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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第三章/一/2 

2 仮釈放の運用の状況

(一) 在監・在院者の環境の調査調整

 仮釈放は,矯正施設に収容された者の,健全な社会への円滑な復帰を促進することをねらいとしている。これら収容者が犯罪に陥った背景には,環境的負因が多少ともからんでおり,釈放後の帰住予定地が,必ずしも更生の場として,ふさわしいといえない場合も少なくない。そこで,本人が矯正教育を受けているのと並行して,あらかじめ帰住予定地の環境を調査し,もしも更生を妨げるような事情があれば,それを除去するための調整を行なっておく必要がある。
 この環境の調査調整は,仮釈放後の保護観察に先行する作業であるが,他方,保護観察に直結する活動でもあるため,保護観察所がこれを行なう。具体的には,保護観察所長は,矯正施設の長から身上調査書を受けとると,環境調査調整担当者(保護観察官または保護司)を指名して,環境の調査調整に当たらせる。担当者は,本人の帰住予定地の家庭環境,本人に対する近隣および被害者の感情,友人関係等,本人と結びついた環境全般について調査調整を行ない,環境調査調整報告書によって,その状況を保護観察所長に報告する。保護観察所長は,これに意見を付して,地方更生保護委員会および矯正施設に送付する。その後,担当者は,引き続き調査調整を行ない,少なくとも,六か月に一回は,環境追報告書によって,その結果を報告することになっている。これらの報告書は,仮釈放審理の重要な資料となる一方,矯正施設における処遇の参考資料ともなっている。
 昭和四三年の環境調査調整事件の受理状況(保護観察所長が,矯正施設の長から身上調査書の送付を受けた状況)は,II-137表のとおりで,刑務所からの受理が八〇%以上も占めている。また,その処理状況は,II-138表が示しているように,環境調査調整報告の九〇%以上が二か月以内に行なわれ,環境追報告も相当数にのぼっている。

II-137表 環境調査調整事件の受理状況(昭和43年)

II-138表 環境調査調整報告と環境追報告状況(昭和43年)

 なお,こうした一連の環境調査調整の充実を図り,それによって,仮釈放審理の迅速化と的確化とに寄与することを目的に,地方更生保護委員会は,昭和四一年一〇月から,後に述べるように,地方更生保護委員会所属の保護観察官による仮釈放準備調査を実施している。

(二) 仮釈放の決定の状況

 地方更生保護委員会が仮釈放の申請を受理し,仮釈放の許否を決定した状況を,最近五年間についてみると,II-139表に示すとおりである。仮釈放の申請を受理した人員の総数は,昭和三九年から昭和四二年まで,三万一千人台であったが,矯正施設に収容される者の減少により,昭和四三年には,二八,三九〇人に激減し,また,仮釈放の許可決定人員でも,昭和三九年から昭和四二年までは,二万六千人台であったのが,昭和四三年には,二四,八九六人に減少している。棄却・不許可率では,昭和三九年から昭和四二年まで,一一%ないし一二%台を増減していたが,昭和四三年には,大幅に減少し九・六%となっている。

II-139表 仮釈放種類別新受・決定の状況(昭和39〜43年)

 以下,仮釈放の許否の決定状況を,仮出獄および婦人補導院からの仮退院についてみることにする。なお,仮出場は,保護観察との結びつきがなく,人員もきわめて少ないので省略し,また少年院からの仮退院については,本編第四章五「少年の仮釈放および保護観察」においてとりあげる。

(1) 仮出獄の決定の状況

 最近五年間の仮出獄許否の決定状況は,II-139表のとおりで,仮出獄の申請受理人員は,昭和三九年から昭和四二年まで,二万四千人台であったが,昭和四三年には,二三,三二八人となり,前年に比べて,一,三五一人の減少を示している。他方,昭和四二年まで,一四%ないし一五%台を前後していた棄却・不許可率は,昭和四三年には,一一・七%に減少したため,同年の仮出獄の許可人員は,前年より三四八人が減少しただけの,一九,八三二人にとどまっている。昭和四三年の仮出獄の決定状況を,罪名別にみると,II-140表のとおりで,刑法犯(準刑法犯を含む)の棄却・不許可率は一一・七%であり,特別法犯では一一・五%を示している。

II-140表 罪名別仮出獄決定状況(昭和43年)

 刑法犯において,棄却・不許可率の最も高いのは,暴力行為等処罰に関する法律違反(二二・二%)であり,次いで,賭博・富くじ(二一・七%),住居侵入(一六・九%),恐喝(一五・二%),わいせつ・わいせつ文書(一五・一%)などが続いている。また,棄却・不許可率の低いのは,業務上過失致死傷(六・〇%),強制わいせつ・同致死傷(六・三%),横領(六・四%),強盗(六・七%),強姦・同致死傷(六・八%)などである。特別法犯では,銃砲刀剣類所持等取締法違反(一九・八%),麻薬取締法違反(一五・九%)が,比較的高い棄却・不許可率を示している。
 次に,仮出獄の許可決定の状況について,仮出獄を許された者を,刑法上の累犯とそうでないもの(非累犯)とに分け,執行率(執行すべき刑期に対する執行した期間の割合)との関係からみることにする。昭和四三年中に,許可決定された定期刑の仮出獄者の総数は一八,九七四人であるが,そのうち,非累犯者は六三・八%(一二,一一二人)であり,累犯者が三六・二%(六,八六二人)である。
 定期刑の仮出獄の許可人員を,執行率別にみると,執行率が高くなるにしたがって,仮出獄を許される者が多くなり五一・九%の者が,九〇%以上の執行を受けた後に仮出獄を許可されている。
 非累犯者,累犯者それぞれの執行率別の構成割合は,II-8図のとおりで,非累犯者においては,執行率九〇%以上が三七・一%を占め,執行率八〇%ないし八九%が三三・二%,執行率七九%以下が二九・七%である。これに対して,累犯者においては,執行率九〇%以上が七八・二%の割合を示し,執行率八〇%ないし八九%が二〇・四%,執行率七九%以下が一・四%となっている。このように,非累犯者に比べて,累犯者に対する仮釈放の運用がきわめて慎重に行なわれているが,累犯者には,再犯の危険性が強いと判断される者や,更生をはなはだしく困難にしている諸条件をもった者が,少なくないことなどによると考えられる。

