前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和48年版 犯罪白書 第2編/第2章/第1節/2 

2 受刑者の処遇

(1) 受刑者処遇の基本原則

 受刑者処遇の目標は,単に,刑罰の執行にとどまるものではなく,できる限り,受刑者の改善及び社会復帰を図ろうとすることにある。改正刑法草案(昭和47年)もこのことを明らかにし,刑の適用の目的を,「犯罪の抑制及び犯人の改善更生に役立つこと」に置き,行刑上の処遇は,「できるだけ受刑者の個性に応じて,その改善更生をはかるものとする」としている(同草案47条,48条2項参照)。
 法務省当局は,従前から,上記のような受刑者の処遇を目指して,現行監獄法,同法施行規則の弾力的運用を図り,行刑累進処遇令,受刑者分類調査要綱,受刑者職業訓練規則などの法令を整備してきた。殊に,監獄法施行規則の改正をしばしば行い,昭和41年には,相当大規模な改正を行って,42年1月1日からこれを施行した。しかしながら,収容者の法的地位を明確にすると同時に,矯正処遇の徹底,更生復帰の促進を図るためには,処遇の基本法である監獄法を新しい見地から構成し直す必要があり,法務省矯正局においては,42年7月から監獄法の調査,検討を開始し,同法改正のための草案作成の作業を進めており,現在なお検討が続けられている。
 次に,処遇関係規則の改正としては,近時,受刑者の処遇内容が進展し,分類処遇の充実がいっそう必要視されてきた実情にかんがみ,昭和47年に従前の受刑者分類調査要綱に代えて,新たに受刑者分類規程が制定され,同年7月1日から施行された。その主たる特色は,[1]各矯正管区の管轄区域ごとに特別の設備を設けた施設を分類センターに指定したこと,[2]入所時調査は,刑の確定による入所後おおむね2月以内に行うこと,[3]収容分類級の符号をほぼ全面的に改正し,処遇分類級を新設したこと等に要約され,これにより,科学的な分類調査に基づく計画的な処遇がいっそう推進されることになった。

(2) 分類

ア 分類調査

 新たに刑務所に入所した受刑者に対しては,入所時に,個々の受刑者について科学的な調査を行い,それぞれの持つ問題と資質との関係を明らかにして,本人に最もふさわしい処遇計画を立てることを目的とする分類調査が行われている。
 分類調査は,医学,心理学,教育学,社会学等の専門的知識及び技術をできるだけ活用して行われるもので,犯罪の内容,生活史,心身の特質,家庭状況,近隣関係及び所属集団などの資料のほか,施設収容の経験のある者については,その関係の記録が用いられる。この分類調査においては,以上の資料を総合して,受刑者の個性をは握し,保安,作業,教育その他の処遇方針を具体的に立てることになる。
 入所時分類調査の期間は,従来,一般の刑務所では15日程度,また,昭和32年に中野刑務所に設けられた分類センターでは約2か月間,更に,38年以来各矯正管区に1か所ずつ設けられた分類業務充実施設では,約45日間が当てられていた。
 昭和47年7月1日以降は,[1]分類センターに収容する者(執行刑期が1年以上で,かつ,施設において刑の執行を受けたことのない26歳未満の男子。ただし,F級(外国人)に分類されることが明らかな者を除く。)については,分類センターにおいておおむね55日,処遇施設においておおむね5日,[2]分類センターに収容しない者については,確定施設においておおむね10日,処遇施設においておおむね20日と,それぞれ入所時分類調査の期間が改められた。これに伴い,入所時調査期間中,分類調査に並行して,次の区分に従い,重点的な処遇が行われることとなった。
 まず,分類センターに収容する受刑者に対しては,[1]同センターにおける調査期間の前期(おおむね15日間)に,施設適応及び分類調査のためのオリエンテーションを,中期(おおむね30日間)に,適性発見のための作業及び規律訓練を,後期(おおむね10日間)に,心情相談並びに自発的に更生する意欲を持たせるため及び移送のためのオリエンテーションを,それぞれ行い,[2]処遇施設においては,施設適応のためのオリエンテーション及び規律訓練を実施することとなった。
 次に,分類センターに収容しない受刑者に対しては,[1]確定施設において,分類調査のため及び移送のためのオリエンテーションを,また,[2]処遇施設において,心情相談及び規律訓練並びに施設適応のため及び自発的に更生する意欲を持たせるためのオリエンテーションを,それぞれ実施することとなった。
 このほか,分類センターには,精神状況又は行動の異常性が著しく,特に専門的な精密調査を必要と認める受刑者を集めて収容し,再調査を行うことにより,適正な処遇に資するための精密な分類調査の達成を期している。

