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 昭和43年版 犯罪白書 第一編/第四章/二/1 

二 更生保護

1 保護観察

(一) 保護観察の実施機構

 保護観察の実施をつかさどる機関は,保護観察所である。保護観察所は,各地方裁判所の所在地ごとに置かれ,全国に四九庁あり,管轄区域内の保護観察対象者に対して,それぞれ保護観察を実施している。
 保護観察所には,保護観察官が配置され,また,保護司が所属していて,保護観察の実務を担当している。昭和四二年末における保護観察官の全国定員数は,七七二人で,そのうち八八人が地方更生保護委員会に,六八四人が保護観察所に配置されている。保護観察官には,心理学,教育学,社会学,精神医学,その他の更生保護に関する専門的知識や技能の習得が必要とされている。
 保護司は,保護司法に基づき,二年を任期として(ただし再任を妨げない。)法務大臣が委嘱する。全国で七六五区の保護区に配属され,その数は,全国を通じ五二,五〇〇人(定員)である。その使命は,社会奉仕の精神をもって,犯罪者の改善および更生を助けること等であり,その任務は,保護観察官で十分でないところを補うものとされ,実際の保護観察の仕事に関しては,保護観察所長の指揮監督のもとに,その指名を受けて保護観察の担当者となり,直接,対象者の指導監督,補導援護に当たっている。
 なお,保護観察所の管轄区域内であって,その所在地から比較的遠隔の一定の地(八王子,沼津,浜松,姫路,豊橋,飯塚,北九州<小倉区>,佐世保,名瀬,平,室蘭,網走の各市,一二か所)には,駐在官事務所が置かれている(なお,昭和四三年四月一七日から飯田,高田,尼崎,帯広,稚内の各市,五か所に増設)。同事務所には,保護観察官一名ないし二名が配置され,保護観察開始当初の事務(主として裁判所とのバトンタッチのための事務)その他駐在地などの一定地域内の保護観察事件,在監または在院者に対する環境調査調整事件,共助事件等の事務処理に当たっている。

(二) 保護観察の対象および方法

 保護観察の対象およびその期間は,次のとおりである。
イ 家庭裁判所の決定により,保護観察に付された者(以下「保護観察処分少年」という。),その期間は,保護処分言渡しの日から本人が二〇歳に達するまで。ただし,二〇歳に達するまでの期間が二年に満たない者については二年間
ロ 地方更生保護委員会の決定により,少年院からの仮退院を許された者(以下「少年院仮退院者」という。),その期間は,仮退院の処分による出院の日から,仮退院中の期間(一般には,二〇歳に達するまで。)
ハ 地方更生保護委員会の決定により,仮出獄を許された者(以下「仮出獄者」という。),その期間は,仮出獄の処分による出獄の日から,その残刑期間(無期刑の場合は終身)
ニ 刑事裁判所の判決により,刑の執行を猶予され,保護観察に付された者(以下「保護観察付執行猶予者」という。),その期間は,言渡し確定の日から,その執行猶予の期間
ホ 地方更生保護委員会の決定により,婦人補導院からの仮退院を許された者(以下「婦人補導院仮退院者」という。),その期間は,仮退院による出院の日から,その補導処分の残期間
 ちなみに,昭和四二年における新受人員の保護観察期間(法定期間)を示せば,I-96表のとおりで,仮出獄者では,一月以内の者が三一・八%,三月以内の者が,三六・八%となっており,短期間の者が著しく多い。

I-96表 新受人員の保護観察期間(昭和42年)

 なお,保護観察は,原則として,右の期間が満了した日に終了するが,保護観察の期間中に,その成績が良好または不良のため,あるいは再犯等のため,特に措置がとられ,それにより終了する場合がある。
 保護観察は,主任官(保護観察官)と担当者(保護観察官または保護司)が,それぞれ対象者と接触を保ち,常に,その行状を把握しつつ,指導監督および補導援護を行なうものである。この指導監督とは,法律により遵守することを定められている事項(一般遵守事項)のほか,地方更生保護委員会または保護観察所長により,遵守することを対象者個々に定められた事項(特別遵守事項,ただし保護観察付執行猶予者については,特別遵守事項はなく,保護観察所長において,本人の更生のため必要と思われる具体的事項を指示することとなっている。)を遵守させることを目標として,対象者が,社会の順良な一員となるよう,適切な指示を与え,また必要な措置をとるものである。対象者が,これらの遵守事項を遵守しなかった場合には,保護観察所長は,少年院仮退院者に対しては戻し収容の申出,仮出獄者に対しては仮出獄取消の申請,保護観察付執行猶予者に対しては執行猶予の言渡取消の申出,婦人補導院仮退院者に対しては仮退院取消の申請を,それぞれ行なうことができることとされている。また,補導援護は,対象者に本来,自助の責任があることを認めて,その性格,環境等に応じ,教養訓練,医療および保養の援助,宿泊所の供与,職業補導,就職あっせん,環境の改善調整,その他本人の更生を完成させるために必要な措置を講ずるものである。

