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2 更生緊急保護 犯罪者が,刑事上の手続による身体の拘束を解かれた後,さらに罪を犯すことなく,円滑に社会生活に復帰するためには,その心身両面において,種々の障害に遭遇する場合が少なくないが,更生緊急保護は,このような者に,国の責任において,一時的または継続的な保護を行ない,本人が進んで法律を守る善良な社会人となるよう援護しようとするものである。
(一) 更生緊急保護の対象および方法 現在,更生緊急保護の対象とされている者は,次の六種類である。
イ 懲役,禁錮または拘留につき刑の執行を終った者 ロ 懲役,禁錮または拘留につき刑の執行の免除を得た者 ハ 懲役または禁錮につき刑の執行猶予の言渡しを受け,その裁判が確定するまでの者 ニ 懲役または禁錮につき刑の執行猶予の言渡しを受け,保護観察に付されなかった者 ホ 訴追を必要としないため公訴を提起しない処分を受けた者 ヘ 婦人補導院から退院した者および補導処分の執行を受け終った者 また,更生緊急保護を行なう期間は,本人が刑事上の手続による身体の拘束を解かれた後,六月をこえない範囲とされており,なお,本人の意志に反しない場合に限り,これを行なうものとされている。 更生緊急保護を実施する機関は,保護観察所で,実施にあたっては,本人に自助の責任があり,本人による保護の申出が必要とされている。 更生緊急保護の方法としては,本人の身上等に応じ,適切な保護措置としての種々の手段が講じられるもので,そのおもなものは,帰住のあっせん(運賃割引証の交付,旅費の支給),一時の食事の給与,衣料給与,医療,就職に関する援助,宿泊の供与,食事付宿泊の供与およびそれらに伴う補導等である。 これらの措置には,保護観察所がみずから行なう保護(自庁保護),と更生保護事業を営む団体(更生保護会)に委託して行なう保護(委託保護)の別がある。委託保護は,法律のたてまえとしては,地方公共団体に委託して行なうこともできるが,現在,地方公共団体で,この種の事業を行なっているところはない。 委託保護の措置をとるにあたっては,それぞれ,対象者に応じて保護の期間,内容が定められ,一定の委託費が支給される。委託費の単価は,物価等に応じ,ほとんど毎年,改定がなされている。 昭和四二年一二月末現在,委託に応じ更生緊急保護を行なっている更生保護会は,一三〇団体(事業休止中のものを除く。)である。これらの更生保護会は,更生緊急保護の対象者のみならず,保護観察中の者に対する救護,援護の委託保護を行なうほか,みずからの意志による任意保護をも行なっており,国の直接の運営による保護施設がない現状において,これが更生保護のうえに寄与している役割と実績は,きわめて大きいものがある。 昭和四二年一二月末現在,全国の更生保護会における保護施設の収容規模および保護対象種別は,I-103表のとおりである。これらの保護施設は,国の指導および援助団体の補助金等により,年々増改築がなされ,改善,整備が図られつつある。しかし,その経理運営の面においては,I-14図にみられるとおり,全体的には支出過剰の状況であり,多くの更生保護会にあっては,職員の給与を著しく低額とせざるを得ない状態にあり,そのことは,対象者に対する保護の成績のうえにも,反映しかねないものがある。 I-103表 更生保護会の種類別保護施設と収容定員(昭和42年12月31日現在) I-14図 更生保護会の経理運営収支状況(昭和41年度) (二) 更生緊急保護の実施状況 昭和四二年中の更生緊急保護事件の受理および処理の状況は,I-104表のとおりで,保護対象種別ごとに受理人員数の割合をみれば,「刑の執行終了の者」が最も多く,八六・〇%を占め,次いで「起訴猶予の者」一〇・五%,「刑の執行猶予の者」三・四%という状況である。
I-104表 更正緊急保護事件の受理および処理人員(昭和41,42年) 昭和四二年中に実施した更生緊急保護について,自庁保護と委託保護の別の措置状況をみれば,I-105表のとおりで,自庁保護では,「乗車運賃割引証の交付」を受けた者が最も多く,七,七一二人,次いで,「食事の給与」一,九三〇人,「旅費の支給」一,八五五人という状況で,概して一時的な保護措置が多くとられている。また委託保護では,「食事付宿泊の供与」を受けた者が五,二八五人で,その大部分を占めている。これらの保護措置は,もとより,親族,縁故者等からの援助もしくは公共の衛生福祉その他の施設等から保護を受けることができない場合にとられたもので,この措置の実施は,犯罪者に対する社会内処遇の一翼として欠くべからざるものである。I-105表 更正緊急保護の実施人員(昭和41,42年) |