前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第二章/一/4 

4 特殊な受刑者の処遇

(一) 若年受刑者の処遇

 ここでとりあげる若年受刑者とは,二五歳未満の男子成人受刑者のうちで,受刑者分類調査要綱により,G級(A級のうち二五歳未満のもの)およびE級(G級のうちおおむね二三歳未満で,とくに少年に準じて処遇する必要のあるもの)と指定せられた者をいう。すなわち,二五歳未満の男子成人受刑者の中には,G級およびE級以外の級(B級・C級・H級・K級・M級等)に分類される者もあるが,それらの者を除いたのは,後にも述べるように,G級又はE級の受刑者は,若年者であるばかりでなく,犯罪性がまだ固っていないため,改善の可能性が強い点で,少年と類似性を有し,特別の処遇をする必要性があるためである。
 これら若年受刑者は,昭和四三年一二月現在,川越少年刑務所をのぞく少年刑務所八施設と,中野・浦和・甲府・松江刑務所(以上G級のみ収容),三重刑務所(E級およびG級を収容),滋賀・加古川・山口・大分・山形・松山刑務所(以上A級およびG級を収容)の各施設に収容されている。

(1) 収容状況

 新受刑者数の全般的な減少傾向と同じく,二〇歳以上二五歳未満の新受刑者(E・G級以外の級別の受刑者を含む。)の数も,II-99表の示すとおり逐年減少してきているが,昭和四三年は若干増加して七,四七〇人であり,新受刑者総数の約四分の一にあたっている。

II-99表 新受刑者年齢別人員と比較(昭和34〜43年)

 E・G級受刑者について,その各年一二月二〇日現在の収容人員をみると,II-100表のとおりであって,昭和四三年では,五,七九九人となっている。

II-100表 E・G級人員と比率(昭和40〜43年,各12月20日現在)

 最近三年間における二〇歳以上二五歳未満の新受刑者について
ア 罪名別人員をみると,II-101表に示すとおり,窃盗が最も多く,三六・八%ないし三九・三%を占め,ついで傷害,暴行の一〇・五%ないし一二・七%,業務上過失致死傷の七・三%ないし一一・六%,強姦の九・三%ないし一一・〇%,恐喝の五・八%ないし八・〇%,強盗の五・一%ないし六・一%となっている。傷害,暴行,強姦,業務上過失致死傷は増加の傾向を示しており,また恐喝,傷害,暴行,業務上過失致死傷の占める割合は,他のいずれの年齢層より高いことは,この年齢層の特色としての粗暴的傾向をよく示している。
イ つぎに刑期別人員についてみると,この年齢層では,六月をこえ一年以下の者が最も多く三五・九%で,これに次いで一年をこえ二年以下が三〇・六%,二年をこえ三年以下が一〇・五%の順となっており,三年をこえ五年以下の者は八・三%である。
ウ この年齢層の新受刑者七,四七〇人中五,八五五人(七八・三八%)が初入者であることは,新受刑者全体では,初入者が四七・一四%であることと比較し,かなり比率が高くなっている。
エ つぎに暴力組織加入者についてみると,II-102表のとおり,この年齢層の受刑者の暴力組織に加入していた者の割合は,一六・七%ないし一七・八%となっており,少年その他の年齢層と比べて,もっとも高いことが注目される。

II-101表 新受刑者の罪名別・年齢別人員の比率(昭和41〜43年)

II-102表 暴力組織加入者年齢層別人員(昭和41〜43年)

