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 昭和49年版 犯罪白書 第2編/第3章/第1節/2 

2 受刑者の処遇

(1) 受刑者処遇の基本原則

 受刑者処遇の目標は,単に,刑罰の執行にとどまるものではなく,その執行を通じて,できる限り,受刑者の改善及び社会復帰を図ろうとすることにある。1957年,国際連合が採択し,各国に勧告している被拘禁者処遇最低基準規則では,刑務所の指導原理として,苦痛増大の禁止,拘禁期間の活用,改善手段の個別化,刑務所生活の社会化,分類処遇の必要などを定め,また,受刑者の処遇について,釈放後,遵法的かつ自立的な生活をする意志と能力をもたせるべきこと,及びその自尊心を高め,かつ,責任感を向上させるものであるべきことを定めている。改正刑法草案(昭和47年)も,刑の適用の目的を,「犯罪の抑制及び犯人の改善更生に役立つこと」に置き,行刑上の処遇は,「できるだけ受刑者の個性に応じて,その改善更生をはかるものとする」としている(同草案47条,48条2項参照)。
 法務省当局は,従前から,上記のような受刑者の処遇をめざして,現行監獄法,同法施行規則の弾力的運用を図り,行刑累進処遇令,受刑者分類調査要綱,受刑者職業訓練規則などの法令を整備してきた。殊に,監獄法施行規則の改正をしばしば行い,昭和41年には,所長裁量による開放的処遇の導入など,相当大規模な改正を行って,42年1月1日からこれを施行した。また,47年には,近時,受刑者の処遇内容が進展し,分類処遇の充実がいっそう必要視されてきた実情にかんがみ,従前の受刑者分類調査要綱に代えて,新たに,受刑者分類規程を制定し,同年7月1日から施行した。同規程は,改正上の主要項目として,各矯正管区単位の分類センターの指定,入所時調査期間の延長,ほぼ全面的な収容分類級の符号の改正及び処遇分類級の新設などを盛り込むほか,26歳未満の成人男子のすべてについて,年長成人受刑者とは別個の施設又は施設内の区画された場所における収容を定めるなど,分類制度の整備を図っている。
 しかしながら,収容者の法的地位を明確にすると同時に,矯正処遇の徹底,社会復帰の促進を図るためには,処遇の基本法である監獄法を新しい見地から構成し直す必要があり,法務省矯正局においては,昭和42年7月から監獄法の調査,検討を開始し,同法改正のための草案作成の作業を進めており,現在,種々検討が続けられている。

(2) 分類

ア 分類調査

 新たに刑が確定し,刑務所に入所した受刑者に対しては,入所時教育と並行して,分類調査が行われる。この分類調査は,個々の受刑者について科学的な調査を行い,それぞれの持つ問題と資質との関係をは握し,本人に最もふさわしい収容及び処遇を行うための必要な事項を明らかにし適切な処遇計画を樹立しようとするもので,施設機能の有効な発揮と受刑者の改善及び社会復帰の促進に欠かすことのできないものとなっている。分類調査は,医学,心理学,教育学,社会学等の専門的知識及び技術をできるだけ活用し,診察,検査その他の方法により行われるもので,犯罪の内容,生活史,心身の特質,家庭状況,近隣関係及び所属集団などの資料のほか,施設収容の経験のある者については,その関係の記録が用いられる。その結果,これらの資料を総合して,受刑者の分類級(収容分類級及び処遇分類級)の決定,居房配置の決定,保安・作業・教育等の処遇指針の決定,移送及び受送の実施,累進処遇の審査,仮釈放申請の審査,釈放に伴う必要な措置,並びにその他収容及び処遇の実施等にそれぞれ必要な事項を明らかにすることを目的としている。
 分類調査は,入所時調査及び再調査に分かれる。入所時調査は,刑の確定による入所後おおむね2月以内に,再調査は,入所時調査後,定期又は臨時に行う。
 入所時調査の期間は,[1]分類センター(中野・名古屋・広島・福岡・宮城・札幌・高松の各刑務所及び大阪拘置所が指定されている。)に収容する者(執行刑期が1年以上で,かつ,施設において刑の執行を受けたことのない26歳未満の男子。ただし,F級(外国人)に分類されることが明らかな者を除く。)については,分類センターにおいておおむね55日,処遇施設(分類級に基づいて自所収容を開始した施設又は移送を受けた施設)においておおむね5日,[2]分類センターに収容しない者については,確定施設(刑が確定した時に収容されていた施設)においておおむね10日,処遇施設においておおむね20日が充てられ,同期間中,分類調査に並行して,次の区分に従い,重点的な処遇が行われる。
 まず,分類センターに収容する受刑者に対しては,[1]同センターにおける調査期間の前期(おおむね15日間)に,施設適応及び分類調査のためのオリエンテーションを,中期(おおむね30日間)に,適性発見のための作業及び規律訓練を,後期(おおむね10日間)に,心情相談並びに自発的に更生する意欲を持たせるため及び移送のためのオリエンテーションを,それぞれ行い,[2]処遇施設においては,施設適応のためのオリエンテーション及び規律訓練を実施する。
 次に,分類センターに収容しない受刑者に対しては,[1]確定施設において,分類調査のため及び移送のためのオリエンテーションを,また,[2]処遇施設において,心情相談及び規律訓練並びに施設適応のため及び自発的に更生する意欲を持たせるためのオリエンテーションを,それぞれ実施する。
 このほか,分類センターには,精神状況又は行動の異常性が著しく,特に専門的な精密調査を必要と認める受刑者を集めて収容し,再調査を行うことにより,適正な処遇に資するための精密な分類調査の達成を期している。

