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令和元年版 犯罪白書 第3編/第1章/第5節/3

3 保護観察

保護観察は,保護観察対象者の再犯・再非行を防ぎ,その改善更生を図ることを目的として,その者に通常の社会生活を営ませながら,保護観察官と,法務大臣から委嘱を受けた民間のボランティアである保護司が協働して実施する(事案に応じて,複数の保護観察官又は保護司が担当する場合もある。)。保護観察官及び保護司は,面接等の方法により接触を保ち行状を把握することや,遵守事項及び生活行動指針を守るよう必要な指示,措置を執るなどの指導監督を行い,また,自立した生活ができるように住居の確保や就職の援助等の補導援護を行う。

保護観察対象者は,家庭裁判所の決定により保護観察に付されている者(保護観察処分少年),少年院からの仮退院を許されて保護観察に付されている者(少年院仮退院者),仮釈放を許されて保護観察に付されている者(仮釈放者),刑の執行を猶予されて保護観察に付されている者(保護観察付全部執行猶予者及び保護観察付一部執行猶予者)及び婦人補導院からの仮退院を許されて保護観察に付されている者(婦人補導院仮退院者)の5種類である。

保護観察対象者は,保護観察期間中,遵守事項を遵守しなければならず,これに違反した場合には,仮釈放の取消し等のいわゆる不良措置が執られることがある。遵守事項には,全ての保護観察対象者が守るべきものとして法律で規定されている一般遵守事項と,個々の保護観察対象者ごとに定められる特別遵守事項とがあり,特別遵守事項は,主として次の五つの類型,すなわち,<1>犯罪又は非行に結び付くおそれのある特定の行動をしないこと,<2>健全な生活態度を保持するために必要と認められる特定の行動を実行又は継続すること,<3>指導監督を行うため事前に把握しておくことが特に重要と認められる生活上又は身分上の特定の事項について,あらかじめ,保護観察官又は保護司に申告すること,<4>特定の犯罪的傾向を改善するための専門的処遇を受けること,<5>社会貢献活動を一定の時間行うこと(平成25年6月の更生保護法の改正(平成25年法律第49号)により追加。27年6月施行)の中から,保護観察対象者の改善更生のために特に必要と認められる範囲内で具体的に定められる。 また,保護観察対象者には,遵守事項のほか,改善更生に資する生活又は行動の指針となる生活行動指針が定められることがあり,遵守事項と共に,指導の基準とされる。

(1)保護観察対象者の人員等
ア 保護観察開始人員の推移

3-1-5-5図は,仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者の保護観察開始人員の推移(昭和24年以降)並びに全部執行猶予者の保護観察率の推移(32年以降)を見たものである。刑の一部執行猶予制度の導入に伴い,平成29年から,仮釈放となって保護観察を開始した者の人員には実刑部分について仮釈放となった一部執行猶予者を含み,また,刑の執行を猶予され保護観察を開始した者としては,保護観察付全部執行猶予者及び保護観察付一部執行猶予者の各人員を合わせて計上している。30年の仮釈放者のうち一部執行猶予者は992人(前年比709人増),保護観察付全部・一部執行猶予者のうち保護観察付一部執行猶予者は974人(前年比726人増)であった(CD-ROM資料3-8参照)。なお,仮釈放者,保護観察付一部執行猶予者及び保護観察付全部執行猶予者の保護観察開始人員は,事件単位の延べ人員である(特に断らない限り,以下この項において同じ。)。

平成期の保護観察開始人員については,仮釈放者は,平成元年の1万6,200人から減少し,7年は1万2,138人になったが,8年から増加に転じ,16年は1万6,690人となった。しかし,17年から再度減少に転じ,30年は1万2,299人(前年比3.6%減)となった。保護観察付全部・一部執行猶予者は,元年から16年までは4,000人台から5,000人台で増減を繰り返していたが,17年に5,000人を割ってからは減少傾向にあり,29年に2,843人まで減少したが,30年は3,455人と増加に転じた(同21.5%増)。全部執行猶予者の保護観察率は,元年の14.3%から低下傾向にあり,15年に10%を切ったものの21年から上昇に転じ,25年から27年までは10.0%が続いたもののその後低下し,30年は7.8%まで低下した(前年比0.3pt低下)(一部執行猶予者の保護観察率については,CD-ROM資料3-8参照)。

