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2 受刑者の処遇 (1) 受刑者処遇の基本原則 受刑者処遇の目標は,未決拘禁者や死刑確定者の場合と異なり,一定期間自由をはく奪され,刑務所に収容された犯罪者に対して,できる限り社会適応化すなわち矯正を図ろうとするところにある。換言すれば,受刑者の処遇は,刑の執行を通じて,改善更生が実現するようなものでなければならない。改正刑法草案(昭和47年)も,刑の適用の目的を,「犯罪の抑制及び犯人の改善更生に役立つこと」に置き,行刑上の処遇は,「できるだけ受刑者の個性に応じて,その改善更生をはかるものとする。」としている(同草案47条,48条2項参照)。
法務省当局は,従前から,このような受刑者処遇の目的に沿って監獄法の運用を図り,関係諸規則等を整備してきた。受刑者の分類に関しては,昭和47年4月に従前の規程を全面的に改正して新たに受刑者分類規程を制定し,同年7月1日から施行した。また,監獄法施行規則については,41年11月に開放的処遇の導入などの大規模な改正を加え,翌42年1月1日から施行したが,更に,仮釈放及び保護観察等に関する規則が制定されたことに関連し,49年6月,受刑者に対する自己労作の制度的拡充,収容者の領置金の預金許可などの改正を行い,翌7月1日から施行した。同時に,行刑累進処遇令については,累進処遇における処遇差の個別処遇上の必要による緩和などの所要の改正を施した。 これら改正諸規定の弾力的な運用により,いっそう充実した処遇の実現が期待されている。 しかしながら,収容者の法的地位を明確にすると同時に,矯正処遇の徹底,社会復帰の促進を図るためには,処遇の基本法である監獄法を新しい見地から構成し直す必要があり,法務省矯正局においては,昭和42年7月から監獄法の調査,検討を開始し,同法改正のための草案作成の作業を進めており,現在,種々検討が続けられている。 (2) 分類 ア 分類調査 新たに刑が確定し,刑務所に入所した受刑者に対しては,入所時教育と並行して,分類調査が行われる。この分類調査は,個々の受刑者について科学的な調査を行い,それぞれの持つ問題と資質との関係を把握し,本人に最もふさわしい処遇を行うための必要な事項を明らかにして適切な処遇計画を樹立しようとするもので,施設機能の有効な発揮と受刑者の改善及び社会復帰の促進に欠かすことのできないものとなっている。分類調査は,[1]医学,心理学,教育学,社会学等の専門的知識及び技術に基づき,[2]入所時調査及び再調査(入所時調査後,定期又は臨時に行う。)に分け,[3]入所時調査の期間は,おおむね2箇月とし,[4]心情相談,心理治療,オリエンテーションその他の適当な措置を併せ行うこととしている。分類調査の重要な方法である心理テストについては,各種の質問紙法,投影法,適性検査等を活用しているが,特に受刑者に適したテストとして,昭和40年以来,法務省式の文章完成法,人格目録,態度検査等を開発し,実施している。このような調査の結果,その資料を総合して,受刑者の分類級(収容分類級及び処遇分類級)の決定,居房配置の決定,保安・作業・教育等の処遇指針の決定,移送及び受送の実施,累進処遇の審査,仮釈放申請の審査,釈放に伴う必要な措置等収容及び処遇の実施に役立てている。
分類調査及び分類処遇体制を充実する施策の一環として,全国各矯正管区ごとに分類センターの機能を営む施設(中野・名古屋・広島・福岡・宮城・札幌・高松の各刑務所及び大阪拘置所)が指定されている。分類センターは,[1]新たに刑が確定した受刑者のうち一定基準(現在は,執行刑期が1年以上で,かつ,施設において刑の執行を受けたことのない26歳未満の日本人男子)に該当する者をすべて集めて約2箇月間収容し,精密な入所時調査を行い,入所時調査を終了した者をその者の収容分類級に該当する処遇施設ヘ移送するほか,[2]他の処遇施設で処遇中,精神障害の疑い,情緒不安定等の理由で処遇が著しく困難なため再調査を必要と認めた受刑者を収容し,精密調査及び治療的処遇を実施し,[3]他の施設に対して,受刑者の分類に関する専門的な助言指導,研修の援助,研究の協力等を行っている。 