イ 分類処遇

 受刑者は,分類調査の結果に基づいて,それぞれ適正な分類級に判定され,当該分類級に対応する所定の刑務所,又は同一刑務所内の区画された場所に収容される。これによって,同質の受刑者を一つのグループにまとめ,共通の処遇条件を樹立し,その上に立った処遇を行うことができる。このような分類処遇には,個別的処遇をより効果的に行うことができるのみならず,処遇設備を集約的に整備できるという利点がある。なお,処遇の経過中,定期及び臨時に,再調査を行い,必要に応じて本人の分類級の変更が行われる。
 現在設けられている分類級は,収容分類級(収容する施設又は施設内の区画を区別する基準となる分類級)及び処遇分類級(処遇の重点方針を区別する基準となる分類級)に二大別される。
 収容分類級の分類級別符号及びその内容は,次のとおりである。
[1] 性,国籍,刑名,年齢及び刑期による収容分類級
W級 女子
F級 日本人と異なる処遇を必要とする外国人
I級 禁錮に処せられた者
J級 少年
L級 執行刑期8年以上の者
Y級 26歳未満の成人
[2] 犯罪傾向の進度による収容分類級
A級 犯罪傾向の進んでいない者
B級 犯罪傾向の進んでいる者
[3] 精神障害又は身体上の疾患若しくは障害による収容分類級
M級 精神障害者
P級 身体上の疾患又は障害のある者
 M級及びP級は,更に,それぞれ次のとおり細分される。
「M級の細分」
Mx級 精神薄弱者(知能障害のため社会生活上著しい支障がある者)及びこれに準じて処遇する必要のある者My級 精神病質者(狭義の精神病は認められないが,性格上の偏りが大であるため,社会生活上著しい支障がある者)及び精神病質傾向が相当程度認められる者Mz級 精神病者(精神分裂病,そううつ病等の狭義の精神病にかかっている者),精神病の疑いが相当程度認められる者及び強度の神経症にかかっている者並びに拘禁性反応,薬物による中毒症(強度の薬物依存を含む。)若しくはアルコールによる中毒症又はその後遺症が著しく認められる者
「P級の細分」
Px級 身体上の疾患又は妊娠若しくは出産のため,相当期間の医療又は養護の必要のある者Py級 身体障害のため特別な処遇を必要と認められる者及び盲ろうあ者Pz級 年齢がおおむね60歳以上で老衰現象が相当程度認められる者及び身体虚弱のため特別な処遇を必要と認められる者
 また,処遇分類級の分類級別符号及びその内容は,次のとおりである。
[1] 重点とする処遇内容による処遇分類級
V級 職業訓練を必要とする者
E級 教科教育を必要とする者
G級 生活指導を必要とする者
T級 専門的治療処遇を必要とする者
S級 特別な養護的処遇を必要とする者
[2] その他の処遇分類級
O級 開放的処遇が適当と認められる者
N級 経理作業に適格と認められる者
 分類級の決定及び表示の順序は,収容分類級及び処遇分類級の順とされ,収容分類級及びその細分の決定・表示の順序は,前出の列記順とされる。ただし,M級及びP級に当たる者のうち,医療を主として行う刑務所その他の特別の施設に収容する必要があると認められる者についての決定及び表示は,M級又はP級を最先順序とする。処遇分類級は,前掲のものについて,処遇上必要があると認められる順序で1以上を決定し,かつ,この順序で表示される。
 更に,これらの分類級については,それぞれの級別に対応した適切な処遇を推進するため,収容分類級別処遇基準及び処遇分類級別処遇基準が定められ,受刑者の処遇は,分類級ごとに指定された重視すべき処遇重点事項及び特に重視すべき処遇重点事項に基づいて行われる。なお,受刑者の分類級に対応して施設の収容区分が定められているが,昭和48年末現在の分類級別施設数は,II-59表に示すとおりである。

II-59表 分類級別施設数(昭和48年12月31日現在)