イ 分類処遇

 受刑者は,分類調査の結果に基づいて,それぞれ適正な分類級に判定され,当該分類級に対応する所定の刑務所,又は同一刑務所内の区画された場所に収容される。これによって,同質の受刑者を1つのグループにまとめ,共通の処遇条件を樹立し,その上に立った処遇を行うことができる。このような分類処遇には,個別的処遇をより効率的に行うことができるのみならず,処遇設備を集約的に整備できるという利点がある。なお,処遇の経過中,定期及び臨時に,再調査を行い,必要に応じて本人の分類級の変更が行われる。
 新たに制定された受刑者分類規程によれば,受刑者の分類級は,収容分類級及び処遇分類級に二大別される。収容分類級は,[1]性,国籍,刑名,年齢及び刑期により,W級(女子),F級(日本人と異なる処遇を必要とする外国人),I級(禁錮に処せられた者),J級(少年),L級(執行刑期8年以上の者),Y級(26歳未満の成人)の6種に,[2]犯罪傾向の進度により,A級(犯罪傾向の進んでいない者),B級(犯罪傾向の進んでいる者)の2種に,[3]精神障害又は身体上の疾患若しくは障害により,M級(精神障害者),P級(身体上の疾患又は障害のある者)の2種にそれぞれ区分され,更に,M級は,Mx級(精神薄弱者(知能障害のため社会生活上著しい支障がある者)及びこれに準じて処遇する必要のある者),My級(精神病質者(狭義の精神病は認められないが,性格上の偏りが大であるため,社会生活上著しい支障がある者)及び精神病質傾向が相当程度認められる者),Mz級(精神病者(精神分裂病,そううつ病等の狭義の精神病にかかっている者),精神病の疑いが相当程度認められる者及び強度の神経症にかかっている者並びに拘禁性反応,薬物による中毒症(強度の薬物依存を含む。)若しくはアルコールによる中毒症又はその後遺症が著しく認められる者)の3種に,また,P級は,Px級(身体上の疾患又は妊娠若しくは出産のため,相当期間の医療又は養護の必要のある者),Py級(身体障害のため,特別な処遇を必要と認められる者及び盲ろうあ者),Pz級(年齢がおおむね60歳以上で老衰現象が相当程度認められる者及び身体虚弱のため特別な処遇を必要と認められる者)の3種に,それぞれ細分される。更に,処遇分類級は,[1]重点とする処遇内容により,V級(職業訓練を必要とする者),E級・(教科教育を必要とする者),G級(生活指導を必要とする者),T級(専門的治療処遇を必要とする者),S級(特別な養護的処遇を必要とする者)の5種に,[2]その他の処遇分類級として,O級(開放的処遇が適当と認められる者),N級(経理作業に適格と認められる者)の2種に,それぞれ区分される。 このほか,受刑者分類規程の制定に伴い,それぞれの分類級に対応した適切な処遇を推進するため,収容分類級別処遇基準及び処遇分類級別処遇基準が定められ,重視すべき処遇重点事項が統一的,体系的に明示された。
 昭和47年末現在における収容分類級別人員と構成比は,II-62表のとおりである。総人員4万426人のうち,B級受刑者が1万6,976人(42.0%)と4割強を占めており,次に多いのが,Y級の9,455人(23.4%)で,以下,A級の14.8%,L級の7.6%,I級の3.0%,W級の2.0%,M級の1.5%,P級の1.4%,J級の0.3%,F級の0.1%の順で,このほか,未分類が3.9%となっている。また,処遇分類級別人員は,総判定人員3万5,360人のうち,G級が2万2,147人(62.6%)と過半数を占めている。N級の6,655人(18.8%)がこれに次ぎ,以下,V級の4.9%,S級の4.4%,T級の3.6%,E級の3.1%,O級の2.5%の順となっている。

II-62表 受刑者の収容分類級別人員と比率(昭和47年12月31日現在)