なお,現在各行刑施設に配置されている分類専門職員の数は,必ずしも十分でないので,最寄りの少年鑑別所の専門職員を併任するなどの方法によって,できるだけ適正な分類業務が逐行されるよう配慮されている。 イ 分類処遇 受刑者は,分類調査の結果に基づいて,それぞれの収容分類級及び処遇分類級に判定され,当該収容分類級に指定された刑務所又は同一刑務所内の区画された場所に収容され,その特性に応じた処遇を受ける。分類処遇は,このように,同質の受刑者を一つのグループにまとめ,共通の処遇条件を樹立し,その上に立った処遇を行うものである。この制度は,また,個別的処遇をより効果的に行うことができるのみならず,処遇設備を集約的に整備できるという利点がある。
現在採られている受刑者の分類級は,収容分類級(収容する施設又は施設内の区画を区別する基準となる分類級)及び処遇分類級(処遇の重点方針を区別する基準となる分類級)に二大別される。収容分類級は,10種で,その分類基準は,性別,国籍別,刑名別,年齢別,刑期別,犯罪傾向の進度,心身の障害の有無などに置かれている。その分類級別符号及び内容は,W級(女子),F級(日本人と異なる処遇を必要とする外国人),I級(禁錮に処せられた者),J級(少年),L級(執行刑期8年以上の者),Y級(26歳未満の成人),A級(犯罪傾向の進んでいない者),B級(犯罪傾向の進んでいる者),M級(精神薄弱者及びこれに準じて処遇する必要のある者MX,精神病質者及び精神病質傾向が相当程度認められる者MY,精神病者,精神病の疑いが相当程度認められる者及び強度の神経症にかかっている者並びに拘禁性反応,薬物による中毒症若しくはアルコールによる中毒症又はその後遺症が著しく認められる者MZ),及びP級(身体上の疾患又は妊娠若しくは出産のため,相当期間の医療又は養護の必要のある者PX,身体障害のため特別な処遇を必要と認められる者及び盲ろうあ者PY,年齢がおおむね60歳以上で老衰現象が相当程度認められる者及び身体虚弱のため特別な処遇が必要と認められる者PZ)である。 また,処遇分類級は,7種で,その分類基準は,重点とする処遇内容に置かれている。その分類級別符号及び内容は,V級(職業訓練を必要とする者),E級(教科教育を必要とする者),G級(生活指導を必要とする者),T級(専門的治療処遇を必要とする者),S級(特別な養護的処遇を必要とする者),O級(開放的処遇が適当と認められる者),及びN級(経理作業に適格と認められる者)である。 これらの分類級については,それぞれの級別に対応した処遇を推進するため,収容分類級別処遇基準及び処遇分類級別処遇基準が定められ,受刑者の処遇は,分類級ごとに指定された重視すべき処遇重点事項及び特に重視すべき処遇重点事項に基づいて行われる。なお,受刑者の分類級に対応して施設の収容区分が定められているが,昭和49年末現在の分類級別施設数は,II-52表に示すとおりである。 II-52表 分類級別施設数(昭和49年12月31日現在) 分類制度は,このように,収容分類級によって収容施設を定め,更に,処遇分類級に基づいて受刑者の特性にふさわしい処遇を施すことを目的としている。例えば,業務上(重)過失致死傷による禁錮受刑者(I級)に対しては,交通事犯禁錮受刑者の集禁施設が設けられ,特別の処遇が行われている(第3編第3章第4節参照)。 また,26歳未満の成人(Y級)については,その犯罪傾向の進度により,YA級及びYB級に区分し,それぞれについて設けられた収容施設において,その特性に応じた処遇が行われている。