 次に,昭和48年末現在における収容分類級別人員ど構成比は,II-60表のとおりである。総人員3万8,854人のうち,B級受刑者が1万7,208人(44.3%)と4割強を占めており,次に多いのが,Y級の7,792人(20.1%)で,以下,A級の16.0%,L級の7.7%,I級の2.6%,W級の2.1%,M級の1.4%,P級の1.2%の順で,外国人と少年は,1%に満たず,少数にとどまっている。B級は,YB級と合わせて過半数(54.7%)を占め,行刑処遇の困難さを示している。また,処遇分類級別人員は,総判定人員3万6,658人のうち,G級が2万3,908人(65.2%)と3分の2近くを占めている。N級の6,865人(18.7%)がこれに次ぎ,以下,V級の4.5%,S級の4.3%,T級の3.4%,O級の2.2%,E級の1.6%の順となっている。G級の主力は,前記B,YB級であり,行刑処遇の中で生活指導の重要性が示されている。

II-60表 受刑者の収容分類級別人員と比率(昭和48年12月31日現在)

 分類制度は,このように収容分類級によって,収容施設を定め,更に,処遇分類級に基づいて,適切な内容の処遇を施すことを目的としている。
 例えば,業務上(重)過失致死傷による禁錮受刑者(I級)に対しては,交通事犯禁錮受刑者の集禁施設が設けられ,特別の処遇が行われている(第3編第3章第4節参照)。
 また,26歳未満の成人(Y級)については,その犯罪傾向の進度により,YA級及びYB級に区分し,それぞれについて設けられた収容施設において,その特性に応じた処遇が行われている。
 旧制度では,若年成人の収容分類級は,成人男子中性格がおおむね正常で改善容易と思われる者(旧A級)についてだけ定められ,この旧A級のうち25歳未満の者(旧G級)及び旧G級のうちおおむね23歳未満で特に少年に準じて処遇する必要のある者(旧E級)の2種が若年成人の収容分類級とされ,年長受刑者とは別個の施設又は施設内の区画された場所に収容されていたにすぎず,若年成人男子でも,性格がおおむね準正常で改善困難と思われる者(旧B級)は,年長の旧B級受刑者とともに同一施設に集禁されていた。
 新制度では,若年成人の収容分類級は,「26歳未満の成人」(Y級)とされ,また,同時に,旧制度の「改善の難易」に代えて,「犯罪傾向の進度」が独自の収容分類級とされているので,26歳未満の成人(Y級)は,すべて,YA級及びYB級に区分され,それぞれ,年長受刑者とは別個の施設又は同一施設内の区画された場所に収容されることとなり,その特性を十分考慮した処遇が行われることとなっている。また,これに伴い,年齢が20歳を超えたことによりY級に分類級が変更された場合においても,残刑期が短いことその他特別の事由があるときには,同一のJ級施設において,26歳まで収容を継続することが認められている。この年齢超過の場合の同一施設における収容継続は,Y級であった者については,26歳以上30歳まで認められている。
 なお,J級受刑者は,現在,その絶対数が少ないので,執行刑期が3月未満である等の理由により他の分類級施設に例外的に収容される場合を除き,通常,II-59表に示すとおり,Y級と同一施設の区画された場所に収容されていて,その心身発達段階を十分に考慮した所定の処遇が行われている(第3編第1章第6節参照)。
 更に,心身に障害のある受刑者に対しては,その障害をできるだけ治療ないし緩和し,心身ともに健康な状態で社会に復帰させるため,医療を中心とした矯正処遇を行う特殊刑務所として,医療刑務所が設けられている。全国で,八王子(東京都),岡崎(愛知県),城野(北九州市)の本所3施設と,大阪(堺市―昭和49年3月開設―),菊池(熊本県)の支所2施設とが設置されている。その収容区分及び処遇内容についてみると,まず,八王子医療刑務所及び大阪医療刑務支所では,精神障害者に対しての医療的処遇と,手術的処置若しくは専門的治療を必要とする結核その他の疾患に対しての治療とが行われている。また,岡崎医療刑務所及び城野医療刑務所では,それぞれ,M級に対する医療的処遇が,菊池医療刑務支所では,我が国唯一のらい患受刑者の施設として(受送の範囲は全国で,女子も収容する。),らい患者に対する治療が進められている。
 これら医療刑務所の収容力には,目下のところ限度があるので,これを補完する意味で,できる限り心身障害者を医療設備並びに技術者の充実した施設に集めて治療を図る考慮が必要となる。
 このため,おおむね各矯正管区ごとに1施設ずつ医療重点施設が指定されている。名古屋,広島,福岡,宮城,札幌の5施設がそれで,これらの施設に前記の八王子,岡崎,城野の各医療刑務所及び大阪医療刑務支所を加えた全国9施設が,それぞれの管区における総合病院的な機能を有する治療センターとして医療活動を行っている。

