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 昭和46年版 犯罪白書 第三編/第一章/二/3 

3 地域社会

(一) 地域差

 犯罪の発生は,地域によってかなりの差異があり,都市は,農村地域に比較して発生率が高いとされている。ことに大都市では,若年労働者の流入が著しいところから,少年犯罪の大都市集中が問題視されてきた。そして最近では,この大都市集中傾向がさらに変化して,大都市周辺地域の衛星都市や,地方の中小都市で都市化,産業化の激しい地域にも,少年犯罪が拡散しつつある傾向がみられる。
 そこで,まず法務省特別調査によって,犯行地を大都市(東京都二三区,大阪,名古屋,京都,横浜,神戸の六大都市),中小都市(全国都市中,六大都市以外の市)および郡部にわけ,これらの地域別に,罪名別の構成割合をみることにする(III-28表)。同表によれば,いずれの地域においても,窃盗が過半数を占めていて,三地域の中では,中小都市が最も高い。次に多いのは,暴行・傷害,脅迫・恐喝の粗暴犯で,これらをあわせた数は,三地域によって特に著しい差異はみられない。全体を占める比率は少ないが,地域的に興味ある傾向を示しているのは,強姦,わいせつなどの性犯罪の構成比であって,大都市より中小都市,中小都市より郡部と倍増して高率になっている。このことは,都市ほど,盛り場などがあって,欲望を発散させる機会や場所が多く,また性犯罪が潜在化し,その暗数が高いことによるものであろう。

III-28表 地域別・主要罪名別検挙人員(昭和45年)

(二) 犯行地と居住地

 次に,犯行地と居住地との関連をみると,III-29表に示すとおり,全体の七五%は,居住地と同一の市町村で犯行がなされており,犯行地が他府県にまたがる場合は一割にもみたないが,その行動圏を居住地別にみると,犯行地が他府県に及ぶ者の割合は,大都市居住者では一一%,中小都市居住者では六%,郡部居住者では五%で,都市居住者の方が高率になっている。

III-29表 犯行地と居住地との関連(昭和45年)

 この犯行地・居住地の関係による行動圏を,主要罪名別にみたのが,III-30表である。これによると,犯行地・居住地の同一地域性の低いもの,つまり行動圏が広いのは,いずれの地域でも強盗で,大都市でその三割強,中小都市で五割弱,郡部で四割弱が,他府県にわたっての犯行となっている。これに対し,行動圏の狭い罪名は,大都市においては強姦,中小都市および郡部においては暴行であり,それぞれの罪名の八割ないし九割が,居住地内における犯行となっている。そして,行動圏の狭いものから広いものへ,罪名を並べてみた場合,窃盗を除外すると,中小都市と郡部とでは,暴行,傷害,強姦,恐喝,強盗と配列順序が全く合致しており,少年犯罪にみられるこのような傾向は,都市と農村との明確な境界がしだいに解消しつつあることを示す手がかりの一つとして理解することもできよう。

III-30表 地域別・主要罪名別犯行地と居住地との関連(昭和45年)