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 昭和43年版 犯罪白書 第一編/第二章/一/3 

3 被疑事件の処理

(一) 概況

 昭和四二年中に全国の検察庁で処理した被疑者の総数は八,〇七九,四八七人(ただし,検察庁間の移送を除くと,五,九一〇,九〇二人である。)で,これを処理区分別に百分率を算出し,円グラフを作成すると,I-8図のとおりで,また,最近五年間の処理状況を,処理区分別に示すと,I-40表のとおりである。

I-8図 処理区分別被疑者数(昭和42年)

I-40表 処理区分別被疑者数(昭和38〜42年)

 昭和四二年中に処理された者のうち,起訴された者は,総数の五五・八%にあたるが,その内訳は,公判請求が総数の一・四%,略式命令請求が五四・一%で,即決裁判請求は,総数の〇・四%にすぎない。不起訴処分は,総数の七・五%であるが,そのうち約九割は,起訴猶予である。また,検察庁間の移送は,総数の二六・八%,家庭裁判所送致は,九・三%となっている。
 昭和四二年を前年に比べると,処理総数,起訴数,不起訴数,検察庁間の移送の数が,いずれも増加している。とくに,起訴された者について,起訴の手続別,すなわち,公判請求,略式命令請求,即決裁判請求の三区分に分けてみると,起訴合計数の増加は,略式命令請求の増加によるものであることが明らかである。これは,業務上過失致死傷,道交違反および公職選挙法違反の増加によるものである。

(二) 検察庁における事件処理期間

 公共の福祉の維持の面からも,また,基本的人権保障の面からも,事件処理の期間は,できるかぎり短い方が望ましいことはいうまでもない。そこで,最近の三年間について,各年別に,全国の検察庁で処理された道交違反を除く被疑事件の処理期間をみると,I-41表のとおりである。この表によると,昭和四二年は,一五日以内に五九・四%,一月以内に七六・五%,三月以内に九二・二%の事件が処理されているが,この傾向は,各年を通じて変わらず,全体として事件の迅速処理の実をあげているといえる。

I-41表 被疑事件処理期間別人員(昭和40〜42年)

(三) 起訴猶予

 検察官は,捜査の結果,公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑を認めた場合でも,犯人の性格,年齢および境遇,犯罪の軽重および情状ならびに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは,公訴を提起しない処分をすることができる。このような不起訴処分を起訴猶予という。起訴猶予は,検察官が刑事政策上の立場から,諸般の事情,すなわち,犯人の性格,年齢,境遇といった,主として行為者に関する事項,犯罪の軽重,情状のような,犯罪行為に関する事項および犯人の改悛の情とか示談の有無などといった,犯罪後の情況に関する事項を考慮して,不必要な刑罰を科することをできるだけ避け,犯人に前科者というらく印を押さずに,その更生を図ろうとするものであるが,起訴猶予に付することについて,少年について特例を設けているほかは,すべて検察官の判断にゆだねられているので,検察官の営む機能は広大なものとなっている。そこで,まず,その運用状況をみることにしよう。
 最近五年間に,検察官が起訴または起訴猶予の終局処理をした人員数のうち,起訴猶予処分に付した人員数の占める割合を,全事件,刑法犯,特別法犯および道交違反に区分して,その推移をみると,I-42表のとおりである。

I-42表 検察庁終局処理事件中の起訴・起訴猶予率(昭和38〜42年)

 全事件の起訴猶予率(起訴,起訴猶予の総数で起訴猶予の数を除したもの)は,昭和三八年の一五・三%から,逐年減少し,昭和四二年では,一〇・六%になっている。
 刑法犯は,昭和三八年が三四・二%で,その後,減少して,昭和四〇年には三〇・一%となり,それからは,横ばい状況を示し,昭和四二年には,三〇・二%となっている。
 特別法犯についてみると,昭和三八年には四九・六%あったが,昭和四一年に三五・五%まで減少し,昭和四二年には,やや増加して,三七・四%となっている。
 道交違反の起訴猶予率は低く,昭和三八年に一一・一%であったのが,逐年減少して,昭和四二年には六・一%となっている。
 ちなみに,昭和四二年の起訴率(起訴,不起訴の総数で,起訴の数を除したもの。)をみると,全事件では,八八・一%,刑法犯は六五・〇%,特別法犯五八・七%,道交違反九三・七%となっている。
 このように,わが国では,起訴猶予処分が活発に運用されているが,起訴猶予に付された者の再犯状況は,どうなっているのであろうか。法務総合研究所が,東京ほか二一の地方検察庁本庁およびこれに付設されている区検察庁について,昭和三九年中に,各庁で,道交違反事件を除く事件で起訴猶予処分に付された者のうち,九,二九六人を選んで,警察庁保管の指紋原票で再犯の有無を調ベ二年間の追跡調査を行なった結果によると,I-43表に示すように,起訴猶予に付された者九,二九六人のうち,再犯者は一,二四三人で,その再犯率は一三・四%である。これを男女別にみると,男子の再犯率は一三・二%,女子は一四・五%となっている。

I-43表 男女別再犯人員と比率

 次に,起訴猶予に付されたときの罪名別に区分して,再犯率をみると,I-44表のとおりである。これによると,再犯率が二〇%以上の罪名は,詐欺,恐喝,窃盗である。これを男女に分けてみると,男の再犯率の高い罪名は,詐欺三四・八%,恐喝二七・六%,窃盗二三・二%,暴行一五・六%の順となっているが,女は,特別法犯一九・五%,詐欺一六・〇%,窃盗一一・一%となっている。ところで,詐欺の大部分は,無銭飲食,無賃乗車であり,女子の特別法犯の大部分は,売春防止法違反である。

I-44表 主要罪名別再犯率

 次に,再犯者について,起訴猶予に付されたときの罪名と再犯の罪名が同一か否かをみると,I-45表のとおりで,罪名が同一の者が四一・二%,異なる者が五八・八%である。なお,ここで罪名が同一とは,まったく同一であるものに限り,たとえば,傷害と暴行または傷害致死とは,罪名の異なるものとして取り扱っている。起訴猶予処分に付されたときの罪名別にみると,同一罪名の犯罪を犯す割合では,窃盗が最も高く六〇・四%,次いで特別法犯五三・一%,詐欺四五・四%の順となっている。これとは逆に,異なる罪名の犯罪を犯している率が高いのは,業務上過失傷害の八九・一%で,次いで恐喝八五・七%,暴行八〇・五%の順となっている。

I-45表 再犯の内容別・主要罪名別人員と比率