(3) 累進処遇

 累進処遇は,処遇階級を4階級に分け,責任の加重と自由制限の緩和とを通じて,受刑者の自発的な改善への努力を促進し,その行刑成績に従って,最下級(4級)から最上級(1級)へと段階的に漸次処遇を向上させ,社会生活に近づけ,それによって,社会適応化を図ろうとする組織的教育的処遇方法である。我が国の刑務所では,早くから各種の段階的処遇が試みられていたが,これが全国的に統一され実施に移されたのは,行刑累進処遇令が施行された昭和9年1月1日以降のことである。
 行刑累進処遇令は,その第1条に目的を規定し,受刑者が自己の責任を認め,自発的な向上の意思によって,自己形成を行うよう奨励することをめざしており,その基本は,受刑者の自主性,主体性に訴えようとしているものである。
 本令には,累進階級に応じた処遇差が設けられている。例えば,作業賞与金で購入できる自己用途物品の許可範囲,接見及び発信の制限などが上級に進むに従って緩和される。また,受刑者の自治に基づく矯正処遇は,おおむね上級者において許される。
 本令は,懲役受刑者にのみ適用されるものであるが,近年禁錮受刑者が増加し,その大部分が請願による作業についているので,禁錮受刑者についても,累進処遇に準ずる取扱がなされている。
 累進処遇制度は,第1次大戦から第2次大戦の間,世界的に,受刑者の処遇に取り入れられた画期的なものであったが,第2次大戦後における社会思潮や矯正理論の発展等に伴って,受刑者処遇の最低基準に関する一般的な考え方が変わり,また,分類制度も発達してきたため,累進処遇のあり方についても,新しい見地から再検討が加えられている。

(4) 教育活動

 受刑者に対する教育活動は,入所時及び出所時教育,生活指導,教科教育,通信教育,篤志面接委員による助言指導,体育及びレクリエーション指導などの形で行われており,教育活動の実施に当たっては,ラジオ,テレビ,映画,ビデオ・テープレコーダー等の視聴覚教育の方法が活用されている。
 入所時教育は,新たに入所した受刑者に対して,施設における矯正活動の目的と実際を理解させ,その精神的な安定を図るとともに,犯罪を行うに至った真の原因を認識させ,更生の意欲を喚起させることにより,有意義な収容生活を送らせることを目的として行われる。その主たる内容は,犯罪に対する責任の自覚,受刑の心構え,施設の機構,所内規則,処遇の概要,保護関係の調整,釈放後の生活設計等の教示及び指導にある。
 出所時教育は,矯正教育の仕上げとして,復帰する社会事情を説示し,出所に関する諸手続並びに更生援護,職業安定及び民生福祉などの各事業の内容と,これを受ける方法とを知らせ,釈放後の生活設計に関して助言・指導し,また,出所に当たっての心身の調整を行うことなどを目標に,出所前に行われる。
 生活指導は,矯正教育の基幹をなすもので,受刑者の自覚に訴え,規則正しい生活及び勤労の精神を養い,共同生活を円満に営み得るような態度,習慣,知識,技術等を養おうとするものである。このような見地から,受刑者の日常生活を通じて,しつけ教育,規律訓練,一般講演,読書指導,社会見学,クラブ活動,集会,委員会活動(給食,図書,放送等)などを行うとともに,個別又は集団カウンセリングが,また,施設によっては内観が実施されている。この種の教育活動は,受刑者の日常生活を通して,又は,平日の夜間,土曜日の午後,休日などに行われ,その指導には,施設職員のみでなく民間の学識経験者が招へいされてこれに当たっている。特に,昭和48年4月1日からは,受刑者の作業時間が1週48時間から1週44時間に短縮されたことに伴い,余暇時間が増大したので,この活用がレクリエーションその他の行事の実施と併せて工夫されている。
 教科教育については,義務教育未修了者に対して,特に必要と認めるときは必要な課程を履習させるほか,義務教育修了者中にも学力の著しく低い者が少なくないので,これらの者に対して,国語,数学等基礎的教科が補習教育として行われている(J級受刑者については,第3編第1章第6節参照)。なお,職業指導の一環としても,珠算,簿記等の資格を取得できる科目についての指導が行われている。昭和48年中の年間の教科教育履習人員は,II-61表のとおりである。

II-61表 学歴別教科教育履習人員(昭和48年)

 また,通信教育は,昭和24年以来実施され,学校通信教育と社会通信教育を主として,受刑者に教育の機会を与えている。受刑者には,受講料を国費で賄う公費生と,これを自弁する私費生とがあるが,受講生の多い講座名は,書道,ぺン習字,簿記,事務,自動車,英語,電気・無線,建築,高校講座等となっている。
 篤志面接委員制度は,個々の受刑者が抱いている精神的な悩みや,家庭,職業,将来の生活設計などをめぐる問題につき,民間の学識経験者の助言指導を求めて,その解決を図ろうとするもので,昭和28年実施以来,逐年活発化し,施設の処遇に定着して,かなりの成果を収めている。48年末現在の篤志面接委員数は,II-62表のとおり,1,001人で,その面接回数は,48年中,集団に対するもの4,494回,個人に対するもの4,982回で,委員1人当たり来訪回数は6.8回,面接回数は9.5回となっており,その面接の内容別内訳はII-63表のとおりである。

II-62表 篤志面接委員数(昭和48年12月31日現在)

II-63表 篤志面接相談内容別実施状況(昭和48年)

