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5 裁判の執行 裁判の執行は,原則として,その裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官が,指揮することとされている。以下,おもな刑の執行について,簡単に触れることとしたい。
(一) 死刑の執行 死刑の言い渡しを受けた者は,その執行に至るまで,監獄に拘置され,原則として,判決確定の日から六か月以内に,法務大臣の命令によって執行されることになっている。しかし,上訴権回復請求,再審請求,非常上告または恩赦の出願もしくは申出がなされ,その手続が終了するまでの期間,および共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は,この六か月の期間に算入されないこととなっており,さらに,死刑囚が心神喪失または妊娠中であるときは,刑の執行は停止される。わが国における死刑は,ごく限られた罪種について,慎重審理のうえ,言い渡されることはもちろんであるが,死刑の判決が確定したのちも,再審請求や,恩赦の出願など再々行なっている者がある等の事情により,確定から執行までの期間が若干長期化しているのが実情である。
昭和二一年以降四五年までの二五年間に死刑を執行された人員は,四九三人であるが,最近五年間における死刑執行人員は,七一人となっている。この七一人の罪名をみると,強盗殺人が五四人,殺人が一六人,放火が一人となっており,殺人のうち一四人は,それ以外の犯罪,たとえば強姦致死,同致傷,営利誘拐,放火,傷害致死,殺人未遂,死体損壊,同遺棄,爆発物取締罰則違反などの犯罪を犯したものであり,放火の一人は,保険金詐取の目的による放火によって,焼死八名,重軽傷六名の被害を発生させたものである(矯正統計年報,同年報資料による。)。 (二) 自由刑の執行 懲役は,監獄に拘置して定役に服させ,禁錮は,監獄に拘置し,拘留は,拘留場に拘置して執行する。自由刑の執行を受けている者が,心神喪失の状態にあるときは,その状態が回復するまで,刑の執行を停止することになっており,刑の執行によって,著しく健康を害するなどの事由があるときは,執行を停止することができることになっている。
昭和四一年から四五年までの五年間における自由刑の執行指揮の状況をみると,II-28表のとおりである。懲役刑の執行指揮人員は,昭和四一年以降漸減し,昭和四五年は,二七,八六四人となっている。これに対して,禁錮刑は,逐年,増加している。これは,自動車事故による業務上過失致死傷事件の増加に伴うものであるが,その増加傾向に鈍化がみられるのは,昭和四三年の刑法改正により,同事件に従来の禁錮刑のみならず,新たに懲役刑が科せられることとなったことによるものである。ところで,確定裁判の執行を免れるため,その所在をくらませて逃走を続けている者があり,実務上,これを遁(とん)刑者と呼んでいる。昭和四五年における自由刑の遁刑者は,全国で三九一人となっているが,このうち,九三・九%が懲役刑,五・六%が禁錮刑,〇・五%が拘留刑で,懲役刑の遁刑者中には,無期懲役四人,五年をこえ一五年以下の有期懲役三九人が含まれている(検察統計年報資料による。)。 II-28表 自由刑の執行指揮人員(昭和41〜45年) (三) 財産刑の執行 財産刑には,罰金と科料とがあり,罰金は千円以上,科料は五円以上千円未満と定められている。最近三年間の罰金および科料の調定件数と調定金額(本来,調定とは,歳入徴収官が徴収すべき金額を調査決定することをいうのであるが,検察庁の事務の上では,徴収金原票を作成し,これに登載された徴収すべき金額を,検察官が確認して執行指揮印を押印するなどの手続をとることを,調定と呼んでおり,事件の新受に相当するものである。)をみたのが,II-29表[1][2]である。同表によると,昭和四五年度における罰金の調定金額は二四六億余円,科料は三〇一万余円で,前年に比べて,罰金は約二八億円増加し,科料は約一九万円減少している。
II-29表 調停件数および調停金額(昭和43〜45年度) 次に,昭和四五年度における罰金および科料の徴収状況を,II-30表によってみると,現金等により収納されたものと労役場留置処分とを合わせた徴収率は,件数において,罰金が九六・六%,科料が九六・九%となっている。II-30表 罰金および科料の徴収状況(昭和45年度) |