なお,少年受刑者(J級)は,現在,その絶対数が少ないので,執行刑期が3月未満である等の理由により他の分類級施設に例外的に収容される場合を除き,通常,II-52表に示すとおり,Y級と同一施設の区画された場所に収容されていて,その心身の発達段階を十分に考慮した処遇が行われている(第3編第1章第6節参照)。 更に,心身に障害のある受刑者(M級・P級)に対しては,その障害をできるだけ治療ないし緩和し,心身ともに健康な状態で社会に復帰させるため,医療を中心とした矯正処遇を行う特殊刑務所として,医療刑務所が設けられている。医療刑務所としては,八王子(東京都),岡崎(愛知県),城野(北九州市)の本所3施設と,大阪(堺市),菊池(熊本県)の支所2施設とが設置されている。その収容区分及び処遇内容について見ると,まず,八王子医療刑務所及び大阪医療刑務支所では,精神障害者に対しての医療的処遇と,手術的処置又は専門的治療を必要とする結核その他の疾患に対しての治療とが行われている。また,岡崎医療刑務所及び城野医療刑務所では,それぞれ,精神障害者に対する医療的処遇が,菊池医療刑務支所では,我が国唯一のハンセン氏病り患受刑者の施設として,ハンセン氏病患者に対する治療が進められている。 これら医療刑務所の収容力には,目下のところ限度があるので,これを補完する意味で,できる限り心身障害者を医療設備並びに技術者の充実した施設に集めて治療を図る考慮が必要となる。このため,おおむね各矯正管区に1施設ずつ,すなわち,名古屋,広島,福岡,宮城,札幌の5刑務所を医療重点施設に指定している。これらの施設に前記の八王子,岡崎,城野の各医療刑務所及び大阪医療刑務支所を加えた全国9施設が,それぞれの管区における総合病院的な機能を有する治療センターとして医療活動を行っている。 II-53表は,このような分類制度に基づき,全国の収容施設に収容されている受刑者の収容分類級別人員の構成比を示すものである。昭和49年では,総人員3万7,769人のうち,B級受刑者が47.1%と半数近くを占めており,A級(17.1%)及びY級(17.1%)がこれに次いでいる。以下,L級,W級,I級,M級,P級の順で,外国人と少年は,1%に満たず,少数にとどまっている。B級は,LB級及びYB級を合わせると6割強に上るのみならず,この比率は年々増加してきており,行刑処遇の実際上の困難さを示している。また,処遇分類級別人員は,総判定人員3万5,668人のうち,G級が2万2,749人(63.8%)と三分の二近くを占めて最も多い。N級の6,938人(19.5%)がこれに次ぎ,以下,V級,S級,T級,O級及びE級の順となっている。G級の主力は,前記B級,YB級であり,犯罪傾向の進んでいる者には特に生活指導が必要であることがわかる。 II-53表 受刑者の収容分類級別人員の構成比(昭和47年〜49年の各12月3日現在) (3) 累進処遇 累進処遇とは,受刑者の自発的な改善への努力を,責任の加重と自由制限の緩和とを通じて促進し,その行刑成績に従って,最下級(4級)から最上級(1級)へと段階的に漸次処遇を向上させ,受刑生活を社会生活に近づけ,それによって,社会適応化を図ろうとする処遇方法であり,我が国では,行刑累進処遇令によって,昭和9年以降,全国的に実施されるようになった。
本令には,累進階級に応じた処遇差が設けられている。例えば,作業賞与金で購入できる自己用途物品の許可範囲,接見及び発信の制限などが上級に進むに従って緩和される。また,本令の適用は,懲役受刑者のみを対象とするものであるが,近年禁錮受刑者が増加し,その大部分が請願による作業に就いているので,禁錮受刑者についても,累進処遇に準ずる取扱いがなされている。 累進処遇制度は,第一次大戦から第二次大戦の間,世界的に,受刑者の処遇に取り入れられた画期的なものであったが,第二次大戦後における社会思潮や矯正理論の発展等に伴って,受刑者処遇の最低基準に関する一般的な考え方が変わり,また,分類制度も発達してきたため,累進処遇の在り方についても,新しい見地から再検討が加えられている。 (4) 教育活動 受刑者に対する教育活動は,入所時及び出所時教育,教科教育,通信教育,生活指導,篤志面接委員による助言指導,体育及びレクリエーション指導などの活動を中心として行われている。