 また,信仰を有する者,宗教を求める者及び宗教的関心を有する者のために,民間の篤志宗教家(教誨師と呼ばれる。)による宗教教誨を受ける場が与えられている。
 このような宗教教誨は,受刑者がその希望する教義に従って,信仰心を高めあるいは培い,徳性を陶やし,進んで更生の契機を得ることに役立たせようとするものである。死刑及び無期囚に対する宗教教誨は,特に優れた業績を挙げている。昭和48年末現在における教誨師の数は1,317人で,各宗各派に属している。48年中における宗教教誨実施状況は,II-64表のとおりである。

II-64表 宗派別宗教教誨実施状況(昭和48年)

(5) 刑務作業及び職業訓練

 刑務作業とは,刑務所及び拘置所において,収容者の労務によって営まれる作業をいう。刑法上定役に服すべき懲役受刑者の作業がその主なものであるが,このほか,これに準じて施行される労役場留置者の強制作業と,法律上は作業を強制されない禁錮受刑者,拘留受刑者,未決拘禁者などの請願作業とがある。
 刑務作業の運営は,受刑者の釈放後の生活を勘案して必要な職業訓練を行うこと,受刑者の勤労精神をかん養するとともに,その労働生産性を一般社会のそれに近づけることなどを基調として行われる。受刑者分類規程によれば,処遇分類級ごとにそれぞれ数種の処遇項目が定められ,各処遇項目別に,重視すべき処遇重点事項及び特に重視すべき処遇重点事項が指定されているので,受刑者各人に対する作業賦課又は職業訓練の決定及び実施には,これらの基準が参酌され,本人に最も適した内容の処遇が行われている。現在,特に,少年,若年成人及びA級受刑者を対象として,全国5か所(中野,川越,奈良,山口,函館)に総合職業訓練施設を設け,また,矯正管区ごとに施設を特定して,特定種目の集合職業訓練を行うなど,計画的,組織的運営に努めている。なお,作業時間は,従来,1日につき8時間,1週につき48時間とされてきたが,昭和48年4月1日から,1日こつき8時間,土曜日は4時間とし,1週につき44時間と改正された。これは,産業界における労働時間短縮化の傾向にかんがみ,併せて保安勤務職員の勤務条件の改善を図る趣旨に基づくもので,作業能率の向上等,いっそう密度の濃い刑務作業の運営が望まれている。

ア 作業の概況

 昭和48年末現在における刑務作業の就業率をみると,懲役受刑者は91.8%,禁錮受刑者は90.5%,未決拘禁者は2.8%,労役場留置者は86.3%である。懲役受刑者に不就業者がいるのは,分類調査,疾病等の理由による。
 刑務作業の業態は,物品製作(作業の実施に必要な経費,材料,労務のすべてを国が負担して行う作業),委託加工及び修繕(作業の実施に必要な経費及び労務を国が負担し,委託者から材料の提供を受けて行う作業。以下,「加工修繕」という。),労務提供(作業の実施に必要な経費及び材料を委託者が負担し,国が労務の提供を行う作業),経理並びに営繕の5種である。経理及び営繕を除いたもの(以下,「生産作業」という。)の,昭和47年度における就業延べ人員は,II-65表のとおり,約858万人で,前年に比べて21万人余(前年比で2.6%)の増加となっている。増加の主な理由は,収容人員の増によるものである。業態別の就業延べ人員の比率についてみると,労務提供が53.8%で最も多く,次いで,加工修繕の27.5%,物品製作の18.7%の順である。この順位は,43年度に従来3位であった加工修繕が2位の物品製作を追い抜いて以来,年々変わっていない。

II-65表 生産作業支出額・収入額・調定額と業態別生産額・就業延べ人員(昭和47年度)

 同表により,昭和47年度の年間生産額についてみると,総額は88億円を超え,前年より約7億3,000万円の増加である。業態別には,物品製作が約34億3,000万円で最も多く,総生産額の38.8%を占めており,次いで,労務提供の約32億9,000万円の37.2%,加工修繕の約21億3,000万円の24.0%となっている。前年に比べ,物品製作で9.2%の増,加工修繕で4.0%の減,労務提供で19.1%の増となっており,前年度まで,逐年,労務提供及び加工修繕の構成比は著しい上昇をみせてきたが,47年度は加工修繕の構成比が前年に比べてやや低下している。
 次に,昭和47年度における刑務作業のための支出額,生産額及び就業延べ人員を業種別にみたのが,II-66表である。これによると,就業延べ人員では経理夫が19.8%で最も多く,生産作業では,金属作業が19.3%で最も多く,以下,紙細工の12.7%,洋裁の8.8%,木工の7.4%,印刷の7.1%の順となっていて,近年,この順位は変わっていない。生産額の点からみると,金属が最も多く,26.9%(前年より3.0億円増)を占め,以下,木工の23.5%(同1.6億円増),印刷の15.2%(同1.3億円増),洋裁の10.2%(同1.1億円増)の順となっている。

