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1 少年警察・検察・裁判 (一) 少年警察 昭和四二年において,少年警察の対象となった犯罪少年は,約九五万人,そのうち,刑法犯を犯したものは,一八六,〇〇〇人である。このほか,触法少年が,刑法犯に触れた者のみで三〇,八八三人,虞犯および不良行為少年は,一,〇九三,三一四人となっている。犯罪少年については,罰金以下の刑にあたる罪を犯した少年は,警察から家庭裁判所に直接送致されることになっており(少年法第四一条),禁錮以上の刑にあたる罪については,検察官に送致(付)される。触法少年と虞犯少年は,それぞれ,児童相談所または福祉事務所に通告され,あるいは,家庭裁判所のに送致されるが,そのうちのかなりの部分について,警察限りの措置として,家庭,学校,職場などへの必要な連絡,注意,助言などを行なって,非行の防止と少年の健全な育成が図られており,少年警察が,少年非行対策の上で果たしている役割は,きわめて大きい。
(二) 少年検察 少年検察のおもな対象は,犯罪少年であるが,前記のように,罰金以下の刑にあたる罪を犯した少年は,警察から家庭裁判所に直接送致されることになっているから,少年検察の対象となるのは,原則的には,法定刑として,禁錮以上の刑が定められている罪を犯した少年である。
ところで,全国の検察庁が,昭和四二年中に新たに受理した少年事件の被疑者総数(検察庁間の移送,家庭裁判所からの送致および再起を除いた受理人員数,以下本節において,「新規受理人員」という。)は,七六〇,二一六人(前年より一六,三九〇人減)である。その内訳は,刑法犯(準刑法犯を含む,以下本項において同じ。)が,総数の二六・〇%にあたる一九七,三五五人(一一,七七〇人減),道路交通法違反を除く特別法犯が,総数の一・六%にあたる一二,一七四人(一,一八二人減),道路交通法違反が,総数の七二・四%にあたる五五〇,六八七人(三,四三八人減)となっている(検察統計年報資料による。)。 まず,刑法犯の新規受理人員について,主要罪名別の人員数とその百分比を,前年と対比して示すと,II-33表のとおりである。これによると,昭和四二年も,前年と同じく,窃盗が最も多く,過失傷害,傷害,恐喝が,これに次いでいるが,過失傷害が,大幅に増加している以外は,すべて,前年より減少している。 II-33表 刑法犯主要罪名別少年被疑者新規受理人員と比率(昭和41,42年) 次に,道路交通法違反を除く特別法犯の新規受理人員を,罪名別にみると,例年の傾向と同様,銃砲刀剣類所持等取締法違反が,圧倒的に多く,総数の四一・〇%を占めている。II-34表は,昭和四二年の少年事件新規受理人員総数について,年齢層別に,その比率をみたものである。一八,九歳の年長少年が,最も多く,総数の五六・七%を占めている。 II-34表 少年被疑者の年齢層別新規受理人員(昭和42年) 検察官は,少年の被疑事件について,捜査を行ない,犯罪の嫌疑があり,または,家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料する場合には,原則として,その事件を家庭裁判所に送致しなければならないものとされている。昭和四二年中における検察庁の少年被疑事件処理状況をみると,既済総数は,八五八,〇〇七人であり,そのうち,家庭裁判所送致は,八七・七%にあたる七五二,一〇九人である。そのほか,不起訴・中止は六四六人で,残りは,検察庁間の移送,年齢超過後の処分となっている(検察統計年報資料による。)。検察官が,少年を家庭裁判所に送致するにあたっては,少年の処遇に関して意見を付けることができる。II-35表は,昭和四二年に検察官が家庭裁判所に送致した少年を,その意見別に,刑法犯,特別法犯,道路交通法違反に分けて,その比率をみたものである。これによると,刑事処分を相当とする旨の意見を付したものの割合が最も多いのは,道交違反で,刑法犯が,これに次ぎ,一方,少年院送致の処分および保護観察処分を相当とする旨の意見を付したものの割合は,いずれも,刑法犯が最も多く,特別法犯が,これに次いでいる。 II-35表 罪種別検察官処遇意見の比率(昭和42年) ところで,検察官の取り扱う少年事件には,右のほかに,家庭裁判所から,刑事処分が相当であるとして,または,年齢超過のため,いわゆる逆送されたものもある。この逆送を受けなければ,検察官は,少年事件の公訴を提起できないし,また逆送を受けた事件は,年齢超過による場合を除き,原則として公訴を提起しなければならないのである(少年法第四五条第五号)。そこで,少年法第二〇条等の規定によって家庭裁判所から送致された事件について,昭和四二年中における検察庁の処理状況をみると,II-36表のとおりである。