II-8図 非累犯・累犯別定期刑仮出獄者の刑の執行率(昭和43年)

 さらに,執行すべき刑期との関係から,仮出獄の許可決定の状況をみるために,昭和四三年の定期刑の仮出獄者の刑期別構成比を示すと,II-9図のとおりである。刑期六月をこえ一年以内の者は二八・三%を占めて最も多く,次いで,刑期一年をこえ一年六月以内の者が二〇・〇%であり,刑期一年六月以内の者の累計では,定期刑仮出獄者の半数以上となっている。

II-9図 定期刑仮出獄者の刑期別構成比(昭和43年)

 また,刑期別に,執行率九〇%以上と八九%以下に分けて,その割合をみると,刑期が一年六月以内の者では,執行率九〇%以上の人員が,執行率八九%以下の人員を上回っている。他方,刑期一年六月をこえる者の場合には,逆に執行率八九%以下の人員が多くなっている。
 以上の仮出獄の許可決定の状況を,仮出獄期間(保護観察期間)から,仮出獄者の総数についてみると,II-141表のとおりで,昭和四三年の仮出獄者では,仮出獄期間が三月以内の者は六五・六%であり,三月をこえ六月以内の者が一七・三%,六月をこえ一年以内の者が一一・二%,そして,一年をこえる者が五・九%である。この割合は,最近五年間にわたってあまり変わっていない。一般的にいって,仮出獄期間があまり短いときは,保護観察の効果が十分期待できないことになりがちであるが,仮出獄期間が短い場合でも,本人の在監中に行なわれる環境調査調整の効果が,保護観察を実施することによって確保されることもあり,最近,刑期の短い受刑者,とくに禁錮受刑者に対しても,適正かつ迅速な仮釈放審理を行なうよう配慮されている。

II-141表 仮出獄者の仮出獄期間別人員(昭和39〜43年)

(2) 仮出獄者の成行き

 次に,仮出獄者の成行きを,満期釈放者とも比較しながら,みることにしよう。
 まず,仮出獄期間中の再犯または遵守事項違反による仮出獄取消の有無をとりあげて,最近五年間の仮出獄取消の状況を,各年次ごとにみると,II-142表のとおりである。仮出獄の当年に,仮出獄を取り消された者の割合(取消率)は,五年間を通じて一・六%ないし一・九%であり,第二年目もほぼ同じ取消率を示しているが,第三年目からは激減している。仮出獄当年を一年に数え,三年以内に仮出獄を取消された者は,その累計割合で,昭和三九年の仮出獄者が四・二%,昭和四〇年が四・〇%,昭和四一年が三・九%と,わずかながら取消率が減少している。

II-142表 仮出獄の取消しを受けた者の状況(昭和39〜43年)

 次に,受刑者の出所事由は,仮釈放と満期釈放とに大別できるが,さらに,満期釈放を仮釈放の申請の有無に分けて,それらの出所事由と再犯期間との関係から,昭和四三年の再入受刑者をみると,II-143表のとおりである。

II-143表 再入受刑者の前刑出所事由別再犯期間(昭和43年)

 釈放後六か月未満に再犯に陥った者は,仮釈放者では二四・九%,満期釈放者では三九・五%であり,満期釈放者のうち,仮釈放の申請があった者が四二・四%,仮釈放の申請がない者が三八・九%である。このような傾向は,六か月以上の経過においてもみられ,仮釈放者は,満期釈放者よりも再犯に陥るまでの期間が長くなっている。
 さらに,最近五年間の再入受刑者を,再入および前刑の出所年次別に,仮釈放者,満期釈放者それぞれの出所人員に対する再入人員の割合(再入率)をみると,II-144表のとおりである。昭和三九年から昭和四二年までの,釈放当年および第二年目の入所率をあわせ,四年間の平均入所率を算出すると,仮釈放者が一八・七%,これに対して,満期釈放者は三四・五%の再入率を示している。

II-144表 再入受刑者の前形出所年および出所事由別再入状況(昭和39〜43年)

 仮釈放者は,満期釈放者よりも刑務所へ再入所するまでの期間が長く,そして,入所率が低いことは,その理由の一つとして,仮出獄が,仮出獄期間中,再犯のおそれの比較的少ない者について許されていることや,保護観察の処遇効果などによるものと考えられる。

(3) 婦人補導院からの仮退院

 最近五年間における,婦人補導院からの仮退院申請受理人員および許可人員は,前掲のII-139表のとおりで,その数はきわめて少なく,昭和四三年では,申請受理人員,許可人員いずれも二人である。また,出院者のうち,仮退院者が占める割合もきわめて低く,出院者一三四人中二人で,わずか一・五%にすぎない。
 このように,婦人補導院収容者に対しては,仮釈放制度がほとんど活用されていないが,その理由として,収容者の減少にもよるが,そのほか,多くの収容者の心身の状態や家庭環境等に,複雑な事情がみられることや,収容期間が六か月であることなどをあげることができよう。