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2 少年鑑別所 (一) 収容状況 少年鑑別所に収容される少年は,家庭裁判所が受理した少年事件のうち,裁判官が,審判を行なうために収容の必要があると認めた少年および検察官が勾留の請求に代え,観護措置を請求した少年で,裁判官の観護措置の決定によって,少年鑑別所に送致されたものである。勾留に代わるものを除き,本来の観護措置による収容期間は,二週間であるが,とくに継続の必要があるときは,一回に限り,更新されるので,四週間が最大限である。従来,収容期間の全国平均は,二〇日強となっている。
昭和四二年における全国の少年鑑別所(本所五〇,支所一)の一日平均収容人員は,一,七三九人(うち一五七人は女子で,八・〇%にあたる。)で,前年の二,〇四五人に比較すると,三〇六人減少している。 次に,入出所人員についてみると,II-43表に示すとおりで,昭和四二年の入所人員は,三三,七九七人で,前年の三九,一六七人に比べて,五,三七〇人減少している。昭和三八年を一〇〇とする指数では,昭和四一年は,一〇五であったのに対し,昭和四二年は,九一である。入所者のうち一二人は,逃走の連戻し,二,九七一人は,移送で,その他は,新たに収容された者である。出所の事由についてみると,保護処分の決定が半数近く(四七・六%)を占め,次いで,試験観察といわれる中間処分が,一七・四%にあたる五,九二五人である。観護措置の取消は九・六%,不処分は八・三%,検察官送致は六・九%であり,検察官送致は,逐年増加の傾向にある。なお,移送による出所は,八・七%である。 II-43表 少年鑑別所入出所状況(昭和38〜42年) 新収容者を男女に分け,年齢別にみると,II-44表のとおりで,昭和四二年の男子は,二七,九六二人,女子は二,八五二人(全員に対して九・三%)である。男子では,一九歳が最も多く,女子では,一七歳が最も多い。最近の一般的傾向として,男女ともに,高年齢化していることが認められる。II-44表 少年鑑別所新収容者年齢別人員の比率(昭和38〜42年) (二) 鑑別状況 少年鑑別所の鑑別受付状況を,その請求または依頼先別にみると,II-45表のとおりで,昭和四二年における受付総数七九,五九七人のうち,四八・五%(三八,六三六人)は,家庭裁判所の請求に基づいて実施する鑑別(家裁関係),四六・一%(三六,六六二人)は,一般の家庭,学校その他の団体からの依頼によって行なう鑑別(一般鑑別)であり,検察庁,少年院,保護観察所などからの依頼鑑別は,五・四%(四,二九九人)で,昭和四一年に比べると,家裁関係および一般鑑別の受付人員が,おのおの五千余人減少している。
II-45表 少年鑑別所の受付状況(人員)(昭和38〜42年) 次に,家庭裁判所関係の鑑別対象者の収容の有無を,鑑別受付人員についてみると,II-46表のとおりで,昭和四二年においては,三八,六三六人中,三三,三四五人は,収容鑑別(観護措置その他により,収容された者について行なう鑑別)であり,在宅鑑別(在宅審理中の者について行なう鑑別)は,五,二六一人で,その他は,三〇人である。なお,「その他」とは,少年院収容者の収容継続などの決定のため,家庭裁判所の請求によって行なった鑑別である。今,収容鑑別と在宅鑑別との合計に対する,在宅鑑別の比率をみると,昭和三八年は,八・〇%,昭和四一年は,一一・八%であったのに対して,昭和四二年は,一三・六%で,在宅鑑別の率は,累年,上昇している。II-46表 収容,在宅,その他別にみた家庭裁判所からの鑑別請求の受付状況(昭和38〜42年) 鑑別所は,少年の資質の鑑別にあたって,一定の鑑別方式を定めて,これを行なうのが普通である。収容少年の場合をみると,鑑別の場面に順応させるためのオリエンテーションに始まり,知能検査および性格検査を数種類組み合わせたテスト・バッテリーを実施し,それらの所見および身体の検査の所見などを参照して,面接調査が行なわれる。これらの結果,資質の解明のため必要があれば,さらに,心理テストや面接調査を実施して,パーソナリティの仮の診断を行なう。鑑別には,この仮定された診断の確認の場が必要とされる。現在,精神鑑定を行なう場合,対象者を入院させることが多いが,これは,鑑定に大切な行動観察を行なって,診断を確定するために,診断者が容易に統制することのできる場を持っためである。この意味から,資質の鑑別においても,収容鑑別が望ましいとされている。知能検査としては,新制田中B式が最も多く用いられている。とくに,低い知能の者に対しては,WAISやWISCが,適宜,用いられている。II-47表は,家庭裁判所関係の鑑別終了者の知能指数段階別人員の比率を示したものであるが,昭和四二年においては,IQ八〇〜八九の者が,最も多く,二九・九%,また,九〇〜九九の者が二七・五%で,これら二つの段階の者が,過半数を占めている。これら少年の知能指数の分布を一般少年のそれと比較すると,やや,低い知能に傾いている。このことは,累年,同様であるが,II-47表にみられるように,IQ一〇〇以上の者が,昭和三八年から,逐年,一六・二%,一六・九%,一七・七%,一八・一%,一八・六%と増加し,また,九〇〜九九の者が,昭和四一年を除いて,順次,増加し,収容少年の知能指数が,少しずつ,高い方へ移行する傾向が認められる。 