処理総数三一四,五〇九人のうち,道路交通法違反が二七〇,八七二人で,総数の八六・一%を占め,刑法犯が,一三・八%でこれに次いでいる。また,起訴された者の内訳をみると,起訴総数一三八,九一六人のうち,八五・九%の一一九,二八五人が道路交通法違反によって占められ,これに次ぐ刑法犯は,総数の一四・〇%,一九,四七〇人となっているが,その八五・九%にあたる一六,七一九人が過失傷害である。また,起訴総数の九七・六%までが,略式命令または即決裁判請求で,公判請求は二・四%にすぎない。公判請求率の最も高いのは,特別法犯の四七・二%で,刑法犯は一六・一%,道交違反にあっては,わずか〇・一%にとどまっている。II-36表 検察庁における少年被疑事件の処理状況(既済)(昭和42年) (三) 少年審判 非行のある少年について審判を行なうこと,すなわち非行少年を,保護処分にするか,あるいは刑事処分にするか,また,保護処分にするとしても,どのような保護処分にするか,さらに,右のいずれの処分にもしないこととするかなどを決定することおよび審判のための調査を行なうことは,現行法上,家庭裁判所の権限に属する。
まず,最近五年間における,全国家庭裁判所の少年保護事件受理人員総数の推移を行為別にみると,II-37表のとおりである。これによると,受理総数は,昭和三八年以降漸増の傾向にあったものが,昭和四一年を頂天として四二年には,やや減少を示した。昭和四二年における受理総数一,〇七六,七四五人の七七・六%は道交違反で,刑法犯が一九・四%,特別法犯が二・二%,虞犯が〇・八%となっている。 II-37表 家庭裁判所における少年保護新受事件の受理人員(昭和38〜42年) 家庭裁判所は,受理した少年について,審判のため調査を行なうが,右の調査にあたるものとして,家庭裁判所に家庭裁判所調査官があり,法務省所管のものとして少年鑑別所がある。このようにして,少年事件について調査を行なった結果,所在不明その他の理由によって審判に付することができないとか,非行がきわめて軽微であることなどによって審判に付するのが相当でないと認められる場合には,家庭裁判所は,審判を開始しない旨の決定をする(少年法第一九条第一項)。調査の結果,審判を開始するのが相当と認められる場合には,家庭裁判所は,その旨の決定をして(同法第二一条),直接審理する。その結果,児童福祉法の規定による措置を相当と認めるときは,都道府県知事または児童相談所長に,一六歳以上の少年について,刑事処分を相当と認めるときは,検察官に,それぞれ送致する旨の決定をする(同法第二三条第一項)。また,保護処分に付するのが相当と認めるときは,(1)保護観察所の保護観察に付すること,(2)教護院または養護施設に送致すること,(3)少年院に送致することの,いずれかの保護処分を決定し(同法第二四条),保護処分に付することができないとか,その必要がないと認められる場合には,不処分の決定を行なう(同法第二三条第二項)。なお,調査または審判の結果,すでに二〇歳以上であることが判明した場合には,決定で,検察官に事件を送致しなければならない(同法第一九条第二項,第二三条第三項)。 これらの処分の状況を,最近五年間の統計によってみると,II-38表のとおりであり,さらに,これを最近二年間について,一般保護事件と道交事件とに分けてみたのが,II-39表である。処分のうち,最も多いのは,審判不開始であるが,終局決定総数中に占める割合は,昭和三八年の六八・六%から,逐年低下し,四二年には,五四・三%となっている。次に多いのは,不処分で,不開始とは逆に,逐年上昇の傾向を示し,総数の一三・七%から二四・八%を占めるに至った。検察官送致は,終局決定総数の一二・九ないし一七・一%を占めている。保護処分の中で最も多いのは,保護観察で,終局決定総数の三%前後を占めている。その次は,少年院送致で,総数の一%弱であるが,総数に対する割合および実数が,ともに,昭和四一年から四二年にかけて減少している。教護院などへの送致は,実数も,きわめて少ないうえ,漸減の傾向にある。これを,一般保護事件と道交違反とに分けてみると,昭和四二年の一般事件において,不開始・不処分は,終局決定の七三・五%を占めている。保護処分に付された者は,一三・五%で,道交違反事件に比べてその比率が高いが,これは,事件の性質の差異からして当然であろう。保護処分のうちでは,保護観察が最も多く,一〇・二%で,次いで少年院送致が三・二%となっている。検察官送致は一二・九%で,道交違反事件に比し,かなり低率である。これに対し,道交違反事件は,不開始・不処分が八〇・七%,検察官送致が一八・三%と一般保護事件に比して高率である反面,保護処分は,一・〇%にとどまっている。 