(2) 処遇の概要

 若年受刑者の特殊性は,さきにも述べたとおり,心身の被影響性が強く,犯罪性がまだ全く固まってしまったとはいえない点で,少年と類似するものがある。したがって,若年受刑者に対する処遇については,少年受刑者に対する処遇と同じような配慮がなされているが,なおとくに次の各事項に重点をおいて実施されている。
ア 暴力組織からの遮断 若年受刑者の処遇にあたっては,刑務所内外の暴力組織または,その構成員の影響から遮断することが考慮されている。暴力組織に加入している者に対しては,離脱するよう説得し,また,暴力組織に加入していない者とは,できうる限り接触させないようにしている。
イ 規律訓練・職業訓練・自治的な処遇 若年受刑者の更生のため,まず規律訓練と職業訓練が並行して綿密に計画実施されている。まず,新入時教育期間や体育・レクリエーション時間を利用して集団行動訓練を実施したり,居室における行動観察やグループカウンセリング等によって問題を解決することにより,社会適応性の涵養に努力している。
 若年受刑者には,職業訓練が徹底して行なわれている。現在職業訓練を受講している者は,II-103表のとおりで,昭和四三年度中に職業訓練によって,公認の資格または免許を取得した者は,II-104表のとおり,一,二四五名に達している。法務省では,若年受刑者を収容している中野刑務所,奈良少年刑務所,山口刑務所および函館少年刑務所の四施設を総合職業訓練所として指定し運営している。職業訓練受講生のほかは,II-105表のとおり,刑務作業についている。

II-103表 職業訓練受講生種目別人員(昭和44年4月25日現在)

II-104表 職業訓練による資格・免許等取得数(昭和43年)

II-105表 刑務作業・業種別就業状況(昭和44年4月25日現在)

 以上のべた規律訓練および職業訓練とならんで,若年受刑者には,自治能力を一層涵養する必要があり,禁錮受刑者とともに,開放的処遇をとりいれる努力が払われており,この点で松山刑務所大井造船作業場や山形刑務所最上農場などにおける処遇は注目に価する。

(二) 交通事犯禁錮受刑者の処遇

(1) 収容状況

 近年,自動車の運転にかかる業務上過失致死傷罪等によって,禁錮に処せられる者が著しく増加してきている(II-57表参照)が,これらの受刑者を,昭和三九年以降,一定の基準により,特定の施設に集禁して,開放的な処遇を行ない,特殊な教育を行なうにいたっている。
 その集禁施設は,II-106表のとおりであって,集禁の基準は,[1]懲役刑を併有しないこと,[2]懲役もしくは禁錮の執行等により,矯正施設に収容された経験を有しないこと,[3]おおむね執行刑期が三月以上であること,[4]心身に著しい障害がないこと,[5]管理上支障のおそれがないこと,とされている。なお,右の基準による集禁施設五庁のほか,矯正管区が指定している,いわば準集禁施設四庁がある(II-106表)。

II-106表 交通事犯禁錮受刑者の収容状況(昭和43年12月31日現在)

 昭和四三年一二月末現在の交通事犯禁錮受刑者の収容状況は,II-106表に示すとおりであって,過半数が集禁施設に,約四分の一が準集禁施設に,それぞれ,収容されている。そのほか,懲役刑の執行等による矯正施設の収容経験があるため集禁されない者等が,五分の一強を占める。
 これらの者を年齢別にみると,二〇歳ないし二五歳が四二・六%を占めて最も多く,次いで,三〇歳ないし三九歳の二四・三%,二六歳ないし二九歳の二三・一%の順になっている(II-107表)。

II-107表 交通事犯禁錮受刑者の年齢(昭和43年12月31日現在)

 次に,刑期別にみたのが,II-108表である。すなわち,六月をこえ一年以下が七四九人(五三・〇%)で,半数以上を占め,次いで,三月をこえ六月以下三二〇人(二二・六%),一年をこえ二年以下二八九人(二〇・五%)となっている。

II-108表 交通事犯禁錮受刑者の刑期(昭和43年12月31日現在)