なお,平成元年以降の婦人補導院仮退院者は,24年の2人,26年の1人,29年の1人であり,30年はいなかった(CD-ROM資料3-8参照)。

3-1-5-5図 保護観察開始人員・全部執行猶予者の保護観察率の推移
3-1-5-5図 保護観察開始人員・全部執行猶予者の保護観察率の推移
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平成30年末の保護観察対象者の人員は,仮釈放者が4,731人(前年末比1.8%減),保護観察付全部・一部執行猶予者が9,907人(同0.5%増)であった(保護統計年報による。)。

イ 保護観察対象者の特徴
(ア)年齢

3-1-5-6図は,仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者について,平成元年・15年・30年における保護観察開始人員の年齢層別構成比を見たものである。40歳以上の者の構成比を見ると,仮釈放者では,元年が45.0%,15年が46.3%であるが,30年は,61.4%と上昇している。保護観察付全部・一部執行猶予者では,元年が29.0%,15年が34.1%であるが,30年は52.8%と5割を超えている。

3-1-5-6図 保護観察開始人員の年齢層別構成比
3-1-5-6図 保護観察開始人員の年齢層別構成比
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(イ)罪名

3-1-5-7図は,仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者について,平成元年・15年・30年における保護観察開始人員の罪名別構成比を見たものである。仮釈放者では,いずれの年も窃盗と覚せい剤取締法違反を合わせた構成比が5割以上を占めている。保護観察付全部・一部執行猶予者では,覚せい剤取締法違反の構成比が,元年は18.8%,15年は11.6%であったが,30年は35.2%を占めた。同年において,保護観察付全部・一部執行猶予者のうち,保護観察付一部執行猶予者の罪名を見ると,88.5%が覚せい剤取締法違反であった(CD-ROM資料3-9参照)。

3-1-5-7図 保護観察開始人員の罪名別構成比
3-1-5-7図 保護観察開始人員の罪名別構成比
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(ウ)保護観察期間

3-1-5-8図は,仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者について,平成元年・15年・30年における保護観察開始人員の保護観察期間別構成比を見たものである。仮釈放者では,保護観察期間が6月以内の者が,元年は75.5%,15年は67.4%,30年は78.3%であった。保護観察付全部・一部執行猶予者では,2年を超える者が,元年は97.4%,15年は98.3%であったが,30年は73.8%であった。同年において,保護観察付全部執行猶予者と保護観察付一部執行猶予者に分けてそれぞれの保護観察期間を見ると,保護観察付全部執行猶予者では,2年を超える者が98.4%であったが,保護観察付一部執行猶予者では,2年以内の者が88.9%を占めた(CD-ROM参照)。

3-1-5-8図 保護観察開始人員の保護観察期間別構成比
3-1-5-8図 保護観察開始人員の保護観察期間別構成比
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(エ)居住状況

3-1-5-9図は,仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者について,平成元年・15年・30年における保護観察開始人員の居住状況別構成比を見たものである。仮釈放者では,いずれの年も更生保護施設に居住する者の構成比が最も高く,30年は,31.9%であった。また,同年において,保護観察付全部執行猶予者と保護観察付一部執行猶予者を比較すると,単身で居住する者の構成比は保護観察付全部執行猶予者で26.0%であるのに対し,保護観察付一部執行猶予者で8.5%であった(CD-ROM参照)。

3-1-5-9図 保護観察開始人員の居住状況別構成比
3-1-5-9図 保護観察開始人員の居住状況別構成比
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(2)保護観察対象者に対する処遇

