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3 交通犯罪の概況と事件処理の状況 交通犯罪のうち道路交通取締法令違反事件が激増し,最近における特別法犯事件の大部分をしめている状況については,すでに前章で説明したとおりである(第一章一3参照)。また,交通犯罪がその大部分をしめている業務上過失致死傷事件の戦前からの発生の状況をグラフにするとI-44図のとおりで(実数は付録統計表-16参照)最近の上昇はいちじるしく,戦前と比較にならないことがわかる。
I-44図 業務上過失致死傷の発生件数 最近における交通犯罪の実態を検察裁判の統計によってみると,まず,検察統計における過失傷害と過失傷害致死(このうちには過失傷害,過失致死,業務上過失傷害,業務上過失致死,重過失傷害,重過失致死が含まれているが,その大部分は業務上過失傷害と業務上過失致死とにしめられているので,この数から交通犯罪としての過失犯の趨勢を把握しても,誤差はほとんどない)の事件の受理処理の状況はI-66表のとおりである。I-66表 過失傷害・同致死検察庁受理・処理人員等 この表で明らかなように,受理がふえているほか,年々起訴の比率が上昇している。昭和三三年の起訴率七三パーセントというのは,きわめて高いもので,刑法犯平均の五二パーセントをはるかにこえている。その結果,有罪人員も増加し,裁判所の統計によると,昭和二三年には二,八五七人であった有罪人員が昭和三二年には四一,五二七人となり,じつに一四倍の増加をみせている。なお,起訴の公判請求と略式命令請求の区分をみると,昭和三二年と昭和三三年とは,略式命令で罰金を求刑したのが起訴事件の九八パーセントをしめている。もっとも,二パーセントとはいえ,禁錮刑を求刑するなどの理由で公判請求されたものは,昭和三二年に一,一五一人,昭和三三年には一,三一九人もある。公判請求された者を主たる対象とする通常第一審の裁判結果(略式裁判に対する正式裁判請求者に対するものを含む)はI-67表のとおりで,禁錮刑の言渡をうけた者の約八〇パーセントが刑の執行を猶予されている。懲役や禁錮を求刑されて罰金の言渡をうけた者の少なくないことを考慮に入れると,刑の量定は比較的寛大である。I-67表 過失傷害・道路交通取締法令違反の通常第一審裁判結果 つぎに,交通犯罪のうち道路交通取締法令違反の実態を検察統計(I-68表)についてみると,まず,受理人員は年々激増してきたが,昭和三三年には,前年よりも少しく減少しているのが目だっている。しかし,これが違反の取締りの緩和を意味するのでないことは,警察統計でも明らかである。つまり,自動車による違反の送致件数は,依然として上昇の一途をたどっているし,運転免許の取消や停止などの行政処分も,また,年々強化されている。しかも,送致件数のほかに,警察官が違反カードや警告書の交付などをした数を含めると,交通違反の総数は,昭和三三年中に約一,四六〇万件つまり送致件数の約七倍に達したとされている。かくて,検察庁の受理件数は警察の取締りの実態そのままを示すものではなく,また,警察の取締りも,違反のすべてを探知することはほとんど不可能だから,この種の交通法規違反の実態は,統計でも,とうてい正確につかめないというほかはない。I-68表 道路交通取締法令違反の検察庁受理・起訴・不起訴人員 つぎに,処理状況では,起訴率は年々上昇し,起訴猶予は,数においても,比率においても,年とともに下降している。なお,この表で,即決裁判の請求数が昭和三三年度にはやや下降しているのが注目される。昭和三三年の起訴率を他と比較すると,道路交通取締法令違反の起訴率八四パーセントは,特別法犯の平均起訴率四六パーセントをはるかにこえ,麻薬取締法違反の起訴率七九パーセントよりも上回っている。しかし,公判請求人員はきわめて少なく,昭和三三年には,起訴総人員一,四四〇,二二四人のうち六四二人で,その比率は〇・〇四パーセントである。さて,全国の簡易裁判所における略式命令および即決裁判結果を昭和三二年の統計によってみると(I-69表),二,〇〇〇円未満の罰金に処せられた者と科料に処せられた者との合計は,略式命令では,全体の八二パーセント,即決裁判では,その全体の八五パーセントに達している。もっとも,これは,現行の道路交通取締法令の罰則の法定刑が寛大なのにもよることであろう。懲役刑の言渡をうけた者でも,前記I-67表の示すように,その約八五パーセントが刑の執行を猶予されている。 I-69表 道路交通関係略式命令・即決裁判の裁判結果(昭和32年) |