II-66表 業種別支出額・生産額と就業延べ人員(昭和47年度)

 近年,刑務作業においては,いわゆる作業の体質改善による生産性の向上が図られている。II-67表は,作業収入と作業の実施に必要な作業費の関係の累年比較であるが,昭和47年度において,作業収入は,作業費の309%であり,作業費の回収率は次第に伸びている。

II-67表 作業費回収率の累年比較(昭和43年度〜47年度)

 なお,刑務作業の運営につき留意すべき点は,安全管理及び安全教育の徹底についてである。国は収容者に対し,安全で健康的な労働条件を与える義務がある。したがって,その安全管理には,機械設備の安全化,作業標準の設定,点検基準の確立等につき,常に,細心の注意が払われているが,特に,昭和48年度においては,災害防止が矯正行政における重点施策の一つとして取り上げられ,強力な安全対策が推進された。II-68表は,最近4か年における作業災害件数である。48年は,重傷(45年を100とした指数で74)及び中等傷(同じく57)が著しく減少しており,努力の成果がうかがわれる。また,II-69表は,作業災害の度数率及び災害の重篤度を示す強度率を一般企業との比較においてみたものである。刑務作業は,各業種とも極めて低率で,災害が少なく,また,生じた災害も軽度のものが多いことを示している。

II-68表 刑務作業災害件数(昭和45年〜48年)

II-69表 刑務作業災害の度数率と強度率(昭和48年)

 これら刑務作業のうち,生産作業部門の事故が減少したことにもかんがみ,他の経理及び営繕作業部門の事故防止につき,いっそう充実した安全管理体制の確立が必要視されてきている。また,このほか,昭和47年に労働安全衛生法,同法施行令,労働安全衛生規則等一連の労働安全衛生法規が整備されたことに伴い,これに即応した新しい刑務作業安全要綱の制定(現行の「要綱」は,36年に制定された。)が望まれており,その抜本的な改正について目下検討が加えられている。

イ 職業訓練

 受刑者の職業訓練については,昭和31年に受刑者職業訓練規則を設け,33年に職業訓練法が施行されてからは,訓練の時間及び内容をこれに近づけ,適格者には,できるだけ実施するよう努力がなされている。なお,44年に職業訓練法が全面改正されたが,受刑者の職業訓練も,この法律の趣旨に沿っていっそう充実されることとなった。
 昭和48年末現在の職業訓練の実施状況は,II-70表に示すとおりである。実施人員は1,195人(同年末現在受刑者の3.1%)で,木工,建築,自動車整備,機械,理容,左官,溶接など約30種目について実施されている。また,総合職業訓練施設に指定された刑務所において訓練を修了した者は,労働省職業訓練局長から職業訓練履修証明書の交付を受けているが,48年度における同証明書の受領者数は,II-71表のとおり,総数で265人である。

II-70表 職業訓練種目別人員(昭和48年12月31日現在)

II-71表 労働省職業訓練局長履修証明書受領者数(昭和48年度)

 次に,昭和48年度における国家試験その他の資格又は免許の取得状況は,II-72表のとおりで,受験者数1,605人に対して,合格者数は1,305人で,合格率は81.3%である。

II-72表 資格又は免許の取得状況(昭和48年度)

ウ 構外作業

 行刑の目的は,受刑者に対し社会生活に適応する能力を与えて更生復帰させることであるが,刑務所の閉鎖的な環境では,この目的の達成には不適当な点が少なくないので,適格受刑者をより自然な自由社会の環境に近づける試みとして,いわゆる半開放又は開放的な施設である構外作業場が運営されている。この構外作業については,同時に,設備費の軽減,作業収入の高額確保など国家財政上に果たす役割を看過することができない。構外作業場では,物的戒護も緩和され,生活環境は刑務所内より一段と社会に近づけられており,一般の事業所等において作業を実施しているものもある。代表的なものに大井造船作業場(松山),各務原作業場(岐阜),神戸鉄工団地作業場(加古川),いずみ寮(和歌山),有井作業場(尾道)などが挙げられ,そのほか,構外作業というよりは,開放的処遇のもとでの職業訓練に重点を置いたものとして,最上農業学園(山形),鱒川酪農伝習所(函館)などがあり,また,本格的な開放施設として,喜連川農業土木学園(黒羽),霧島農場(鹿児島)がある。昭和48年末現在の出業者は654人で,全就業人員の1.8%に当たっている。

エ 作業賞与金

 刑務作業に従事した者には,作業賞与金が支給される。これは,就業に対する反対給付であるが,その性格は,賃金と異なり,恩恵的なものと解されている。作業賞与金は,作業の種類,就業条件,作業成績,行状等を考慮して,一定の基準のもとに計算し,作業賞与金計算高として,毎月就業者本人に告知されている。昭和47年における計算高の1人平均月額は,1,191円である。この賞与金は,原則として,釈放時に給与される。II-73表は,釈放受刑者の作業賞与金給与額別人員とその比率を示したもので,釈放時作業賞与金が1万円を超える金額の給与を受ける者の比率は,毎年,基準額(作業賞与金の計算のための基準となる就業時間1時間当たりの金額)が増額されていることもあり,逐年増加してきている。

