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 昭和43年版 犯罪白書 第二編/第四章/一/3 

3 女子受刑者

 昭和四二年末現在の女子受刑者は,一,一三四人であり,主として,栃木,笠松,和歌山,麓の女子刑務所および札幌刑務所女区に収容されている。
 女子の処遇方法は,基本的には男子と異ならないが,戒護,作業,教育活動などについては,女子の特性に応じた処遇方針がとられている。たとえば,居室に畳を敷くことが認められているし,妊娠七か月以上,産後一か月以内の妊産婦は,病人に準じて取り扱われているし,入所時満一歳に達しない乳児を携えた者と,入所中に分娩した者とには,その子が満一歳になるまで,施設内の特設の保育室で養育できるなど,特別の考慮がなされている。刑務作業においても,和裁,洋裁,織布,編み物などがおもな作業であり,女子の特殊性に適合し,社会復帰後の就職にも役だちうるように,配慮されている。
 女子のための刑務所は,数も少ないために,収容される受刑者は,少年から成人まで,刑期の長いものも,短いものも,ともに収容されている。ことに,女子受刑者では,知能の低い者が多く,処遇の適正を図るのに,しばしば,困難を伴うのが現況である。
 ここでは,女子受刑者の特性を,男子受刑者と比較しつつ,最近の法務総合研究所の実態調査の結果から考察してみよう。
 まず,女子受刑者の罪名別人員を示すと,II-118表のとおりである。

II-118表 受刑者の男女別罪名別人員

 女子受刑者の罪名で,最も多いのは,窃盗であって,全体の五三・三%を占めている。次いで,殺人の一三・一%,売春防止法違反一一%,詐欺九・二%,放火三・九%等である。窃盗,殺人等は,男子受刑者においても,多くみられるが,女子の場合のほうが,全受刑者中に占める割合が高いことが目につく。女子においては,有罪者の中で,殺人,放火等の罪名が,男子に比較して多いことは前述したが,これらの罪名で受刑者となったものは刑期も長いために,受刑者中に占める割合がとくに高くなっている。
 次に,年齢についてみると,II-16図のとおり,女子受刑者では,三〇歳ないし三九歳の年齢層が最も多く,三四・九%を占めているが,この年齢層以上の高年齢層の割合も,かなり高く,四〇歳以上の受刑者は,三六・八%に達している。これに対して,男子受刑者では,二〇歳代が最も多く,四九・三%を占め,四〇歳以上の高年齢層のものは,一六・八%である。女子受刑者は,男子に比して,著しく高年齢層のものが多い。

II-16図 受刑者の男女別年齢層別割合

 女子受刑者の刑務所への入所度数を,主要罪名について示すと,II-119表のとおりである。総数では,入所一度のものは五六・六%,二度以上のものは四三・四%であって,初めて入所したものの割合が,やや高くなっている。しかし,これを罪名別にみると,殺人および放火では,入所一度のものの割合いが高いが,窃盗および売春防止法違反によるものは,入所一度のものの割合が少なく,二度以上の入所者が,半数以上を占めている。ことに,入所四度以上という,多数回入所のものが,窃盗で三〇・九%,売春防止法違反で三四・一%みられることは,注意されなければならない。とくに,春売防止法第五条違反によるものは,刑務所への入所は,初めてであっても,その大部分のものが,婦人補導院への入院経験をもっており,この種の犯罪者の更生の困難さがうかがわれる。

II-119表 主要罪名別入所度数(昭和42年1月15日現在)

 次に,女子受刑者の知能指数をみると,女子では,男子受刑者以上に,知能指数の低いものの割合が高い。これを,主要罪名別にみると,II-120表のとおりであって,詐欺,放火および売春防止法違反では,とくに,知能指数の低いものの割合が高い。ことに,売春防止法違反では,知能指数七九以下のものが,八〇・三%を占めており,知能指数九〇以上のものは,わずか二・三%にすぎない。

II-120表 主要罪名別知能指数(昭和42年1月15日現在)

 また,女子受刑者の教育程度を学歴によってみると,義務教育終了程度のものが,三八・四%で,最も多く,新制高校または旧高等女学校卒業以上のものの割合は,一一・五%にすぎない。また,就学不全または義務教育未了のものは四三・七%と,約半数にも及んでいる。
 女子受刑者では,知能程度の低いものがきわめて多いことと平行して,学校教育も,十分に受けていないものが多い。しかも,年齢は,比較的高齢であって,刑務所への入所回数の多いものも少なくない。このように,きわめて資質の劣悪な受刑者の矯正改善を図ることは容易なことではない。女子特有の処遇方針の確立とともに,その出所後の保護環境の調整にも,よりいっそうの努力が望まれる。