 分類制度は,このように収容分類級によって,収容施設を定め,更に,処遇分類級に基づいて,適切な内容の処遇を施すことを目的としている。
 例えば,女子受刑者(W級)については,栃木,和歌山,笠松,麓の4刑務所と,札幌刑務所の女区とに収容されている。妊産婦(妊娠5か月以上産後2か月以内)は病人に準じて取り扱い,その子を満1歳に達するまで施設内で保育しうるなど,特別の考慮が払われているほか,処遇全般にわたって,女子の特性に応じた処遇が行われている。
 また,業務上(重)過失致死傷による禁錮受刑者(I級)に対しては,交通事犯禁錮受刑者の集禁施設が設けられ,特別の処遇が行われている(第3編第3章第4節参照)。
 更に,少年受刑者(J級)については,後述のように,少年刑務所が設けられ,その特性に応じた処遇が行われている(第3編第1章第6節参照)。
 なお,病気にかかった者については,医師が治療に当たり,必要がある場合には病室に収容するが,心身に著しい故障があって,重大な手術,継続的な治療あるいは特別な治療的処遇を必要とする者は,医療刑務所に収容して,疾患に応じた専門的治療が行われている。例えば,八王子医療刑務所では,痴愚級以下の精神薄弱者に対する治療的処遇と,手術的処置又は専門的治療を必要とする結核その他の疾患に対する治療が,岡崎医療刑務所及び城野医療刑務所では,精神障害者に対する医療的処遇が,菊池医療刑務支所では,らい患者に対する治療が,それぞれ行われている。

(3) 累進処遇

 累進処遇とは,受刑者の自発的な改善への努力を責任の加重と処遇の緩和とを通じて促進し,その程度に応じて,最下級(4級)から最上級(1級)へと段階的に累進させる受刑者の処遇方法であり,我が国では,行刑累進処遇令によって,昭和9年以降全国的に統一して実施されるようになった。
 本令には,累進階級に応じた処遇差が設けられている。例えば,作業賞与金で購入できる自己用途物品の許可範囲,接見及び発信の制限などが上級に進むに従って緩和される。また,受刑者の自治に基づく矯正処遇は,おおむね上級者において許される。
 本令は,懲役受刑者にのみ適用されるものであるが,近年禁錮受刑者が増加し,その大部分が請願による作業についているので,禁錮受刑者についても,累進処遇に準ずる取扱いがなされている。
 累進処遇制度は,第1次大戦から第2次大戦の間,世界的に,受刑者の処遇に取り入れられた画期的なものであったが,第2次大戦後における社会思潮や矯正理論の発展等に伴って,受刑者処遇の最低基準に関する一般的な考え方が変わり,また,分類制度も発達してきたため,累進処遇のあり方についても,新しい見地から再検討が加えられている。

(4) 教育活動

 受刑者に対する教育活動は,入所時及び出所時教育,生活指導,教科教育,篤志面接委員による助言指導,体育及びレクリェーション指導などの形で行われており,教育活動の実施に当たっては,ラジオ,テレビ,映画,ビデオ・テープレコーダー等の視聴覚教育の方法が活用されている。
 生活指導としては,しつけ教育,規律訓練,一般講演,読書指導,社会見学,クラブ活動,集会などを行うとともに,個別又は集団カウンセリングが,また,施設によっては内観が実施されている。
 教科教育については,義務教育未修了者に対して,特に必要と認めるときは必要な課程を履習させるほか,義務教育修了者中にも学力の著しく低い者が少なくないので,これらの者に対して,国語,数学等基礎的教科が補習教育として行われている。なお,職業指導の一環としても,珠算,簿記等の資格を取得できる科目についての指導が行われている。
 また,通信教育は,昭和24年以来実施され,学校通信教育と社会通信教育を主として,受刑者に教育の機会を与えている。受刑者には受講料を国費で賄う公費生と,これを自弁する私費生があるが,48年3月までの過去1年間の受講生は,公費生・私費生合わせて2,122人で,受講生の多い講座名は,書道,ペン習字,簿記,事務,自動車,英語,電気,無線,建築,高校講座等となっている。
 篤志面接委員制度は,個々の受刑者が抱いている精神的な悩みや,家庭,職業,将来の生活設計などをめぐる問題につき,民間の学識経験者の助言指導を求めて,その解決を図ろうとするもので,昭和28年実施以来,逐年活発化し,施設の処遇に定着して,かなりの成果を収めている。47年末現在,999人の篤志面接委員が委嘱されており,その面接回数は,47年中,集団に対するもの4,441回,個人に対するもの5,233回で,委員1人当たり来訪回数は6.8回,面接回数は9.7回となっている。
 なお,宗教的関心を有する受刑者や信仰を求める受刑者のためには,民間の篤志宗教家(教誨師と呼ばれる。)による宗教教誨の機会が与えられている。
 このような宗教教誨は,受刑者がその希望する教義に従って,信仰心を培い,徳性を陶やし,進んで更生の機会を得ることに役立たせようとするものである。昭和47年末現在における教誨師の数は,1,236人で,各宗各派に属している。47年中の指導回数は,個人に対するもの8,224回,グループに対するもの7,753回となっている。