II-73表 釈放受刑者の作業賞与金給与額別人員と比率(昭和45年〜48年)

オ 自己労作

 懲役受刑者は,定役としての作業のほか,累進処遇1級者及び2級者で,技能が特に優秀であり,作業成績の優良な者には,作業時間終了後1日2時間以内,自己のためにする労作が許されており,その収益金は本人の収入となる。昭和49年1月末現在では,全国で844人が従事し,1人1月平均2,458円の収入を得ている。なお,49年7月以後は,自己労作の許可される対象者の範囲が拡大され,すべての懲役受刑者につき,行状及び作業成績が優良で,かつ,処遇上害がないと認められる場合には,許可されることとなり,併せて,禁錮受刑者についても,行状が優良で,かつ,処遇上害がないと認められる場合には,同様に,許可されることと改正されている。

(6) 給養

 日常生活の必需物資である衣類,寝具,日用品,食糧などは,受刑者には給貸与されるが,これらのものの管理には,科学的な配慮がなされている。衣類や寝具については,保温,衛生,経済性,体裁などを考慮して,使用材質,形式,貸与数量などが定められ,また,日用品のちり紙,歯みがき,石けん,香油などは,官給を建前として,給与基準が定められている。これらの日用品については,官給品を使用することができるほか,官給品に代えて,[1]自己用途物品(作業賞与金による購入にかかるもの),並びに[2]自弁(携有若しくは領置金による購入にかかるもの)又は差入(第三者が収容者にあてて直接刑務所に持参し,又は小包郵便その他の方法により送付したもの)による物品の使用が許可されている。このように,国から給与又は貸与される物品に代えて個人入手が許可される物品には,日用品のほかに,筆記用具,学習用具,作業用具,通信用具,下着類,菓子及び果物類,書画・草花などの室内装飾品,鏡などの室内調度品等があり,品目総数は70余種に及んでおり,各品目ごとにそれぞれ許可基準が定められている。
 更に,給食については,健康管理上,最も重視され,主食偏重の是正など,その改善に努力が払われている。
 主食は,原則として米麦混合であり,重量比で米5・麦5とされており,性別,年齢,従事する作業の強度によって,1等食(1日3,000カロリー),2等食(2,700カロリー),3等食(2,400カロリー),4等食(2,000カロリー),及び5等食(1,800カロリー)の5等級に分けて給与されている。
 副食については,1日600カロリーを下らないように努めることが要求されており,1日の副食費は,昭和48年度は受刑者1人1日当たり69.96円(少年刑務所では81.78円)である。なお,このほか,食生活を国民一般の慣習に近づけるため,正月用特別菜代として1人1日当たり100円(1月1日,2日及び3日の3か日間,計300円)並びに祝祭日菜代及び誕生日菜代として各1人1日当たり25円が,それぞれ副食費に計上されている。
 また,治療食を必要とする結核等の患者には,一般の副食費のほかに,特別の副食費が増額されることになっている。このほか,結核等以外の患者や妊産婦等に対しては,医師の意見に基づき特別の栄養食品を給することができ,更に,延長作業又は特殊な構外作業に従事する者には,若干の加給食が給与される。給食の調理方法,温食給与の方法などについても,種々の工夫が加えられている。

(7) 医療及び衛生

 昭和48年中における休養患者(医師の診療を受けた収容者のうち,医療上の必要により病室又はこれに代わる室に収容して治療を受けさせるものをいう。)の数は,II-74表のとおりである。総数は1万5,857人で,前年から繰り越した者が2,605人(16.4%)及び本年新たに発病した者が1万3,252人(83.6%)となっている。

II-74表 休養患者の発病時期・転帰事由別人員と比率(昭和48年)

 次に,昭和48年の休養患者について主要な傷病別にみると,呼吸器系の疾患は46.5%で,休養患者中最も多く,次いで,循環器系疾患の10.1%,伝染病及び寄生虫病の7.2%,筋骨格系及び結合織疾患の5.6%,消化器系疾患の5.2%,皮膚及び皮下組織疾患の4.2%,精神障害の3.8%,その他の順とっており,このほか,不慮の事故・中毒及び暴力によるものは11.2%である。
 また,昭和48年の休養患者について転帰事由別に百分比によって示すと,治ゆ又は軽快が75.9%,病死が0.4%,変死が0.1%,被告人・受刑者等に異動が2.2%,執行停止出所が1.2%,その他未治の出所が8.9%,後遺(48年末現在において未治ゆのものをいう。)が11.3%となっている。
 刑務所の衛生管理上,最も注意を要するのは,伝染病殊に消化器系伝染病の発生である。この予防のため,地区ごとに指定された全国48施設の防疫センター及び保健所等が,収容者について入所時や移送時に,給食担当者等について随時に,検便その他の検査を行っているほか,水質検査,所内外の消毒など環境衛生についても配慮している。
 なお,一般社会の病院・診療所においても医療専門職員の不足が問題となっているように,矯正施設においても,医療専門職員の充足が困難な事情にあるので,その対策の一環として,医師については,昭和36年から貸費生の制度を設け,また,看護士(婦)については,41年から八王子医療刑務所に准看護士(婦)養成所を設け,その養成に当たっている。49年3月末現在,開設以来同所を卒業した准看護士(婦)の総数は131人である。

