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 昭和43年版 犯罪白書 第一編/第四章/一/2 

2 仮釈放の運用の状況

(一) 仮釈放の準備手続としての在監・在院者の環境の調査調整

 今日の仮釈放は,矯正施設収容者の更生を促進することをねらいとしているが,これら収容者が犯罪に陥ったのには,環境的負因が,多少ともからんでおり,釈放後の帰住予定地の環境についても,必ずしも,更生の場としてふさわしいといえない場合が多いのであって,本人が矯正教育を受けているのと並行して,帰住予定地の環境の調査と調整を行なっておく必要がある。
 この環境の調査調整は,仮出獄あるいは仮退院後の保護観察に先行し,かつそれに直結する活動であるため,全国四九の保護観察所が,これを担当する。具体的には,保護観察所長は,矯正施設の長から送られてきた身上調査書を受けとると,環境調査調整担当者(保護観察官または保護司)を指名し,担当者は,身上調査書の内容を参考にしながら,本人の帰住予定地の家庭環境,家族,近隣および被害者の本人に対する感情,友人関係等,本人を取り巻く環境全般について,調査調整を行ない,その状況を,環境調査調整報告書によって,保護観察所長に報告する。保護観察所長は,これに意見を付して,地方更生保護委員会に送付するとともに,矯正施設にもその写しを送付する。なお担当者は,その後も,継続して調査調整を行ない,少なくとも,六か月に一回は,その状況を,環境追報告書によって,報告することになっており,これらの報告書は,仮釈放審理の重要な資料となるとともに,矯正施設における処遇の参考資料ともされるのである。
 この環境調査調整事件の,昭和四二年中の受理状況は,I-90表のとおりであり,その処理状況は,I-91表のとおりである。

I-90表 環境調査調整事件の受理状況(昭和42年)

I-91表 環境調査調整報告と環境追報告状況(昭和42年)

 なお,こうした一連の環境調査調整の活動を,いっそう施設収容者の状況に即せしめることによって,調整活動の充実を図り,それによって,仮釈放審理の迅速化と的確化に寄与し,釈放後の社会復帰を,さらに円滑にするため,地方更生保護委員会は,昭和四一年一〇月から青少年を収容している一部施設(川越少年刑務所,浪速・瀬戸・広島・福岡・東北・千歳・四国の各少年院)について,保護観察官による仮釈放準備調査(施設収容者との出張面接・施設職員との協議等による環境調査調整ならびに仮釈放審理上の参考となる資料の収集,保護観察所への連絡等)を実施している。その昭和四二年中の実績は,I-92表[1]〜[4]のとおりであって,保護観察官の,準備調査のための施設出張回数は,月平均二・九日,収容者との面接人数は,一回平均六・五人である。

I-92表 仮釈放準備調査実施状況(昭和42年1月1日〜同年12月31日)

(二) 仮釈放の決定状況

 地方更生保護委員会が仮釈放の申請を受理し,仮釈放の許否の決定をした状況を,最近五年間についてみると,I-93表に示すとおりである。仮釈放申請受理の人員および仮釈放許否の決定人員の総数は,ともに,このところ減少の傾向にあるが,昭和四二年は前年より,多少の増加を示している。仮釈放の許可人員も,やや増加し,棄却および不許可の人員およびその率は,逆に,減少を示した。

I-93表 仮釈放種類別新受・決定の状況(昭和38〜42年)

(1) 仮出獄

 右の仮釈放の決定状況全体の推移の傾向は,そのうちの七〇%以上を占める仮出獄の申請受理人員,許否決定人員,許可人員ならびに棄却・不許可人員についても,同じくみられるところであって,棄却・不許可率は,昭和四二年において,二年ぶりに一五%を割り,一四・三%となっている。この棄却・不許可率を罪名別および刑法上の累犯とそうでないものに分けてみると,I-94表のとおりである。特別法犯の棄却・不許可率は,一九・五%で,刑法犯の一四・一%よりやや高く,非累犯と累犯では,もちろん,累犯が高く,非累犯のそれが,八・七%であるのに対して,累犯のそれは二二・九%である。さらに,刑法犯について細かくみると,非累犯では,重過失致死傷が,二九・八%で最も高く,賭博・富くじが,これに続き,累犯では,暴行が,四五・三%で最も高く,賭博,富くじが,これに続いている。

I-94表 主要罪名別初犯・累犯別仮出獄決定状況(昭和42年)

 次に,刑務所からの仮釈放者と満期釈放者の人員およびその割合は,I-95表およびI-12図のとおりで,昭和四二年中の仮釈放者は,一九,八七七人,満期釈放者は,一五,〇三二人であって,仮釈放の率は,五六・九%にとどまっている。

I-95表 釈放受刑者の釈放事由別人員(昭和42年)

I-12図 受刑者の満期釈放・仮釈放別人員と比率(昭和32〜42年)

 さらに,これをこの一〇年間の両者の推移についてみると,満期釈放者は,常に,一万四千人台から一万五千人台の間にあるのに対して,仮釈放者は,三万五千人台から一万八千人台へと,年を追って減少しており,全釈放者に対する比率でみると,仮釈放の率は,しだいに,下降(六九・八%から五六・九%へ)の傾向をたどっていることが注目される。

(2) 仮退院

 少年院からの仮退院では,仮退院の申請受理人員,許否決定人員および許可決定人員は,それぞれ,昭和三九年まで漸減し,四〇年・四一年と多少増加を示したが,昭和四二年には,いずれも,昭和三九年の数に近いところまで減少している。棄却も,昭和四二年には,人数において,六四人と数年来の最低を示し,その率においても,昨年までの四年間に一・六%から二・八%へと上昇していたのが,一挙に,一・〇%に低下したことが目につく。
 次に,仮退院の率は,少年院の種別によって差異を示し,初等少年院では九九・六%,中等少年院では七八・九%,特別少年院では五七・六%,医療少年院では七四・六%であって,地方更生保護委員会は,仮退院の申請を受理した者の大部分(過去五年間の棄却率二・八%ないし一・〇%)を許可している。
 婦人補導院からの仮退院では,仮退院の申請受理人員,許否決定人員ならびに許可決定人員とも,きわめで少なく,とくに,昭和四〇年以降,いずれも一〇人を割っており,棄却も,一人ないし〇人という状況にある。