四 イギリス・西ドイツおよびアメリカ合衆国における犯罪の動向 以上,わが国の犯罪の動向を概観したのであるが,外国における犯罪の動向はどうであろうか。さしあたり,入手し得たイギリス(イングランドとウェールズ),西ドイツおよびアメリカ合衆国の一九六六年(昭和四一年)の統計資料を中心として,おもなものを拾ってみることとする。ただ,全国的な統計が整備されていない国もあり,また,各国の統計書に表われた数字は,集計の方法が異なるばかりでなく,さらに,各国固有の制度や手続を背景とするものであるから,これを表面的に比較することは,きわめて危険である。どこの国においても典型的な犯罪とされている窃盗についても,わが国においては,森林窃盗と常習窃盗とを除いて,すべて,刑法第二三五条によって処罰されるのであるが,欧米各国においては,窃盗をさらに分けて,加重窃盗,単純窃盗,自動車盗などとしているものが多く,また,住宅や店舗に押し入って窃取するものについては,侵入の段階でとらえ,不法侵入罪として処理しており,一方,不法侵入罪には,窃盗ばかりでなく,他の重罪を犯すためのものや,あるいは,侵入用の器具を所持していたにとどまるものをも含める場合があり,したがって,わが国の窃盗罪にあたるものを諸外国の統計書の数字から探し出すことは,きわめて困難である。また,殺人未遂についても,統計資料のうえで,これを殺人罪に含めている国と加重傷害罪に含めている国とがあるという状況である。このようなわけで,ここでは,右三国とわが国とについて,一九六〇年から一九六六年までの主要犯罪の発生件数を,各国の統計書に載せられたままの形で,掲げることとし,これらによって,各国特有のそれぞれの罪名の犯罪が,ここ数年間にわたって,どのような推移を示しているかを眺めることとしたい。
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