(2) 処遇の概要

 交通事犯禁錮受刑者の集禁施設においては,収容者の特質から,開放的処遇が推進されている。
 一例として,習志野刑務支所(昭和四四年三月千葉県市原市に移転し,市原刑務支所と名称変更。)における処遇状況についてみると,同支所は,種々の点で,一般の行刑施設と異なる特色をもっており,とくに定められた処遇要領に基づき,開放的雰囲気の中で,規律ある生活を営ませ,生活訓練,職業指導その他社会復帰に必要な教育を行なっている。
 すなわち,入所時教育を含めて厳正な訓練期間(入所から約一か月)を経れば,居室,工場,食堂,教室,図書室,集会室等に施錠しないことを原則とし,検身,捜検なども原則的には行なわず,施設構内では,戒護者なしの通行を認め,作業,レクリエーション,集会,クラブ活動などについて,当番制を採用することにより,できるだけ,自主的な運営をさせ,集団訓練が効果あるよう配慮されている。
 面会および信書の発受についても,施設の管理上支障のない範囲で,つとめて行なわせることとしており,とくに面会については,必要と認めるときは,面会室以外の場所で,職員による立会なしで行なわせることとしている。
 次に,生活訓練の内容は,施設の日常生活に即しつつ,相談助言その他の方法により,法を守る精神,責任観念その他の徳性をかん養させるとともに,自主自立の精神を体得させるものである。なかでも,徳性のかん養については,毎週二時間以上,とくに道徳教育の時間を設け,民間篤志家の協力も得て,説話のほか,集団討議,視聴覚教材の利用など,種々の方法を活用して指導している。
 また,職業の指導は,収容者を二つのグループに分けて行なわれる。第一のグループは,入所時の適性検査により自動車運転の適性が著しく欠けていると認められる者,および自動車運転の職から転職することを希望する者から成り,このグループに対しては,おおむね,二か月間,三〇〇時間をもって修了するよう指導課程を編成し,最近の職業情報の提供,新職業の選択にあたっての相談助言による指導および各種基本的技術の実習指導などを行なっている。
 ちなみに,中野刑務所において,同所が昭和四三年中に習志野刑務支所に移送した交通事犯禁錮受刑者について実施した,入所時の運転適性検査(速度見越,重複作業反応)の結果をみると,実施者四七九名に対し,総合判定において,合格三九四名(八二・三%),不合格四五名(九・四%),要注意四〇名(八・三%)となっている。
 第二のグループは,出所後,自動車運転に関する業務に従事することを希望し,かつ,その適性のある者で,これに対しては,第一グループと同一の期間と時間による指導課程をもって,右の運転に必要な知識と技能を付与するとともに,安全運転の態度を習熟させるための指導を行なっている。
 その他,工場の作業については,本人が作業につくことを願い出た場合に,その適性,希望および将来の生計などを考慮して就業が許可される。就業時間は,一日六時間,一週三六時間で,懲役受刑者と比べて,一日に二時間短縮され,その分は,前記の道徳その他の教育指導にあてられている。以上のように,交通事犯禁錮受刑者の集禁処遇は,開放的処遇を原則とした教育指導に重点をおいて実施されており,その成果には,見るべきものが多い(II-109表およびII-110表参照)。なお,各矯正管区の準集禁施設においても,集禁施設の処遇要領に準じた処遇が行なわれている。

II-109表 交通事犯禁錮受刑者の自動車運転免許取得試験受験結果(昭和41〜43年)

II-110表 交通事犯禁錮受刑者再入者調(昭和43年12月31日現在)

(三) 女子受刑者の処遇

(1) 収容状況

 女子の新受刑者は,男子に比較して著しく少なく,しかもわずかながらおおむね減少傾向にあることはすでに述べた。
 昭和四三年末現在の女子受刑者は,全国で九八五人であり,主として女子を収容する栃木,和歌山,笠松,麓の四刑務所と,札幌刑務所の女区とに収容されている。
 女子受刑者の犯した罪名についてみると,II-111表のとおりで,窃盗が最も多く半数を占め,ついで殺人,詐欺,売春防止法違反,放火の順で多く,男子受刑者と比較すると,恐喝・傷害等の暴力的犯罪が少なく,詐欺や放火等の占める割合が比較的高いのが目につく。

II-111表 受刑者の男女別罪名人員および比率(昭和43年12月31日)

 昭和四二年一月に行なった法務総合研究所の調査によれば,殺人および放火では,入所一度のものの割合が高いが,窃盗および売春防止法違反によるものは,入所一度のものが少なく,二度以上の入所者がその半数を占め,入所四度以上という多数回入所のものが,窃盗においては三〇・九%,売春防止法違反においては三四・一%みられた。
ア 年齢
 年齢についてみると,II-112表のとおり,三〇歳ないし三九歳の年齢層が最も多く,三四・六%を占めているが,四〇歳をこえる高年齢層の割合もかなり高く,三八・六%に達し,男子の同年齢層(一七・七%)の二倍強となっている。これに対し二五歳以下の割合(一三・八%)は男子のそれ(三一・四%)の半分にも満たない。女子受刑者は,男子受刑者に比べて高年齢層に傾いているといえよう。