保護観察対象者の処遇は,原則として,保護観察官と保護司が協働して実施するほか,定期駐在制度(保護観察官が,市町村や公的機関,各更生保護施設等,あらかじめ定められた場所に,毎週又は毎月定期的に出張し,保護観察対象者やその家族等関係者との面接等を行うもの)を併せて実施している。また,保護観察対象者の再犯防止と改善更生を図るために,段階別処遇(更生保護法施行以前は分類処遇)と,類型別処遇等問題性に応じた処遇を軸として行われている。

ア 分類処遇及び段階別処遇
(ア)分類処遇

分類処遇は,一定の基準に基づき,保護観察の処遇の困難性に応じて,A,Bに分類するもので,昭和46年に導入された。資質,環境等に問題が多く処遇が困難であると予測されるA分類の者に対しては,保護観察官が専門的な立場から,処遇への直接的な関与を高め,重点的に対応する制度であった。

(イ)段階別処遇

更生保護法施行後は,分類処遇に代えて段階別処遇による体系的な保護観察が実施されている。段階別処遇とは,保護観察対象者を,改善更生の進度や再犯可能性の程度及び補導援護の必要性等に応じて,S(特別の態勢及び内容による処遇を行う段階),A(処遇が著しく困難であると認められた者に対する処遇を行う段階),B(処遇が困難であると認められた者に対する処遇を行う段階),C(処遇が困難ではないと認められた者に対する処遇を行う段階)の4段階に区分し,各段階に応じて保護観察官の関与の程度や接触頻度等を異にする処遇を実施する制度である。無期刑又は長期刑(執行刑期が10年以上の刑をいう。以下この項において同じ。)の仮釈放者は,社会復帰に種々の困難があるため,仮釈放後1年間は,S段階に区分し,必要に応じて複数の保護観察官が関与するなどして,充実した処遇が行われている。

イ 問題性に応じた処遇
(ア)類型別処遇

平成2年5月から類型別処遇が実施されている。類型別処遇は,保護観察対象者の問題性その他の特性を,その犯罪・非行の態様等によって類型化して把握し,類型ごとに共通する問題性等に焦点を当てた効率的な処遇を実施するものである。なお,15年に問題飲酒類型,高齢類型,ギャンブル等依存類型が追加されるとともに,家庭内暴力類型として,児童虐待類型と配偶者暴力類型が加わる一方,無期刑類型が削除されている。

平成2年・15年・30年における類型の認定状況(仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者)は,3-1-5-10表のとおりである。仮釈放者の覚せい剤事犯類型の構成比について見ると,2年が21.6%,15年が27.1%,30年が32.3%と上昇している。同年において,認定された者の構成比が最も高いのは,仮釈放者では,無職等類型の35.6%であったが,保護観察付全部・一部執行猶予者では,覚せい剤事犯類型の22.3%であり,保護観察付一部執行猶予者に限ると,覚せい剤事犯類型の83.9%であった(CD-ROM参照)。

3-1-5-10表 保護観察対象者の類型認定状況
3-1-5-10表 保護観察対象者の類型認定状況
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(イ)特定暴力対象者等に対する処遇

仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者のうち,暴力的犯罪を繰り返してきた者で,シンナー等乱用,覚せい剤事犯,問題飲酒,暴力団関係,精神障害等,家庭内暴力のいずれかの類型に認定された者,及び極めて重大な暴力的犯罪をした者等を,処遇上特に注意を要する者として,平成19年8月から,特定暴力対象者と認定している。特定暴力対象者として認定された者については,保護観察官が積極的に対象者やその家族と面接するなどして,生活状況を的確に把握することに努めるなど,処遇の充実強化が図られている。

