,昭和二八年に七一%まで上昇したのに対して,昭和二九年以降は低下の傾向が認められ,昭和三四年には六二%となっている。この傾向は窃盗についても顕著である。もっとも犯罪の発生件数には暗数があるので(これらの点については昭和三五年度版犯罪白書三頁以下参照),この統計にはあまり重きを置くことはできないが,しかし,大体の傾向をうかがうことかできるであろう。戦前の検挙率が良好であったのは,警察が犯罪捜査のために強力な権限を有していたためであって,戦後は憲法その他の関係から警察官の捜査権限に厳格な制限がもうけられたため,戦前のような検挙率に達することは困難というべきであろう。
 検挙率は,このほか警察官の数,警察の物的装備等とも関係がある。昭和三五年九月に警察官一人あたりの負担人口を調査した結果によると,日本七九八に対し,西ドイツ四六五,イギリス五〇八,フランス三二九,アメリカ五六五であって,わが国の警察官の数は,人口と比較してこれらの国より少ないことがわかる。昭和三五年に入ってからの検挙率は上昇の傾向にあるが,検挙率については,なお検討を要する点が少なくない。
 次に,検挙後,起訴されるかどうか,さらには起訴後裁判手続が迅速に行なわれるかどうか,という点も犯罪現象に対して影響を与えるであろう。また,犯罪者に対して適正な刑罰が言い渡されるかどうか,刑罰を科せられた者が刑務所内で適正な矯正手段を受けているかどうか,さらには保護観察が適切に行なわれているかどうかも,再犯の増減に密接な関係があるといえよう。これらの点については,十分その実情を調査し,その結果をまって適切な対策を講ずる必要がある。