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 昭和49年版 犯罪白書 第2編/第4章/第1節/2 

2 仮出獄

 仮出獄の申請及び許否決定の状況は,II-91表に示したとおりで,昭和48年の申請受理人員は1万9,355人と,前年に比べて更に824人の減少となった。許可数においても,605人の減少となっているが,棄却率は前年に比べわずかながら上昇した。47年に,引き続き,棄却率の上昇したことが一つの特徴といえよう。
 次のII-92表は,昭和48年の仮出獄許否決定の状況を,刑法上の累犯・非累犯別,刑務所入所度数別及び年齢別にみたものである。これによると,累犯者は,非累犯者に比べ,棄却率が目立って高い。また,入所度数が多くなるにつれ段階的に棄却率が高まっている。年齢については,年齢が高くなるにつれ棄却率も高くなっているが,この傾向は,累犯者,入所度数の多い者が高年齢層に多くなることと多分に関連するものと考えられる。

II-92表 受刑者の累犯・非累犯の別,入所度数別及び年齢別の仮出獄許否の状況(昭和48年)

 更に,棄却率について矯正施設の分類級別にみると,II-18図のとおりである。L(長期)・B(犯罪傾向の進んでいる者)級施設収容者の棄却率が目立って高く,J(少年)・A(犯罪傾向の進んでいない者)級施設収容者の棄却率は著しく低く,その間に大きな幅があることがうかがわれる。また,罪名別仮出獄決定状況をみると,II-93表のとおりで,棄却率の最も高い罪名は銃砲刀剣類所持等取締法の43.9%,賭博・富くじの41,9%,暴行の34.5%,覚せい剤取締法の32.9%等となっている。

II-18図 施設分類級別仮出獄棄却率(昭和48年)

II-93表 罪名別仮出獄決定状況(昭和48年)

 なお,矯正施設の長が地方更生保護委員会に仮出獄申請を行った後,審理決定に至るまでに規律違反その他仮釈放を相当としない事情が生じたため,矯正施設の長によって仮出獄申請が取り下げられた者は,1,074人(新規申請受理人員の5.5%)である。
 仮出獄は,刑の執行が法定期間(有期刑は執行すべき刑期の3分の1,無期刑は10手を経過。なお,少年のときの罪については,少年法58条の規定による期間の特例がある。)を経過した者につき,性格・行状・態度・能力・施設内での成績・帰住後の環境などを考慮し,(1)悔悟の情が認められること,(2)更生の意欲が認められること,(3)再犯のおそれがないと認められること,(4)社会の感情が仮出獄を是認すると認められること等の事由を総合して,保護観察に付することが本人の改善更生に最も適当と認められる時期に,仮出獄を許可することとされている。仮出獄の適期の選定は,仮出獄者の選択と並んで地方更生保護委員会に期待される最も大切な機能である。
 そこで,受刑者は,刑期のうちどの程度服役した後に仮釈放が許されているかを,執行率を示すII-94表によって検討することとする。ここにいう執行率とは,執行すべき刑期(刑期に算入すべき勾留日数等を控除した期間。仮出獄取消刑の場合は残刑期間)に対する執行ずみの期間の割合のことである。

II-94表 定期刑仮出獄者の刑の執行状況(昭和48年)

 まず,定期刑の全体についていえば,そのほぼ半数(50.9%〉の者が刑期の90%以上を服役してから仮釈放になっている。そして,執行率80%以上の者を合わせると定期刑仮出獄者の大部分(84.1%)ということになる。法律上は,有期刑は,執行すべき刑期の3分の1を経過すれば仮出獄を許すことができることになっているが,実際上,刑期の2分の1未満で仮釈放になった者は,4人にすぎず,むしろ例外になっている。過去5年間の傾向をみると,執行率80%以上の者は,昭和4年が80.1%,45年が81.9%,46年が82.7%,47年が84.1%で,わずかながら上昇傾向が認められる。
 次に,刑期別にその執行率をみると,おおむね,刑期が長くなるに従って執行率は低くなっている。例えば,刑の執行率70〜79%で仮出獄を許された者は,刑期1年以下の者では5.2%にとどまるのに対し,3年を超え5年以下の者では27.2%と急増し,5年を超え10年以下の者では29.1%となっている。
 更に,II-19図により初犯・累犯別に比較してみると,執行率90%以上で仮出獄が許されている者の割合は,初犯では39.3%であるのに対し,累犯は77.9%を占めており,一般的に累犯者は初犯者に比し執行率のかなり高い段階に至らなければ仮出獄が許されていないことがわかる。

II-19図 初犯・累犯別定期刑仮出獄者の刑の執行率(昭和48年)

 他方,無期刑受刑者については,法律により,服役してから10年(少年法による場合は7年)の期間が経過すれば仮出獄を許すことができることになっているが,最近5年間における無期刑仮出獄者の在監期間をみると,II-95表のとおりである。同表によると,昭和48年では,94%までが14年から17年までの間に仮出獄が許されている。

