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 昭和35年版 犯罪白書 第三編/第三章/四/2 

2 統計からみた四号観察の状況

(一) 四号観察対象者の数

 四号観察の対象者は,当初はきわめて少数であったが,その後,年をおうて増加し,ことに,初度目の執行猶予者に対するものの増加がいちじるしいことは,第二編のII-47表でみたとおりであるが,グラフであらわすと,III-21図のようになる。しかも,四号観察の観察期間は,一年以上五年以下という長期のものが多いため,発足当初の三年間は,期間満了で終了となる者がほとんどなく,したがって,年間の取扱事件は,年末件数とともに,急カーブをもって上昇しており,法務統計によれば,昭和三三年末現在では,初度目のものは,一一,四四一人,再度目のものが七,九〇三人で,合計一九,三四四人である。

III-21図 四号観察の初度目・再度目別新受人員(昭和28〜33年)

(二) 四号観察対象者の特徴

 四号観察対象者の前歴の有無をみると,III-46表のように,三号観察(仮出獄者)と比較して,前歴をもつものは,約一二パーセント少ない。

III-46表 新受三・四号観察対象者の前歴有無別人員と率(昭和33年)

 つぎに,保護観察の期間(実際に保護観察をした期間)は,III-47表にみるように,その平均は,昭和二七年と昭和二八年とは三年をこえるが,つづく昭和二九年から昭和三二年までは,二年たらずという短さである。これは,四号観察の多くが,後述するように,再犯などの事由で,保護観察の期間なかばで取り消されるためである。

III-47表 四号観察対象者の平均観察期間

(三) 四号観察の成績―とくにその取消について

 四号観察の成績は,どうであろうか。
 III-48表は,昭和三〇年以降,保護観察の終了したものを年次別に期間満了と取消とに分け,さらに,期間満了をその成績によって良好,稍良,普通,不良などに分けてみたものであるが,一見してわかるとおり,昭和三〇年は,この制度の発足当時で,大多数はまだ期間満了の時期に達せず,終了者は,ほとんどといっていいくらいに,再犯や遵守事項違反で取り消された者だったのである。昭和三三年になって,期間満了者がその約四七・七パーセントをしめるようになったが,それにしても「取消」の数の多いことは,注目にあたいする。

III-48表 四号観察終了人員の終了事由等別本員と率

 昭和三三年度の取消事由をみると,犯罪によるものが圧倒的に多く,遵守事項違反による取消は,わずか七人にすぎない(III-48表参照)。
 そこで,昭和三三年度中にとりあつかった保護観察対象者に対する取消の率を観察種別にみると,III-49表のように,さきのIII-48表ほどには強い印象はないが,それでも,四号観察の取消率だけで一〇パーセントにちかい(九・八パーセント)高率をみせている。かように,保護観察付執行猶予者の取消率の高いことは,この制度の運用に暗いかげを投げているといわなければならないが,その原因として考えられるのは,保護観察の方法に欠陥があるのか,それとも,保護観察をもってしても更生を期待できない者に保護観察付執行猶予が言い渡されるのか,そのいずれかであろう。

III-49表 保護観察取扱・終了・取消人員と率(昭和33年)

 ここで,保護観察期間終了者の成績について,三号観察(仮出獄者)と比較すると,さきのIII-42表48表にみるように,「不良」がより多いことがわかる。これを保護観察中のある時点(昭和三四年七月三〇日)における各保護観察の成績からみても,III-50表のように,三号観察は「不良」が五・六パーセントであるのに,四号観察のは,一〇・一パーセントだから,おなじ傾向が認められる。罪質の軽いはずの四号観察対象者の成績が,罪質の重い仮出獄者のそれに比して,全般的に悪いという一見理解しがたい現象がうかがわれる。

III-50表 保護観察中の成績別人員と率(昭和34年7月末現在)

 保護観察中の成績と関連して問題となるのは,四号観察対象者には他の保護観察に比して所在不明の多いことである。各保護観察ごとに所在不明者の数とその比率とをみたのがIII-51表であるが,五号観察は数が少ないからしばらくおき,四号観察が一五・二パーセントという最高率をしめている。しかも,うち相当数のものが保護観察開始前からの所在不明者であることは,注目されなければならない。

III-51表 観察種類別所在不明人員と率(昭和34年7月末現在)

 なお,これとは反対に,成績良好で,保護観察の必要なしとして仮解除をした数は,昭和三〇年に一一人,昭和三一年に四三人,昭和三二年に一三五人,昭和三三年に一九六人である。

(四) 四号観察の問題点

 四号観察で問題となるのは,取消率と所在不明者の率との高いことであるが,これについては,つぎのことが考えられる。

(1) いわゆるバトンタッチの問題

 こころみに保護観察当初の対象者の出頭状況をみると,III-52表のとおりで,四号観察の出頭率だけが八一・四パーセントととびはなれてわるく,これを三号観察のそれと比較すると一二パーセントちかくも低い。この傾向も年をおって改善されてきてはいるが,この問題には,根本的には,保護観察を言い渡す裁判所とそれを執行する保護観察所とのあいだの身柄のバトンタッチの問題が,制度上の隘路として横たわっているのである。

III-52表 保護観察受理人員の出頭状況別人員と率(昭和33年)

 裁判所で四号観察に付する旨の言渡があっても,それが確定して実際に保護観察に付されるまでには,検察官と被告人の双方から上訴権の放棄がないかぎり,法律上,一四日間の時日の経過を要する。そのうえ,四号観察では,仮釈放の場合のように特別遵守事項によって帰住地が特定されることがなく,本人の届出ですむことになっているので,その一四日のあいだに早く生計の道をたてるために他の地に出向くこともあったりして,その確定の当日までに保護観察所に出頭させるには困難をともなうのである。このために,裁判所が言渡のさいの説示において,本人に保護観察の趣旨を十分に理解させ,言渡確定のうえはすみやかに保護観察所に出頭するよう,とくに,住居,衣食,健康などの問題で相談や保護を必要とする者には,保護観察所に申し出れば確定前でも環境調整や更生保護の措置をとってもらえることなどについても,いいふくめるなどの措置が徹底して行なわれねばならず,また,保護観察所が確定日を予定して,その日からの本人の身柄の確保と保護観察の開始に必要な準備をすすめるために,裁判所から保護観察所への通知がすみやかに行なわれることが必要になってくるのであるが,この点についての措置は,III-53表にもみるとおり,現状では,十分とはいいがたいようである。

III-53表 四号観察の判決言渡通知の受理期間別人員と率等(昭和33年)

(2) 四号観察対象者の適格性

 保護観察は,矯正教育のように一定の塀の中で行なわれるものではなく,本人を自由社会のなかに生活させながら行なうものであるから,本人の自助と,責任とすすんで保護観察をうけるという意思とを前提としてのみ,はじめてなりたつものである。したがって,保護観察に付するには,はたして保護観察になじむ性格の者かどうかの判断が重要である。四号観察対象者のなかには,当初から所在不明の者や,転居や出稼ぎのため住居を離れてしまった者や,保護観察所に出頭する前に再犯して検挙された者などが少なくないのは,保護観察になじまない者のあることの証左といえよう。四号観察対象者のうちには,犯罪そのものは軽微でも,性格にいちじるしい変調がみられ,その周囲をとりまく保護能力からいっても保護観察適応性にとぼしいケースが少なくない。