(5) 刑務作業及び職業訓練

 刑務作業としては,刑法上定役に服すべき懲役受刑者の作業がその主なものであるが,このほか,これに準じて施行される労役場留置者の強制作業と,法律上は作業を強制されない禁錮受刑者,拘留受刑者,未決拘禁者などの請願作業とがある。
 刑務作業の運営は,受刑者の釈放後の生活を勘案して必要な職業訓練を行うこと,受刑者の勤労精神をかん養するとともに,その労働生産性を一般社会のそれに近付けることなどを基調として行われる。新たに制定された受刑者分類規程には,処遇分類級が新設されるとともに,各分類級に応ずる作業賦課の基準が定められている。現在,職業訓練については,全国5施設(中野刑務所,川越少年刑務所,奈良少年刑務所,山口刑務所,函館少年刑務所)を総合職業訓練施設に指定し,更に,矯正管区ごとに施設を特定して,特定種目の集合職業訓練を行っている。

ア 刑務作業の就業状況

 昭和47年12月末現在における刑務作業の就業率をみると,懲役受刑者は91.6%,禁錮受刑者は93.4%,未決拘禁者は2.2%,労役場留置者は90.1%である。懲役受刑者に不就業者がいるのは,分類調査,疾病等の理由による。
 刑務作業の業態は,物品製作,委託加工及び修繕(以下,「加工修繕」という。),労務提供,経理並びに営繕の5種であるが,経理及び営繕を除いたもの(以下,「生産作業」という。)の,昭和46年度における就業延べ人員は,II-63表のとおり,約836万人で,前年に比べて,14万人余(前年比で1.7%)の減少となっている。減少の主な理由は,収容人員の減によるものである。業態別の就業延べ人員の比率についてみると,労務提供が最も多く,49.5%であり,次いで,加工修繕の31.0%,物品製作の19.5%の順となっている。

II-63表 生産作業支出額・収入頷・調定額と業態別生産額・就業延べ人員(昭和46年度)

 同表により,昭和46年度の年間生産額についてみると,総額は81億円を超え,前年より約3億7,000万円の増加である。業態別には,物品製作が最も多く,約31億4,000万円で,総生産額の38.7%を占め,次いで,労務提供の約27億6,000万円の34.0%,加工修繕の約22億1,000万円の27.3%となっており,前年に比べ,物品製作で7.3%の減,加工修繕で11.5%の増,労務提供で16.4%増となっており,逐年,労務提供及び加工修繕の構成比は著しく増加している。
 次に,昭和46年度における刑務作業のための支出額,生産額及び就業延べ人員を業種別にみたのが,II-64表である。これによると,就業延べ人員では経理夫が最も多く,19.9%であり,生産作業では,金属作業が18.0%で最も多く,以下,紙細工の12.4%,洋裁の9.2%,木工の7.9%,印刷の6.5%の順となっており,近年,この順位は変わっていない。生産額の点からみると,金属が最も多く,25.6%(前年より1.6億円増)を占め,以下,木工の23.6%(前年より0.5億円増),印刷の15.0%(前年より0.9億円増),洋裁の9.8%(前年より0.7億円減)の順となっている。

II-64表 業種別支出額・生産額と就業延べ人員(昭和46年度)

 近年,刑務作業においては,いわゆる作業体質の改善による生産性の向上が図られている。II-65表は,作業収入と作業の実施に必要な作業費の関係の累年比較であるが,昭和46年度においては,その比は,作業費に対して297%であり,作業費の回収率は次第に伸びている。

II-65表 作業費回収率の累年比較(昭和42年〜46年度)

イ 職業訓練

 受刑者の職業訓練については,昭和31年に受刑者職業訓練規則を設け,33年に職業訓練法が施行されてからは,訓練の時間及び内容をこれに近付け,適格者には,できるだけ実施するよう努力がなされている。なお,44年に職業訓練法が全面改正されたが,受刑者の職業訓練も,この法律の趣旨に沿っていっそう充実されることとなった。
 昭和47年末現在の職業訓練の実施状況は,II-66表に示すとおりで,実施人員は1,117人(同年末現在受刑者の2.8%)で,木工,自動車運転整備,理容,左官,溶接など約30種目について実施されている。また,総合職業訓練施設に指定された刑務所において訓練を修了した者は,労働省職業訓練局長から職業訓練履修証明書の交付を受けているが,47年度における同証明書の受領者数は,II-67表のとおり,総数で212人である。