平成20年に特定暴力対象者として認定された人員(受理人員)は,仮釈放者が253人,保護観察付全部執行猶予者が73人であった。30年は,仮釈放者が214人(うち一部執行猶予者が6人),保護観察付全部・一部執行猶予者が51人(うち保護観察付一部執行猶予者が7人)であった(法務省保護局の資料による。)。

このほか,保護観察所と警察との間において,平成25年4月からストーカー行為等により保護観察付全部執行猶予となった者について,さらに,28年6月からはストーカー行為等に係る仮釈放者及び保護観察付一部執行猶予者について,保護観察実施上の特別遵守事項及びそれぞれが把握した当該対象者の問題行動等の情報を共有し,再犯を防止するための連携強化を図っている。

(ウ)専門的処遇プログラム

更生保護法51条2項4号には,特別遵守事項として定める事項に関し「医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的知識に基づく特定の犯罪的傾向を改善するための体系化された手順による処遇として法務大臣が定めるものを受けること。」と規定されている。これに基づき,ある種の犯罪的傾向を有する保護観察対象者に対しては,指導監督の一環として,その傾向を改善するために,心理学等の専門的知識に基づき,認知行動療法(自己の思考(認知)のゆがみを認識させて行動パターンの変容を促す心理療法)を理論的基盤とし,体系化された手順による処遇を行う専門的処遇プログラムが実施されている。

専門的処遇プログラムとしては,性犯罪者処遇プログラム薬物再乱用防止プログラム暴力防止プログラム及び飲酒運転防止プログラムの4種があり,その処遇を受けることを特別遵守事項として義務付けて実施している。

平成18年度から開始された性犯罪者処遇プログラムは,自己の性的欲求を満たすことを目的とする犯罪に当たる行為を反復する傾向を有する者に対し,性犯罪に結び付くおそれのある認知の偏り,自己統制力の不足等の自己の問題性について理解させるとともに,再び性犯罪をしないようにするための具体的な方法を習得させ,前記傾向を改善するものであり,コア・プログラムを中核として,導入プログラム,指導強化プログラム及び家族プログラムを内容とする。このうちコア・プログラムを受けることを特別遵守事項として義務付けている。

覚せい剤への依存のある保護観察対象者に対しては,平成20年6月から覚せい剤事犯者処遇プログラムによる処遇が行われていたが,刑の一部執行猶予制度の施行に伴い,28年6月から,改善の対象となる犯罪的傾向の範囲を依存性薬物(規制薬物等,指定薬物及び危険ドラッグをいう。以下この項において同じ。)の使用・所持に拡大し,それらの再乱用を防止するための薬物再乱用防止プログラムが実施されている。

薬物再乱用防止プログラムは,依存性薬物の使用を反復する傾向を有する者に対し,依存性薬物の悪影響と依存性を認識させ,依存性薬物を乱用するに至った自己の問題性について理解させるとともに,再び依存性薬物を乱用しないようにするための具体的な方法を習得させ,実践させるものであり,コアプログラム,コアプログラムの内容を定着・応用又は実践させるためのステップアッププログラム及び簡易薬物検出検査を内容とする。

薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律の規定により保護観察に付された者については,原則として,薬物再乱用防止プログラムを受けることを猶予期間中の保護観察における特別遵守事項として定めている。

平成20年6月に開始された暴力防止プログラムは,身体に対する有形力の行使により,他人の生命又は身体の安全を害する犯罪に当たる行為を反復する傾向を有する者に対し,怒りや暴力につながりやすい考え方の変容や暴力の防止に必要な知識の習得を促すとともに,同種の再犯をしないようにするための具体的な方法を習得させ,前記傾向を改善するものである。

平成22年10月に開始された飲酒運転防止プログラムは,飲酒運転を反復する傾向を有する者に対し,アルコールが心身及び自動車等の運転に与える影響を認識させ,飲酒運転に結び付く自己の問題性について理解させるとともに,再び飲酒運転をしないようにするための具体的な方法を習得させ,前記傾向を改善するものである。これらの専門的処遇プログラムは,特別遵守事項として義務付けて実施する以外に,必要に応じて生活行動指針として定めるなどして実施することもある。