入所時教育は,新たに入所した受刑者に対し,受刑の心構え,施設の機構,所内規則,処遇の概要,保護関係の調整,釈放後の生活設計等の教示及び指導に重点をおいて行われている。 出所時教育は,矯正教育の仕上げとして,復帰する社会事情の解説,出所に関する諸手続及び更生援護・職業安定・民生福祉など各事業内容及びこれを受ける方法の教示,釈放後の生活設計に関する助言・指導,出所に当たっての心身の調整などを目標として行われている。 教科教育は,義務教育未修了者に対して必要な課程を履習させるほか,義務教育修了者中にも学力の著しく低い者が少なくないので,これらの者に対して,国語,数学等基礎的教科が補習教育として行われている(少年受刑者については,第3編第1章第6節参照)。職業指導の一環としても,珠算,簿記等の資格を取得できる科目についての指導も行われている。昭和49年中の教科教育履習人員は,II-54表のとおりである。 II-54表 学歴別教科教育履習人員(昭和49年) 通信教育の制度は,昭和24年以来実施され,主として学校通信教育と社会通信教育により,受刑者に教育の機会を与えている。受講者には,受講に要する費用の全額を国が負担する公費生と,原則として受講者自身が負担する私費生とがあるが,50年3月までの過去1年間の受講生は,公費生・私費生合わせて2,207人で,受講生の多い講座名は,書道・ペン習字,簿記・事務,高校講座,電気・無線,英語,自動車,建築等となっている。生活指導は,受刑者の日常生活を通じて,しつけ教育,規律訓練,一般講演,読書指導,社会見学,クラブ活動,集会,委員会活動(給食,図書,放送等)などを行うとともに,個別又は集団カウンセリングが実施されている。生活指導は,受刑者の自覚に訴え,規則正しい生活及び勤労の精神を養い,共同生活を円満に営み得るような態度,習慣,知識,技術等をかん養することをねらいとしている。 この種の教育活動は,受刑者の日常生活を通して,又は平日の夜間,土曜日の午後,休日などに行われ,その指導には,施設職員のみでなく民間の学識経験者が招へいされてこれに当たっている。 篤志面接委員制度は,昭和28年に発足したもので,個々の受刑者が抱いている精神的な悩みや,家庭,職業,将来の生活設計などを巡る問題につき,民間の学識経験者,宗教家及び更生保護機関職員等の助言指導を求めて,その解決を図ろうとするもので,実施以来,年々施設の処遇に定着して,かなりの成果を収めている。49年末現在の篤志面接委員数は,II-55表のとおり,合計1,032人で,49年におけるその面接回数は,II-56表のとおり,合計9,440回である。その内訳は,集団に対するもの5,128回,個人に対するもの4,312回で,委員一人当たりの面接回数は9.1回となっており,面接の内容も多岐にわたっている。 II-55表 篤志面接委員数(昭和49年12月31日現在) II-56表 篤志面接相談内容別実施状況(昭和49年) また,信仰を有する者,宗教を求める者及び宗教的関心を有する者のために,民間の篤志宗教家(教誨師と呼ばれる。)による宗教教誨を受ける場が与えられている。このような宗教教誨は,受刑者がその希望する教義に従って,信仰心を高め,あるいは培い,徳性を陶やし,進んで更生の契機を得ることに役立たせようとするものである。死刑確定者及び無期受刑者に対する宗教教誨は,特に優れた業績を挙げている。昭和49年末現在における教誨師の数は1,338人で,各宗各派に属している。49年中における宗教教誨実施状況は,II-57表のとおりである。II-57表 宗派別宗教教誨実施状況(昭和49年) (5) 刑務作業及び職業訓練 刑務作業としては,刑法上定役に服すべき懲役受刑者の作業がその主なものであるが,このほか,これに準じて施行される労役場留置者の作業と,法律上は作業を強制されない禁錮受刑者,拘留受刑者,未決拘禁者などの請願作業とがある。