(三) 保護観察の実施状況

 保護観察の実際の業務は,それぞれの対象者に応じて,主任官および担当者により,個別処遇を基本形態として実施されている。主任官は,保護観察所長から保護観察事件の担当を指名された保護観察官で,担当者は,保護観察を行なう者として,保護観察所長から指名を受けた保護観察官または保護司である。
 保護観察の手続としては,同事件が受理されると,まず主任官は,できる限り本人に面接し,上司の指示を受け,保護観察の方針をたてて,これを担当者に連絡し,担当者においては,本人および保護者に面接して必要な指示を行なうとともに,保護観察の具体的な計画をたて,その後はその計画等に基づき,適切な処遇を行ない,その結果や対象者の状況については,毎月一回または必要に応じ随時,定められた様式により保護観察所長に報告がなされている。
 昭和四二年中に,新たに保護観察下に入った者等の状況は,I-97表のとおりで,新受総数六二,九五〇人,同年中に保護観察を終了した者の総数六四,一六九人で,同年末現在の保護観察対象者の総数は一〇六,三七〇人である。また,同表により,新受人員につき,これを保護観察種別ごとに,前年に比較してみれば,著しい差ではないが,保護観察処分少年,少年院仮退院者,保護観察付執行猶予者,婦人補導院仮退院者において減少しており,仮出獄者において増加している状況である。

I-97表 保護観察事件の受理および処理人員(昭和41,42年)

 ちなみに,各年別の保護観察新受人員の増減の状況を示せば,I-13図のとおりであるが,新受人員についての累年比較総数において,減少を示したのは,主として,例年,そのほぼ半数を占める保護観察処分少年の新受人員の減少によるものである。

I-13図 保護観察新受人員(昭和24〜42年)

 昭和四二年中に保護観察を終了した者の保護観察成績等の状況は,I-98表のとおりで,その成績の評定が「良」,「やや良」およびその他の良好な状態で終了した者の割合は,保護観察処分少年で五七・三%,少年院仮退院者で二六・二%,仮出獄者で三八・八%,保護観察付執行猶予者で三三・二%である。

I-98表 保護観察修了者の終了事由別状況(昭和41,42年)

 また昭和四二年中に保護観察を終了した者のうち,保護観察中の犯罪,非行により処分された者の処分別状況は,I-99表のとおりで,保護観察処分少年で一七・二%,少年院仮退院者で三二・三%,仮出獄者で四・〇%,保護観察付執行猶予者で二九・六%の者が,それぞれ保護観察中の犯罪,非行により処分を受けている。なお,右の処分を受けた者について,保護観察開始のときより,犯罪,非行を犯したときまでの経過期間は,I-100表のとおりで,一年以内に犯罪,非行を犯した者の割合は,保護観察処分少年二六・五%,少年院仮退院者四一・四%,仮出獄者七一・五%,保護観察付執行猶予者三三・九%で,保護観察を開始して後,比較的早い時期に再犯にいたっている者の多いことを示しており,保護観察初期において,特に行き届いた処遇を行ない,その防止を図ることの必要性を示唆している。

I-99表 保護観察中の犯罪・非行により処分された者の状況(昭和42年)

I-100表 保護観察中の犯罪・非行等までの経過期間(昭和42年)

 なお,昭和四二年末において,所在不明の状態にある保護観察対象者の状況は,I-101表のとおりで,全体としてみれば,所在不明者の率は,ここ数年ほぼ横ばいの状態にあるが,これが対策については,よりいっそう強力な措置が講ぜられる必要がある。

I-101表 保護観察種別所在不明状況(昭和41,42年)