II-95表 無期刑仮出獄者の在監期間の構成比(昭和44年〜48年)

 仮出獄を許された者は,すべて保護観察に付され,仮出獄期間が保護観察の期間となる。
 仮出獄期間は,後出のII-100表に示すとおり短期間の者が多い。昭和48年の仮出獄者では,2月以内の者だけで過半数(58.1%)に達しており,2月を超え1年以内の者は37.4%で,1年を超える者はわずか4.5%にすぎない。このように,仮出獄期間の短い者が例年過半数を占めるのは,主として刑期の短い者が全体に対して占める割合が高いことによると思われるが,先に触れたように,定期刑仮出獄者の大部分が執行率80%以上で,刑期の短い者の場合その傾向が特に著しいことを考え合わせると,宣告刑が比較的短期に集中しているところに主たる原因があるといえよう。
 なお,仮出獄期間が終了した者であっても,その者が刑事上の手続による身体の拘束を解かれた後6月を超えない間は,本人の申出に基づき,更生緊急保護法に定める更生保護の措置をとることはできる。しかし,この措置は非有権的かつ補充的なもので,とり得る手段にもおのずから限度がある。仮出獄期間の短い者に対しては,保護観察の効果が十分には期待できないので,満期釈放者の多いことはもちろん,期間の短い仮出獄者の多いことが,仮釈放制度における問題点の一つとされている。
 仮出獄を許された者は,先に述べたとおり,すべて保護観察に付され,その期間中,遵守事項を遵守する義務を負う。そして,[1]仮出獄中更に罪を犯し,罰金以上の刑に処せられたとき,[2]仮出獄前に犯した他の罪につき罰金以上の刑に処せられたとき,[3]仮出獄前他の罪につき罰金以上の刑に処せられた者であってその刑の執行をなすべきとき,又は[4]仮出獄中遵守すべき事項を遵守しなかったときは,仮出獄の処分を取り消すことができることとされている。上記の[1],[2],[3]は,新たな刑の確定又は執行を理由とする取消の場合であるから,保護観察所長はその事由が生じたことを地方更生保護委員会に申報するにとどまる。これに対して[4]の遵守事項違反を理由とする場合には,仮出獄取消の処分を求めるかどうかを専ら保護観察所長の認定にかからせ,仮出獄の取消を相当とする場合に限り地方更生保護委員会に対し,その旨申請させることとしている。
 昭和48年に地方更生保護委員会が仮出獄取消を行ったのは710人で,その内訳は,再犯刑の確定等を理由とするもの209人,遵守事項違反を理由とするもの501人であり,その取消率(ここにいう取消率は,ある年次に仮出獄の取消を受けた人員を,同じ年次の仮出獄許可人員で除した値であるから,正確な意味での取消率とはいえないが,大体の傾向を知ることができる。)は4.4%になる。
 なお,保護観察所長の申請に基づいて仮出獄を取り消された上記501人のうち,89.6%に当たる449人は,仮出獄期間中の再犯により被疑者又は被告人の状態で仮出獄を取り消された者である。
 II-96表は,最近5年間の仮出獄取消の状況を示すものであるが,その取消率においては大きな変動は認められない。

II-96表 仮出獄取消決定を受けた人員(昭和44年〜48年)

 なお,改正刑法草案は,仮釈放の取消として仮出獄取消制度を承継しているが,仮釈放前に犯した罪を理由とする取消を認めない構想を取り入れようとしており,また,取り消し得る場合を「……遵守事項を遵守せず,その情状が重いとき」と規定しようとしている。
 次に,仮出獄者と満期釈放者との刑務所再入所状況を比較したものがII-97表である。同表は,昭和44年から48年までに出所した仮出獄者と満期釈放者の人員と,それらのうち仮出獄取消又は再犯によって再収容された人員を,再収容の年次別に示したものである。なお,同表[2]は,釈放後の年数別再収容率を示すものであるが,これによると,満期釈放者は,出所の当年に出所人員の10.3%が再収容されているが,仮出獄者にあっては3.7%にとどまっており,また,第5年まで各年の比率をそのまま累計すると,仮出獄者では約3割が再収容され,満期釈放者では約5割が再収容されている。

II-97表 仮出獄者と満期釈放者の成行き(昭和44年〜48年)

 再収容率における仮出獄者と満期釈放者との相違は,前者は素質・環境等に照らし再犯のおそれがないと認められ仮出獄が許されて指導監督と補導援護が行われる者であるのに反し,後者はより問題が多く,保護又は監督の必要性が更に高い者を含んでいるにもかかわらず,これらの者については,更生緊急保護法に基づく極めて限定された措置をとることができるほかは対処する有効な方策がないことの当然の帰結とも考えられる。期間の極めて短い仮出獄者が多く,それらの者については,保護観察の効果が十分には期待できないこと及び満期釈放者に対する有効な措置を有権的にとり得る方法がないことが,現行仮釈放制度の最も大きな問題点であるといえよう。