II-47表 知能指数段階別人員の比率(昭和38〜42年) 性格検査としては,矢田部・ギルフォード性格検査,文章完成法検査,心情質徴標検査,絵画フラストレーション検査,内田クレペリン作業素質検査,TAT,ロールシャッハ検査などが行なわれることが多い。また,法務省矯正局が中心となって,矯正施設での実施に適するMJ式文章完成法,MJ式人格目録法が作成され,実用化されている。なお,最近増加している道交法違反少年の鑑別については,前に述べた諸方法のほか,運転適性検査,運転態度検査があわせて実施され,鑑別の精密化が期されている。現在,すべての鑑別所には,ポート・クリニーク式運転適性検査器が配布され,また,脳波記録装置も,約三分の一の施設に設備されている。 鑑別の結果による精神状況は,II-48表のとおりで,昭和四二年においては,準正常が,八六・二%を占め,準正常の割合は,逐年増加している。精神薄弱は五・九%,精神病質は,三・三%で,正常は,三・五%にすぎない。 II-48表 精神状況別人員の比率(昭和38〜42年) 少年鑑別所における鑑別結果は,非行と関連する問題点とその分析,処置上の指針,社会的予後の問題,医療措置の必要の有無など,当面必要な処置にも触れ,本人にとって最も適切な保護指針などの勧告事項を盛り込んだ鑑別結果通知書として,家庭裁判所に送付されるほか,これに準じた形で,鑑別の依頼先に通知されている。II-49表は,収容少年で,鑑別を終了した者を,保護不要(保護措置を必要としない者),在宅保護(在宅のまま補導すればよいと思われる者),収容保護,保護不適(刑事処分を相当とする者,または精神衛生法による措置入院などを必要とする精神障害者で,保護処分にすることが不適当と認められる者)などの判定区分に従って分けたものである。在宅保護が,最も多く,五六・七%,収容保護が三二・五%である。この表から気づくことは,収容保護の初等少年院が,逐年減少の傾向にあり,保護不適者が増加傾向にあることである。 II-49表 鑑別判定人員(昭和38〜42年) 次に,収容少年についての家庭裁判所における審判決定の状況をみると,II-50表のとおりで,昭和四二年においては,保護観察が,三一・〇%で,最も多い。不開始または不処分は,九・一%,検察官送致は,七・〇%で,前年に比べて,少し増加している。少年院送致は,初等少年院が一・七%,中等少年院一四・〇%,特別少年院三・八%,医療少年院一・六%,合計二一・一%(六,七一三人)で,前年の二一・九%(七,八九〇人)に比べて,実人員,比率ともに減少している。II-50表 審判決定人員(昭和38〜42年) (三) 少年鑑別所をめぐる諸問題 少年鑑別所は,昭和二四年発足以来,職員,設備などの点で,着々と整備に力を注ぐとともに,運営にも,種々,工夫がこらされている。昭和四〇年,鑑別所運営,鑑別業務の標準化をさしあたっての目的として,五つの標準運営試行庁が指定され,さらに,昭和四二年,第二次試行庁として改めて八施設が指定され,逐次業績が積まれている。また,少年鑑別所での鑑別に適する心理テストの開発が試みられ,成果をあげつつある。しかし,これらの結果を,さらに,どのような形に発展させ,定着させるかは,今後に残された問題であろう。
少年鑑別所の任務は,少年に対する広い意味での臨床的業務である家庭裁判所の審判に対して,少年の資質についての資料を提供することである。しかし,現況では,決定された処分の執行場面にまで,具体的に,鑑別結果が十分に生かされているとはいえない。したがって,さしあたっては,鑑別所は,少年院送致決定者の観察分類所(アロケーション・センター)としての機能を,どのように充足するかの問題に当面している。このためには,少年院送致決定後の少年の収容期間の問題,少年院におけるより具体的な処遇指針の作成と処遇結果との間の誤差の補正(フィードバック)が確実になしうるような体制の確立などの解決が急がれる。 次に,ますます,増加の一途をたどる道交法違反少年に対する鑑別にどのように参画するべきかの問題がある。道交法違反少年で悪質の者は,現在でも,収容鑑別がなされているが,これは,この種少年のほんのわずかでしかない。また,一部,設備に恵まれた鑑別所においては,道交法違反少年の在宅鑑別が意欲的に行なわれている。しかし,一般的には,この種の鑑別に適するテスト・バッテリーの作成,運転適性などのための独自のテスト室,処遇への適応度をみるための集団討議室などの設備の不足を解決しなげればならない状況にある。 終わりに,少年鑑別所における一般少年鑑別規則は,昭和二五年に制定され,一般の家庭や学校その他の団体からの依頼によって,鑑別を行なうことかできるようになった。昭和三〇年における一般鑑別受付人員は,一,九六一人であったが,昭和四二年には,その約一九倍に当たる三六,六六二人に増加している。 少年鑑別所は,ここ数年来,家庭裁判所からの鑑別請求を処理するかたわら,この一般鑑別にも対処しうる姿勢を,設備,運営の面などで採ってきている。これは,一般鑑別が,犯罪予防のための地域社会組織化計画において,一つの大きな役割りを果たすものであるとの認識に立つものであるが,これは,ひいては,少年鑑別の鑑別機能を高めることにもなるであろう。 少年鑑別所は,地域社会における不適応少年の鑑別,相談機関である児童相談所,精神衛生相談所,少年補導センターなどの諸施設との協調を図りつつ,鑑別所の得意とする対象について,鑑別を行なうと同時に,これら対象の処遇部門との連係を組織化し,臨床的業務に携わっている。 |