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 昭和42年版 犯罪白書 第二編/第三章/四/4 

4 更生保護会の課題

 一般に,社会への復帰を図るための処遇のあり方として,施設内処遇から社会内処遇への動きがみられる今日,刑事政策の分野においても,犯罪者の社会内処遇としての更生保護制度に対する期待が高まりつつある。
 この更生保護制度を効果的に運用するための一つの大きな要素は,再犯可能性が強く,適当な住居もない被保護者を宿泊させて,常時接触を保ち,その改善,更生を助けるという機能を持つ更生保護会の活動をいっそう活発にすることである。その活動状況は,「3更生保護会」の項で述べたとおりであるが,さらに,少年法の改正問題に関連し,保護処分少年について,保護観察の過程において,基礎的な生活指導や職業指導のために,あるいは緊急の危険性を排除する保護的措置として,一定期間,これら少年を特定の施設に収容して,適当な処遇を施すことなども考えられているとき,こうした面からも,今後,更生保護会は,単に適当な保護者や住居のない者を保護するという消極的な活動にとどまらず,処遇の一態様として,広く積極的に活用され,更生保護会における処遇機能の拡大,充実を図ることが強く要請される。
 この要請に答えるためには,更生保護会は,その経済的基礎が一段と強化され,その経営が安定し,その施設が整備され,優秀な職員が確保され,その人間愛と科学的な処遇技法により処遇効果をあげうるような態勢が確立される必要がある。
 そのために,国は,更生保護会に対し,補導,食事付宿泊,宿泊の委託に伴う直接の費用とそれに伴う事務費にあてる委託費のほか,施設設備の基準維持のため,その補修等の費用に対する補助金を交付するなどの援助をしている。そして,これらの額は,累年増加し,昭和四二年度予算では,委託費一八四,一六六,〇〇〇円,補助金一三,三三五,〇〇〇円,総計一九七,五〇一,〇〇〇円となっている。また,直接処遇の任にあたる幹部職員である主幹(実務の執行を総括する責任者)および補導主任(被保護者の教養,訓練,生活指導を行ない,相談等に応ずる責任者)については,とくに資格要件を規定し,その要件を具備する者で,法務大臣の認可を得た者でなければならないとし,さらに,処遇の基準も設けて,適正な処遇が行なわれるよう配意している。また,地方更生保護委員会および保護観察所長は,絶えず,その管内にある更生保護会を指導監督し,その基準維持を図っている。したがって,経営,設備,職員,処遇等の面で,いちおうの基準は,維持されているといえよう。
 しかし,その現状を子細に検討してみれば,国から委託費や補助金の交付を受けていても,大部分の更生保護会は,その経営が必ずしも容易ではない。現に,昭和四〇年度経理状況の全国集計(法務省保護局調査)では,三一,五〇七,五二四円の不足金を出している。また,このような現状では,処遇困難な被保護者に常時接触しながら補導の任にあたる職員に対し,十分な給与を支給するなど,職員の待遇面をよくし,広く人材を求めることは不可能であって,恩給等の別途収入があるか,別に資産があって,給与に依存する度合いが少ないなど,ごく限られた者の中から職員を求めるほかなく,いきおい,適任者を得ることを,きわめて困難なものとしている。このことは,昭和四一年三月末現在,実働していた更生保護会が,一三三団体,一三四施設あったのに対し,その職員数は主幹一二七人(うち七四人は補導主任兼務),専任補導主任五五人,補導員一三九人,用務員一二四人,その他一一三人計五五八人で,主幹や補導主任を欠く更生保護会があることや,昭和四〇年四月から翌四一年三月までの一年間に退職した者が,全体の一三・三%もあることからもうかがい知ることができる。これを少なくするためには,待遇面の改善が必要であることはもちろんであるが,これら職員の研修を国において行なうなどによって,更生保護事業に対する意識の高揚を図り,使命感に徹させるとともに処遇技法の向上を図ることも必要と考えられる。
 また,施設の状況についてみると,更生保護会の中には,従前の司法保護団体が,昭和二五年更生緊急保護法施行の際,引き続き認可を受けたもので,その保護施設が,大正ないし昭和の始めごろ,さらには,明治時代の建築になるものがかなり残っており,また,戦後に建築されたものの中にも,終戦直後の物資窮乏時に,旧兵舎等の古材で急造されたものが少なくない。したがって,こうした施設は,被保護者のいこいや安全保持に問題を生じているばかりでなく,社会環境のめざましい進展にも取り残され,被保護者の生活安定や安らぎの場としての機能を失いつつある。更生保護会を短時日のうちに無断で退会する者(昭和四〇年では退会者中無断退会者はその一九・七%)の動機が,もし,その設備になじめず,住心地の悪さにもあるとすれば,なおのこと,設備の急速な整備,改善が望まれる。
 幸いに,昭和三八年以降,日本自転車振興会より交付される補助金により,逐次,その整備がなされ,昭和四一年三月末現在,すでに三六団体の増改築が行なわれ,昭和四二年には,さらに九団体の増改築がみられることになっている。しかし,法務省保護局の調査によれば,昭和四二年三月末現在で,なお,四四施設が改築を必要とする状態におかれている。
 以上のとおり,国は,更生保護会に対し,必ずしも多いとはいえないが,委託費や補助金を出すなどの経済的援助を行なうとともに,その指導監督を適正に行ない,更生保護会としての機能が十分に発揮されるよう配意している。しかし,更生保護会に対する要請を思うとき,更生保護会の現状は,必ずしも満足すべき状態になく,国のいつそうの援助が望まれることはもちろんであるが,それも,更生保護会の民間性を尊重しつつ行なわれるべきで,そこには,一定の限界があるところから,更生保護会自体もまた,みずからの力によって,この窮状を打破し,期待に答え,あるいは,新しい事態に順応して行けるための態勢作りに一層の努力を傾注すべきであろう。