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 昭和43年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/4 

4 少年の保護観察

 保護観察処分少年として,保護観察の対象となる者は,犯罪や非行があって,家庭裁判所の「保護観察所の保護観察に付する」処分を受けた者であり,少年院仮退院者として,保護観察の対象となる者は,地方更生保護委員会の決定により,少年院から仮退院を許された者である。
 昭和四二年中に新たに受理した保護観察処分少年と少年院仮退院者の年齢別状況は,II-68表のとおりで,両者を合わせると一八歳未満の者三八・六%,一八歳以上の者六一・四%で,いわゆる年長少年が年少および中間少年を相当に上回っている状況である。保護観察所としては,特に年少少年に対し,その担当者を指名するにあたって,できる限り,少年の担当に適当した者を選ぶなどの配慮に努めている。

II-68表 保護観察処分少年・少年院仮退院者の年齢別状況(昭和41,42年)

 昭和四二年中に保護観察を終了した保護観察処分少年,少年院仮退院者の実父母の有無の状況は,II-69表のとおりで,「実父母なし」または「実父母のうち,いずれかなし」の者の割合は,保護観察処分少年で二七・〇%,少年院仮退院者で四一・一%である。もっとも,少年でも年齢が長ずるに従い,父母に欠損をみるケースの多くなるのは当然であるが,右の数値により,保護観察中の少年は,一般少年に比して,いわゆる欠損家庭の者の占める割合がかなり高率であることがうかがわれる(昭和四二年犯罪白書三六二頁参照)。また,昭和四二年中に保護観察を終了した保護観察処分少年,少年院仮退院者の保護観察終了時における居住状況は,II-70表のとおりで,雇主宅に起居している者は,保護観察処分少年で一七・一%,少年院仮退院者で一五・一%で,これを仮出獄者の六・九%,保護観察付執行猶予者の一一・六%に比較すれば,かなり高率で,少年対象者に,いわゆる住込就職者が比較的多いことを示している。すなわち,これらの状況は,少年に対する保護観察が,単に監督的指導に偏してならないことはいうまでもないが,特に,本人の生活の各分野にわたって,実質的に,保護的措置をとり,また,接触を密にした指導や援助に努めることの必要性を示唆している。

II-69表 保護観察処分少年・少年院仮退院者の実父母の有無の状況(昭和41,42年)

II-70表 保護観察処分少年・少年院仮退院者の居住状況(昭和41,42年)

 最近における保護観察処分少年,少年院仮退院者の年間総受理人員中,移送により受理した人員の占める割合(移送率)は,II-71表のとおりで,近年,著しく高率となっている。また,これを昭和四二年についてみれば,保護観察処分少年で九・三%,少年院仮退院者で九・五%であるが,これは,仮出獄者,保護観察付執行猶予者の場合,それぞれ,四・九%,七・二%であるに比較し,かなりの高率を示し,少年対象者に住居移転の傾向の強いことを示している。このように保護観察処分少年,少年院仮退院者に移動する者の多い状況は,近年,特に顕著になった大都市およびその周辺地域の人口の膨張,農山漁村人口の減少に伴う一つの社会現象と考えられるが,これらの対象者の中には,移動の前後において,処遇の適正やその徹底を欠く場合には,不良な生活環境や不安定な職業条件等におかれる者の発生がおそれられ,また,再犯や所在不明に陥るおそれのある者も多くなると思われる。本来,対象者の移動は,保護観察に空白を生じさせたり,また,それを,いっそう,むずかしくしたりする場合が多く,移送庁と受理庁との間の緊密な連携や担当者による指導,調整を特に必要とするものであるが,少年対象者の場合には,いっそう行き届いた処遇が望まれるものである。

II-71表 保護観察処分少年・少年院仮退院者の移送状況(昭和32,40〜42年)

 また保護統計年報資料によれば,昭和四二年中に新たに保護観察に付された保護観察処分少年二九,〇五五人のうち,道路交通法違反のみにより保護観察に付された者は,七,七八七人(二六・八%)で,相当に高い割合を占めている。これらの対象者の中には,他の犯罪や非行を犯した者に比し,罪責感や反省心の乏しい者,保護観察を受ける心構えの不十分な者も多く,これらの者に対する保護観察の方法には,また,特別の配慮を要するものがある。この点については,さらに,次章において述べることとした。
 次に,少年院仮退院者に関しては,その資質の面で問題のある者が相当に多く,それらの者の改善更生を図るためには,相当長期間の保護観察を行なう必要があるとの意見が関係者の間に強いが,保護統計年報資料によれば,昭和四二年中に期間満了により保護観察を終了した少年院仮退院者のうち,六月以内に終了した者は二二・三%で,保護観察の実効を十分にあげるには,その期間が短期間にすぎると思われる者が,相当多数を占めている状況である。
 今後,少年に対する保護観察をさらに充実させる方向としては,担当者において,カウンセリング等の効果的な面接技法をも広く活用して,接触の方法にいっそうの工夫を加え,徹底した個別処遇を行なう一方,主任官,担当者が,一段と緊密な連携をとり,本人の家庭,親族,交友,職場,その他公共の施設や処遇等,社会各分野における人的,物的資源を豊富にとり入れる構えをもって,視野の広い全体的な処遇を行なうことが望まれる。なかでも,対象者と世代を同じくし,良識を有する,善良な青年の交友関係を通じての援助等を得て,これら少年の改善,更生を図るBBS(ビッグブラザーアンドシスター)活動については,さらに活用の価値があるものと思われる。法務省保護局の調査によれば,昭和四三年四月末現在,全国のBBSの数は,九,六九八人(うち,女子三,一〇八人),保護観察中の少年のうち,その交友援助を受けている者の数は,一,一二二人で,前者に対する後者の割合は,一一・六%であり,さらに活発な活用を計ることが期待される状況である。