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 昭和46年版 犯罪白書 第三編/第一章/二/2 

2 学校・職場

(一) 学生・生徒の犯罪

 最近における中学および高校における進学・就職状況の推移をみるために,昭和四三年から同四五年までの三年度について,当該年度の高校卒業者を中学卒業の時点までさかのぼってみると,III-18表に示すように,進学率は年々増加してきている。すなわち,同表によれば,義務教育を終了した者の高校進学率は各年とも七〇%前後であり,高校を卒業して大学へ進学する者も,二二ないし二三%を占め,中学,高校ともに上級学校への進学率は高くなっている。さらに同表後段に示したように,同年齢者に対する大学進学者をみても,一五ないし一七%となる。このように進学率が逐年増加傾向にあること自体は,きわめて好ましいことであるが,進学・就職の進路指導や,学生・生徒に対する個別指導が不適当,不適切である場合に,犯罪や非行とのかかわりが生じやすい。

III-18表 中学生・高校生の進学・就職状況(昭和43〜45年)

 学生・生徒を学校程度別にみる場合に,年少,中間,年長の各年齢層をそのままこれと対応させることはできないが,一六,七歳の中間少年は,おおむね高校生であり,一八,九歳の年長少年になると,一部の高校生を除いて,すべてが大学生となるから,次のIII-19表で,法務省特別調査により,犯罪少年の学職別構成比をみる際にも,この点を参考にしたい。同表によれば,犯罪少年では,年少少年で九割弱,中間少年で五割弱,年長少年で一割強の者が,学生・生徒によって占められていて,この割合は,一般少年と比べた場合,かなり下回ったものとなっている。年少,中間少年の多くが中学・高校に在籍する生徒で,中間少年においては有職少年が四割にも達しないのに対して,年長少年になると,七割にも及ぶものが有職者となって,一部の者だけが学生になる。

III-19表 犯罪少年の年齢層別・学職別構成比(昭和45年)

 III-20表は,刑法犯(業務上《重》過失致死傷を除く。)で検挙された少年について,学職別に,最近五年間における各年度別検挙人員および構成比を示したものであるが,これによると,学生・生徒の検挙人員は,昭和四一年の七万一千人から漸減して昭和四四年の五万三千人になり,同四五年にはこれが六万四千人と,前年に比して約一万一千人の増加となっている。構成比では,昭和四一年から同四三年まで,四七%前後に停滞していたが,その後,昭和四四年は五〇%,同四五年には五六%と上昇のテンポが急になっている。このように,五年間に,検挙人員では減少をみせているのに,構成比において全体の六割近くを学生・生徒で占め,学生・生徒の増加が目だってきているので,その内容について,以下しきいに検討してみたい。

III-20表 学職別少年刑法犯検挙人員(昭和41〜45年)

 次のIII-21表は,刑法犯(業務上《重》過失致死傷を除く。)で検挙された少年について,学識別,学校程度別(小学生については,財法犯検挙実数がきわめて少ないので除外する。)に,昭和四一年を一〇〇とする指数によって最近五年間の推移をみたもので,学校程度別には,検挙人員の実数を併記している。まず中学生では,昭和四四年まで規則的に減少しているが,昭和四五年には上昇して,前年より約五千人増加し,検挙人員で約二万九千人になっている。ただし,指数では,昭和四一年の一〇〇に対して七六となっている。高校生は,中学生よりも一年早く,昭和四三年の指数八四を底にして増加に向かい,とくに昭和四四年から同四五年にかけての上昇が急で,昭和四五年の検挙人員は,約三万一千人となっており,指数では,過去五年間最高の一〇七となっていることが注目される。また,大学生については,昭和四五年の検挙人員は約千六百人で,指数も一三二と,昭和四一年よりはかなりに上回った増加をみせている。ただし,大学生だけは,その間に,昭和四三年から同四四年にかけて,指数一四七から一九九に伸びるきわめて高い山が描かれていて,高校生とは異なった傾向を示している。これは,昭和四四年を頂点とする学生による集団暴力事件の影響によるものであろう。

III-21表 学職別・学校程度別少年刑法犯検挙人員の推移(昭和41〜45年)

 そこで,次のIII-22表によって罪名別に,昭和四四年および四五年における中学生,高校生,大学生の少年刑法犯についての増減状況をみることとする。これによると,窃盗および傷害は,大学生よりも高校生,高校生よりも中学生と学校程度が下になるほど増加の実数および比率が高くなっている。罪種によって,これをまとめると,III-23表となる。同表によれば,中学生・高校生における財産犯,粗暴犯の増加が特徴的で,とくに中学生の財産犯の二三%,高校生の粗暴犯の三二%という高い増加率が注目される。また,凶悪犯が,中学生,大学生とも減少しているのにかかわらず,高校生において一九%増加しているのも看過できない。

