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 昭和43年版 犯罪白書 第二編/第四章/二/1 

二 公務員犯罪

1 公務員犯罪の受理と処理の状況

 公務員による犯罪には,公務員の職務に関して行なわれるもの(たとえば収賄)と,その職務に関係なく行なわれるものとがあるが,ここでは,その両者を含めた,公務員により行なわれる,すべての犯罪について述べることとする。
 II-121表は,検察庁に新たに受理された公務員犯罪のうち,道交違反を除く全犯罪を主要罪名別に集計したもので,公社や公団の職員のような,いわゆる「みなす公務員」による犯罪は含んでいない。

II-121表 公務員犯罪主要罪名別検察庁新規受理人員(昭和38〜42年)

 この表によって各罪名についてみると,職権濫用が,昭和四〇年から四一年にかけて倍増していることに気付くが,これは,同年に,自己の処遇に関係のある公務員を,相次いで告訴した特殊の受刑者が少なくなかったことなどの理由に基づくものと考えられ,後に述べるとおり,同罪については,本来犯罪の嫌疑の乏しい告訴事件が少なくないことに留意する必要がある。次に,収賄罪は,昭和三九年から四〇年にかけて,著しい増加を示したが,四一年以降は,減少の傾向にある。窃盗,詐欺,横領,偽造の各罪については,昭和四二年に,偽造が,わずかな増加をみせているほかは,全体として,減少ないし横ばいといってよい。「その他」というのは,人の身体に対する犯罪と,道交法違反を除く特別法犯とを主体とするものであるが,昭和四〇年以降急激に増加している。これは,自動車普及に伴って,業務上(重)過失致死傷罪が増加したことによるものであろう。受理人員合計数も,右の「その他」の増減に比例した推移をたどっているように思われる。
 このようにして検察庁に受理された公務員犯罪が,どのように処理されているかをみたのが,II-122表である。

II-122表 公務員犯罪主要罪名別起訴・不起訴人員と起訴率(昭和38〜42年)

 各罪名別に,その処理状況をみると,職権濫用の起訴率がきわめて低いことに気付くが,この事件の大部分は,さきに述べたような,警察,検察庁,裁判所,矯正施設などの職員に対する告訴,告発事件であって,もともと,犯罪の嫌疑がないか,不十分なものが多いことによるものである。逆に,最も起訴率の高いのは,「その他」となるが,そのおもなものは,さきに述べたとおり,人身事故事犯であって,起訴の大部分は,略式命令を請求したものである。実質的に,最もきびしい処理がなされているのは,起訴率が五割をこえる収賄罪を挙げるべきであろう。一方,窃盗,詐欺,横領,偽造の起訴率は,あまり高いとはいえないが,これは,この種の公務員犯罪は,犯人が,おおむね初犯者で,被害も回復されており,再犯のおそれも少ない事例が多いことによるものと考えられる。