II-66表 職業訓練種目別人員(昭和47年12月3日現在)

II-67表 労働省職業訓練局長履修証明書受領者数(昭和47年度)

 次に,昭和47年度における国家試験その他の資格又は免許の取得状況は,II-68表のとおりで,受験者数1,851人に対して,合格者数は1,480人で,合格率は80.0%である。

II-68表 資格又は免許の取得状況(昭和47年度)

ウ 構外作業

 受刑者に社会適応性を与える方法の1つとして通役(外部の作業場へ毎日通うこと)あるいは泊り込みによる開放的な構外作業場が設けられている。作業の内容は,主として農耕・牧畜,土木,金属,造船等である。特に,松山刑務所所管の大井造船作業場,岐阜刑務所所管の各務原作業場,和歌山刑務所所管のいずみ寮及び尾道刑務支所所管の有井作業場では,綿密な処遇計画のもとに,開放的処遇を行い,良好な成績を挙げている。昭和47年末現在の出業者は631人で,全就業人員の1.7%に当たっている。

エ 作業賞与金

 刑務作業に従事した者には,作業賞与金が支給される。これは,就業に対する反対給付であるが,その性格は,賃金と異なり,恩恵的なものと解されている。作業賞与金は,作業の種類,就業条件,作業成績,行状等を考慮して,一定の基準のもとに計算し,作業賞与金計算高として,毎月就業者本人に告知されている。昭和46年における計算高の1人平均月額は,929円である。この賞与金は,原則として,釈放時に給与される。II-69表は,釈放受刑者の作業賞与金給与額別人員とその比率を示したもので,作業賞与金1万円を超える金額を受ける者の比率は,逐年増加してきている。

II-69表 釈放受刑者の作業賞与金給与額別人員と比率(昭和44年〜47年)

オ 自己労作

 懲役受刑者は,定役としての作業のほか,累進処遇1級者及び2級者で,技能が特に優秀であり,作業成績の優良な者には,作業時間終了後1日2時間以内,自己のためにする労作が許されており,その収益金は本人の収入となる。昭和48年1月末現在では,全国で744人が従事し,1人1月平均2,304円の収入を得ている。

(6) 給養

 受刑者の日常生活の必需物資である衣類,寝具,日用品,食糧などは給貸与されるが,これらのものの管理には,科学的な配慮がなされ,中でも食糧の改善に努力が払われている。
 主食は,原則として米麦混合であり,重量比で米5・麦5とされており,性別,年齢,従事する作業の強度によって,1等食(1日3,000カロリー),2等食(2,700カロリー),3等食(2,400カロリー),4等食(2,000カロリー)及び5等食(1,800カロリー)の5等級に分けて給与されている。
 副食については,1日600カロリーを下らないように努めることが要求されており,1日の副食費は,昭和47年度は,受刑者1人1日当たり47.48円(少年刑務所では54.30円)で,ほかに,食生活に潤いを持たせるとともに,動物性蛋白質を補給するための食費(心情安定食)が7.48円となっている。なお,このほか,食生活を国民一般の慣習に近付けるため,正月用特別菜代として1人1日当たり100円(1月1日,2日及び3日の3か日間,計300円)並びに祝祭日菜代及び誕生日菜代として,各1人1日当たり25円が,それぞれ副食費に計上されている。
 また,治療食を必要とする結核等の患者には,副食費の特別増額ができることになっている。給食の調理方法,温食給与の方法などについても,種々の工夫が加えられている。

(7) 医療及び衛生

 昭和47年中における休養患者(医師の診療を受けた収容者のうち,医療上の必要により病室又はこれに代わる室に収容して治療を受けさせるものをいう。)の数は,II-70表のとおりである。総数は1万5,029人で,前年から繰り越した者が2,643人(17.6%)及び本年新たに発病した者が1万2,386人(82.4%)となっている。47年の発病率(1日平均収容者に対する入所後発病者数の百分比)は,22.0%となっている。

II-70表 休養患者の発病時期・転帰事由別人員と比率(昭和47年)