専門的処遇プログラムによる処遇の開始人員の推移(資料を入手し得た平成21年以降)は,3-1-5-11図のとおりである。性犯罪者処遇プログラムによる処遇の開始人員を見ると,仮釈放者では,600人前後で推移し,保護観察付全部・一部執行猶予者では,300人前後で推移している。薬物再乱用防止プログラムによる処遇の開始人員を見ると,刑の一部執行猶予制度が開始された翌年の29年から急増し,30年の開始人員は,21年の開始人員と比べ,仮釈放者では約1.9倍であり,保護観察付全部・一部執行猶予者では約3.9倍であった。

なお,平成30年に薬物再乱用防止プログラムを開始した保護観察付全部・一部執行猶予者のうち,保護観察付一部執行猶予者は892人(68.1%)であった(CD-ROM参照)。

3-1-5-11図 専門的処遇プログラムによる処遇の開始人員の推移
3-1-5-11図 専門的処遇プログラムによる処遇の開始人員の推移
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(エ)しょく罪指導プログラム

平成19年3月から,自己の犯罪により被害者を死亡させ,又は重大な傷害を負わせた保護観察対象者には,しょく罪指導プログラムによる処遇を行うとともに,被害者等の意向にも配慮して,誠実に慰謝等の措置に努めるように指導している。

しょく罪指導プログラムの実施が終了した人員は,資料を入手し得た平成21年以降同年の570人が最も多く,30年は382人であった(法務省保護局の資料による。)。

なお,平成25年4月から,法テラス(第1編第2章第6節2項本章第1節2項及び第6編第2章第1節7項参照)と連携し,一定の条件に該当する保護観察対象者が被害弁償等を行うに当たっての法的支援に関する手続が実施されている(30年度までの処理件数は24件であった。法テラスの資料による。)。

ウ 中間処遇制度

無期刑又は長期刑の仮釈放者は,段階的に社会復帰させることが適当な場合があるため,本人の意向も踏まえ,必要に応じ,仮釈放後1か月間,更生保護施設で生活させて指導員による生活指導等を受けさせる中間処遇を行っており,平成元年は116人,15年は105人,30年は72人に対してそれぞれ実施した(法務省保護局の資料による。)。

エ 就労支援

出所受刑者等の社会復帰には,就労による生活基盤の安定が重要な意味を持つため,従来から保護観察の処遇において就労指導に重きを置いているが,平成18年度から,法務省は,厚生労働省と連携し,出所受刑者等の就労の確保に向けて,刑務所出所者等総合的就労支援対策を実施している。また,23年度から,一部の保護観察所において,更生保護就労支援モデル事業が開始され,26年度からは実施地域を拡大して,更生保護就労支援事業として実施されている。30年度は,保護観察所21庁で実施されており,このうち,東日本大震災による被災が特に甚大であった盛岡保護観察所,仙台保護観察所及び福島保護観察所の3庁での事業は,更生保護被災地域就労支援対策強化事業と位置付けられている(法務省保護局の資料による。)。

オ 社会貢献活動

平成25年6月の更生保護法の改正により(平成25年法律第49号),特別遵守事項の類型に社会貢献活動が追加され,27年6月に施行された(主に,少年の保護観察対象者に対して行う社会参加活動については,本編第2章第5節3項(4)参照)。社会貢献活動は,自己有用感の涵(かん)養,規範意識や社会性の向上を図るため,公共の場所での清掃活動や,福祉施設での介護補助活動といった地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を継続的に行うことを内容とするものである。活動の実施においては,他者とコミュニケーションを図ることによって処遇効果が上がることを期し,更生保護女性会員やBBS会員等の協力者を得て行われることが多い。

