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 昭和42年版 犯罪白書 第三編/第一章/二/7 

7 少年犯罪の被害者等

 少年非行を犯罪予防の見地から取り上げるとき,犯罪少年が他者に与えた損害の実態を明らかにする必要がある。そこで,この項では,犯罪少年が他者に与えた損害を,被害者の側から解明することとする。
 まず,法務省特別調査によって,少年犯罪の被害者についてみよう。III-48表は,少年の犯した罪種別に,被害者と少年との関係を示している。これによると,「無関係」というものが六八・三%で,最も多く,「顔見知り」一五・一%,「友人・知人」七・五%などの順に多い。罪種別にみると,窃盗,強盗および詐欺は,「無関係」の者が圧倒的に多く,傷害,暴行,脅迫,恐かつ,暴力行為等の粗暴犯罪および強かん,わいせつ等の性犯罪は,他の罪種に比べて「顔見知り」程度が多い。「知人・友人」が,比較的多いのは,横領と詐欺のほか,上記の粗暴犯罪である。例数は少ないが,殺人の被害者が「親族」である場合が,比較的多いことは注意される。なお,少年犯罪の被害者を,年令別にみると,最も多いのは三〇歳台ないし五〇歳台で,四三・九%を占めている。ついで,一〇歳台が二七・六%,二〇歳台が二一・三%である。

III-48表 罪種別にみた犯罪少年と被害者の関係

 つぎに,被害の種類別に,やや詳しくみよう。III-49表は,罪種と被害金額の関連を示しているが,これによると,少年犯罪による被害金額は,千円以上一万円未満が最も多く,四八・〇%であり,ついで,一万円以上一〇万円未満二八・六%,千円未満一六・五%である。罪名でみると,窃盗による被害額は,他の罪名によるものよりも高額である割合が高く,百万円以上の被害を与えているものも,〇・四%みられる。これに対して,恐かつによる被害は,比較的軽微なものが多く,千円未満が三七・五%を占めている。つぎに,III-50表によって,右の被害者を性別および年令別にみると,窃盗の被害者は,男が八七・六%で大多数を占めており,年令は,三〇歳から五九歳までの者が多い。恐かつの被害者は,男が九六・八%であり,年令は,一〇歳から一九歳までが最も多い。女性が被害を受ける割合の多いのは,強盗であって,四三・五%を占めている。ついで,詐欺の二五・〇%が多い。なお,女性が最も多く被害を受けている性犯罪についてみると,被害を受けた女性の六二・五%は,加害者と「無関係」であるが,「顔見知り」または「友人・知人」などというものも,三七・四%みられる。また,被害者の年令は,一〇歳台が最も多く,六六・七%であり,二〇歳台一六・五%,一〇歳未満一二・〇%などとなっている。

III-49表 罪種と被害額

III-50表 財産に関係深い犯罪と被害者の性別・年令

 つぎに,傷害を受けた被害者について,その程度をみると,傷害の程度が,全治まで「一週間以内」というものが五四・八%で,最も多く,「一週間以上一か月未満」が,四一・九%で,これについでいる。
 以上,少年が他者に与えた損害を,被害者の側からみたが,最近,被害を受けた少年が,それらを契機として,非行化する場合も少なくないので,以下,少年の受けた被害の態様等についてみることとする。III-51表は,最近数年間に,各地の少年を対象として実施された被害実態調査のおもなものについての一覧であるが,これによると,被害者率(調査対象者中に占める被害を受けた者の割合)は,五・〇%ないし四一・〇%であって,必ずしも一様ではない。これは,調査対象となった少年の年齢,身分,居住地域などによる差異のほかに,被害の内容,程度,資料収集方法などが,調査によって一律でないという理由によるものである。

III-51表 主要な被害調査一覧

 ところで,法務総合研究所では,総理府青少年局に協力して,昭和四一年一〇月現在で,全国高校(定時制を含む。)在学生二七,〇九三人を対象として,被害実態調査を実施したので,その概要を紹介しよう。ちなみに,この調査では,「被害がある。」とは,次に掲げる諸行為の一つまたは二つ以上を,最近一年間に受けたことがあるものとして扱っている。
財産犯―金品をすられた。盗まれた。ひったくられた。たかられた。だましとられた。強奪された。
粗暴犯―他人におどかされた。なぐられた(けられた。)。刃物などで傷つけられた。わざと持物をこわされた。
性犯罪―わざと手やからだにさわられた。抱きつかれた。キスされた。のぞき見された。強かんされそうになった。いやらしい言葉でひやかされた。
その他―交際を強要された。あとをつけられた。待ち伏せされた。連れ出されそうになった。悪事に誘われた。いかがわしい写真などを無理に見せられたなど。
 被害者率は,全国平均四二・四%であるが,地域別にみると,大都市四四・四%,中都市四二・九%,小都市三五・一%で,大都市が最も高率である。学校種類別では,全日制高校四二・二%,定時制高校四三・一%で,大差はない。性別にみると,男子三六・一%,女子四九・二%で,女子の被害者率が高い。被害内容は,III-9図のとおりであり,性犯罪に関する被害が最も多く,全被害件数の三七・三%を占めている。「わざと手やからだにさわられた。」,「いやらしい言葉でひやかされた。」というものが高率で,そのほとんどが女子である。つぎに多いものは,財産犯罪による被害で,二三・〇%である。その半数以上は「金品を盗まれた。」ものである。粗暴犯罪による被害も,二〇・〇%で,かなり多い。一五歳ないし一六歳の男子年少少年が被害を受けている割合が高い。一般に,大都市では,性犯罪の被害が多く,小都市では,粗暴犯罪の被害が多くみられている。被害回数が二回以上ある者は,被害ある者の六〇・三%を占めており,それは,性犯罪に高率である。

III-9図 被害内容の比率

 被害を受けたのは,七月から一〇月の間が多く,五五・三%を占めている。平日が,五二・一%である。被害時刻は,「午後」三二・八%,「夕方」二三・一%などが多い。四一・五%の者は,学校や勤め先の往復途中に被害を受けている。七〇%が,「よく知っている土地」で,五七・一%は,学校,住宅街の路上または乗物の中で,被害を受けている。加害者が一人の場合は,五七・三%,二人以上は,四一・七%で,相手の風体が「高校生風」というものが,三二・七%で最も多く,「勤め人風」一三・二%,「チンピラ・やくざ風」一〇・二%などが,ついで多い。相手が,「全然知らない人」である場合が,五八・三%で,最も多く,「知っている人」も,二五・一%ある。被害者が「単独で行動していた」場合は,四六・九%,「同性の友人と一しょ」の場合が,三四・八%である。
 被害を受けたとき,「相手にしなかった。」どいう者が,三二・六%,「逃げた。」一五・七%で,「抗議した。」「反抗した。」者も,各一〇%いる。被害を受けたことをだれかに話した者は,七四・一%であるが,その他の者は,だれにも話していない。話した相手は,友人が最も多く,家族がこれについでいる。警官や鉄道公安官に届けた者は,四・九%にすぎない。被害を受けたことについて,「どうして被害を受けたかわからない。」「相手が悪いのでどうしようもなかった。」という者が,七三・二%と,大部分を占め,「自分の態度も悪かった。」などという者は,きわめてわずかである。
 右の被害実態は,高校在学生についてのものであるから,少年の受けた被害のすべてを含むものではないが,最近における傾向の一端を示しているものといえよう。