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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第二章/一/5 

5 未決拘禁者および死刑確定者の処遇

(一) 未決拘禁者

(1) 収容状況

 未決拘禁者,すなわち,被告人および被疑者の入出所の状況および一日平均在所人員は,II-122表に示すとおりである。昭和四三年における被告人の一日平均在所人員は,七,二〇九人で,前年に比べて五一八人減少しており,被疑者のそれは,五七八人で,前年に比べて,一三九人減少している。また,昭和四三年における,被告人の新入所人員合計は,五〇,五一七人,出所人員合計は,五四,五二八人,同じく,被疑者の新入所人員合計は,三九,一七七人,出所人員合計は,三七,三六二人で,いずれも,前年にひきつづき,減少を示している。

II-122表 未決拘禁者の入出所人員(昭和39〜43年)

 つぎに未決拘禁の期間についてみると,昭和四二年における通常第一審終局被告人八九,二四一人中,六九%にあたる六〇,二八四人が勾留されているが,起訴後第一審の終局裁判を受けるまでの間の勾留期間別人員は,II-123表のとおりであり,これによると,一月をこえ二月以内の者が最も多く,総数の三一・七%であり,二月以内で七割を占め,六月をこえる者は一三・五%である。

II-123表 通常第一審終局被告人の勾留日数別人員と比率および年末現在の勾留期間別人員と比率(昭和42年)

(2) 処遇の概要

 未決拘禁は,犯罪の嫌疑のもとに,その被疑者または被告人が逃亡したり,または,証拠の隠滅を図るおそれのある場合に,このような事態の発生を予防するためにとられる強制処分である。したがって,未決拘禁者は,受刑者と同じように,身柄を強制的に施設に収容されるが,裁判によって有罪が確定した受刑者とは,拘禁の目的が異なるために,異なった処遇を受ける。未決拘禁者は,拘置所または拘置支所に収容される。刑務所に収容される場合は,所内の特別の区画(拘置場という。)に収容される。未決拘禁者の処遇は,施設管理上の所内秩序維持のためのもののほか,逃走および証拠の隠滅に対する対策が基本的なものとなるといえるが,その概要は,次のとおりである。
ア 居房 原則として,独居房に収容される。これは,証拠隠滅の防止を図るため,ならびに本人の名誉の保全に適しているからである。同一事件に関連のあるものは,居室を別にするほか,居室外においても,接触の機会がないよう配慮されている。
イ 作業 作業は,強制されることはない。本人が願い出た場合には,作業に従事することがある(請願作業という)。請願作業は,施設の管理上支障がない限り,本人の選択するものについて就業が許される。請願作業に従事している未決拘禁者の数は,昭和四三年一二月末において,二・九%で,例年この程度である。請願作業による収入は,国庫に帰属し,就業者には,作業賞与金が給与される。作業賞与金が釈放の際に給与されることは,受刑者の場合と同様であるが,受刑者よりも緩和された制限のもとに,在所中でも,その使用が許されている。
ウ 給養 衣類,寝具は,受刑者と異なり,自弁が原則であり,食糧や日用品についても,大幅に,自弁が許されている。拘禁前の生活程度を,拘禁後も引き続き,できるだけ維持させようとする趣旨によるものであるが,衛生および紀律の観点から,相当程度の制限がなされる。なお,自弁できない者に対しては,国の義務として必要なものが給貸与される。
エ 面会および信書 面会は,受刑者の場合と異なり,管理上やむを得ない場合を除き,その相手方および回数についての制限はない。とくに,弁護人との面会は,立会人をつけず,訴訟当事者としての防御権が保障されている。また,裁判所が接見禁止の決定をしても,弁護人との面会は禁止されない。信書の発受も,管理上やむを得ない場合のほか,その相手方,回数などについて制限されることはないが,その内容は,検閲され,検閲の効果として,未決拘禁の目的をそこなったり,施設の秩序を現実に脅かす危険のあるような内容であれば,それに対する適当な措置がとられる。
オ 文書の閲読等 文書・図画は,拘禁の目的に反せず,かつ,施設の紀律に害のないものに限り,閲読させることができる。教誨は,原則としては行なわれないが,未決拘禁者から願い出があった場合には,許される。
カ 懲罰 施設の秩序を維持するため,規則に違反した者には,懲罰が科せられるが,減食罰は,科せられない。
 II-124表は,昭和四一年以降の受刑者以外の者の懲罰事犯者の事犯別割合を示したものである。刑務所および拘置所の収容者のうち,受刑者を除く者は,未決拘禁者が大部分であるから,この表に計上されたものは,ほとんどが,未決拘禁者によるものと考えてもよいであろう。この表によれば,未決拘禁者の受罰人員の一日平均在所人員に対する比率は,四五〜四七%で,受刑者の場合より,やや低率である。昭和四三年における懲罰事犯のうち,最も多いものは,対収容者暴行である。たばこ所持は,逐年,割合が減少しているが,抗命,争論,通声などは,割合が増加の傾向にある。

