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 昭和43年版 犯罪白書 第三編/第一章/三 

三 監獄法

 わが国で初めて制定された監獄法は,明治五年一一月の監獄則並図式(太政官布告)である。監獄の本質として仁愛,懲戒を旨とすべきことを説き,その緒言には,「獄トハ何ソ罪人ヲ禁鎖シテ之ヲ懲戒セシムル所以ナリ,獄ハ人ヲ仁愛スル所以ニシテ人ヲ残虐スル者ニ非ス,人ヲ懲戒スル所以ニシテ人ヲ痛苦スル者ニ非ス,刑ヲ用フルハ已ムヲ得サルニ出ツ国ノ為メニ害ヲ除ク所以ナリ,獄司欽テ此意ヲ体シ罪囚ヲ遇ス可シ」と掲げている。本文は,興造,繋獄,懲役,疾病,処刑,官員,雑則の七大綱に分れ,さらに第一号から第一七号までの図式を伴い,監獄を分けて,懲役場,女監,病監,懲治監,寛役場とする。また,常人懲役囚については,進級制をとり,これを五等に分け,土石運搬,荒地開墾から,木工,鍛工,皮革工等に至る作業に従事させ,服役時間を八時間とした。この監獄則は,施行に伴う費用の関係で,全面実施はできなかったが,司法省は,地方により監獄建築がなくても,禁囚処遇および懲役法の施行が便利の地においては,これを施行させることとした。
 明治一四年九月,大政官達で,監獄則が制定されたが,これは,明治五年の監獄則と明治一四年三月の在監人給与規則(前身は明治八年一月の囚人給与規則)および同一四年七月の在監人傭工銭規則を合わせたもので,四編一一三条から成る。監獄を分けて留置場(裁判所および警察署に属し,未決者を一時留置するところ),監倉(未決者を拘禁するところ),懲治場(懲治人すなわち刑法不論罪の幼者または聾唖者および不良の子弟で親の請願による者を収容懲治するところ),拘留場(拘留刑に処せられた者を拘留するところ),懲役場(懲役刑および禁錮刑に処せられた者を拘禁するところ)および集治監(徒刑,流刑および禁獄刑に処せられた者を集治するところ)の六種とした。また,全体の構成についてみると,第一編は,汎則,監署の規程,監獄の構造,第二編は,役法,工銭,徒刑流刑および禁獄の刑を受けたる囚徒押送,仮出獄免幽閉の者に貸与する屋舎,第三編は,給与,疾病,書信,接見,差入品,第四編は,教誨,賞誉,懲罰となっている。なお,第三〇条で,「刑期満限ノ後頼ルヘキ所ナキ者ハ其情状ニ由リ監獄中ノ別房ニ留メ生業ヲ営マシムル事ヲ得」と規定して別房留置の制度を定めた(このほかに,刑法附則の規定により,監視処分に付された者あるいは仮出獄を許可された者で,住居および引取人のない者等についても,別房留置しうることとされた。)。
 明治二二年七月,勅令で,改正監獄則が公布され,内務省令で,監獄則施行細則が定められた。監獄則は,五二条,施行細則は一〇章一〇六条から成る。監獄則は,監獄を分けて集治監(徒刑,流刑および改定律例の懲役終身に処せられた者を拘禁するところ),仮留監(徒刑,流刑に処せられた者を集治監に発遣するまで拘禁するところ),地方監獄(拘留,禁錮,禁獄,懲役に処せられた者および婦女にして徒刑に処せらた者を拘禁するところ),拘置監(刑事被告人を拘禁するところ),留置場(刑事被告人を一時留置するところ)および懲治場(不論罪にかかる幼者および聾唖者を懲治するところ)の六種とし,出願懲治,別房留置の規定を廃した。また,定役に服すべき囚人の服役時間を七時三〇分ないし一〇時三〇分とし,さらに,工銭は,従来,十分の一を与えるにすぎなかったが,これを改め,十分して,重罪囚には,その二分,軽罪囚には,その四分を与え,余分は,監獄の費用に供し,無定役囚,懲治人および刑事被告〆で作業する者の工銭は,これを十分してその六分を与え,その余分は,監獄の費用に供することとした。なお,施行細則は,規程,役法および時限,工銭,給与,衛生および死亡,書信および接見,差入品,教誨,賞与,懲罰に分かれて,それぞれの細則を定めている。
 明治三二年七月,勅令で,監獄則の一部改正が,また,内務省令で,監獄則施行細則の改正が行なわれた。改正のおもな点は,従来携帯乳児の収容が満三歳までであったのを,満一歳までに短縮し,食物の分量,費用を増加し,作業賦課の標準を定め,給与工銭の割合を変更して,重罪,軽罪による区別のほか,犯数等による差別を設けた。
 明治四一年三月,現行の監獄法が公布され,また,同年六月,司法省令で,監獄法施行規則が定められ,同年一〇月一日から施行された。監獄法は,監獄を分けて,懲役監(懲役に処せられた者を拘禁するところ),禁錮監(禁錮に処せられた者を拘禁するところ),拘留場(拘留に処せられた者を拘禁するところ),拘置監(刑事被告人,拘禁許可状,仮拘禁許可状または拘禁状により監獄に拘禁した者,引致状により監獄に留置した者および死刑の言渡を受けた者を拘禁するところ)の四種とし,労役場および監置場を,監獄に付設した。監獄法は,一三章七五条から成り,総則,収監,拘禁,戒護,作業,教誨および教育,給養,衛生および医療,接見および信書,領置,賞罰,釈放および死亡の各章に分かれている。また,監獄法施行細則は,一三章一八二条で,監獄法と同じ章から成り,その細則を定めている。ところで,監獄則に比べて改正の要点は,少年監獄特設の方針を規定したこと,主務大臣に情願をなす規定を設けたこと,作業賦課の標準について,作業は,衛生,経済および在監者の刑期,健康,技能,職業,将来の生計等を斟酌して定めることとしたこと,作業収入は,従来,監獄と就業者に帰属していたのを改め,すべて国庫の所得とし,就業者には,作業賞与金を給することとし,さらに,作業災害手当金の制度を設けたことなどである。
 その後,監獄法施行規則については,なん回か,一部改正がなされたが,戦後においても,作業賞与金の不計算は,行状不良にして作業成績劣等な者とし,その計算高を有する者が死亡したときは,配偶者,子,父または母に給与することとし,受刑者の衣類の赭色を廃して浅葱色とし,刑事被告人と弁護人との接見には,立会を付さないこととしたなどの一部改正があるが,昭和四一年一一月,相当広範囲にわたる一部改正がなされ,同四二年一月から施行された。その要点は,独居拘禁の期間を短縮し,交談禁止を改め,所長の裁量による開放的処遇の実施を認め,新聞紙などの閲読を許可し,調髪を改めるなどである。