平成31年3月31日現在,活動場所として2,039か所(うち,福祉施設1,033か所,公共の場所772か所)が登録されており,30年度は,1,343回実施され,延べ2,488人が参加した。その内訳は,保護観察処分少年1,221人,少年院仮退院者258人,仮釈放者332人,保護観察付全部・一部執行猶予者677人であった(法務省保護局の資料による。)。

カ 自立更生促進センター

親族等や民間の更生保護施設では円滑な社会復帰のために必要な環境を整えることができない仮釈放者,少年院仮退院者等を対象とし,保護観察所に併設した宿泊施設に宿泊させながら,保護観察官による濃密な指導監督や充実した就労支援を行うことで,対象者の再犯防止と自立を図ることを目的に設立された国立の施設を自立更生促進センターといい,全国に四つの施設がある。北九州自立更生促進センター(平成21年6月開所,定員男性14人)及び福島自立更生促進センター(22年8月開所,定員男性20人)は,仮釈放者等を対象とし,犯罪傾向等の問題性に応じた重点的・専門的な処遇を行っている。自立更生促進センターのうち,主として農業の職業訓練を実施する施設を就業支援センターといい,少年院仮退院者等を対象とする北海道の沼田町就業支援センター(19年10月開所,定員男性12人),仮釈放者等を対象とする茨城就業支援センター(21年9月開所,定員男性12人)が,それぞれ運営を行っている。各施設における開所の日から31年3月31日までの入所人員は,北九州自立更生促進センターが267人,福島自立更生促進センターが120人,沼田町就業支援センターが73人,茨城就業支援センターが146人である(法務省保護局の資料による。)。

キ その他
(ア)自発的意思に基づく簡易薬物検出検査

依存性薬物の所持・使用により保護観察に付された者であって,薬物再乱用防止プログラムに基づく指導が義務付けられず,又はその指導を受け終わった者等に対し,必要に応じて,断薬意志の維持等を図るために,その者の自発的意思に基づいて簡易薬物検出検査(平成16年4月から簡易尿検査として開始し,20年4月から名称変更)を実施することがある。20年における実施件数は9,266件,25年は8,712件,30年は7,734件であった(法務省保護局の資料による。)。

(イ)他機関等との連携による地域での薬物事犯者処遇

平成24年度から,社会生活に適応させるために必要な生活指導として,薬物依存症リハビリテーション施設等に対して薬物依存回復訓練を委託して実施している。訓練を委託して実施した施設数は,25年度が30施設,30年度が63施設であった。また,委託実人員は,25年度が243人,30年度が548人(延べ人員は,1万8,448人)であった(法務省保護局の資料による。)。

また,平成27年に法務省と厚生労働省が共同で,保護観察所,刑事施設,都道府県等や医療機関等を含めた関係機関や民間支援団体が緊密に連携し,薬物依存のある刑務所出所者等に対する効果的な地域支援ができるよう,基本的な指針を定めた「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」を策定し,28年度から運用を開始している。

(ウ)アセスメントツール

平成30年10月から,保護観察所において,保護観察対象者に対して再犯防止のためのより効果的な指導・支援を行うためのアセスメントツール(CFP:Case Formulation for Probation)が試行されている。このツールは,保護観察対象者の特性等の情報について,再犯を誘発する要因と改善更生を促進する要因に焦点を当てて網羅的に検討し,再犯リスクを踏まえた適切な処遇方針の決定に活用するものである。

(3)保護観察対象者に対する措置等
ア 良好措置

保護観察対象者が健全な生活態度を保持し,善良な社会の一員として自立し,改善更生することができると認められる場合に執られる措置として,不定期刑の仮釈放者について刑の執行を受け終わったものとする不定期刑終了及び保護観察付全部・一部執行猶予者について保護観察を仮に解除する仮解除がある。不定期刑終了が決定した仮釈放者は,平成元年が5人であり,15年・30年はいなかった。また,仮解除が決定した保護観察付全部執行猶予者は,元年が1,406人,15年が484人,30年が137人であった。なお,同年に仮解除が決定した保護観察付一部執行猶予者はいなかった(保護統計年報による。)。

