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 昭和53年版 犯罪白書 第3編/第1章/第4節/6 

6 執行猶予取消率の推移

 再犯と密接な関連を有する執行猶予取消率の推移について,この38万人の調査対象者の犯歴を資料として分析したのが,III-17表である。ここでいう執行猶予取消率は,ある年次において執行猶予の確定裁判を受けた者のうち,その後再犯等により執行猶予を取り消された者の占める比率をいい,本来の意味での執行猶予取消率である。昭和23年以降46年までの24年間の年次別に執行猶予取消率を見ると,23年から26年までの執行猶予確定者については約11%ないし約14%であったが,27年から上昇を見せ,29年から33年までの執行猶予確定者に係る執行猶予取消率は,20%を超える高い比率を示している。しかし,その後は次第に低下し,42年以降については約10%ないし約11%の比率でほぼ横ばい状態となっている。このように,30年前後における執行猶予確定者の執行猶予取消率が高いのは,前出のIII-14表の再犯率の推移を見てもわかるように,暴力団犯罪等の増加に象徴される当時の犯罪情勢を反映して一般に犯罪者の再犯が多くなり,再犯率が上昇したことによるものと考えられる。しかし,既に第2編第1章第2節で述べたように,第一審で有期の懲役又は禁錮に処せられた者の執行猶予率は戦後おおむね上昇傾向にあり,執行猶予制度は広範に運用されているにもかかわらず,この調査によると,執行猶予取消率は,前述のとおり,34年以降低下ないし横ばいの傾向を示しているのであって,執行猶予取消率の推移を一つのバロメーターとして見る限り,最近に至るまでの執行猶予の運用は,長期的・全体的に見ればほぼ好結果を生みつつあるものと言ってよいであろう。ただ,この調査によって,47年以降の執行猶予確定者について,52年6月1日に至るまでの間における執行猶予取消率を見てみると,これらの対象者のうちには前記調査期間中に執行猶予期間が未だ経過していないものもあるのにかかわらず,既に,47年の対象者については11.3%,48年については11.2%,49年については11.1%と,いずれも46年の11.1%を上回るか又はこれと並ぶ高い取消率を示している。また,46年の場合も前年より1.0%取消率が上昇しており,結局,執行猶予取消率は,46年以降上昇の傾向にあるように見受けられるのであって,その今後の動向を十分注視する必要があるであろう。

III-17表 執行猶予取消率の推移   (昭和23年〜46年)

 なお,調査対象者中昭和46年の執行猶予確定者についてその取消率を見ると,全体では11.1%であるが,罪種別では,財産犯が14.8%で最も高く,薬物関係犯罪が14.7%,粗暴犯が10.1%,性犯罪が6.5%,風俗犯が2.6%,凶悪犯が1.7%となっており,犯罪の種類によりかなりの差異のあることがわかる。