II-112表 女子受刑者の年齢別人員および比率(昭和43年12月31日現在)

イ 知能
 知能指数をみると,II-113表のとおりで,女子受刑者の知能指数は,七九以下の知能指数の低いものが六〇・〇%であるのに対し,知能指数九〇以上のものは,一四・八%にすぎず,男子受刑者以上に知能指数の低いものの割合が高い。

II-113表 女子受刑者知能指数別人員および比率(昭和41年〜43年各12月20日現在)

 前述の法務総合研究所の調査によれば,四〇歳以上の高年齢層のものに,知能の低いものが著しく多く,罪名についてみると,売春防止法違反および放火に低いものが多い。
ウ 精神障害
 女子受刑者全体の約二割が精神障害者であり,精神病質,精神薄弱が多い。
 男子受刑者に比べて,正常者が比較的多いにもかかわらず,中間的な準正常者がすくなく,精神障害者の率が男子をしのいでいるのが例年特徴的にみられる(II-114表参照)。

II-114表 女子受刑者精神状況別人員および比率(昭和43年12月31日現在)

エ 教育程度
 女子受刑者の教育程度を,新受刑者の学歴によってみると,中学校卒業者が最も多く,ほぼ三分の一を占めている。高等学校卒業以上のものも約一割みられる反面,不就学および中学校卒業までにいたらぬ学歴のものが,総数のほぼ半数(四九・八%)に達している。ちなみに男子受刑者のそれはほぼ二割程度である。
 女子受刑者は知能程度の低いものの多いことと平行して学校教育も十分に受けていないものが多い。
オ 生活環境
 女子受刑者は,教育程度においてうかがえるように,その生活環境にめぐまれていないものが多い。
 前に述べた法務総合研究所の調査によれば,女子受刑者の生育した家庭には,その家族構成,経済状態,家庭内の人間関係などに問題のあるものが多くみられている。
 また職業についても,サービス業,とくに接客業に従事していたもの,ついで工員であったものが多いが,職業定着性はきわめて低く,頻回転職者が目だっている。
 結婚について,全女子人口におけるそれと比較すると,若年層には,結婚経験をもつものが,一般よりむしろ多いが,高齢者ではかえって,結婚経験のないものが多い。しかし全般的に,同せい経験をもつものはかなり多い。
 入所直前の生活状況では,主婦として家庭にあったもの三割,在職者四割であるが,売春,詐欺,窃盗などの犯罪により生活の資を得ていたと認められるものも一割強みられる。

(2) 処遇の概要

 女子受刑者の処遇方法は,基本的には男子と異なるところはない。しかし,専ら女子職員が処遇にあたり,妊産婦(妊娠五か月以上,産後二か月以内)は病人に準じて取り扱われ,入所時満一歳に達しない乳児を携えた者と,入所中に分娩した者は,その子が満一歳になるまで施設内の特設の保育室で養育しうるなど,特別の考慮が払われているほか,処遇全般にわたって,女子の特性に応じた処遇を行なうことが配慮されている。
 女子受刑者には,前述のとおり,その特質や成育環境等に悪条件をもっているものが多い。施設内生活においても,II-115表に示すとおり,不平不満やボス的傾向など,集団処遇困難者は少なくないので,収容者間の人間関係の調整等には特段の注意が払われ,指導が行なわれている。

II-115表 女子受刑者処遇の難易別人員および比率(昭和43年12月31日現在)

 昭和四三年末現在,女子刑務所において,作業についている受刑者の作業種目と人員は,II-116表に示すとおりである。洋裁が一番多く,その他女性に適した業種が受刑者の個々の特質に応じて選ばれている。その中で,昭和四三年末現在,七八人が職業訓練をうけているが,前掲の各女子刑務所には,それぞれ技能訓練所が設けられており,II-117表の示す職業訓練が行なわれている。

