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 平成13年版 犯罪白書 第4編/第1章 

第4編 増加する犯罪と犯罪者

第1章 はじめに

 近年,我が国の犯罪情勢が悪化し,治安にも影響を与えているのではないかということが話題になっている。マスコミ等を通じて報道される凶悪重大事件や犯行の動機が不可解な事件の発生が,国民に不安を与え,治安に対する信頼に悪影響を与えている。しかし,こうした個々の事件の発生原因やその社会的背景の分析は犯罪白書の目的とするところではない。本犯罪白書では,各種の犯罪統計数値に表れた犯罪現象全体の分析を通して,犯罪情勢の悪化とその要因についての分析を試みた。もとより,統計数値から得られる情報は限られており,個々の犯罪の本質に迫るものではないが,犯罪全体の傾向を客観的に明らかにすることは,犯罪及び犯罪者に対する有効な施策を講じる上でも,個々の犯罪の原因に迫る上でも,有益であると思われる。
 犯罪は,社会的な事実として発生するが,法律上は,[1]捜査機関による認知・検挙を経て,[2]検察官によって起訴され,[3]裁判所による有罪の裁判が確定したもののみが,犯罪として確定される。そして,この確定した犯罪を行った者が犯罪者と確定される。
 まず,[3]の段階に至った数値を見てみる。
 IV-1図は,我が国の14歳以上の人口10万人当たりの禁錮以上の有罪確定人員の推移を,統計の存する昭和32年以降について図示したものである(巻末資料IV-1参照)。

IV-1図 禁錮以上の有罪確定人員の人口比の推移

 有罪確定人員とは,前記のとおり,法律上犯罪者として確定された者の数である。この有罪確定人員の人口比(人口10万人当たりの比率)は,平成4年の52.0まではおおむね低下傾向にあったものの,それ以降は毎年上昇を続けている。12年における数値は,69.4であり,8年連続で上昇しているが,このような連続した上昇は統計の存する範囲では初めてのことである。このように,有罪確定人員として確定した犯罪者の数値を見ても,我が国の犯罪情勢は,楽観を許さない方向に変化しているといえる。
 ところで,発生した犯罪のすべてが有罪確定人員の数値となるわけではない。それ以前に,前記[1]の段階で,犯罪の発生自体が,捜査機関に認知されないもの(暗数)がある。また,認知された犯罪も,前記[2]の段階で,検察官が起訴猶予にした場合のように,必ずしも有罪が確定するものではない。このような犯罪が確定していく法律上の手続段階を見ると,実際に発生する犯罪の推移と最も密接な関係を有するものは,捜査機関に認知された犯罪の件数(認知件数)の推移と考えられる。そこで,我が国の犯罪情勢を見るのには,認知件数の推移を基本に見るのが有効と思われる。
 まず,刑法犯の認知件数を見ると,昭和49年を底として,50年以降はほぼ一貫して増加し,この間度々戦後最高を記録しており,最近においては,平成8年から5年連続で戦後最高を更新している(第1編第1章第1節1I-1図及び巻末資料I-1参照)。その中では,交通関係業過を除くと,窃盗の増加が著しい。この窃盗を中心とした認知件数の増加が,我が国の治安に関する認識にも影響を与えているものと思われる。
 次に,刑法犯の中で過半を占めるのは,交通関係業過すなわち交通事故である。交通事故については,昭和40年代には交通戦争とまで称され,我が国の治安にかかわる社会問題ともされていたが,50年代初頭にかけて急速な事態の改善を示した。その後,交通事故の発生件数及び負傷者数は再度増加傾向に転じ,発生件数については平成5年から8年連続で,負傷者数については10年から3年連続で戦後最高を更新している(巻末資料IV-17参照)。また,交通関係業過の認知・検挙件数も,交通事故による負傷者と同様に,3年連続で過去最高の記録を更新している。そのため,被害者感情からのみならず,治安の維持という観点からも,交通事故に係るものを含めた交通犯罪に対する国民の関心が高い。
 また,最近,我が国の治安に関する認識に暗影を投げかけているのが薬物犯罪であり,特に海外からの密輸入事案や密売買事案などの組織的・営利的事案は,その害悪を広く国民一般に及ぼすものであるが,ここ数年,100kg単位で密輸覚せい剤が押収されるなど,薬物の1回当たりの押収量として戦後最大級の事案が続出しており,治安に関する認識に大きな影響を与えているものと思われる。
 ところで,犯罪は,人の行為として行われるものであり,犯罪の予防や犯罪者の処遇を考える上で,どのような犯罪者が増加しているのかは,重要なポイントである。このような観点から近時注目されているのが,少年犯罪と外国人犯罪である。少年犯罪については,平成11年から2年連続で刑法犯による検挙人員が減少しているが,凶悪犯罪の増加が見られている(第3編第1章第1節1参照)。外国人犯罪については,来日外国人の刑法犯による検挙件数が2年から11年まで10年連続で統計上最高を更新し,12年は減少に転じたものの,検挙人員は前年より増加しており,いずれも楽観を許さない状況にある(巻末資料IV-20参照)。我が国の治安との関係で外国人犯罪や犯罪の国際化傾向が議論されることも増えているように思われる。
 このような状況を踏まえ,本特集では,今後における我が国の治安の動向に大きく関係すると思われるこれらの増加する犯罪と犯罪者の実態を明らかにして,今後の施策のための資料を提供することとした。本編の特集は,「第1章 はじめに」のほか,「第2章 一般刑法犯の増加 -窃盗を中心として-」,「第3章 交通犯罪」,「第4章 薬物犯罪」,「第5章 犯罪の国際化と外国人犯罪」及び「第6章 むすび」の全6章で構成されている。この特集に当たっては,各種の公刊されている資料等を用いるほか,法務省刑事局において実施した諸外国における交通犯罪対策調査結果の概要,外国人受刑者及び外国人保護観察対象者に関して法務総合研究所において実施した特別調査の結果を紹介しており,これらについては,それぞれ第3章第3節及び第5章第45節において記述している。