刑務作業の運営は,受刑者の釈放後における生活を勘案してできるだけ職業的技能を習得させ,受刑者の勤労精神をかん養するとともに,その労働生産性を一般社会のそれに近づけることなどを基調として行われる。受刑者各人に対する作業賦課又は職業訓練の決定及び実施は,分類調査の結果判定された処遇分類級に基づいて行われ,当該級ごとに指定されている重視すべき処遇重点事項に従い,本人に最も適した内容が選択されている。現在,特にJ級,Y級及びA級受刑者を対象として,全国5箇所(中野,川越,奈良,山口,函館)に総合職業訓練施設を設け,また,矯正管区ごとに施設を特定して,特定種目の集合職業訓練を行うなど,訓練の計画的,組織的運営に努めている。作業時間は,産業界における労働時間短縮化の傾向,及び保安勤務職員の勤務条件の改善を勘案し,昭和48年4月1日から,1日こつき8時間,土曜日は4時間,1週につき44時間と改正され,従来に比べて,1週につき4時間短縮された。なお,作業環境や作業安全管理については,労働基準法や労働安全衛生法等の趣旨が尊重されている。 ア 作業の概況 昭和49年末現在における刑務作業の就業率を見ると,懲役受刑者は91.4%,禁錮受刑者は93.6%,未決拘禁者は2.2%,労役場留置者は64.5%である。
刑務作業の運営については,刑務作業規程が定められていたが,昭和49年10月,これを全面的に改正した新たな刑務作業事務取扱規程が定められ,50年4月1日から施行された。改正の趣旨は,物品管理法,国の債権の管理等に関する法律等関係法令の制定又は改正によって生じていた事務処理上の支障を除去するものであるが,同時に,職業訓練を作業に取り入れる等,作業の形態区分も改められた。 本項で用いる統計資料は,対象年次の関係上,旧規程に基づいて作成されたものである。旧規程では,刑務作業の業態は,物品製作(作業の実施に必要な経費,材料,労務のすべてを国が負担して行う作業),委託加工及び修繕(作業の実施に必要な経費及び労務を国が負担し,委託者から材料の提供を受けて行う作業。以下,「加工修繕」という。),労務提供(作業の実施に必要な経費及び材料を委託者が負担し,国が労務の提供を行う作業),経理並びに営繕の5種に区分されていた。 そこで,昭和48年度の刑務作業を,まず,経理及び営繕を除いたもの(以下,「生産作業」という。)の就業延べ人員について見ると,II-58表のとおり,約726万人で,前年に比べて131万人余(前年比で15.4%)の減少となっている。減少の主な理由は,収容人員の減によるものである。業態別の就業延べ人員の比率については,労務提供が70.8%で最も多く,以下,物品製作,加工修繕の順となっており,労務提供の比率が著しく増大し,反面,加工修繕の比率が低下している。 II-58表 生産作業支出額・収入額・調定額と業態別生産額・就業延べ人員(金額単位1,000円)(昭和48年度) II-58表により,昭和48年度の年間生産額について見ると,総額は98億円を超え,前年度より約10億2,000万円増加している。業態別には,労務提供が約47億円で最も多く,総生産額の47.7%を占めており,物品製作の約42億8,000万円がこれに次いでいる。前年に比べ,労務提供で10.5%の増,物品製作で4.6%の増,加工修繕で15.1%の減となっている。前年度まで,年々2位を占めてきた労務提供が,1位の物品製作を追い抜き,首位に立ったのが注目される。次に,昭和48年度における刑務作業のための支出額,生産額及び就業延べ人員を業種別に見たのが,II-59表である。これによると,就業延べ人員では金属作業(21.5%)が,長年,首位にあった経理夫を追い抜いて最も多く,経理夫の20.6%がこれに次ぎ,以下,紙細工,洋裁,印刷,木工の順となっている。