前の項目 次の項目        目次 図表目次 年版選択

令和元年版 犯罪白書 第3編/第1章/第5節/コラム10

コラム10 被害者・加害者を生まないための科学的,体系的かつ一貫性のある施設内・社会内における処遇プログラムの策定

平成16年11月に発生した性犯罪前科を有する者による女児誘拐殺害事件を機に,性犯罪者処遇の充実を求める声が高まったことを背景として,17年4月に法務省矯正局及び保護局が性犯罪者処遇プログラム研究会(以下「研究会」という。)を合同で立ち上げた。研究会は,精神医学,心理学,犯罪学等の専門家を構成員とし,矯正局及び保護局の職員,各局の現場職員等をワーキング・グループのメンバーとして,性犯罪者に対する効果的な処遇を実施するためのプログラムの策定に取り組んだ。

研究会は,プログラムの実施目的を,性犯罪者の再犯を抑止し,子どもや女性を被害から守り,社会の安全性を高めることとするべきとした上で,プログラム対象者,プログラムの基礎・枠組み,プログラムの指導者,プログラムの効果検証等について,基本的な方針を示した。具体的には,<1>罪名にかかわらず,性的な動機に基づいた事件を行った者を広くプログラムの対象とする必要があること,<2>対象者のリスク,ニーズ,反応性や動機付けのレベルを把握し,これらに応じた処遇を行うべきであること,<3>プログラムは,理論と実証研究に基づいたものとすべきで,欧米諸国における実証研究により効果が認められている認知行動療法を基礎としたプログラムとすることが有効と考えられること,<4>矯正施設と保護観察所のプログラムは,背景理論や対象者のアセスメント,処遇の枠組み,課題等を共通のものとし,連続性の高い処遇を展開することが必要であり,矯正施設と保護観察所との間で従来以上に密接な情報交換を行って連携をとることが求められること,<5>プログラム指導者には,定期的に専門研修を実施すべきであること,<6>プログラムを定期的に評価したり,処遇効果を科学的に検証したりする必要があることなどである。

研究会は,このような基本的な方針の下,海外視察結果も踏まえ,プログラムの骨子・概要を作り,矯正局及び保護局において,平成17年度中に性犯罪者処遇プログラムを策定し,18年度から,刑事施設及び保護観察所で同プログラムを用いた処遇が開始された。同プログラムの策定以前にも,性犯罪者に対する処遇として,一部の刑務所での「性問題群」等のグループワーク指導や,保護観察所での直接処遇及び類型別処遇は行われていたが,科学的・体系的な再犯防止の処遇方策が全国的な規模において組織的に実施されるのは,我が国では初めてであった。同プログラムは,矯正と更生保護における連続性の高い処遇の実現を明確に意識したもので,背景理論を共通とし,処遇に係る情報の相互引継がなされるなどしたものでもあり,薬物依存,アルコール依存,対人暴力を対象とした,矯正・更生保護を通じた再犯を防止するための処遇プログラムの先駆けとなった。

なお,プログラム指導者への専門研修等の実施については,矯正・更生保護それぞれで行われているほか,矯正・更生保護でプログラムの実施に資する知識,技能を向上させるとともに,効果的な連携の在り方について共通の認識を得ることを目的とした実務者による協議会が開催されるなどしている。また,性犯罪者処遇プログラムの処遇効果の検証については,平成24年に矯正局及び保護局が,27年に法務総合研究所がそれぞれ実施し,結果を公表している。