II-38表 家庭裁判所終局決定人員(昭和38〜42年) II-39表 少年一般保護事件,道交違反事件別の家庭裁判所終局決定人員(昭和41,42年) 次に,昭和四一年に終局決定のあった一般保護事件(虞犯を除く)のうち,刑法犯と道交違反を除く特別法犯,さらに,刑法犯のうちでも,主要罪名について,決定の内訳を対照して示したのが,II-40表である。これによると,窃盗,恐喝,傷害,暴行においては,不開始・不処分の割合が高く,窃盗は八一・三%,恐喝は六七・四%,傷害は七七・一%,暴行は八九・八%である。少年院送致の割合の多いのは,強盗(三〇・六%),放火(二四・七%),殺人(二〇・四%),強姦(一七・〇%),恐喝(七・六%)で,その他の犯罪は,いずれも五%以下であるが,実数をみると,窃盗の四,〇五九人が最も多く,同年中における刑法犯で少年院送致決定になった総数(七,一七一人)の過半数を占めている。保護観察の割合の多いのは,強姦(三九・一%),強盗(三三・一%),放火(二五・三%),恐喝(二一.五%),殺人(一七・一%)で,傷害(一四・九%),窃盗(一一・八%)がこれに次いでいるが,実数をみると,少年院送致の場合と同様,窃盗が最も多い。検察官送致の割合の多いものは,殺人(五〇・三%),業務上過失致死傷(三七・〇%)で,強姦(一二・九%),強盗(一二・四%),放火(一〇・〇%)がこれに次いでいるが,その他の窃盗,恐喝,傷害,暴行については,いずれも五%以下で,きわめて低率であり,刑法犯中検察官送致決定をみた者の総数二一,四六七人中,八一・三%の一七,四五九人までは,業務上過失致死傷罪によって占められている。特別法犯については,不開始・不処分の比率が,九〇%をこえる高率にあることが特色となっている。II-40表 一般保護事件終局決定人員(虞犯を除く)(昭和41年) このように,家庭裁判所の処分状況は,一般的にみて,不開始・不処分の割合が,きわめて多いのに対し,保護処分および検察官送致の割合が,ともに,きわめて少ないことが目だっている。そこで,昭和四二年中に,家庭裁判所で終局決定がなされた少年事件につき,これに対する検察官の処遇意見と,家庭裁判所の終局決定とを対比させ,その合致率をみたのが,II-41表である。これによると,検察官が付した処遇意見と,家庭裁判所の終局決定との合致率は,刑事処分相当の意見を付した事件においてその四一・五%,少年院送致相当の意見を付した事件においてその二八・五%にすぎず,いずれも,前年に比べて,合致率が低下している。また,検察官が刑事処分ないし保護処分相当の意見を付した事件のうち,不開始・不処分決定のなされたものの割合は,刑事処分相当意見総数の五一・七%,少年院送致相当意見総数の三三・七%,保護観察相当意見総数の七一・三%をそれぞれ占めており,しかも,その割合は,いずれも前年を上回っている。検察官の処遇意見と家庭裁判所の終局決定とが,著しく食い違っていることが,注目をひくところである。II-41表 検察官の処遇意見と家庭裁判所の終局決定との合致率(昭和42年) (四) 少年の刑事裁判 家庭裁判所が,刑事処分を相当と認めて検察官に送致した少年事件については,公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑がない場合,送致を受けた事件について,犯罪の情状などに影響を及ぼすべき新たな事情を発見したため,訴追を相当でないと思料する場合,または,送致後の情況により訴追を相当でないと思料する場合以外は,検察官は,公訴を提起しなければならず,事案に応じて,公判請求,略式命令請求または即決裁判請求の手続により,起訴され,裁判がなされる。このようにして起訴され,第一審裁判所において有罪の認定を受けた少年に対する科刑の概況を,昭和三七年以降についてみると,II-42表のとおりである。これによると,有罪人員総数,懲役または禁錮刑に処せられる者,罰金刑に処せられる者が,いずれも漸増する傾向にある。懲役・禁錮の執行猶予率は,昭和三七年から四一年までの間は,おおむね,四〇%台と,成人よりやや低い水準に安定していた。これは,自由刑のうちでも,逆送されたうえ,懲役刑に処せられる少年には,成人に比べて,非行歴のある者が多く,家庭裁判所において,保護処分にするよりも,現実に刑務所に収容することが望ましいと判断された少年が,少なからず含まれていたことによるものと思われる。ところが,昭和四二年になって,この執行猶予率が,前年に比ベて,約九%の上昇を示していることが,注目をひくところである。
II-42表 少年に対する科刑の概況(第一審有罪人員)(昭和37〜42年) |