III-22表 罪名別・学校程度別少年刑法犯検挙人員増減状況(昭和44,45年)

III-23表 罪種別・学校程度別少年刑法犯検挙人員増減率(対前年比)(昭和45年)

 なお,III-24表は,参考までに,家庭裁判所で取り扱った一般保護少年についで,教育程度別に人員および構成比を,昭和四四年と,五年前の昭和三九年について比較したものであるが,これをみると,義務教育を終了した中学卒業程度の者は,実数・構成比ともに減少しているが,高校以上になると,すべての教育程度について著しい増加をみせており,とくに高校卒業者の構成比については,昭和四四年において一四%と,五年前の四%に比べて,四倍近い倍率に達し,大学の在学者についても同様な倍率になっている。これに反し,中学在学者の構成比は,五年前に二五%を示していたのに,昭和四四年になると一〇%以下になり,減退率が高い。

III-24表 一般保護少年の教育程度(昭和39,44年)

 以上のように,学生・生徒の犯罪が,量の面においては,高校生以下について全般的な増加をみせ,質の面においても,中学生の放火,高校生の粗暴犯,凶悪犯といった悪質な犯罪が増加していることは,注目される傾向である。かれらを犯罪や非行に追いやらないためには,多数の進学者を受け入れた場合の学校側の人的・物的体制,ことに落後者や不適応者に対する指導体制の充実強化が要請される。また,今後さらに学校教育の需要が高まり,より多数の進学者を受け入れることが予想されているので,この際あらためて学校教育が分担すべき機能を再検討し,家庭教育,社会教育の分野との協力をより適切に行なって,学生・生徒の犯罪の防止に努力を傾けることが必要であろう。

(二) 有職少年の犯罪

 近年,人口や産業の都市集中,都市地域の拡大と再編,産業構造の高度化,文化・生活様式の変容など,社会・経済のあらゆる側面において急速な変動がすすむにつれ,少年の雇用の機会は飛躍的に増大されてきた。その反面,上級学校進学率の上昇と少年人口の絶対数の減少によって,友人たちの進学をよそに,農・山・漁村から大都市に流入してくる勤労少年は,年ごとに少なくなり,深刻な若年労働力の不足をきたしている状況にある。そして,この人手不足は,少年たちの職業選択の範囲を拡大させているが,そのためかえって職業意識や労働意欲を低下させる面もあるから,このような背景を考慮して,少年の犯罪・非行を観察する必要があろう。
 III-25表は,昭和四一年から同四五年までの就業人口と就業人口比率および有職少年の犯罪率を示したものであるが,これによると,昭和四一年以降,就業人口および就業人口比率は減少傾向にあり,またこれと同様の向で有職犯罪少年の実人員(業務上《重》過失致死傷を除く。)も減少をみせているが,犯罪率については,昭和四三年より同四五年まで,逐年増加をみせていて,昭和四五年には前年に比べ,実人員で約二千四百人減少しているのに反し,犯罪率では〇・七の増加となっている。

III-25表 就業状況および有職少年犯罪率(昭和41〜45年)

 そこで次に,これらの有職犯罪少年の職種を,法務省特別調査によってみると,III-26表に示されるような構成比となる。これによれば,職種のうち最も多いのが,工員の三八%で,次が大工,左官等の職人の一〇%であり,これに人夫・土工,運転手・助手を加え,ブルー・カラー的職業系統としてまとめると,全体の六割をこえる。これに対して,店員,事務員などのホワイト・カラー的職業系統は二割にもみたず,農・林・漁業についてはきわめてわずかであって,一般の有職少年における職業別就業者の割合と比較した場合に,ブルー・カラーよりも,ホワイト・カラー的職業もしくは農・林・漁業などには犯罪少年が少ない。なお,家庭裁判所の一般保護事件に・おける有職犯罪少年の職業別構成比についても,この法務省特別調査と同様の傾向が示されている。

III-26表 有職犯罪少年の職業別構成比(昭和45年)

 次に,法務省特別調査によって,犯罪少年についての転職の有無をみると,III-27表に示すように,転職経験のある者は,就職したことのある少年のうちの六一%に及んでいる。昭和四四年における同調査の結果では,五九%が示されているので,転職経験を有する犯罪少年の割合は増加傾向にあるといえる。犯罪や非行を犯す少年の中に,このように安易な転退職を操り返す傾向が認められることは,留意を要する問題である。参考までに罪種との関係をみると,転職経験のある犯罪少年は,転職のない者に比べて脅迫,殺人,詐欺,恐喝,強盗などの犯罪を犯したものの割合が高く,暴行,特別法犯,窃盗,横領などの割合が低いことが示されている。

III-27表 転職の有無と罪名(昭和45年)