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 平成20年版 犯罪白書 第7編/第6章/第2節/1 

第2節 高齢犯罪者の特性に応じた対策の在り方

1 多様な高齢事犯者への対応

 これまでに見てきたように,高齢犯罪者には,若年のころから犯罪を繰り返して高齢になった者や,受刑歴を持ち,改善更生がかなり困難になっている者などの層と,高齢になって初めて犯罪に手を染めた層とが認められる。前者の層については,その進行した犯罪性が原因となっていることによる問題が大きく,したがって高齢犯罪者特有の問題ではなく,むしろ,高齢累犯者になる前の段階で,刑事政策としていかなる対策を講ずべきかの問題である。そして,第2章の7-2-1-3図で示したように,近時,高齢者層だけでなく,50〜64歳の年齢層においても人口の伸び以上に犯罪者を生み出す傾向にあり,今後,高齢犯罪者対策は,若年犯罪者・壮年犯罪者の再犯防止対策に始まるというべきである。
 そして,特別調査結果からは,高齢犯罪者については,犯罪性が進むほど,概して経済的問題など生活上の問題の比重が大きくなることが分かったが,このことについては,第4章第1節での高齢受刑者や,同章第2節での高齢保護観察対象者の傾向も同様の問題を示唆している。また,「高齢窃盗事犯者」,「高齢傷害・暴行事犯者」,「高齢殺人事犯者」別で分析すると,それらの抱える問題について,それぞれやや異なった傾向も認められた。すなわち,例えば,高齢窃盗事犯者で若年・壮年期からの累犯傾向の問題が解消できないでいる者のうち,ホームレスや住居不定の生活を送り,少額の食料品等の万引きや酒代や薬代欲しさに窃盗を繰り返している者に対しては,生活指導と共に,社会復帰後の生活基盤の調整も視野に入れた対応をしていくことが不可欠であろう。高齢傷害・暴行事犯者では,その将来の社会復帰を考えると,人間関係の修復等に向けた調整上,近隣でのトラブルが要注意であることなどの点について留意すべきであろう。高齢殺人事犯者では,いわゆる「介護疲れ」から殺人に至る例が,特に女子においてはその比率が高く,例えば,その予兆を見過ごさないような周囲からの配慮が必要であろう。以上のように,一口に高齢犯罪者といっても,その処遇等に課せられた課題は多様なものがある。
 そこで,以下,前記の各罪について個別的に検討していくこととする。