(8) 保安

 刑務所及び拘置所における矯正のための他の機能が十分行われるようにするため,施設の安全と秩序を維持する業務を保安というが,その業務の遂行には多大の困難が伴う。
 昭和20年以後の異常な過剰収容下における戦後の保安は,施設内の食糧事情の悪化等と相まって,暴動,逃走,職員殺傷等,悪質事故が多発したが,25年を頂点として過剰拘禁が漸次緩和され,また,戦後の種々の不備な点もようやく補完されて,最近における保安状況は,一応安定した状態を示しているといえる。
 ただ,近年,行刑施設の収容人員は減少してきたにもかかわらず,収容人員中に占める殺人,強姦,放火等の凶悪犯罪者の比率は非常に高くなっている。また,暴力団関係者も,昭和48年12月末現在で,受刑者について全体の約20%,未決拘禁者について全体の約17%を占めるなど処遇困難な者が増大している。これら凶悪犯や暴力団関係者を含め,受刑者の中には,精神障害者が多く,収容人員の減少に比べてみれば,職員殺傷,同僚殺傷の事故は,必ずしも減少しているとはいえない。48年4月には,高知刑務所で職員殺害事件が発生している。同事件は,殺人未遂・強盗で,同所木工場に服役中の受刑者が,作業中,職員から注意されたことに憤激逆上し,作業用角のみで同職員を刺殺したもので,前年7月下旬,大阪拘置所で起きた職員(2名)に対する殺傷事件(犯人は精神障害者であった。)に続く,職員殺害事件であり,このような凶悪犯罪者又は処遇困難者に対する処遇対策は,保安上大きな問題となっている。最近3年間における事故件数は,II-75表のとおりで,48年は,前年に続いて,事故発生総件数が,わずかながら増加している。また,II-76表は,最近3年間の各年12月20日現在における受刑者について,集団処遇の難易の度合別に百分比を示したものである。48年においては,受刑者総数の減少にもかかわらず,処遇困難と認められる者が実人員及び百分比ともに前年よりもやや増加しているのが目につく。

II-75表 行刑施設事故発生状況(昭和46年〜48年)

II-76表 受刑者集団処遇難易別人員(昭和46年〜48年の各年12月20日現在)

 次に,刑事事件として起訴された収容者数は,II-77表のとおりで,昭和48年においては,受刑者192人,その他の収容者36人であり,前年に比べ,受刑者では39人減少し,その他の収容者では12人増加している。起訴罪名は例年とも傷害が最も多い。

II-77表 在所中の行為により起訴された収容者数(昭和46年〜48年)

 なお,施設の安全と秩序を維持するため,法令及びその範囲内において,各施設で所内規則が定められている。受刑者で所内規則に違反し(反則という。)懲罰を受けた者の数は,昭和48年においては,延べ3万787人である。II-78表は,最近3年間における受刑者の受罰人員をその事犯別にみたものであるが,48年において,最も多いものは収容者に対する暴行(受罰人員総数の16.0%)で,抗命(13.9%),物品不法所持・授受等(11.7%)がこれに次いでいる。

II-78表 受刑者懲罰事犯別受罰人員(昭和46年〜48年)

 これらの懲罰事犯に対しては,軽へい禁(2か月以内の期間,独居房に収容して,必要と認める場合のほか,その室から出さないで反省させる方法),文書・図画閲読禁止,作業賞与金計算高減削など,監獄法に規定されている懲罰が科せられる。II-79表は,昭和48年における懲罰の種類別受罰人員及びその構成比を示したものである。受刑者について最も多いものは,文書・図画閲読禁止であり,次は,軽へい禁で,この二つの懲罰は,併科されることが多い。運動の停止,減食等が科せられることは極めてまれである。

II-79表 懲罰の種類別受罰人員(昭和48年)

 このような懲罰事犯は,精神病質的傾向を有する者や暴力団関係者などにみられる集団処遇困難者によって繰り返されることが多く,この種収容者の増加とともに,保安業務遂行上の困難は一層増大する傾向にある。
 そこで,施設内での事犯発生を抑止する対策の一環として,集団処遇困難者については,医療刑務所への移送又は治療的処遇計画による再適応工場若しくは設備での処遇を施し,また,暴力団関係収容者については,ややもすると,所内で結合して職員を威圧しあるいは他の集団と対抗反目して重大事故を招きやすいので,これを分散移送するほか,関係機関とも緊密な連係を図るなど適正な業務の遂行を期している。