II-116表 女子受刑者業種別就業人員および比率(昭和43年12月31日現在)

II-117表 女子受刑者職業訓練延人員および比率(昭和43年4月〜12月)

 職業訓練をうけたもののうち,昭和四二年度に資格免許試験に合格したものは,調理師一六,美容師一二,クリーニング師一となっている。笠松刑務所における調査例によれば,昭和四四年二月現在で,同所の美容科修了者の累計一九二人中,美容師試験合格者は累計一〇一人であり,このうち一六人が開業したことが判明している。また同所の洋裁科については,修了者累計一六四人,家事サービス科のそれは二一七人となっている。
 女子刑務所では,成績のよい受刑者について余暇時間を活用し,手芸,服飾品作成などの自己労作が試みられている。また女性らしい情操を養うことができるよう各種の教化行事を実施するなど,生活指導に注意が払われている。とくに女子の場合,家庭生活に復帰することは最も共通した目標となるので,家庭的ふんい気をつくることや,家事,家政の場面の指導が重点的に行なわれており,自治活動も積極的にとり入れられている。

(3) 出所の状況

 昭和四三年における女子受刑者の出所総数は,九三五人である。出所者の全体の約半分が父母と配偶者のもとに,ほぼ同数ずつ帰住している。父母のもとに帰住するものの割合は,男子の場合より少ないが,その分だけ,配偶者や兄弟姉妹その他の親族に依存しているといえよう。
 さきに,女子受刑者の特質で述べたように,資質の面でも環境面でも恵まれていないものの多い女子受刑者においては,社会復帰の条件においてもまた,恵まれていない。施設内処遇においてさらにいっそうの資質の改善につとめ,適応性の増大をはかるとともに,社会復帰のための弾力的な処遇を,保護環境の整備と関連させつつはかることが望まれる(II-118表参照)。

II-118表 出所受刑者の帰住先,出所事由および出所時保護別人員および比率(昭和43年)

(四) 心身障害受刑者の処遇

(1) 収容状況

ア 医療刑務所
 心身に障害のある受刑者に対して,その障害をできるだけ除去ないし緩和し,心身ともに健康な状態で社会復帰・更生させるために,医療を中心とした矯正処遇を行なう特殊刑務所として,医療刑務所が設けられている。全国で,八王子(東京都),城野(北九州市)の本所二施設と,岡崎(愛知県),菊池(熊本県)の支所二施設とがある。
 これらの医療刑務所は,一般刑務所の受刑者のうち,心身に著しい故障があって継続的な治療あるいは特別の治療的処置を必要とするものを収容し,疾患に応じた専門的医療を行なうのであるが,現在のところ施設の数が少ないので,最近五年間の収容人員の推移をみても,II-119表の示すとおり,四施設をあわせて,一日平均収容人員は,千人前後である。なお昭和四三年の八王子医療刑務所の急減は,医療体制充実対策として,施設を改築するために行なった収容人員調整の影響である。

II-119表 医療刑務所一日平均収容人員(昭和39年〜43年)

イ 医療重点施設
 昭和四三年一二月現在で,医療刑務所に収容できない一般刑務所における心身障害者数は,約千五百人におよんでいるが,医療刑務所の収容には,限度があるので,これを補完する意味で,でき得る限り心身障害者を医療設備ならびに技術者の充実した施設に集めて治療をはかる考慮が必要である。
 現在おおむね各矯正管区一施設あて,すなわち,京都拘置所,名古屋,広島,福岡,宮城,札幌および徳島の各刑務所に,八王子,岡崎(支),城野の各医療刑務所を加えた一〇施設を医療重点施設とし,右の施設においては,その管区における総合病院的な機能をもった治療センターとして,医療活動が行なわれている。

