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 昭和51年版 犯罪白書 第1編/第4章/第2節/1 

第2節 賭博犯罪

1 賭博事犯の推移と現況

 昭和元年(大正15年)から50年までの賭博事犯の発生件数の推移を示したのが,I-18図であり,そのうち,単純賭博の発生件数の推移を示したのが,I-78表である。賭博の発生件数は,終戦を境として急激な減少傾向を示している。賭博は,その性質上暗数が多いと考えられ,発生件数の減少は必ずしもその実態を表すものではない。この種犯罪の発生(認知)の状況は,法執行機関の検挙取締りによってかなりの影響を受けるであろうことも否定できない。特に,戦時期における発生件数の増加は,検挙取締りが強化されたことによるものと思われる。戦後における25年ころ以降の発生件数の激減がいかなる原因に基づくかについては,なお検討を要するところであるが,娯楽が多様化したこと,各種公営競技が国民の射倖心をそそる反面,ある程度はこれを吸収する働きもしていること,常習的ないし職業的犯行の検挙に重点が置かれるようになっていること等の事情をも考え併せる必要があろう。

I-18図 賭博発生件数の推移(昭和元年〜50年)

I-78表 単純賭博発生件数の推移(昭和元年〜20年,25年,30年,35年,40年,45年,50年)

 賭博は,偶然の勝敗に関するものであれば,手段,方法,用具のいかんを問わないものであるが,時代の変遷によって,その形態にかなりの変化が認められる。戦前における賭博の主要なものは,いわゆる鉄火賭博に代表されるように,サイコロや花札を用いるものであった。戦後においては,在来型の賭博は一般的でなくなり,代わって,「マージャン賭博」,プロ野球の勝敗を争う「野球賭博」,本質的には賭博である各種公営競技シこ関する「のみ行為」等が行われるようになり,最近では,スロットマシン,ルーレット等のギャンブル機具を利用する事犯も多発している。
 最近5年間における賭博事犯の発生件数及び検挙人員について態様別内訳を見たのが,I-79表及びI-80表である。昭和50年では,常習賭博が増加し,単純賭博が減少している。また,最近多発する傾向にあった賭博場開張等も,50年には減少している。このような常習賭博の増加傾向と,50年では減少したとはいえ,賭博場開張等の多発傾向とは,悪質な常習的・営業的犯行に対する検挙取締りが励行されていることを示すものであろう。

I-79表 賭博の態様別発生件数(昭和46年〜50年)

I-80表 賭博の態様別検挙人員(昭和46年〜50年)

 なお,この種犯罪は,暴力団の資金源獲得の手段として犯されるものが多いが,この点については,第3編第3章第2節で述べる。
 ところで,賭博事犯の動向を検討するに当たっては,入場者数が年間1億人を超える競輪,競馬,オートレース,競艇等の各種公営競技関係法律違反の動向を無視することはできないであろう。公営競技関係法律(競馬法,自転車競技法,小型自動車競走法及びモーターボート競走法)違反送致(検挙)人員の推移を示すと,I-19図のとおりである。この公営競技関係法律違反検挙人員は,昭和31年には2,020人であったが,45年からは送致人員は著しい増加を示し,49年には1万1,410人を数えてそのピークに達したが,50年には,8,494人に減少している。

I-19図 公営競技特別法犯送致(検挙)人員の推移(昭和31年〜50年)

 これを違反法令別及び違反態様別に見ると,I-81表のとおりである。送致人員の最も多いのは競馬法であるが,昭和50年において増加を示したのは,小型自動車競走法とモーターボート競走法の各違反であり,そのほかは減少している。また,違反態様別に見ると,いわゆる「のみ行為」(客に勝者を予想指定させ,馬券等の投票券購入代金に相当するかそれより10%程度安い申込金を提供させながら馬券等を購入せず,的中すれば一定の限度内で払戻金に相当する払戻しをし,的中しないときは申込金を自己の利得として利を図る勝者投票類似行為をさせるもの)及びその相手客が大多数を占めているが,50年には,競走等に関する贈収賄,不正共謀,公正妨害及び全力不疾走などのいわゆる八百長事犯の増加していることが注目される。

I-81表 公営競技関係特別法犯違反態様別送致人員(昭和49年・50年)