生産額の点から見ると,金属が最も多く,29.6%を占め,以下,木工,印刷,洋裁の順となっている。 II-59表 業種別支出額・生産額と就業延べ人員(金額単位1,000円)(昭和48度) II-60表は,作業収入と作業の実施に必要な作業費との関係を比較したものである。刑務作業も体質改善により生産性の向上を図るべきことは当然のことであるが,昭和48年度における作業収入は,作業費の339%となり,作業費の回収は引き続き伸びている。II-60表 作業費回収率の累年比較(金額単位1,000円)(昭和44年度〜48年度) なお,昭和49年度における全国の刑務作業の解約件数は約290件,当該業種に従事していた収容者数は約5,200人に達している。このような多数の解約発生は,これまでに見られない異常現象であり,48年秋以降の経済的不況が刑務作業にも影響を及ぼしたものと考えられる。イ 職業訓練 受刑者の職業訓練については,昭和33年に職業訓練法が施行されてからは,訓練の時間及び内容をこれに近づけ,適格者には,できるだけ訓練を実施するよう努力がなされている。更に,50年4月に施行された新しい刑務作業事務取扱規程では,職業訓練が刑務作業の一形態として位置づけられることとなったので,受刑者の職業訓練はいっそう充実することが期待される。
昭和49年末現在の職業訓練の実施状況は,II-61表に示すとおりである。実施人員は1,276人(同年末現在受刑者の3.4%)で,機械,溶接,電気工事,自動車整備,建築,左官,木工,理容など20余種目について実施されている。また,総合職業訓練施設に指定された刑務所において訓練を修了した者は,労働省職業訓練局長から職業訓練履修証明書の交付を受けているが,49年度における同証明書の受領者数は,II-62表のとおり,総数で266人であった。 II-61表 職業訓練種目別人員(昭和49年12月31日現在) II-62表 労働省職業訓練局長履修証明書受領者数(昭和49年度) 次に,昭和49年度における国家試験その他の資格又は免許の取得状況は,II-63表のとおりで,受験者数3,178人に対して,合格者数は2,363人で,合格率は74.4%となっている。II-63表 資格又は免許の取得状況(昭和49年度) ウ 構外作業 受刑者に社会適応性を与える方法の一つとして,いわゆる半開放的又は開放的な施設である構外作業場が運営されている。構外作業場では,物的戒護も緩和され,生活環境は刑務所内より一段と社会に近づけられており,一般の事業所等において作業を実施しているものもある。
代表的なものに大井造船作業場(松山),各務原作業場(岐阜),神戸鉄工団地作業場(加古川),いずみ寮(和歌山),有井作業場(尾道)などがあり,また,構外作業というよりは,開放的処遇のもとでの職業訓練に重点を置いたものに,最上農業学園(山形),鱒川酪農伝習所(函館)などがあり,更に,本格的な開放施設として,喜連川農業土木学園(黒羽),霧島農場(鹿児島)がある。昭和49年末現在の出業者は639人(全就業人員の1.8%)で,良好な成績を収めている。 エ 作業賞与金 作業賞与金は,就業に対する反対給付として支給されるが,その性格は,賃金と異なり,恩恵的なものと解されている。作業賞与金の計算は,作業の種類,就業条件,作業成績,行状等を考慮して,一定の基準に基づいて行われ,毎月,作業賞与金計算高として就業者本人に告知されている。昭和49年における計算高の一人平均月額は,1,546円である。この賞与金は,原則として,釈放時に給与される。II-64表は,釈放受刑者の作業賞与金給与額別人員とその比率を示したもので,釈放時作業賞与金が1万円を超える金額の給与を受ける者の比率は,基準額(作業賞与金の計算のための基準となる就業時間1時間当たりの金額)が毎年増額されていることもあり,逐年増加してきている。
