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 昭和50年版 犯罪白書 第3編/第3章/第4節/1 

第4節 交通犯罪者の処遇

1 矯正

(1) 交通犯罪受刑者の収容状況

 昭和49年における業務上(重)過失致死傷の新受刑者(大多数は車両運転によるもの。)の数は,3,222人で,前年に比べて17.2%の減少となり,46年以降減少している交通事故のすう勢を反映している。一方,49年における道路交通法違反の新受刑者は1,491人で,前年に比べ41.9%の増となり,依然として増加の傾向が続いている。これを刑種別に見ると,III-143表に示すとおり,前年同様に懲役の数が禁錮の数を上回る傾向が続き,49年は禁錮の約2倍の数を示している。このような状況は,49年末の収容状況に反映され,法務省矯正局の調査によると,交通犯罪受刑者の年末人員は,禁錮794人に対して懲役(別件併有を含む。)2,860人で,実に懲役受刑者が禁錮受刑者の3.5倍にもなっている。また,罪名別に見ると,業務上過失致死傷が最も多く,禁錮では約99%までが同罪に係るものである。

III-143表 交通犯罪新受刑者の罪名別・形種別人員(昭和48年・49年)

 新受刑者の刑期別人員は,III-144表のとおりである。禁錮では6月を超え1年以下が半数を超え(52.3%),懲役では3月を超え6月以下の者が半数に近く(48.0%),一般に短い刑期が多い。

III-144表 交通犯罪新受刑者の刑期別・刑種別人員(昭和48年・49年)

 新受刑者の年齢層別人員は,III-145表のとおりで,20歳代の者が約半数を占めて最も多いことは前年と変わらないが,その割合は前年に引き続き低下し,30歳以上の各年齢層がわずかずつ上昇している。

III-145表 交通犯罪新受刑者の年齢層別人員(昭和48年・49年)

 新受刑者の入所歴は,III-146表のとおりである。施設経験のない者が多く,昭和49年においても80%近くを占めているが,その割合は年々低下していく傾向にある。施設経験のある者の89%強が自由刑の受刑歴を有する者である。交通犯罪による服役経験者はごくわずかであるが,その数は前年に引き続き増加している。

III-146表 交通犯罪新受刑者の入所歴別人員(昭和48年・49年)

(2) 交通犯罪受刑者の処遇

 交通犯罪受刑者のうち,懲役受刑者は,他の懲役受刑者と同様,一般の分類規程に基づいて一般の刑務所に収容され,それぞれの持つ資質と問題に応じた分類処遇を受けている。
 禁錮受刑者に対しては,一定の基準を設けて特定の施設に集禁したうえ,開放的な処遇の下に特殊な教育が行われている。集禁の基準は,[1]懲役を併有しないこと,[2]懲役又は禁錮の執行等により,矯正施設に収容された経験を有しないこと,[3]おおむね執行刑期が3月以上であること,[4]心身に著しい障害がないこと,[5]管理上支障のおそれのないことである。
 集禁施設は,交通犯罪禁錮受刑者のみを収容している市原刑務所のほか,加古川刑務所,名古屋刑務所豊橋刑務支所,大分刑務所,山形刑務所,松山刑務所西条刑務支所の5施設が指定され,また,この集禁施設の処遇に準じた処遇をする施設として,中野刑務所ほか3施設がある。
 集禁施設における交通犯罪禁錮受刑者に対しては,その特質を考慮し,開放的処遇が推進されている。特に,生活訓練や職業指導等において,遵法精神,人命尊重,責任観念,安全第一やその他の徳性をかん養させるとともに,自動車運転に対する態度,適性,将来の生活設計などについての指導が実習やテストを用いてなされている。
 ここで集禁施設の一つの典型として市原刑務所の処遇の概要につき,職業指導を中心に紹介しておく。
 市原刑務所では,対象者が交通事犯者であることから,交通犯罪による再犯を防止するために,出所後の自動車運転の適否に関連づけて,次の3コースに分けて教育をしている。
Aコース:運転適性が普通程度にあり,かつ,将来運転の必要性のある者を編入し,処遇の重点を徹底した安全運転の習熟に置き,運転訓練を実施するとともに,人命尊重・遵法精神・交通道徳など将来の運転に対する基本的な心構えのかん養を図る。
Bコース:将来運転を希望するが,運転適性その他の条件に照らして,運転は不適とされた者を編入し,処遇の重点を,運転適性に欠けていることを自覚させ,運転の意思を翻させることに置き,運転以外での適性や能力の発見・開発に努める。なお,出所後運転の必要性が高く,運転意思を持続する者については,Aコース以上に厳しい訓練を行う。
Cコース:将来運転を希望しない者を編入し,処遇の重点を自動車運転以外の面における諸能力の開発に置き,自動車を運転しない生活への心構えや準備を進める。
 収容者は,入所するとまず新入時教育や分類調査を受け,次いで準開放寮に移され,それぞれの問題に応じてAないしCのコースに分けられる。更に一定期間を経過した後,審査の結果によって,開放寮に移される。仮釈放の決定した者は,釈放実行前に釈放準備教育のための寮に移される。
 これらコース別に関係なく,希望者は各種講習会に参加させている。昭和49年度における各種の資格取得,試験合格の状況は,III-147表のとおりである。また,外部通勤制が実施され,常時約20人がこれに従っている。

III-147表 資格・免許取得延べ人員(昭和49年度)

 生活指導については,収容者の自主性を基にして集団討議,新聞・所内誌の発行,レクリエーション,体育などが計画,実施され,ペン習字・珠算・絵画などのクラブ活動も盛んである。
 保安についても,できる限り収容者が自ら生活の秩序を守るように配慮され,居室を初め図書館,集会室などほとんどの部屋が施錠を省略し,構内の通行に際しても職員が同行せず,面会時にも職員が立会しないほか,入浴・理髪・売店における物品購入の仕方なども一般社会に近づけられている。
 こうした処遇において,これまで逃走や同未遂事故は1件も発生しておらず,規律違反者も,一般の矯正施設と比較して極めて少ない。
 再入状況は,市原刑務所が習志野作業場として交通犯罪受刑者の集禁を開始した時期(昭和38年)から,50年3月末までの出所者5,604人のうち,再大者は116人(2.0%)にすぎず,交通犯罪者の処遇については,かなりの成果を上げているといえる。

(3) 少年院における交通事犯少年の処遇

 交通事犯関係により保護処分に付された者の中で,少年院送致の決定を受けて昭和49年中に新たに少年院に収容された者の数は,道路交通法違反による者40人,業務上(重)過失致死傷による者49人,計89人である。
 これら交通犯罪少年のみを対象こする施設として,松山少年院,宇治少年院及び置賜学院に短期訓練課程(収容期間おおむね3箇月)が設置されている。49年中に業務上(重)過失致死傷及び道路交通法違反によりこれらの施設に新たに収容された者は,上記89人のうち,松山27人,宇治25人,置賜16人,計68人で,前年よりわずかではあるが増加している。
 これらの施設では,開放的ふん囲気の下で安全運転教育,職業指導などを行うとともに,特に生活指導を重視し,規範意識の欠如,衝動性など,対象少年の運転態度の面に見られる特性を彼ら自身の問題として受け止めさせることに目標を置いて,集団討議その他の指導法が採られている。