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 平成 元年版 犯罪白書 第4編/第2章/第5節/5 

5 世代交代と変動の時代(昭和50年代後半〜現在)

 この時代は,暴力団の世界において,大規模な世代交代が進行中であり,新たな覇権をめぐって,大きな変動が起こりつつある時代である。例えば,山口組では,昭和56年三代目組長が死亡したが,その後,次期組長を巡る争いが生じ,59年には二派に分裂し,四代目組長に反発する一派は一和会を結成して対立し,60年には,四代目組長が一和会構成員によって射殺され,以後両者による激しい対立抗争が続き,平成元年一和会の解散によって最終的に決着して五代目組長が生まれるが,これに対立する別の一派が脱退独立するなど,事態は極めて流動的である。首領の高齢化に伴う後継問題は,他の大規模広域暴力団においても見られ,今後,暴力団地図は,これら世代交代に伴う変動により,塗り変えられることが予測される。
 また,この時代は,暴力団にとって,おそらく初めて経験する後継者難の時代ではないかと思われる。IV-18表は,昭和41年以降の暴力団構成員の年齢層別人員及び構成比の推移を見たものであるが,61年以降は統計の対象に変更があるので60年までについて見ると,20歳代は,41年は7万3,259人(49.8%)であったものが,51年は3万9,614人(36.0%),60年は2万2,594人(24.2%)に減少し,代わって40歳以上が,41年の2万1,185人(14.4%)から,51年の2万7,523人(25.1%),60年の3万4,295人(36.7%)に増加し,暴力団の中高齢化が顕著に認められる。このことは,最近10年間の暴力団関係者の新受刑者においても認められ,入所罪名が暴行,暴力行為等処罰法違反,凶器準備集合,傷害,殺人及び恐喝のものについては,52年は20歳代が約43%を占めていたのに,62年は約29%に減少し,逆に40歳以上が52年の約13%から62年は約29%へと増加している。既に見たとおり,現代は,犯罪情勢全般において,少年非行は多発するものの,若年成人の犯罪離れが目立ち,犯罪者の中高齢化が顕著に認められるのであるが,暴力団世界においても,若者の暴力団離れと暴力団構成員の中高齢化が進行中であると見ることができよう。かつて,暴力団構成員の給源は枯れることがないといわれたことがあるが,今や深刻な後継者難に当面しているとも見ることができよう。

IV-18表 暴力団関係者の年齢別構成比の推移(昭和41年〜62年)

 IV-17表によって,この間の暴力団の団体数及び構成員数の推移を見ると,昭和55年は,2,487団体,10万3,955人であったものが,60年には,2,226団体,9万3,514人と減少し,38年当時からは,半減ないしそれ以下になっている。61年以降団体数は増加しているが,構成員数は,60年と比べて,62年は8万6,287人に減少しており,全体として,暴力団構成員が減少傾向にあることが認められる。しかし,指定7団体は,55年に1,005団体,3万2,343人であったものが,60年は1,055団体,3万3,771人と勢力を維持しているのであり,指定3団体については,55年771団体,2万2,761人が,60年には722団体と団体数は減少するが,構成員数は2万3,198人と若干ではあるが,増加している。また,60年は山口組の分裂直後であり,分裂した一和会については,指定3団体には含まれておらず,指定8団体中に集計されていることも考慮する必要がある。
 IV-14表で刑法犯及び特別法犯検挙人員の推移を見ると,昭和60年代に入り大幅に減少しており,特に,刑法犯の減少が著しい。IV-15表により,罪名別にこの間の推移を見ると,粗暴犯及び凶悪犯の減少が目立っている。特別法犯も減少しているが,覚せい剤取締法違反は依然高い数値を示し,売春防止法違反は増加している。これらの犯罪が多発するのは,この時代においても,覚せい剤の密売等が,有力な資金源であるからであろう。もっとも,暴力団関係者の犯罪情勢全般からは,暴力団的特徴が若干薄れてきているようにも見えるのであり,その原因としては,犯罪活動等の潜行化を考慮しなければならないであろうが,この時期の経済膨張を背景に暴力団関係者による会社経営等,資金源の多様化が更に進行したことを挙げることができるであろう。IV-19表は,金銭消費貸借,不動産賃貸借及び交通事故の示談等,民事事件に絡む民事介入暴力事案に関する警察の相談受理件数の最近における推移を見たものであるが,それ自体新しいものではないとはいえ,暴力団関係者が市民生活に密着し,この時代の有力な資金源として,民事紛争を積極的に利用していることをうかがうことができるのであり,資金源の多様化の一例と見ることができるであろう。また,いわゆる総会屋の活動や地上げ屋,仕手グループなどへの関与もその一端であり,暴力団の組織経営の多角化・近代化が急激に進行していると見るべきであろう。

IV-19表 民事介入暴力事案類型別相談受理件数の推移(昭和56年〜63年)

 次に,注目すべきは,暴力団の銃器による武装の進行である。IV-20表は,暴力団関係者から押収した凶器の種類別個数及び構成比の推移を見たものであるが,暴力団の武装が,時代の推移に伴い日本刀・あいくちからけん銃に移行する傾向が顕著であって,けん銃については,昭和40年代後半から押収数及び構成比が増大し,特に50年代末から60年代にかけては急増し,最近では押収凶器の3分の1を占めるに至っている。武装の進ちょくについては,各組織の最高機密とされ,関係犯罪は極めて暗数が多いものと見なければならないから,実態は更に進行しているといわざるを得ないであろう。今後,暴力団にとっては,後継者難,若者の暴力団離れによる「力」の衰えを補うためにも,高性能の武器による武装化がますます進むのではないかと憂慮される。

IV-20表 暴力団関係者押収凶器数及び構成比の推移(昭和27年〜63年)

 最後に,最近における暴力団の動向として注目すべきものに,国際化を挙げなければならないであろう。国際化に関するデータは,必ずしも十分ではないが,最近の犯罪動向等から次のような点を指摘することができよう。
 覚せい剤取締法違反等の薬物事犯,銃砲刀剣類所持等取締法違反の銃器事犯などは,国際的な背景の存する場合が多く,これら事犯が多発していることからすれば,我が国の暴力団関係者と外国の犯罪組織との連携は,既に,相当に進んでいると見なければならないであろう。海外を舞台とする賭博ツアーや運転免許証取得ツアーなどの企画も,現地の犯罪組織と提携して行われる場合が多いと思われる。
 最近,外国人の風俗事犯や不法就労等が社会問題となりつつあるが,不法であるが故に入国,居住,就労全般にわたって内外の犯罪組織が介在していることが多いと思われるのであり,今後,暴力団がこれら事犯を通じて外国犯罪組織との提携を深めることが憂慮される。
 暴力団の海外における活動は,上記以外には,これまでのところ,クラブ,スナック及び土産物屋等を経営する一方,主として日本人観光客を相手に売春や賭博をあっ旋し,猥褻フィルム等の販売を行うことなどであり,その活動地域も語学等による限界から,日本人が多数渡航している地域に限られているとみられるが,我が国内外での外国犯罪組織との連携の機会が増すことなどによって,国際化が更に進行することが憂慮される。