II-64表 釈放受刑者の作業賞与金給与額別人員と比率(昭和46年〜49年) オ 自己労作 懲役受刑者のうち,行状及び作業成績が優良で,かつ,処遇上害がないと認められる者には,定役としての作業のほか,作業時間終了後1日2時間以内,自己のためにする労作が許され,その収益金は本人の収入となる。同じことは,禁錮受刑者について,行状が優良で,かつ,処遇上害がないと認められる者に適用される。自己労作は,従来,累進処遇1級者及び2級者のうち,技能が特に優秀で,作業成績の優良な者について許されたが,昭和49年7月以後,許可対象者の範囲が前記のように拡大されたもので,50年1月末現在,全国で873人が従事し,一人1月平均2,927円の収入を得ている。
(6) 給養 日常生活の必需物資である衣類,寝具,日用品,食糧などは,受刑者には給貸与される。
まず,衣類や寝具については,保温,衛生,経済性,体裁などを考慮して,使用材質,形式,貸与数量などが定められ,また,日用品のちり紙,歯みがき,石けん,香油などは,官給を建前として,給与基準が定められている。日用品については,官給品を使用することができるほか,官給品に代えて,[1]自己用途物品,すなわち作業賞与金による購入に係るもの,[2]自弁による物品,すなわち携有又は領置金による購入に係るもの,[3]差入による物品,すなわち,第三者が収容者にあてて直接刑務所に持参し,又は小包郵便その他の方法により送付したものの使用が許可される。このように,個人入手が許可される物品には,日用品のほかに,筆記用具,学習用具,通信用具等があり,累進上級者等に許される物品を含めると,品目総数は70余種に及んでいる。 給食については,健康管理上最も重視され,主食偏重の是正など,その改善に努力が払われている。 主食は,原則として米麦混合であり,重量比で米5・麦5とされており,性別,年齢,従事する作業の強度によって,1等食(1日3,000カロリー),2等食(2,700カロリー),3等食(2,400カロリー),4等食(2,000カロリー)及び5等食(1,800カロリー)の5等級に分けて給与されている。 副食については,1日600カロリーを下らないように努めることが要求されており,1日の副食費は,昭和49年度は受刑者一人1日当たり,年度上半期分84.65円,下半期分89.64円(少年受刑者では年度上半期分98.95円,下半期分104.79円)である。なお,このほか,食生活を国民一般の慣習に近づけるため,正月用特別菜代として一人1日当たり100円(1月1日,2日及び3日の三が日間,計300円)並びに祝祭日菜代及び誕生日菜代として各一人1日当たり25円が,それぞれ,別に認められている。 また,治療食を必要とする結核等の患者には,一般の副食費のほかに,特別の副食費が増額されることになっている。このほか,結核等以外の患者や妊産婦等に対しては,医師の意見に基づいて特別の栄養食品を給することができ,更に,延長作業又は特殊な構外作業に従事する者には,若干の加給食が給与される。給食の調理方法,温食給与の方法などについても,種々の工夫が加えられている。 (7) 医療及び衛生 収容者が負傷したり病気にかかったりしたときは,原則として,施設の医師が治療に当たる。そのため,医療刑務所以外の各施設にも医療設備を備え医官が配置されている。必要な場合には,外部の専門医の診療を受けさせたり,一時外部の病院に移送することもある。昭和49年中における休養患者 (医師の診療を受けた収容者のうち,医療上の必要により病室又はこれに代わる室に収容して治療を受けさせるものをいう。)の総数は1万4,315人で,その74.1%は年内に治ゆ又は軽快により転帰している。