II-124表 未決拘禁者などの懲罰事犯別人員の比率(昭和41〜43年)

 これらの懲罰事犯に対する処置としては,監獄法に規定されている懲罰が科せられるが,さらに,刑事事件として,起訴される者もある。昭和四三年において,起訴された者は,二七人であり,その行為別人員で,最も多いものは,傷害である(II-94表参照)。
 未決拘禁者の処遇は,人権を尊重し,拘禁される者の訴訟上の権利を妨害しないように配慮しながら,未決拘禁の目的を果たすという,困難な仕事である。また,拘禁そのもの,裁判あるいは将来に対する不安,自己の犯罪または容疑についての感情の動揺などが未決拘禁者に与えている影響によって,種々の問題が発生し易い。したがって,これらの影響を見きわめ,科学的に,適応性を与えるための配慮に基づく処遇がなされることが必要であろう。

(二) 死刑確定者

(1) 収容状況

 昭和三九年以降の死刑確定者の収容状況は,II-125表のとおりで,昭和四三年末の収容人員は,八二人である。この中には,女子が三人含まれている。

II-125表 死刑確定者の収容人員(昭和39〜43年)

 死刑確定者に対しては,死刑の判決確定があってから原則的には,六か月以内に刑の執行をすべきものとされているが,実際には,上訴権の回復,再審の請求,非常上告または恩赦の出願や申出がなされ,その手続が終了するまでの期間および共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は,その期間に算入されないことになっているなどの理由から,相当長い期間,拘禁されている者がある。

(2) 処遇の概要

 死刑の判決が確定した者は,死刑の執行が行なわれるまで,拘置所または刑務所の拘置場に拘禁されて,特別の規定に基づく処遇を除いては,未決拘禁者に準じて処遇される。それは,死刑という極刑に直面する者に対する思いやりから,受刑者の場合よりもゆるやかな未決拘禁者の処遇規定が準用されているものである。
 死刑確定者の拘禁の目標は,死刑の執行に至るまでの身柄を確保することである。そのためには,死刑に直面する人間の苦悩と恐怖とを,できるかぎり,取り除き,本人がしょく罪の観念に徹し,安心立命の境地に立って,死刑の執行に臨むように,また,社会に対しては,本人の拘禁についていささかの不安も与えることがないように,あらゆる努力を尽くすことが要請されている。したがって,その心情の微妙な動きを的確には握して,適正な処置をとることと,死を迎えるための人生観の確立のため,教育的措置を講ずることが必要とされる。
 死刑確定者を拘禁している施設においては,専任の職員を配置して,個別的処遇の徹底を図っているほか,篤志面接委員制度,民間宗教家による宗教教誨師制度の活用に努めている。短歌や俳句などの文芸や美術等を通じての情操教育や宗教教誨は,これらに当たる篤志面接委員や宗教家の熱心な指導によって,死刑確定者に安心立命を得させるのに,きわめて大きな効果をあげている。