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 昭和43年版 犯罪白書 第二編/第四章/一/1 

第四章 その他の犯罪と犯罪者

一 女子犯罪

1 女子犯罪の概況

 女子犯罪者は,男子犯罪者に比べて,きわめて少ない。従来の学説によれば,女子の社会的地位の低い国では,女子の社会的活動が著しく制限されているために,女子の犯罪は少ないが,女子の社会的進出が多くなるにつれて,女子犯罪も増加する傾向にあるといわれてきた。しかし,戦後のわが国では,女子の社会的進出は,著しいにもかかわらず,女子犯罪が,これに伴って増加しているとはいえない。しかし,女子の犯罪についても,男子の場合と同様に,他の社会的諸条件の変動が,犯罪の量的,質的変化をもたらしつつあることは事実である。
 最近数年間の女子犯罪の動向を,刑法犯検挙人員について,男子のそれと比較してみると,II-114表のとおりである。

II-114表 男女別刑法犯検挙人員および人口比(昭和38〜42年)

 女子有責人口一,〇〇〇人に対する刑法犯検挙人員の割合(人口比)は,昭和三八年以降,昭和四二年まで,常に一・四であって,全く,変動を示していない。これに対して,男子の刑法犯検挙人員の人口比は,昭和三八年には,一五・九であったが,以後,逐年増加し,昭和四一年には,一八・五,昭和四二年には,一八・七に上昇している。これを,実人員の点からみると,昭和三八年には,男子一〇〇に対する女子の割合は九・一%であったが,昭和四一年には七・八%,昭和四二年には七・三%に低減している。
 刑法犯で検挙された女子の実人員をみると,昭和三八年には,五〇,四九二人であったが,昭和三九年には,五四,九九三人と,九%増加した。さらに,四〇年には,五五,三〇七人と増加し続けたが,四一年には,前年に比して,わずかに減少し,昭和四二年には,五四,四〇三人と再び増加した。昭和三八年に比較すれば,八%の増加であるが,この四年間の実人員は,おおむね五万四,五千人程度である。
 これに対して,男子の刑法犯検挙人員は,昭和三八年には,五五六,一五七人であったが,その後,逐年増加し続け,昭和四二年には,七四八,一七五人に達し,昭和三八年に比較すれば,三四%も増加している。この五年間での,女子の刑法犯検挙人員の増加は,男子に比較すれば,きわめて緩慢である。
 女子刑法犯検挙人員の動きを主要罪名別にみると,II-115表のとおりで,増加の著しいのは,業務上等過失致死傷であり,昭和三八年の検挙人員は,二,三三八人であったが,四一年には七,一四〇人,四二年には,一〇,三三三人と,昭和三八年の四・四倍になっている。このほか,殺人と暴行も増加している。すなわち,殺人は,昭和三八年に比べて,四二年には一四%増加し,また,暴行も,昭和三八年に比べて,昭和四二年には,二%増加している。しかし,その他の罪名のものは,昭和三八年に比べ,昭和四二年には,いずれも,減少を示している。

II-115表 主要罪名別刑法犯女子検挙人員(昭和38,41,42年)

 次に,刑法犯検挙人員の罪名別構成比をみると,最も多いのは,窃盗で,昭和四二年には三三,六七四人で,検挙人員総数の六一・九%を占め,次いで,業務上等過失致死傷の一〇,三三三人で,一九・〇%を占めている。その他の罪名では,検挙人員は,きわめて少なく,詐欺一,五四〇人二・八%,傷害一,一六八人二・一%である。これを昭和三八年に比較してみると,窃盗の割合が,著しく減少し,業務上等過失致死傷の割合が,上昇しているのが注目される。最近では,女子においても,自動車運転者の急増から,自動車事故に起因する業務上等過失致死傷の増加をきたし,検挙人員の構成比を,大きく変動させている。
 次に,刑法犯(準刑法犯を含む。)について,検察庁の処理状況をみると,昭和四二年には,女子の起訴および不起訴総数は三三,七七二人であり,このうち,起訴された人員は一三,七三八人,起訴率は四〇・七%,起訴猶予は一七,三四五人,起訴猶予率は五五・八%であった。これを男子と比較してみると,同年の男子起訴率は六八・四%,起訴猶予率は二八・九%であるから,女子では,起訴猶予となる者が著しく多い。しかし,最近の傾向として,女子にあっても,起訴率は,しだいに上昇しつつある。すなわち,昭和三八年の起訴率は,二五・七%であったが,昭和四〇年には三三・八%,四二年には四〇・七%となっている。この起訴率の上昇は,前述したとおり,主として業務上等過失致死傷の増加によるものであって,この種の事件の起訴率は,他の罪種によるものより著しく高い(昭和四二年の業務上等過失致死傷による起訴率は六九・六%)。
 次に,刑法犯通常第一審有罪人員をみると,II-116表のとおりであって,女子有罪人員は,昭和三七年には二,六八〇人,四〇年には二,五一七人であるから,実人員は六%減少している。さらに,四一年には二,二五八人であり,三七年に比較すれば,実人員で四二二人(一五・七%)減少している。しかし,この間の男子刑法犯通常第一審有罪人員に対する割合をみると,おおむね,三・五%程度であって,ほとんど,変動はみられない。

II-116表 男女別刑法犯通常第一審有罪人員(昭和37〜41年)

 昭和四一年に,刑法犯により,通常第一審で有罪となった女子二,二五八人のうち,懲役または禁錮に処せられたものは二,一七八人であり,このうち,一,五一三人(六九・五%)は,刑の執行が猶予されている。男子では有罪人員のうち,懲役または禁錮に処せられたものは六八,四七〇人であり,刑の執行が猶予されたものは三四,八〇〇人(五〇・八%)である。
 女子では男子に比較して,刑の執行が猶予される割合が高率のために,受刑者として刑務所に入所する人員はきわめて少ない。昭和三八年の女子新受刑者は,一,一一九人であったが,四一年には九九一人,四二年には八七六人であって,わずかずつ,減少傾向を示している。この間の,男子新受刑者に対する女子新受刑者の割合は,おおむね,三%程度であって,ほとんど変動していない。