刑務所の衛生管理上最も注意を要するのは,伝染病殊に消化器系伝染病の発生である。この予防のため,地区ごとに指定された全国48施設の防疫センター及び保健所等が,収容者について入所時や移送時に,給食担当者等について随時に,検便その他の検査を行っているほか,水質検査,所内外の消毒など環境衛生についても配慮している。 なお,一般社会の病院・診療所において医療専門職員の不足が問題となっているように,矯正施設においても,医療専門職員の充足が困難な事情にある。そこで,これが改善策の一環として,医師については,昭和36年から貸費生の制度を設け,また看護人(婦)については,41年から八王子医療刑務所に准看護人(婦)養成所を設け,その養成に当たっている。50年3月末現在,開設以来同所を卒業した准看護人(婦)の総数は149人である。 (8) 保安 刑務所及び拘置所の安全と秩序を維持するための業務を保安という。その業務の遂行には多大の困難が伴うが,矯正のための他の機能が十分に行われるようにするための基盤である。
近年,行刑施設の収容人員は減少する傾向にあるが,反面,収容人員中に占める凶悪・粗暴犯罪者の比率は非常に高くなっている。これを新受刑者について見ると,業過を除く刑法犯では,傷害,強姦・わいせつ,暴力行為等処罰に関する法律違反及び殺人の比率が年々上昇する傾向を見せている。また,暴力団関係者は,昭和49年現在で,受刑者について全体の約21%,未決拘禁者について全体の約17%を占め,これを新受刑者で見ると,49年では暴力団関係者が19.6%に達し,その比率は年々上昇してきている。 これら凶悪・粗暴犯罪者や暴力団関係者を含め,受刑者の中には,粗暴行為を繰り返す精神障害者がかなりおり,収容人員の減少に比べてみれば,職員殺傷,同僚殺傷の事故は,必ずしも低減してきていない。II-65表は,最近3年間における事故件数を示したものである。 II-65表 行刑施設事故発生状況(昭和47年〜49年) また,II-66表は,在所中の犯罪行為によって起訴された収容者数を示すものである。昭和49年に起訴された収容者数は,受刑者では159人,その他の収容者では36人となっている。起訴罪名は例年とも傷害が最も多い。このような凶悪・粗暴犯罪者又は処遇困難者に対する処遇対策が,保安上の大きな課題の一つである。II-66表 在所中の行為により起訴された収容者数(昭和47年〜49年) 次に,刑務事故の防止のほか,保安維持のためには,反則(法令及びその範囲内において,各施設が定めている所内規則に対する違反)を防止することが必要である。受刑者で反則により懲罰を受けた者の数は,昭和49年では,延べ2万8,467人である。II-67表は,最近3年間における受刑者の受罰人員をその事犯別に見たものであるが,49年では,最も多いのが収容者に対する暴行(受罰人員総数の14.1%)で,抗命,物品不正所持・授受等がこれに次いでいる。II-67表 受刑者懲罰事犯別受罰人員(昭和47年〜49年) これらの懲罰事犯に対しては,軽へい禁(2箇月以内の期間独居房に収容し,必要と認める場合のほか,その室から出さないで反省させる方法),文書・図画閲読禁止,作業賞与金計算高減削など,監獄法に規定されている懲罰が科せられる。II-68表は,昭和49年における懲罰の種類別受罰人員及びその構成比を示したものである。受刑者について最も多いのは文書・図画閲読禁止であり,軽へい禁がこれに次ぐが,この二つの懲罰は,併科されることが多い。運動停止,減食等が科せられることは極めてまれである。II-68表 懲罰の種類別受罰人員(昭和49年) このような懲罰事犯は,精神病質的傾向を有する者や暴力団関係者などに見られる処遇困難者によって繰り返されることが多く,この種収容者の増加とともに,保安業務遂行上の困難はいっそう増大する傾向にある。そこで,集団処遇困難者のうち治療を要する者については,医療刑務所への移送又は治療的処遇計画による再適応工場若しくは設備での処遇を施し,また,暴力団関係収容者については,ややもすると所内で結合して職員を威圧し,あるいは他の集団と対抗反目して重大事故を招きやすいので,これを分散移送するほか,関係機関とも緊密な連携を図るなど,施設内での事犯発生を抑止するための対策を進め,適正な業務の遂行を期している。 |