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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第四章/五/1 

五 少年の仮釈放および保護観察

1 少年の仮釈放

 少年の仮釈放には,少年院からの仮退院,少年のとき懲役または禁錮の言渡しを受けた者の仮出獄,および少年のとき拘留の言渡しを受けた者の仮出場があるが,ここでは,少年院からの仮退院と不定期刑受刑者の仮出獄について述べることにする。

(一) 少年院からの仮退院

 少年院からの仮退院は,原則として,少年院で処遇の最高段階に達した者について,本人の性格,行状,態度,施設内での成績,帰住後の環境等から判断して,保護観察に付することにより,その更生が,おおむね期待できるようになったとき,地方更生保護委員会がこれを許すことになっている。ただし,処遇の最高段階に達しない者であっても,本人が更生に努力し,向上しうる段階に達したと認められ,かつ,保護観察に付することにより,本人の更生がおおむね期待できるときにも,仮退院を許可することができる。
 地方更生保護委員会が,仮退院の申請を受理し,その許否を決定した状況は,すでに(前掲II-139表)みたとおりである。昭和四三年には,申請受理人員が五,〇四六人であり,昭和四二年に比較して,約千五百人の減少を示している。また,棄却・不許可率は〇・四%と,昭和四二年に続いて,さらに低下している。
 次に,少年院からの仮退院・退院別の出院状況を,最近五年間についてみると,II-223表のとおり,ここ数年間,仮退院率が減少の傾向を示しており,昭和四三年には,七三・二%の者が仮退院で出院している。これを少年院の種別ごとにみると,II-224表のとおりで,昭和四三年の仮退院率は,初等少年院の九九・六%を最高に,以下,中等少年院の七七・〇%,医療少年院の七一・〇%,特別少年院の五二・七%の順であり,例年この順序に変わりはない。すなわち,心身に著しい障害のある少年(医療少年院収容者)や,非行性の進んだ少年(特別少年院収容者)は,仮退院を許される率が低いのである。

II-223表 少年院よりの仮退院・退院別人員(昭和39〜43年)

II-224表 少年院種類別仮退院・退院別人員(昭和43年)

 さらに,仮退院者が,仮退院(保護観察)期間中に非行を犯し,刑事処分または保護処分を受けた状況を,最近五年間について,年次ごとに示すと,II-225表のとおりである。仮退院当年に処分を受けた者は,仮退院者の四・九%ないし五・四%であり,第二年目が一三・四%ないし一五・八%と,第一年目のほぼ三倍に増加し,第三年目からは,保護観察を終了する者の増加により,処分を受けた者が減少している。また,昭和三九年の仮退院者に例をとり,処分を受けた者の累計割合を算出すれば,第三年目までは二六・九%,第五年目では三二・七%となっている。

II-225表 少年院仮退院者の仮退院期間中の非行により処分を受けた者の状況(昭和39〜43年)

 このように,再非行率が高いことは,仮退院者の処遇の困難さを示すもので,少年院や出院後の保護観察などにおいて,いっそう行き届いた処遇がなされることが望まれる。また,仮退院の準備手続においても,さらに検討や工夫の必要があろう。後述の地方更生保護委員会が実施している,保護観察官による仮釈放準備調査の実施が注目されるところである。

(二) 不定期刑受刑者の仮出獄

 不定期刑の仮出獄者について,最近五年間の許可決定人員をみると,II-226表の示すとおり六百人ないし七百人台で,昭和四三年には七七六人である。また,成人を含めた仮出獄の許可決定総人員に対する,不定期刑の仮出獄の許可人員の割合は三%台である。

II-226表 不定期刑仮出獄の許可人員(昭和39〜43年)

 昭和四三年の右の許可人員七七六人中,六五人(八・四%)に対して,不定期刑の短期経過前に仮出獄が許されており,七一一人(九一・六%)は短期経過後となっている。この許可人員について,刑の執行率(長期に対する執行した期間の割合)別に示すと,II-227表のとおりで,執行率七〇%ないし七九%の人員は,総数の三〇・五%を占めて最も多く,次いで,執行率六〇%ないし六九%の人員が二五・六%の割合となっている。また,執行率九〇%以上の人員は,一三・九%にとどまり,定期刑の仮出獄者の五一・九%に比べて,きわめて低く,他方,刑期(長期)別でも,刑期三年をこえる者が多く,釈放後の保護観察の期間を十分見込んで,仮出獄を許される者が比較的多い。

II-227表 不定期刑仮出獄者の刑期別刑の執行率別人員(昭和43年)

図表

(三) 保護観察官による仮釈放準備調査

 地方更生保護委員会は,迅速かつ的確に仮釈放の審理を行なうために,さまざまな企てを試みているが,新しい動向として,最も重要視されているのは,保護観察官による仮釈放準備調査の実施である。
 この準備調査は,昭和四一年一〇月から,一部の青少年収容施設において実施されているが,昭和四三年一二月末現在の実施対象施設は,上に掲げるとおりである。
 従来,地方更生保護委員会は,施設の長からの仮釈放申請を受理してはじめて,調査,審理等の活動を開始する場合が多かったが,準備調査が実施されてからは,仮釈放申請を受ける前に,地方更生保護委員会の保護観察官が施設に出向き,仮釈放の準備に着手している。準備調査においては,(1)収容者との面接による,仮釈放の審理および環境の調査調整上参考となる資料の収集,(2)収容者の更生に必要な措置等についての,施設職員との協議,(3)保護観察所への調査結果の連絡等が行われている。
 昭和四三年における準備調査の実施状況は,II-228表[1]〜[5]のとおりで,調査の対象となった人員は一,八三八人であり,この対象人員のうち,新たに調査を開始した人員は一,〇七七人である。調査を終了した人員は,一,二二六人であり,この終了人員のうち,仮釈放の申請を受理した者は八六四人(七〇・五%)となっている。また,保護観察官の施設出張回数は,一施設当たり月平均二・二回,収容者との面接回数は一回平均七人であり,保護観察所等への連絡回数は,終了人員一人当たり平均一・一回である。

II-228表 仮釈放準備調査実施状況(昭和43年)

 準備調査が,環境の調査調整,仮釈放の審理および保護観察にどのような効果を及ぼしているかは,必ずしも明らかではないが,この準備調査の結果として,環境の調査調整が十分行なわれ,主査委員の面接後,ただちに仮釈放の許否を決定することができることや,保護観察について,本人の認識が高まり,帰住後の職業も,本人の希望や適性が,十分考慮されるに至ったことなどが指摘されており,今後の進展が期待される。