(2) 処遇の概要

 医療刑務所に収容されるべき受刑者は,分類級別H級(精神障害者)ならびにK級(身体疾患者・身体障害者・老衰者および身体虚弱者。このうち老衰・虚弱については,別項の老年受刑者の処遇が考慮されている。)であるが,施設ごとに分類級別・受送の範囲・診療の重点を異にしており,施設の特性に応じた対象者を選別して,これを受送している。
 最近における各施設の特色は,次のようになっている。
ア 八王子医療刑務所は,東京,大阪,仙台および札幌管内のH級・K級ならびに高松管内のK級を収容しており,痴愚級以下の精神薄弱者に対する治療教育と,手術的処置を必要とする結核性疾患に対する高度の専門的治療とに特色がある。
イ 城野医療刑務所は,大阪,広島,福岡および高松管内のH級を収容して,精神障害者のすべてを,障害の症候,治ゆの進度などから群別,班別にわけ,処遇の運用を流動的に行なって治療をすすめている。
ウ 岡崎医療刑務支所は,大阪および名古屋管内のH級を収容するが,昭和三七年一〇月以降,軽度精神薄弱者のみの収容施設から転換して,精神障害者のための総合的な専門施設となり,その体制を整備しつつある。
エ 菊池医療刑務支所は,わが国唯一のらい患受刑者の施設で(受送の範囲は全国で,女子も収容する。),らい患者の療養にきわめて適した環境のもとで,治療の効果をあげている。
 心身障害受刑者の処遇効果をみるために,疾患の治ゆという観点から,医療重点施設一〇か所(医療刑務所三を含む。)における最近六か月間の新患者五,〇八五人の治ゆ率をみると(II-120表参照),治ゆ率の低い疾患は,精神障害では,てんかん・精神分裂症・精神薄弱であり,身体疾患では,結核・新生物(がん性腫瘍を含む。)・造血器関係であるが,疾患全体を通じては五一・七%(一過性中毒や胃腸障害が含まれている。)が治ゆしている。

II-120表 医療重点施設患者の傷病別・転帰別人員(昭和43年7月〜12月)

 患者が治ゆまたは軽快した場合には,移送した刑務所へ送りかえして,健康者なみ,もしくはそれに準じた処遇が行なわれている。なお,未治ゆ出所とは,治療を継続している間に刑期が満了し,これを中断する事例をさす。

(五) 老年受刑者の処遇

(1) 収容状況

 呉刑務支所は昭和二九年五月,浦上刑務支所は三七年五月,それぞれ広島管内と福岡管内のKz級(老衰・虚弱)施設に指定されて,養護処遇を必要とする老年受刑者に対して処遇の適正を期することとなり,老年者の精神的肉体的能力を考慮して,その処遇に特別な配慮が加えられている。 II-121表は,昭和四三年一二月末現在,これらの施設に収容中のKz級一三六人について,罪名別・刑期別・入所度数別・犯数別に年齢構成をみたものであるが,六〇歳以上がそのほとんどの九二・七%で,七〇歳以上の高齢者だけでも一七・六%を占めている。そして,累犯者の率が六六・九%と高く,入所度数三度以上の者が七六・五%となっている。

II-121表 老年受刑者の年齢別・罪名別等人員(昭和43年12月31日現在)


(2) 処遇の概要

 保安面を緩和し,作業内容をやわらげ,居室・日課・レクリエーション等を老年者に適するようにし,給食・医療対策を充実し,さらには帰住先を十分に調整して,社会復帰を容易にするための処遇が行なわれているが,浦上刑務支所を例にとれば,次のような特色がみられる。
ア 生活態度が静的なので,紀律違反はほとんどみられない。
イ 一般刑務所よりも作業時間を二時間短くした動作時限で,紙細工・雑工・木工などの軽作業を行なわせている。
ウ 収容者の希望にもとづく宗教を通じての指導教化に重点をおいている。
エ 全般的に体力が弱いので,老年期特有の高血圧症とそれに付随した心臓疾患,神経症などの予防策を中心にした診療体制がとられている。
オ 頑固さがある反面,あきらめ,無気力といった老年心理が作用して,復帰すべき家庭や社会との結びつきが弱いために環境の調整がきわめてむずかしい。
カ 開設以来の再入率は一三・五%である(昭和四三年一二月末までの入所者四〇六人,出所者三三八人についての浦上刑務支所の調査による。)。