 保護観察対象者が,親族,縁故者からの援助もしくは公共の施設その他の援助等を受けられないか,またはこれらの援助等のみでは更生できないと認められる場合に,保護観察所は,みずから,また,更生保護事業を営む団体または個人に委託して,種々の保護措置を執っている(この場合の措置を,保護観察付執行猶予者に対しては援護と呼び,その他の対象者に対しては救護と呼んでいる。)。とくに,宿泊および食事付宿泊の供与を主内容とする継続保護の場合は,その対象者の保護観察期間の範囲内において,保護措置を必要とする限り,これを継続して行なうことができるものである。昭和四二年中における自庁保護と委託保護の別にみた救護,援護の実施状況はI-102表のとおりで,その被保護者数は,新受理人員の三三・一%を占めている。

I-102表 救護・援護の実施状況(昭和42年)

 婦人補導院仮退院者は,近年,年間受理人員が少ないため,昭和四二年一二月末現在,保護観察中の者は一人であり,近年,保護観察中,再犯等により処分の取消を受けた者はない。
 このようにして保護観察は,現行法制上,保護観察官と保護司の協働態勢のもとで行なわれるのではあるが,事件数に比し,保護観察官の数が過少であって,保護観察官(所長,次長,課長を除く。)一人当たり平均担当件数は,約二二三件に達し,その全事件につぎ,常時配意することは,とうてい不可能となる。そこで,現実には,その処遇活動のかなりの部分を保護司に依存することとなり,ひいては保護司に対し,物心両面における過重負担をかける結果となっている(保護司一人当たり平均担当件数は,約二件である。なお,同四一年九月法務省保護局が,全国保護司中から,無作為に抽出した一,二八〇人について調査したところによると,過去一年間に保護観察ならびに環境調査調整事件五件以上を担当した者は,六九三人で,五四・三%にあたる。)。
 右の事実は,前記事情のもとにおいて,ある程度やむを得ないとしても,保護観察が,保護観察官と保護司の協働態勢のもとに行なわれることの意義は,両者が,それぞれ,保護観察対象者と適当な接触を保ちながら,保護観察官は,その専門性を,保護司は,民間篤志家として,その地域性,民間性を,それぞれ発揮するところにあるのであるから,両者とも,その特性を十分に発揮しえられないようなこの現状に対し,なんらかの工夫を加え,その打開策を講ずる必要があることが強く叫ばれて来た。
 このような観点から,保護観察官の処遇のいっそうの積極化を図ることにより,その姿を本来のものに近づけるとともに,保護司の過重負担を和らげ,その特性を発揮させる目的で,従来から,前記駐在官事務所の機能の充実ならびに「保護観察官一日駐在」の活発化が図られている。後者は,法制化されたものではないが,保護観察官が,担当保護区の市,区,町,村役場その他一定の場所に,定期的に出向き,保護観察対象者に対する面接指導,担当保護司との処遇の打ち合わせ等を行なうものである。
 また,昭和四〇年四月からは,東京,大阪,名古屋の三保護観察所において「初期特別観察」が実施されて来た。これは,東京都の特別区,大阪市,名古屋市に住居を有する保護観察処分少年,少年院仮退院者および保護観察付執行猶予者中二三歳未満の者について,保護観察の初期の期間(保護観察開始後おおむね二か月間)において,保護観察官をして,保護観察の実行に当たらせるもので,その趣旨とするところは,保護観察官が直接対象者,家族,雇主等に,保護観察の趣旨を十分理解させ,必要な措置を講ずるとともに,保護観察対象者につき,その人格,環境を的確に把握することにより,保護観察実施上の問題点を明確にし,事後の保護観察の適正,円滑な実施を図ろうとするものである。
 さらに,昭和四二年九月一日から,全国的に,「処遇分類制」が施行されることとなった。これは,保護観察官が保護司との協働態勢のもとにおいて,常時の処遇活動を,どの程度まで,自ら直接積極的に行なうかの度合に応じて,三種の処遇形態を予定しておき,個々の保護観察対象者について,その資質,環境上の問題等を勘案して,必要かつ適切な処遇形態を選択し,保護観察官による処遇を重点的に行なおうとするものである。目下のところ,機構,人員,経費等の諸事情から,この分類制の適用を受ける保護観察対象者は,一部に限られているが,今後いっそうの強化充実が期待される。ちなみに昭和四二年一二月末現在において,この分類制により,保護観察官の積極的な処遇を受けている保護観察対象者の数は,四五四人である。