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 昭和51年版 犯罪白書 第2編/第4章/第1節/4 

4 安定期―昭和40年〜49年

 昭和40年代の特徴の一つは,保護観察人員の逓減傾向である。41年末に10万7,814人に達していた保護観察対象者は,逐年減少し,49年末には6万8,652人になった。しかし,この傾向は,42年以降のことで,それまでは対象者の増加,とりわけ,青少年対象者の増加が目立ち,40年4月ころからこれに対処するため新しい施策が執られた。その一つが,三大都市における青少年保護観察対象者に対する保護観察の強化である。この施策は,東京都の特別区,大阪市及び名古屋市に居住する青少年保護観察対象者に対して,保護観察の開始後おおむね2箇月間,保護観察官による直接処遇を実施し,その期間の経過後,通常の保護観察に移行させるものである。
 「初期観察」と呼ばれるこの施策と並んで,交通事件対象者の激増を背景として,昭和40年4月には,交通事件対象少年を専門に担当する保護観察官が置かれ,また,個別指導に加えて,集団指導が導入された。
 保護観察総人員は,昭和42年以降減少したが,保護観察中の者によって犯される重大事件が突発し,とりわけ,40年末,神戸,滋賀.福岡等で連続発生した同種殺人のいわゆる「西日本連続殺人事件」の犯人が,8回の受刑歴を有する仮出獄者であったことや,43年10月ころから各地で犯されたいわゆる「連続射殺事件」の犯人が保護観察中の少年であったこと等は,社会に大きな衝撃を与えた。
 昭和36年ころから一部の保護観察所で試行された「重点観察」,「初期観察」,「保護観察官の一日駐在」(後の「定期駐在」)等の一連の施策は,保護観察官による密度の高い保護観察を行うことによってその実効を挙げようとしたものであった。
 一方,仮釈放については,審理の充実と在監者・在院者の社会復帰を円滑にするために昭和41年10月1日から仮釈放準備調査が全国的に実施された。この施策は,先に述べた中野刑務所における保護観察官の駐在の試みの成果を取り入れたもので,保護観察官による面接調査を義務付けている。仮釈放準備調査の推移は,II-57表のとおりで,次第に拡充され,施策の中に定着した。

II-57表 仮釈放準備調査の推移(昭和41年〜50年)

 また,保護観察の対象者の分類処遇が,昭和42年9月1日から「処遇分類制」として開始された。これは,保護観察官の直接処遇の強化と主導的な活動を目指したもので,道交違反少年を除く青少年保護観察対象者を対象として,実施地域を保護観察所の所在地域又は一部地域とし20項目からなる「分類基準表」により対象者を処遇の難易度に応じ,A・B・Cの三段階に区分し,A事件については保護観察官の処遇を特に積極的に行わせる趣旨であった。
 この「処遇分類制」は,その後,修正が加えられ,現行の「分類処遇制」に発展した。昭和46年10月から実施されたこの「分類処遇制」は,実施地域を保護観察所の管轄地域全域に広げ,実施対象も交通事件対象者等の一部を除く少年・成人の全保護観察対象者とし,処遇が困難であると予想される者をA事件として,保護観察官による処遇を特に積極的に行う形態とし,処遇が比較的困難でないと予想される者をB事件として,保護司に対する連絡,協議等を必要に応じ適宜行わせるものである。
 保護司の活用についても,地方裁判所及び簡易裁判所所在地の一部に配置されていた駐在保護司が,昭和42年4月1日に大幅に増員され,246箇所,265人となったことに伴い,保護観察言渡し直後における処遇への円滑な移行措置が強化された。
 総じて,昭和40年代は,仮釈放人員,保護観察人員の逓減傾向を背景にして,施策に綿密さを加えることができた安定期と言えよう。しかし,40年代後半に入っても,依然として重大事件が発生し,とりわけ,46年春群馬県下で女性を相次いで殺害した凶悪犯人が仮出獄中の者であることが判明し,仮釈放及び保護観察の難しさについて改めて深い関心を集めた。
 これらの重大事件の未然防止をも含め,保護観察の実施について,分類処遇,仮釈放準備調査,交通事件対象者の集団処遇等これまで見てきた各種の施策の推進に一層の努力が傾けられた。
 特に,次の青少年保護観察対象者の処遇は,更生保護における重点施策の一つであり,昭和40年代後半の新しい動向として,その成果が期待される。
[1] 青少年保護観察対象者に対する直接処遇等
 この施策は,昭和49年4月1日から東京及び大阪保護観察所において実施されたもので,保護観察官が直接,人格考査や環境の調整を行い,これに基づき適切な指導監督・補導援護を実施して,保護観察の実効を高めようとするものである。そのために,東京及び大阪保護観察所に,それぞれ,5人と4人計9人の保護観察官が配置され,直接処遇班が置かれている。これらの保護観察官は,原則として直接処遇を1年間実施するほか,各種の処遇技法の研究,開発に当たっている。
[2] 少年院における短期処遇を受けた少年に対する更生保護
 後に第3編第1章第3節で述べる,少年院における短期処遇に対応して,更生保護機関でも,環境の調整及び仮退院の審理を迅速に行い,早期に仮退院を許可し,効率的な保護観察の実施に努めている。
 我が国の更生保護は,以上概観してきたような保護観察における処遇の多様化と処遇技法の開発とともに,刑法や少年法の改正作業に呼応して,目下,法務省保護局において進められている更生保護基本法の構想策定といった新しい局面を迎えている。