イ 不良措置等
(ア)不良措置

不良措置は,保護観察対象者に遵守事項違反又は再犯等があった場合に執られる措置である。仮釈放者に対しては,所在不明になった者について,刑期の進行を止める保護観察の停止,矯正施設に再収容する仮釈放の取消し,保護観察付全部・一部執行猶予者に対しては,刑の執行猶予の言渡しの取消し,婦人補導院仮退院者に対しては,婦人補導院に再収容する仮退院の取消しがある。保護観察の停止の措置が決定した仮釈放者は,平成元年は955人,15年は531人,30年は198人であり,仮釈放の取消しが決定した仮釈放者は,元年は1,199人,15年は1,035人,30年は538人であった。また,刑の執行猶予の言渡しの取消しとなった保護観察付全部・一部執行猶予者は,元年は1,715人,15年は1,779人,30年は749人であった(保護統計年報による。)。

なお,保護観察対象者が出頭の命令に応じない場合等には,保護観察所の長は,裁判官が発する引致状により引致することができ,さらに,引致された者のうち,仮釈放者及び少年院仮退院者については地方更生保護委員会が,保護観察付全部・一部執行猶予者については保護観察所の長が,それぞれ一定の期間留置することもできる。引致された者(保護観察処分少年及び少年院仮退院者を含む。)は,平成元年が340人,15年が192人であり,30年は227人で,そのうち留置された者は218人であった(保護統計年報による。)。

(イ)所在不明者への対応

所在不明となっている保護観察対象者の人員及び所在不明者率(各年末現在の保護観察対象者の人員に占める所在不明となっている保護観察対象者の人員の比率をいう。)の推移(平成元年以降)は,3-1-5-12図のとおりである。所在不明者率を見ると,仮釈放者では,元年が18.4%,15年が8.4%,30年が2.2%と低下している。保護観察付全部・一部執行猶予者では,元年が7.6%,15年が5.7%,30年は0.8%と低下している。また,所在不明となっている仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者の所在を迅速に発見するために,保護観察所の長は,警察からその所在に関する情報の提供を受けているが,17年12月からの試行期間を含め31年3月31日までの間に,この情報提供により3,228人(仮釈放者1,946人,保護観察付全部・一部執行猶予者1,282人),当該情報提供によらない保護観察所の調査により1,723人(同665人,1,058人)の所在が,それぞれ判明した(法務省保護局の資料による。)。

3-1-5-12図 所在不明となっている保護観察対象者の人員・所在不明者率の推移
3-1-5-12図 所在不明となっている保護観察対象者の人員・所在不明者率の推移
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(4)保護観察の終了

3-1-5-13図は,仮釈放者及び保護観察付全部・一部執行猶予者について,平成元年・15年・30年における保護観察終了人員の終了事由別構成比を見たものである。仮釈放者では,仮釈放の取消しで終了した人員の構成比は,元年が7.3%,15年が6.6%,30年が4.3%であった。保護観察付全部・一部執行猶予者では,刑の執行猶予の言渡しの取消しで終了した人員の構成比は,元年が26.8%,15年は33.0%,30年が22.0%であった。30年において,仮釈放者のうち,一部執行猶予者791人については,767人が仮釈放の期間を満了し,21人が仮釈放の取消しで終了した。保護観察付一部執行猶予者で執行猶予期間中の保護観察を終了した者75人のうち,執行猶予の期間を満了した者は12人,刑の執行猶予の言渡しの取消しで終了した者は58人であった(CD-ROM参照)。なお,刑の一部執行猶予制度の開始から間もないため,執行猶予の期間満了に至る者が多くないことに留意する必要がある。

3-1-5-13図 保護観察終了人員の終了事由別構成比
3-1-5-13図 保護観察終了人員の終了事由別構成比
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