 次に,昭和47年の休養患者について主要な傷病別にみると,呼吸器系の疾患は42.8%で,休養患者中最も多く,次いで,循環器系疾患の9.9%,伝染病及び寄生虫病の7.8%,筋骨格系及び結合織疾患の5.8%,消化器系疾患の5.4%,皮膚及び皮下組織疾患の4.9%,精神障害の4.0%,神経系及び感覚器疾患の2.5%,その他の順となっており,このほか,不慮の事故・中毒及び暴力によるものは11.6%である。
 なお,昭和47年の休養患者について転帰事由別に百分比によって示すと,治ゆ又は軽快が74.7%,病死が0.4%,変死が0.1%,被告人・受刑者等の異動が2.4%,執行停止出所が1.1%,その他未治の出所が9.0%,後遺(昭和47年末現在において未治ゆのものをいう。)が12.3%となっている。
 刑務所の衛生管理上,最も注意を要するのは,伝染病殊に消化器系伝染病の発生である。この予防のため,地区ごとに指定された全国48施設の防疫センター及び保健所等が,収容者について入所時や移送時に,給食担当者等について随時に,検便その他の検査を行っているほか,水質検査,所内外の消毒など環境衛生についても配慮している。
 なお,矯正施設においては,医療専門職員の充足が困難な事情にあるが,その対策の一環として,医師については,昭和36年から貸費生の制度を設け,また,看護士(婦)については,41年から八王子医療刑務所に准看護士(婦)養成所を設け,その養成に当たっている。48年3月現在,開設以来同所を卒業した准看護士(婦)の総数は114名である。

(8) 保安

 刑務所及び拘置所における矯正のための他の機能が十分行われるようにするため,施設の安全と秩序を維持する業務を保安というが,その業務の遂行には多大の困難が伴う。
 まず,施設の安全と秩序を維持するため,法令及びその範囲内において,各施設で所内規則が定められている。受刑者で所内規則に違反し(反則という。)懲罰を受けた者の数は,昭和47年においては,3万1,796人である。II-71表は,最近3年間における受刑者の受罰人員をその事犯別にみたものであるが,47年において,最も多いものは収容者に対する暴行(受罰人員総数の16.7%)で,抗命(13.4%),物品不正所持・授受等(12.4%),怠役(10.0%)がこれに次いでいる。

II-71表 受刑者懲罰事犯別受罰人員(昭和45年〜47年)

 これらの懲罰事犯に対しては,軽へい禁(2か月以内の期間,独居房に収容して,必要と認める場合のほか,その室から出さないで反省させる方法),文書・図画閲読禁止,作業賞与金計算高減削など,監獄法に規定されている懲罰が科せられる。II-72表は,昭和47年における懲罰の種類別受罰人員及びその構成比を示したものである。受刑者について最も多いものは,文書・図画閲読禁止であり,次は,軽へい禁で,この2つの懲罰は,併科されることが多い。運動の停止,減食等が科せられることは,極めてまれである。

II-72表 懲罰の種類別受罰人員(昭和47年)

 このような懲罰事犯は,精神病質的傾向を有する者や暴力団関係者などにみられる集団処遇困難者によって繰り返されることが多く,この種収容者の増加とともに,保安業務遂行上の困難は一層増大する傾向にある。
 次に,懲罰事犯にとどまらず,刑事事件として起訴された収容者数は,II-73表のとおりで,昭和47年においては,受刑者231人,その他の収容者24人であり,前年に比べ,受刑者では7人増加し,その他の収容者では5人減少している。起訴罪名は,例年,傷害が最も多い。

II-73表 在所中の行為により起訴された収容者数(昭和45年〜47年)

 施設内での事犯発生を抑止する対策の一環として,集団処遇困難者あるいは暴力団関係受刑者について,医療刑務所への移送又は治療的処遇計画による再適応工場若しくは設備での錬成を行い,特に,暴力団関係収容者は,ややもすると,所内で結合して職員を威圧し,あるいは他の集団と対抗反目して重大事故を招きやすいので,これを分散移送するほか,関係機関とも緊密な連係を図り,適正な業務の遂行を期している。
 このような平素の配慮にもかかわらず,昭和47年7月下旬,大阪拘置所で職員殺傷事件が発生した。同事件は,勾留中の被告人が覚せい剤中毒等による被害妄想の結果突発的に引き起こしたもので,保安業務の困難性を如実に示している。47年は,上記事件を含め,36件の職員殺傷事件が発生しており,前年に比べ8件増加している。